マルチ化した一様渦電流プローブの開発と SCC 探傷特性評価
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カテゴリ: 第3回
1. はじめに
- 近年、原子力発電プラントにおける炉内構造物や配 管において自然き裂の発生が報告されている。プラン ト構造物に発生するき裂は、応力腐食割れ(SCC)な どの複雑な形状を持つ自然き裂である。一般的に SCC はき裂に枝分かれがあり、複数のき裂が隣接し部分的 に接触している箇所も存在する。したがって、微小且 つ複雑に分布する自然き裂を、精度よく診断できる非 破壊検査技術の確立が必要不可欠になっている。これ まで我々のグループでは、高速にき裂を探傷すること が可能な、電磁誘導現象を利用した非破壊検査手法で ある渦電流探傷試験(ECT)について検討を行ってき た。ECT におけるプローブは、自然き裂の複雑な分布 形状を把握するのに有利な一様渦電流プローブに着目 し開発を行ってきた[1]。 - 実機におけるプラント構造物は、平面な部分だけで はなく立体的に複雑な形状をしている部分も存在する。 これまで我々のグループで開発してきた一様渦電流プ ローブでは検出コイルが1個であるため、立体的な形 状をした構造物のき裂を探傷するためには、プローブ を三次元的に走査する必要があるため測定が複雑にな る。この問題を解決するには、プローブの検出コイル を複数用意し、且つフレキシブルな構造とすることに より、構造物の形状にプローブを変形させ探傷するこ とが有効である。また、複数の検出コイルを用いることにより線計測から面計測となり、探傷時間も短縮で きる。そこで本研究では、実機において一様渦電流プ ローブを適用することを目的として、フレキシブルで 且つマルチ構造の一様渦電流プローブ[2]とその探傷装 置の開発を行った。本論文では平板金属に自然き裂を 設けた試験体について探傷試験を行い、開発したマル チプローブの自然き裂検出における基本性能について 報告する。さらに、励磁コイルにフェライトコアを用 い、且つ励磁コイルと探傷装置とのインピーダンスの マッチングを考慮することにより、自然き裂に対する 検出性能の向上を試みた。2.32ch マルチー様渦電流プローブの開発と 実験方法 - 開発したマルチ一様渦電流プローブの構成を図1に 示す。励磁コイルは、き裂の長手方向に対して垂直お よび平行に渦電流を発生させるための二種類のコイル を使用した。これらの二つのコイルはそれぞれのコイ ル軸が90°に交わるよう二層に巻かれている。励磁コ イルの形状は、信号を検出するピックアップコイル(検 出コイル)の位置する箇所において、一様な方向に均 一な渦電流を流すために、72mm×72mm×7mm' と検出 コイルに対して十分大きく設計した。巻き回数はそれ ぞれ 480 ターンである。検出コイルは、外径 2.2mm、 内径 1.2mm、高さ 0.7mm、巻数 140 ターンのコイルを 使用した。この検出コイルを一列に並べて配置すると、 ・測定間隔はコイルの外径 2.2mm が限界になる。したが って、隣り合うコイルの間にき裂が位置した場合、検 出感度が低下するといった問題が考えられる。そこで 図1のように、16個並べた検出コイルを二列に配置し、
Multi-probeExciting coil for generating eddy current in verticalExciting coil for Picki'up coil generating eddy X 32 pieces current in horizontal1Fig.1 Composition of uniform eddy current multi-probe.二列目を一列目に対して検出コイルの半径分ずらし て配置することにより測定間隔を細かくした。また、 この検出コイルは複雑形状部のき裂探傷を可能とする ために、フレキシブルなプリント基板上に配置した。 各コイルの間隔はプローブを曲げることを考慮して 2.4mm とし、R25mm の曲面に適応できるように設計し た。マルチ一様渦電流プローブは、励磁コイルの表面 に検出コイル基板を貼り付けて構成される。検出コイ ルの軸をZ方向とすれば、二つの励磁コイルの軸はそ れぞれ X,Y 軸となる。 - 開発した 32ch マルチ一様渦電流プローブを精密ス テージのアームに取り付けて、試験体表面をスキャン した。ステージの制御は RS-232Cインターフェースを 用いて行った。プローブからの検出信号は、32ch マル チプローブ用探傷装置により測定し、LAN を用いてコ ンピュータに収集した。収集した検出信号の二次元画 像を描くことによりき裂探傷結果を評価する。また、 ステージの駆動とデータ収集の同期を取るため、コン ピュータから探傷装置にデータ収集開始のトリガ信号 を発信した。検出コイルと試験体とのリフトオフは 0.5 mm とした。測定ピッチは、高速に探傷するのと検出 コイルの配置間隔に対応させるため 1.2mm とした。測 定周波数は 100kHz~400kHz で行った。3. SCC 探傷特性評価 3.1 シングルとマルチプローブの比較図2に示す SCC を付与した試験体(SCC_No.1)を 用いて、検出コイルを 1個用いたシングルタイプの一 様渦電流プローブと、32ch マルチタイプ一様渦電流プ ローブの検出信号の比較を行う。ここで使用する試験 体は、SUS304 に深さ 5mm の SCC を設けることを目標 にして作製した。図3はシングルプローブ、図4はマ01 2 3 4Fig.2 SCC test specimen. (SCC_No.1)60116_102030102030-0.7810.615 -1.1232 0 .89897 (a) Current: Vertical to crack (b) Current: Parallel to crackFig.3 Detection results using single-probe.Estimation of SCC shape102030102030-0.34832 1 0 .49152-1.79081 1 .731 (a) Current: Vertical to crack (b) Current: Parallel to crackFig.4 Detection results using multi-probe.ルチプローブの検出結果である。各図の(a)は渦電流を き裂の長手方向に対して垂直に流した結果、(b)は平行 に流した結果である。測定周波数は、各プローブで使 用した探傷装置の最大周波数で、シングルプローブが 500kHz、マルチプローブが 400kHz とした。シングル プローブでは、詳細検査を目的としているため、測定 ピッチは 0.5mm と細かく設定した。(a)の渦電流をき裂 に対して垂直に流した結果では、き裂のエッジ部およ185%10 - 201300-0.0403100.0781Fig.5 Detection results at 100 kHz.び枝分かれ部分において信号強度が強くなることが判 る。また、(b)の渦電流をき裂に平行に流した結果では、 き裂の形状に沿って左右に信号が観測される。図4に はマルチプローブの検出信号より推定したき裂の形状 を示す。このき裂形状は図2のき裂の表面観察とよい 一致が得られる。したがって、マルチプローブを用い て測定ピッチを 1.2mm と荒くし、高速に探傷した場合 においても、シングルプローブと同様のき裂検出信号 が得られ、実欠陥である SCC が探傷可能であることが 確認された。3.2 渦電流分布の把握図4においてはき裂の形状を把握するために、試験 周波数を高くして試験体表面に渦電流を集中させて探 傷を行った。き裂の深さを評価するには周波数を下げ、 渦電流を試験体のより深くまで流す必要がある。図5 に示すのは、周波数 100kHz においてき裂に対して垂直 に渦電流を流した場合のマルチプローブの探傷結果で ある。周波数を下げ 100kHz で探傷した場合、検出信号 の強度が約1桁低下し、き裂の判別評価が難しくなる ことが確認できる。ここで、金属導体表面に流れる渦 電流分布を把握するために、有限要素法を用いた数値 解析を行い評価した。解析結果を図6に示す。周波数 は 100kHz で、励磁電流を 0.14A(ゼロ-ピーク)一定 とした。解析は 1/4 領域のモデルで行い、励磁コイル の中心は画像の右下に位置する。励磁コイルの向きは、 画像の Y 方向がコイルの軸方向である。試験体 (SUS304)の導電率は 1.3× 10'S/m、比透磁率は1と して解析した。 (a)は空芯励磁コイルのモデルとし、(b) のモデルでは励磁コイルにフェライトコアを用い、フ ェライトの導電率を OS/m、比透磁率を 1000 一定とし た。(a)の空芯の励磁コイルでは、渦電流分布はコイル の軸方向に不均一で、コイル中心部分の電流密度は低Test specimen|(A/m3) 1.4e+544444440-15--117.0et410mmExciting coil Center of coil Xt(a) Exciting coil: Core-ess/ Test specimen(A/m3) 2.0et61.0et610mmモーターExciting coil Center of coil X +(b) Exciting coil: Ferrite core Fig.6 Distributions of eddy current.いことが確認される。検出コイルは励磁コイルの中心 部に配置するため、この部分の電流密度が低いと検出 感度が低下する。したがって、これを改善するために 励磁コイルにフェライトコアを用いることを検討した。 (b)のフェライトコアを用いた励磁コイルでは、空芯励 磁コイルに比べ均一な渦電流分布となり、コイルの中 心部分においても電流密度が低下しないことが確認さ れる。以上の解析結果より、励磁コイルにフェライト コアを用いることで検出感度が向上すると予想できる。3.3 励磁コイルの改良および SCC 微小き裂の 検出特性評価 1. 次に微小な SCCを設けた試験体の探傷について検討 する。ここで用いる試験体(SCC_No.2) は、深さ 2mm の比較的浅い SCCを設けることを目標にして、SUS304 に SCC を付与した。また、SCC の長さにおいても SCC_No.1(図 2)に比較して短い。き裂の深さが浅く- 186 -30102030-0.0284250.028076% 10 20 30-0.19653 Frequency: 100kHz Frequency: 300kHz(a) Exciting coil: Core-Hess0,187471020.30.10203-0.310060.29137-0.30002-0.308020.23795Frequency: 100kHz Frequency: 300kHz(b) Exciting coil: Ferrite core Fig. 7 Detection properties of small SCC.なると、き裂を避ける電流が少なくなり、検出信号は 小さくなる。また、SCC では部分的にき裂が閉じてい る箇所もあり、高感度なプローブが必要になる。そこ で、図 6(b)の解析結果を基に、フェライトコアを用い た励磁コイルについて検討した。フェライトコア入り 励磁コイルの形状は、検出コイルの位置する領域(励 磁コイルの中心部で 4.8mm×39.6mm)で渦電流分布が 均一になるよう設計を行い 61mm×61mm×4mm' とし た。しかし、励磁コイルにフェライトコアを用いるこ とにより励磁コイルのインピーダンスが高くなり、探 傷装置の内部インピーダンスとのマッチングが悪くな る。そこで、フェライトコア入り励磁コイルの巻き線 を複数に分割し、その接続を直並列で組み合わせるこ とにより励磁コイルのインピーダンスを調整し、探傷 装置のインピーダンスとのマッチングを取ることを検 討した。探傷装置の内部インピーダンスは 100kHz~ 400kHz の範囲で 50.2~1002であった。フェライトを コアとした励磁コイルの巻き線を40 ターンごとに8個 に分割して巻き(合計 320 ターン)すべて並列接続し た。これによりプローブのインピーダンスが低下し、 100kHz~400kHzで 502~2202にでき探傷装置とマッ187チさせた。励磁コイルにフェライトコアを用いたプローブによ り探傷した結果を、空芯の励磁コイルの結果と比較し て図7に示す。空芯の励磁コイルは前述のコイルであ る。渦電流はき裂に対して垂直に流した。空芯励磁コ イルのプローブでは、周波数の低い 100kHz において検 出信号が極端に小さくなる。一方、フェライトコアを 用いたプローブでは、100kHzにおいても十分な強度の 検出信号が出力されていることが判る。周波数を低く すると渦電流は導体の深くまで流れるので、深い領域 の情報が得られる。図 7(b)のX軸 10mm、 Y 軸 15mm 近辺に着目すると、周波数の低い 100kHzにおいて広い 範囲でき裂の検出信号が観測される。したがって、こ の領域では導体内部においてき裂が拡がって分布して いるか、他の部分よりもき裂が深く進展しているもの と考えられる。プローブの改良により、周波数を低く した内部のき裂情報を持つ信号の SN が改善すること を確認した。4.まとめ- 立体的な形状の実機プラント構造物に適用可能で、 且つ高速に探傷できるフレキシブルなマルチ一様渦電 流プローブの開発を行い、自然き裂に対する探傷特性 について評価した。シングル一様渦電流プローブとの 比較から、マルチ一様渦電流プローブにおいても自然 き裂である SCC が、十分な精度で探傷可能であること を確認した。励磁コイルにフェライトコアを用い、且 つ探傷装置とのインピーダンスのマッチングを考慮し た。これにより、試験体表面の渦電流分布が均一にな り、低周波数においても高い検出信号が得られ、周波 数を低くした内部のき裂情報を持つ信号の S/N が改善 することを確認した。参考文献[1] M.Hashimoto and D.Kosaka: ““Development of RotationECT Probe Detecting Axial and Circumferential Cracks using Uniform Eddy Current Exicitation Coils““, Electromagnrtic Nondestructive Evaluation (V), IOSpress, 2001, pp242-247. [2] 福岡克弘、橋本光男、松井哲也、小池正浩、西水亮「一様渦電流マルチプローブによるき裂診断評 価」、日本原子力学会、2005 年秋の大会、2005, p.245.“ “マルチ化した一様渦電流プローブの開発と SCC 探傷特性評価 “ “福岡 克弘,Katsuhiro FUKUOKA,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO
- 近年、原子力発電プラントにおける炉内構造物や配 管において自然き裂の発生が報告されている。プラン ト構造物に発生するき裂は、応力腐食割れ(SCC)な どの複雑な形状を持つ自然き裂である。一般的に SCC はき裂に枝分かれがあり、複数のき裂が隣接し部分的 に接触している箇所も存在する。したがって、微小且 つ複雑に分布する自然き裂を、精度よく診断できる非 破壊検査技術の確立が必要不可欠になっている。これ まで我々のグループでは、高速にき裂を探傷すること が可能な、電磁誘導現象を利用した非破壊検査手法で ある渦電流探傷試験(ECT)について検討を行ってき た。ECT におけるプローブは、自然き裂の複雑な分布 形状を把握するのに有利な一様渦電流プローブに着目 し開発を行ってきた[1]。 - 実機におけるプラント構造物は、平面な部分だけで はなく立体的に複雑な形状をしている部分も存在する。 これまで我々のグループで開発してきた一様渦電流プ ローブでは検出コイルが1個であるため、立体的な形 状をした構造物のき裂を探傷するためには、プローブ を三次元的に走査する必要があるため測定が複雑にな る。この問題を解決するには、プローブの検出コイル を複数用意し、且つフレキシブルな構造とすることに より、構造物の形状にプローブを変形させ探傷するこ とが有効である。また、複数の検出コイルを用いることにより線計測から面計測となり、探傷時間も短縮で きる。そこで本研究では、実機において一様渦電流プ ローブを適用することを目的として、フレキシブルで 且つマルチ構造の一様渦電流プローブ[2]とその探傷装 置の開発を行った。本論文では平板金属に自然き裂を 設けた試験体について探傷試験を行い、開発したマル チプローブの自然き裂検出における基本性能について 報告する。さらに、励磁コイルにフェライトコアを用 い、且つ励磁コイルと探傷装置とのインピーダンスの マッチングを考慮することにより、自然き裂に対する 検出性能の向上を試みた。2.32ch マルチー様渦電流プローブの開発と 実験方法 - 開発したマルチ一様渦電流プローブの構成を図1に 示す。励磁コイルは、き裂の長手方向に対して垂直お よび平行に渦電流を発生させるための二種類のコイル を使用した。これらの二つのコイルはそれぞれのコイ ル軸が90°に交わるよう二層に巻かれている。励磁コ イルの形状は、信号を検出するピックアップコイル(検 出コイル)の位置する箇所において、一様な方向に均 一な渦電流を流すために、72mm×72mm×7mm' と検出 コイルに対して十分大きく設計した。巻き回数はそれ ぞれ 480 ターンである。検出コイルは、外径 2.2mm、 内径 1.2mm、高さ 0.7mm、巻数 140 ターンのコイルを 使用した。この検出コイルを一列に並べて配置すると、 ・測定間隔はコイルの外径 2.2mm が限界になる。したが って、隣り合うコイルの間にき裂が位置した場合、検 出感度が低下するといった問題が考えられる。そこで 図1のように、16個並べた検出コイルを二列に配置し、
Multi-probeExciting coil for generating eddy current in verticalExciting coil for Picki'up coil generating eddy X 32 pieces current in horizontal1Fig.1 Composition of uniform eddy current multi-probe.二列目を一列目に対して検出コイルの半径分ずらし て配置することにより測定間隔を細かくした。また、 この検出コイルは複雑形状部のき裂探傷を可能とする ために、フレキシブルなプリント基板上に配置した。 各コイルの間隔はプローブを曲げることを考慮して 2.4mm とし、R25mm の曲面に適応できるように設計し た。マルチ一様渦電流プローブは、励磁コイルの表面 に検出コイル基板を貼り付けて構成される。検出コイ ルの軸をZ方向とすれば、二つの励磁コイルの軸はそ れぞれ X,Y 軸となる。 - 開発した 32ch マルチ一様渦電流プローブを精密ス テージのアームに取り付けて、試験体表面をスキャン した。ステージの制御は RS-232Cインターフェースを 用いて行った。プローブからの検出信号は、32ch マル チプローブ用探傷装置により測定し、LAN を用いてコ ンピュータに収集した。収集した検出信号の二次元画 像を描くことによりき裂探傷結果を評価する。また、 ステージの駆動とデータ収集の同期を取るため、コン ピュータから探傷装置にデータ収集開始のトリガ信号 を発信した。検出コイルと試験体とのリフトオフは 0.5 mm とした。測定ピッチは、高速に探傷するのと検出 コイルの配置間隔に対応させるため 1.2mm とした。測 定周波数は 100kHz~400kHz で行った。3. SCC 探傷特性評価 3.1 シングルとマルチプローブの比較図2に示す SCC を付与した試験体(SCC_No.1)を 用いて、検出コイルを 1個用いたシングルタイプの一 様渦電流プローブと、32ch マルチタイプ一様渦電流プ ローブの検出信号の比較を行う。ここで使用する試験 体は、SUS304 に深さ 5mm の SCC を設けることを目標 にして作製した。図3はシングルプローブ、図4はマ01 2 3 4Fig.2 SCC test specimen. (SCC_No.1)60116_102030102030-0.7810.615 -1.1232 0 .89897 (a) Current: Vertical to crack (b) Current: Parallel to crackFig.3 Detection results using single-probe.Estimation of SCC shape102030102030-0.34832 1 0 .49152-1.79081 1 .731 (a) Current: Vertical to crack (b) Current: Parallel to crackFig.4 Detection results using multi-probe.ルチプローブの検出結果である。各図の(a)は渦電流を き裂の長手方向に対して垂直に流した結果、(b)は平行 に流した結果である。測定周波数は、各プローブで使 用した探傷装置の最大周波数で、シングルプローブが 500kHz、マルチプローブが 400kHz とした。シングル プローブでは、詳細検査を目的としているため、測定 ピッチは 0.5mm と細かく設定した。(a)の渦電流をき裂 に対して垂直に流した結果では、き裂のエッジ部およ185%10 - 201300-0.0403100.0781Fig.5 Detection results at 100 kHz.び枝分かれ部分において信号強度が強くなることが判 る。また、(b)の渦電流をき裂に平行に流した結果では、 き裂の形状に沿って左右に信号が観測される。図4に はマルチプローブの検出信号より推定したき裂の形状 を示す。このき裂形状は図2のき裂の表面観察とよい 一致が得られる。したがって、マルチプローブを用い て測定ピッチを 1.2mm と荒くし、高速に探傷した場合 においても、シングルプローブと同様のき裂検出信号 が得られ、実欠陥である SCC が探傷可能であることが 確認された。3.2 渦電流分布の把握図4においてはき裂の形状を把握するために、試験 周波数を高くして試験体表面に渦電流を集中させて探 傷を行った。き裂の深さを評価するには周波数を下げ、 渦電流を試験体のより深くまで流す必要がある。図5 に示すのは、周波数 100kHz においてき裂に対して垂直 に渦電流を流した場合のマルチプローブの探傷結果で ある。周波数を下げ 100kHz で探傷した場合、検出信号 の強度が約1桁低下し、き裂の判別評価が難しくなる ことが確認できる。ここで、金属導体表面に流れる渦 電流分布を把握するために、有限要素法を用いた数値 解析を行い評価した。解析結果を図6に示す。周波数 は 100kHz で、励磁電流を 0.14A(ゼロ-ピーク)一定 とした。解析は 1/4 領域のモデルで行い、励磁コイル の中心は画像の右下に位置する。励磁コイルの向きは、 画像の Y 方向がコイルの軸方向である。試験体 (SUS304)の導電率は 1.3× 10'S/m、比透磁率は1と して解析した。 (a)は空芯励磁コイルのモデルとし、(b) のモデルでは励磁コイルにフェライトコアを用い、フ ェライトの導電率を OS/m、比透磁率を 1000 一定とし た。(a)の空芯の励磁コイルでは、渦電流分布はコイル の軸方向に不均一で、コイル中心部分の電流密度は低Test specimen|(A/m3) 1.4e+544444440-15--117.0et410mmExciting coil Center of coil Xt(a) Exciting coil: Core-ess/ Test specimen(A/m3) 2.0et61.0et610mmモーターExciting coil Center of coil X +(b) Exciting coil: Ferrite core Fig.6 Distributions of eddy current.いことが確認される。検出コイルは励磁コイルの中心 部に配置するため、この部分の電流密度が低いと検出 感度が低下する。したがって、これを改善するために 励磁コイルにフェライトコアを用いることを検討した。 (b)のフェライトコアを用いた励磁コイルでは、空芯励 磁コイルに比べ均一な渦電流分布となり、コイルの中 心部分においても電流密度が低下しないことが確認さ れる。以上の解析結果より、励磁コイルにフェライト コアを用いることで検出感度が向上すると予想できる。3.3 励磁コイルの改良および SCC 微小き裂の 検出特性評価 1. 次に微小な SCCを設けた試験体の探傷について検討 する。ここで用いる試験体(SCC_No.2) は、深さ 2mm の比較的浅い SCCを設けることを目標にして、SUS304 に SCC を付与した。また、SCC の長さにおいても SCC_No.1(図 2)に比較して短い。き裂の深さが浅く- 186 -30102030-0.0284250.028076% 10 20 30-0.19653 Frequency: 100kHz Frequency: 300kHz(a) Exciting coil: Core-Hess0,187471020.30.10203-0.310060.29137-0.30002-0.308020.23795Frequency: 100kHz Frequency: 300kHz(b) Exciting coil: Ferrite core Fig. 7 Detection properties of small SCC.なると、き裂を避ける電流が少なくなり、検出信号は 小さくなる。また、SCC では部分的にき裂が閉じてい る箇所もあり、高感度なプローブが必要になる。そこ で、図 6(b)の解析結果を基に、フェライトコアを用い た励磁コイルについて検討した。フェライトコア入り 励磁コイルの形状は、検出コイルの位置する領域(励 磁コイルの中心部で 4.8mm×39.6mm)で渦電流分布が 均一になるよう設計を行い 61mm×61mm×4mm' とし た。しかし、励磁コイルにフェライトコアを用いるこ とにより励磁コイルのインピーダンスが高くなり、探 傷装置の内部インピーダンスとのマッチングが悪くな る。そこで、フェライトコア入り励磁コイルの巻き線 を複数に分割し、その接続を直並列で組み合わせるこ とにより励磁コイルのインピーダンスを調整し、探傷 装置のインピーダンスとのマッチングを取ることを検 討した。探傷装置の内部インピーダンスは 100kHz~ 400kHz の範囲で 50.2~1002であった。フェライトを コアとした励磁コイルの巻き線を40 ターンごとに8個 に分割して巻き(合計 320 ターン)すべて並列接続し た。これによりプローブのインピーダンスが低下し、 100kHz~400kHzで 502~2202にでき探傷装置とマッ187チさせた。励磁コイルにフェライトコアを用いたプローブによ り探傷した結果を、空芯の励磁コイルの結果と比較し て図7に示す。空芯の励磁コイルは前述のコイルであ る。渦電流はき裂に対して垂直に流した。空芯励磁コ イルのプローブでは、周波数の低い 100kHz において検 出信号が極端に小さくなる。一方、フェライトコアを 用いたプローブでは、100kHzにおいても十分な強度の 検出信号が出力されていることが判る。周波数を低く すると渦電流は導体の深くまで流れるので、深い領域 の情報が得られる。図 7(b)のX軸 10mm、 Y 軸 15mm 近辺に着目すると、周波数の低い 100kHzにおいて広い 範囲でき裂の検出信号が観測される。したがって、こ の領域では導体内部においてき裂が拡がって分布して いるか、他の部分よりもき裂が深く進展しているもの と考えられる。プローブの改良により、周波数を低く した内部のき裂情報を持つ信号の SN が改善すること を確認した。4.まとめ- 立体的な形状の実機プラント構造物に適用可能で、 且つ高速に探傷できるフレキシブルなマルチ一様渦電 流プローブの開発を行い、自然き裂に対する探傷特性 について評価した。シングル一様渦電流プローブとの 比較から、マルチ一様渦電流プローブにおいても自然 き裂である SCC が、十分な精度で探傷可能であること を確認した。励磁コイルにフェライトコアを用い、且 つ探傷装置とのインピーダンスのマッチングを考慮し た。これにより、試験体表面の渦電流分布が均一にな り、低周波数においても高い検出信号が得られ、周波 数を低くした内部のき裂情報を持つ信号の S/N が改善 することを確認した。参考文献[1] M.Hashimoto and D.Kosaka: ““Development of RotationECT Probe Detecting Axial and Circumferential Cracks using Uniform Eddy Current Exicitation Coils““, Electromagnrtic Nondestructive Evaluation (V), IOSpress, 2001, pp242-247. [2] 福岡克弘、橋本光男、松井哲也、小池正浩、西水亮「一様渦電流マルチプローブによるき裂診断評 価」、日本原子力学会、2005 年秋の大会、2005, p.245.“ “マルチ化した一様渦電流プローブの開発と SCC 探傷特性評価 “ “福岡 克弘,Katsuhiro FUKUOKA,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO