交流磁化法に基く片状黒鉛鋳鉄におけるチル組織含有量の評価

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
自動車に使用されている鋳鉄部品において、薄肉化 は自動車重量の軽量化に寄与する。一方で、薄肉化は 鋳造時の冷却速度を大きくし、初晶セメンタイトであ るチル組織の晶出を促進する。機械的特性の向上のた めの合金元素の添加もまた、チル組織の晶出を促進す る要因である。チル組織を含む鋳鉄はきわめて硬く脆 いため、機械的性質や切削性が著しく低下するい。一 一方で、エンジンのシリンダボア摺動部において、耐摩 耗性の向上に寄与するチル層を導入することについて の研究報告もある)。そのため、チル組織の含有量の 評価と制御が重要となる。 - 現在、チル組織の有無や量の評価には、破面の目視、 顕微鏡観察、硬さ試験が行われている。しかし、これ らは切断、圧痕を残すため、実製品の全数検査が不可 能である。従って、チル組織含有量を迅速かつ非破壊 で定量的に評価する手法の確立が望まれている。鋳鉄の組織はチル組織のほかにフェライトやパーラ イトといった基地組織、黒鉛が存在する。そのため、 チル組織の非破壊評価を考える場合、黒鉛や基地組織 などの様々な影響因子からチル組織に関係する情報の みを抽出することが必要となる。現在までに、フェラ イトやパーライトの電磁特性の違いに着目し、電磁現象を用いた評価手法により、球状黒鉛鋳鉄の硬さの推 定やフェライトとパーライトの比率の推定、片状黒鉛 鋳鉄の黒鉛サイズの推定などが試みられている。ま た、球状黒鉛鋳鉄におけるセメンタイト含有量の評価 に関する研究も報告されている。 - 著者らは、電磁非破壊評価法を用いて、チル組織を 定量的に評価することを目指しており、このために渦 電流法および交流磁化法に基づく評価方法について 様々な視点から検討している。本稿では、チル組織含 有量を変化させた試験片について、チル、フェライト、 パーライト組織、黒鉛の含有量を定量化し、鋳鉄の磁 気特性と各組織含有量との関係性について議論した。 次に、磁気特性とチル組織含有量との関係について得 られた知見に基き、交流磁化法に基く計測を行い、チ ル組織含有量を評価した。
2. 片状黒鉛鋳鉄試験片
1. 本研究で使用した片状黒鉛鋳鉄供試材の化学組成を 表1に示す。チル組織を含まない片状黒鉛鋳鉄につい ては、FC150、FC200、FC250 相当(JIS規格)の溶湯を用 いて鋳造し、それぞれについて鋳放し、焼鈍、焼準の 処理を行った9種類の供試材を用意した。焼鈍、焼準
表1.片状黒鉛供試材の化学組成c% | Si% | Mn% | P% 3.77 2.78 0.78 | 0.025 3.36 2.15 0.69 0.018 3.13 1.66 0.72 0.017 3.40 1.81 0.66 0.016 3.23 1.84 0.66 0.0161.84 0.66 0.016 3.99 2.59 0.77 0.025 3.78 2.62 0.77 0.025 3.48 2.63 0.76 | 0.0241-1-1 1-1-2 I-1-3 | I-2-1 I-2-20.0083.010.009 0.009 0.011 0.010 0010I-2-3VINTERSTLASSION(1) FC150 鋳放し試験片(腐食前)(2) FC150 鋳放し試験片(腐食後)(3) I-1-1 試験片(腐食後) 図1. 鋳鉄のミクロ組織は、850°Cで1時間保持した後に、炉冷または空冷を 行った。チル組織を含む供試材に関しては FC250 相当 - 189表2.各試験片の基地組織および黒鉛含有量Graphite% | Ferrite% | Cementite% | Chill% FC150 as cast 16.432.151.60FC150 furnace11.874.713.50FC150 air20.129.350.6FC200 as cast8.2540.751.1FC200 furnace6.4584.59FC200 air6.4553.50_0_0_0_0_0_0FC250 as cast40.1 44.98 65.24.3350.7FC250 furnace4.6530.2FC250 air4.545.849.70.4527.372.331.41-1-1 1-1-2 1-1-30.1730.469.428.30.2532.767.122.92001/01/0216.419.863.88.16.5423.569.9151-2-2 1-2-31.782672.221.2の溶湯を用いて鋳造した I-1 群と FC150 相当の I-2 群に 大別される。各群において、溶湯を 1500°Cで一定時間 保持し、その後に注湯し、再加熱して 1500°Cで保持す ることを繰り返した。この処理により、チル化に最も 影響を及ぼす溶湯成分中のCおよび Si の量を変化させ、 チル組織含有量の異なる供試材を作製した。そのため、 I-1-1 供試材から 1-1-3 供試材にかけて、Cは減少してお り、チル化が促進される。 I-2 群についても同様である。 - 黒鉛および基地組織の形状、含有量を評価するため に光学顕微鏡による組織観察を行った。パーライトの 腐食は濃度3%のナイタールを用いて行った。FC150 鋳放し試験片と 1-1-3 試験片の腐食前後の組織写真を 図 1-(1)、図 1-(2)、図 1-(3)に示す。図 1(1)において、黒 色領域および白色領域は黒鉛および基地組織を表して いる。また、図 1-(2)において、灰色領域、白色領域は、 パーライト、フェライトを表している。今回使用した チル組織を含む試験片はパーライト中にのみフェライ トを含んでおり、図 1-(3)の白色領域はチル組織である。 - 次に、組織写真から画像解析により各組織の含有量 の定量化を行った。得られたパーライト面積率から2 元系状態図を用いてパーライト中のフェライトとセメ ンタイトの比率を算出し、鋳鉄中の全セメンタイト量 と全フェライト量を定量化した。以上の処理により定 量化した黒鉛および基地組織の含有量を表2に示す。12000-1-1-1----1-1-2 8000F1-1-3 -1-2-1-1-2-2 4000ト....-1-2-3・FC150 as_cast FC200 as castFC250 as_cast -1-1-1 .. 1-2-1Magnetic flux density (G)Magnetic flux density (G)10L4000-8000これって・・・・-800-12000-200-100100200-40ー 0_ Magnetic field (Oe)40-20020 Magnetic field (Oe)図2.100Hzにおける B-H 特性図4.100kHzにおける B-H 特性110001-2-11 1-2-21-2-310500FFC150 as cast A FC250 as castFC150 furnace A FC250 furnace - FC150 air A FC250 air ●FC200 as_cast1-1-1 O FC200 fumace v I-1-2FC200 air - 1-1-3R 3 -0.9711.75o100001・ FC150as_cast 0 FC150 fumace S FC150 air ? FC200 as cast 0 FC200 furnaccFC200 air ● FC250 as_cast、 A FC250 fumace A FC250 air1-1-1 71-1-2 - 1-1-31-2-1 01-2-2 01-2-3Approximating curveBm (G)Loop area (10°V90008500Luno5_2530100100010 15 20Graphite (area%)10 Cementite/Graphite図3.最大磁束密度と黒鉛含有量の関係図5.3. B-H 特性の測定 3. B-H 特性の測定に、I-2-3 と I-1磁気特性の評価を行うために B-H アナライザを用い て磁化曲線の測定を行った。B-H アナライザは試験片 と同軸の励磁コイルと検出コイルから構成される。励 磁コイルにより試験片の外部磁場を変化させ、このと きの試験片の磁化変化を検出コイル信号から解析し、 試験片のヒステリシス曲線を評価する。試験片は2節 で示した供試材を加工し3mm, 長さ 30mm の円柱状試 験片を作製した。試験周波数は 100Hz および 100kHz に設定し、磁気ヒステリシス曲線等を評価した。図2に、試験周波数 100Hzにおいて、チル組織を含 む鋳鉄を測定対象として得られたヒステリシス曲線を 示す。 I-2-1 と 1-2-2 を比較すると、I-2-2 では高磁場領 域での磁束密度が増加している。一方で、I-2-3 と I-1 群では、チル組織の増加に伴って高磁場領域の磁束密 度は減少している。この原因は、チル組織が比較的少 量である場合、チル含有量の増加と共に黒鉛が片状か ら粒状の形態をとり、磁化容易性が増すためであると 考えられる。しかし、チル組織含有量が増加するに つれてチル組織が支配的な磁気特性へと遷移するためXO0・FC150 as_cast 00 --- FC200 as cast-- FC250 as_cast 400 ト -1-1-1| ... 1-2-1-200ことPana-400-600-800 -40-20 -o - 20 - 40Magnetic field (Oe)ループ面積と C/G値の関係に、I-2-3 と I-1 群では高磁場域での磁束密度が減少し ている。そこで、ヒステリシス曲線における磁束密度 の最大値(最大磁束密度 BP)と黒鉛含有量との関係を評 価した。結果を図3に示す。黒鉛含有量が5%以上の 領域では黒鉛の増加に伴って Bnはほぼ直線的に減少 する。しかし、チル組織含有量が増加し、黒鉛含有量 が5%以下になると、黒鉛が支配的な領域の回帰直線 から遠ざかるように Bmが減少していることがわかる。図4は 100kHz における各試験片のヒステリシス曲 線を示している。高周波領域では試験片表面に発生す る渦電流損失の影響が大きくなりループ面積が増す。 図4のヒステリシス曲線から求めたループ面積と全セ メンタイト量を黒鉛含有量で除したパラメータ(以下 C/G 値とする)との関係を評価した結果を図5に示す。 全セメンタイト量が増加するほど、また、黒鉛含有量 が減少するほどループ面積が直線的に変化している。 フェライトは渦電流損失への寄与が小さいため、セメ ンタイトおよび黒鉛の影響が支配的であると考えられ る。しかし、今回は含有比率のみの比較であり、含有 量や黒鉛形状は考慮されていないため、今後は鋳鉄組- 190 -織の影響を評価するための独立変数の検討と設定した 独立変数と磁気特性の関係から、チル組織の含有量を 評価する方法について吟味する必要がある。4.交流磁化法に基く測定- 交流磁化法に基く測定によってチル組織の非破壊評 価の可能性を検討する。励磁・検出同軸コイル(上置 プローブ)を試験体付近に配置し、交流電流を流す。 コイルにより発生する磁場により試験体が磁化される。 そのときの磁化の様子(磁化過程)は相互誘導作用に より検出コイルの電圧として検出される。本研究では コイルの芯にフェライトコアを用いることでより強い 磁場範囲で測定する。出力された検出電圧と励磁電圧 によるリサージュ波形(ヒステリシス相当曲線)や第3 高調波を測定することで比較的容易にヒステリシスの 変化を調べることができる。今回の計測は外径 8.4mm、 内径 5.4mm、高さ 4.25mm、巻数 150 ターンの1組の励 磁コイルと検出コイルを同軸上に配置した上置プロー ブを使用し、電源電圧5V、試験周波数 3kHz で行った。図6に鋳放し試験片とチル組織を含む試験片から得 られたヒステリシス相当曲線を示す。また、図6のヒ ステリシス相当曲線から算出したループ面積と C/G値 の関係を図7に示す。図5と比較すると相関性がやや 低くなっていることがわかる。測定条件の最適化やサ ンプリングタイム改善によるループ面積算出の厳密化 を行うことにより相関性が向上する可能性がある。黒 鉛含有量を定量的に評価することが可能な磁気パラメ ータを検証することにより、図7の結果を基にしてチ ル組織含有量を定量的に評価することが可能である。55.結言 1 チル組織含有量を変化させた試験片を作成し、磁気 特性と鋳鉄組織の含有量の関係を議論した。評価過程 で、チル組織含有量と相関を有する磁気パラメータと 独立変数について検討し、評価可能性を示した。鋳鉄 の磁気特性に影響を与える因子は多岐に渡り、今後は 更なる検討が必要である。また、磁気特性とチル組織 含有量の関係について得られた知見を基に、交流磁化 法に基く測定を行いチル組織含有量を評価した。測定 条件を最適化することで、チル組織含有量の定量化手 法について吟味していく。FC150 as cast ---- FC200 furnace ・・FC250 air1-1-1 ---1-2-1Pickup voltage (V)-0.6 -0.4 -0.20. 00. 20.40.6 Exciting voltage (V)Pickup voltag-0.6 -0.4 -0.20. 00. 20.40.6 Exciting voltage (V)図6.3kHz におけるヒステリシスループ0 B1-2-1 1-2-2 1-2-3FC150 as cast A FC150 fumace A FC150 air A FC200 as cast FC200 furnace V FC200 airFC250 as cast FC250 furnace FC250 air 1-1-1 1-1-2 1-1-37O ・cop area (V3812uo1-2-1| 1-2-2 1-2-3FC150 as cast A O FC150 furnace A B FC150 air A ● FC200 as_cast 0 FC200 fumace . FC200 airFC250 as cast FC250 fumace FC250 air 1-1-1 1-1-2 1-1-3D40112Loop area (V2)1101000101100 Cementite/Graphite図7. ループ面積と C/G値の関係究は NEDO 産業技術研究助成事業「マルチスケ 磁アプローチによる省エネ型自動車用高機能鋳 謝辞本研究は NEDO 産業技術研究助成事業「マルチスケ ール電磁アプローチによる省エネ型自動車用高機能鋳 鉄の組織制御評価手法の開発」の一部として行われた。 本研究で使用した試験片の加工に際して、流体科学研 究所の渡邊努氏を初め技術職員の方々に多大なる支援 を承った。ここに感謝の意を表する。参考文献[1] 日本鋳造工学会編、鋳造工学便覧(丸善)、2002、227 [2] 永井亨、上村正雄、他、鋳造工学、第 76巻、第6号、2004、pp.440-446 [3] 阿部利彦、内一哲哉、高木敏行、多田周二、鋳造工学、第75巻、第10号、2003、pp.675-681 [4] T. Uchimoto, T. Takagi, S. Konoplyuk, T. Abe, H. Huangand M. Kurosawa, Journal of Magnetism and MagneticMaterials, Vol. 258-259、2003、pp.493-496 [5] 中野幸紀、川野豊、鋳物、第51巻、第6号、1978、pp.315-321- 191 -“ “交流磁化法に基く片状黒鉛鋳鉄におけるチル組織含有量の評価“ “松川 淳,Jun MATSUKAWA,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,阿部 利彦,Toshihiko ABE,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,佐藤 武志,Takeshi SATO,池 浩之,Hiroyuki IKE,高川 貫仁,Takahiro TAKAGAWA,堀川 紀孝,Noritaka HORIKAWA
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