誘導型電位差法を用いた SUS304 配管溶接部における応力腐食割れの連続モニタリング
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カテゴリ: 第3回
1.緒言
溶接により計測物に取り付けた。英国 Matelect 社の汎 - 構造物の非破壊検査手法の一つとして、き裂進展を 用交流電位差法計測装置を用い、連続的に計測を行っ 動的にモニタリングできる電位差法の高度化が進めら た。 れてきた 1),2)。電位差法は他の非破壊検査手法に比べて 電位差計測端子間隔 5mm、入力電流 2A, 0.3kHz 閉口き裂 3) や溶接部 4)におけるき裂の計測感度が高く、- Potential Drop 応力腐食割れ(SCC)固有の分岐き裂に対しても最大深pic-up pins さに強く依存した計測結果が報告されている。
X-58 turns coil 近年、原子力発電設備への維持規格の導入を背景に、 検出されたき裂の稼働中のき裂進展を動的にモニタリ ングする手法の可能性に大きな関心が払われてきた。 1. 本研究では著者らが開発した誘導型電位差法 (ICPD:Induced Current Potential Drop)を用い、配管 溶接部内面から発生した応力腐食割れき裂進展を配管 外面からモニタリングした。図1 ICPDセンサの概略図 2.配管溶接部における応力腐食割れの連続モニタリー 2.2 試験片 ニング試験試験片は TIGにより突合せ溶接した肉厚 17.4mm の 2. 1. 計測装置SUS304 配管(外径 318.5mm、長さ 500mm)を使用 - 計測に用いたICPDのセンサの概略図を図1に示す。 した。試験片内面の溶接熱影響部には周方向に長さ センサは2つの誘導コイルと電位差計測端子からなる。 50mm、深さ 4mm、幅 0.2mm の半楕円状の切り欠き 誘導コイルを用いることで、測定物に電流を非接触でが放電加工により導入されている。2. 配管溶接部における応力腐食割れの連続モニタリ ニング試験2. 1. 計測装置 - 計測に用いたICPDのセンサの概略図を図1に示す。 センサは2つの誘導コイルと電位差計測端子からなる。 誘導コイルを用いることで、測定物に電流を非接触で 流すことが可能である。き裂部に集中的に電流を誘導 することで、裏面き裂の計測が可能である。電位差計 測端子は2つの誘導コイルの中間に配置し、スポット連絡先:渥美健夫、〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字 青葉6-6-01、東北大学大学院工学研究科、エネルギー 安全科学国際研究センター、電話:022-795-75202.3 試験条件 - 切り欠き導入部に水槽を設置し、切り欠きを 0.1mol/L チオ硫酸ナトリウム (Na2S203) と 4mol/L 塩 化ナトリウム(NaCl) を含む水溶液(80°C)で満たし た5。水溶液のpH は硫酸(H2SOA) を添加し約5に調 整した。 - 192配管の上下から平板試験片の3点曲げに近い状態で 荷重を負荷した。図2に有限要素法解析により求めた、 負荷荷重 100kN のときのき裂先端の応力拡大係数を 示す。横軸は周方向のき裂中心からの距離である。き 裂中心で応力拡大係数が最大となることが分かる。試 験中の負荷荷重は 100kN とし、試験開始時のき裂先端 部での応力拡大係数を約 21MPa/ m とした。また、 き裂進展を加速させるため 9000 秒ごとに定期的な除 荷を含む定荷重とした。荷重除荷の際の応力比 Rは 0.7 である。荷重の負荷は切り欠き導入部を水溶液で満た し24時間以上経過後に開始した。 - 応力腐食割れ進展試験中の荷重および試験環境を図 3にまとめて示す。the center point on crack front line応力拡大係数K, (MPa.m5)-25 -20 -15 1-10 周方向欠陥中心からの距離, mm 図2 き裂先端の応力拡大係数(荷重 100kN)4. 結言誘導型電位差法により配管溶接部(肉厚 17.4mm) において配管内面から進展する応力腐食割れき裂を配 管外面より連続的にモニタリング可能である。謝辞荷重,9000sec、7600sec・試験荷重 台形波荷重 R%3D0.7試験開始時のき裂先端の推定値 K%3D21MPa・m 最大荷重保持時間9000秒、荷重上昇時間600秒 ・試験環境 チオ硫酸ナトリウム(0.5 mol/L)+塩化ナトリウム(4mol/L) 水溶液(80°C)試驗時間 図3 応力腐食割れ進展試験の荷重および試験環境3. 試験結果 1 試験中に連続的に計測した電位差変化を図4に示す。 横軸は荷重負荷開始後の経過時間(試験時間)、縦軸は-193試験開始時の計測電位差からの電位差変化量である。き裂直上より 15mm 離れた位置での計測値(A Veet) は試験全体を通してほぼ一定値で変化がないが、き裂 直上での計測値(A Vcrack)は試験時間初期に減少しほ ぼ一定値となった後、試験時間約 250時間以降は一定 の割合で上昇し、応力腐食割れき裂進展が計測可能で ある。0.1mol/L Na,S,O, + 4mol/L NaCl solution, 80C,2A,0.3kHz16_-AV.come.1350crack」4_2_0Potential drop change (AV), 4VLoad, kN2refLoad._4_s600800200400Testing time , hr 図4 試験時間に伴う電位差変化 謝辞本研究の一部は独立行政法人原子力安全基盤機構 「原子力安全基盤調査研究の公募研究」として実施した。参考文献 (1) 金 薫, 庄子哲雄, 配管技術, 38(1), pp.51-60, (1996) (2) Y. Sato, T. Shoji, Proceedings of The SixthInternational Conference on Material Issues in Design, Manufacturing and Operation of Nuclear Power PlantsEquipment, Vol. 1, pp.271-281, (2000) (3) 坂真澄,電気学会論文集(A 編), 119(3), pp.241-245,(1999) (4) Y. Sato, T. Shoji, Nondestructive Characterization ofMaterials IX, American Institute of Physics,pp.107-112, (1999) (5) T.Haruna, R. Toyota and T.Shibata, Corrosion Science,39(10-11), pp.1873-1882, (1997)“ “誘導型電位差法を用いた SUS304 配管溶接部における応力腐食割れの連続モニタリング“ “渥美 健夫,Takeo ATSUMI,佐藤 康元,Yasumoto SATO,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI
溶接により計測物に取り付けた。英国 Matelect 社の汎 - 構造物の非破壊検査手法の一つとして、き裂進展を 用交流電位差法計測装置を用い、連続的に計測を行っ 動的にモニタリングできる電位差法の高度化が進めら た。 れてきた 1),2)。電位差法は他の非破壊検査手法に比べて 電位差計測端子間隔 5mm、入力電流 2A, 0.3kHz 閉口き裂 3) や溶接部 4)におけるき裂の計測感度が高く、- Potential Drop 応力腐食割れ(SCC)固有の分岐き裂に対しても最大深pic-up pins さに強く依存した計測結果が報告されている。
X-58 turns coil 近年、原子力発電設備への維持規格の導入を背景に、 検出されたき裂の稼働中のき裂進展を動的にモニタリ ングする手法の可能性に大きな関心が払われてきた。 1. 本研究では著者らが開発した誘導型電位差法 (ICPD:Induced Current Potential Drop)を用い、配管 溶接部内面から発生した応力腐食割れき裂進展を配管 外面からモニタリングした。図1 ICPDセンサの概略図 2.配管溶接部における応力腐食割れの連続モニタリー 2.2 試験片 ニング試験試験片は TIGにより突合せ溶接した肉厚 17.4mm の 2. 1. 計測装置SUS304 配管(外径 318.5mm、長さ 500mm)を使用 - 計測に用いたICPDのセンサの概略図を図1に示す。 した。試験片内面の溶接熱影響部には周方向に長さ センサは2つの誘導コイルと電位差計測端子からなる。 50mm、深さ 4mm、幅 0.2mm の半楕円状の切り欠き 誘導コイルを用いることで、測定物に電流を非接触でが放電加工により導入されている。2. 配管溶接部における応力腐食割れの連続モニタリ ニング試験2. 1. 計測装置 - 計測に用いたICPDのセンサの概略図を図1に示す。 センサは2つの誘導コイルと電位差計測端子からなる。 誘導コイルを用いることで、測定物に電流を非接触で 流すことが可能である。き裂部に集中的に電流を誘導 することで、裏面き裂の計測が可能である。電位差計 測端子は2つの誘導コイルの中間に配置し、スポット連絡先:渥美健夫、〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字 青葉6-6-01、東北大学大学院工学研究科、エネルギー 安全科学国際研究センター、電話:022-795-75202.3 試験条件 - 切り欠き導入部に水槽を設置し、切り欠きを 0.1mol/L チオ硫酸ナトリウム (Na2S203) と 4mol/L 塩 化ナトリウム(NaCl) を含む水溶液(80°C)で満たし た5。水溶液のpH は硫酸(H2SOA) を添加し約5に調 整した。 - 192配管の上下から平板試験片の3点曲げに近い状態で 荷重を負荷した。図2に有限要素法解析により求めた、 負荷荷重 100kN のときのき裂先端の応力拡大係数を 示す。横軸は周方向のき裂中心からの距離である。き 裂中心で応力拡大係数が最大となることが分かる。試 験中の負荷荷重は 100kN とし、試験開始時のき裂先端 部での応力拡大係数を約 21MPa/ m とした。また、 き裂進展を加速させるため 9000 秒ごとに定期的な除 荷を含む定荷重とした。荷重除荷の際の応力比 Rは 0.7 である。荷重の負荷は切り欠き導入部を水溶液で満た し24時間以上経過後に開始した。 - 応力腐食割れ進展試験中の荷重および試験環境を図 3にまとめて示す。the center point on crack front line応力拡大係数K, (MPa.m5)-25 -20 -15 1-10 周方向欠陥中心からの距離, mm 図2 き裂先端の応力拡大係数(荷重 100kN)4. 結言誘導型電位差法により配管溶接部(肉厚 17.4mm) において配管内面から進展する応力腐食割れき裂を配 管外面より連続的にモニタリング可能である。謝辞荷重,9000sec、7600sec・試験荷重 台形波荷重 R%3D0.7試験開始時のき裂先端の推定値 K%3D21MPa・m 最大荷重保持時間9000秒、荷重上昇時間600秒 ・試験環境 チオ硫酸ナトリウム(0.5 mol/L)+塩化ナトリウム(4mol/L) 水溶液(80°C)試驗時間 図3 応力腐食割れ進展試験の荷重および試験環境3. 試験結果 1 試験中に連続的に計測した電位差変化を図4に示す。 横軸は荷重負荷開始後の経過時間(試験時間)、縦軸は-193試験開始時の計測電位差からの電位差変化量である。き裂直上より 15mm 離れた位置での計測値(A Veet) は試験全体を通してほぼ一定値で変化がないが、き裂 直上での計測値(A Vcrack)は試験時間初期に減少しほ ぼ一定値となった後、試験時間約 250時間以降は一定 の割合で上昇し、応力腐食割れき裂進展が計測可能で ある。0.1mol/L Na,S,O, + 4mol/L NaCl solution, 80C,2A,0.3kHz16_-AV.come.1350crack」4_2_0Potential drop change (AV), 4VLoad, kN2refLoad._4_s600800200400Testing time , hr 図4 試験時間に伴う電位差変化 謝辞本研究の一部は独立行政法人原子力安全基盤機構 「原子力安全基盤調査研究の公募研究」として実施した。参考文献 (1) 金 薫, 庄子哲雄, 配管技術, 38(1), pp.51-60, (1996) (2) Y. Sato, T. Shoji, Proceedings of The SixthInternational Conference on Material Issues in Design, Manufacturing and Operation of Nuclear Power PlantsEquipment, Vol. 1, pp.271-281, (2000) (3) 坂真澄,電気学会論文集(A 編), 119(3), pp.241-245,(1999) (4) Y. Sato, T. Shoji, Nondestructive Characterization ofMaterials IX, American Institute of Physics,pp.107-112, (1999) (5) T.Haruna, R. Toyota and T.Shibata, Corrosion Science,39(10-11), pp.1873-1882, (1997)“ “誘導型電位差法を用いた SUS304 配管溶接部における応力腐食割れの連続モニタリング“ “渥美 健夫,Takeo ATSUMI,佐藤 康元,Yasumoto SATO,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI