電磁超音波・渦電流複合センサの開発とその有効性の検証

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カテゴリ: 第3回
1. はじめに
1 日本で原子力発電プラントが運転を開始して 30 年 以上が経過し, 高経年化に伴ってプラントの保全に対 する重要性はますます高まっている.今後プラントの 一層の安全性, 信頼性の向上を図り,かつ合理的な保 全を行うための手段として, 状態監視保全が注目され ている.これは, 機器の状態を監視することにより状 態変化を把握し, トラブルに至る前に異常を検出し, 保全実施の可否及び時期を評価・判断するというもの である.これまでに得られた機器に対する知見と, モ ニタリングにより得られた情報を併せて診断するこ とで,保全の合理化が可能になると考えられている [1].
一方, 金属構造材の代表的な非破壊検査手法のうち, 電磁超音波探触子(EMAT)と渦電流探傷(ECT)は、通常 の超音波探傷(UT)に不可欠な接触媒質を必要としな い非接触式の探傷法であることや, 信号が安定してい ることから, 長期間のモニタリングに適している.ま た,表 1 に示すように,ECT と UT(EMAT)とは,き 裂サイジング精度の高い深さ領域について,互いに補 完し合う関係にあることが経験的に知られている.超 音波と渦電流を複合させたセンサが実現すれば, 幅広 い深さ領域におけるき裂を高精度にサイジング可能 となると考えられる.さらに,EMAT と ECT では装 置構成に類似する点が多い, EMAT と ECT を同時に 単独のセンサで行い,それらのデータを融合させると いう研究は今までに無く,また,これを原子力発電プラント配管の損傷状態監視へと適用することで,幅広 い深さに存在するき裂に対し高精度なサイジングが 可能になる事が期待される. - 著者らは,EMAT センサと ECT センサを複合させ た EMAT-ECT 複合センサによって超音波信号と渦電 流信号を融合させた高信頼性モニタリング手法を提 案している.本研究では,複合センサに関する検討の 第一段階として,EMAT-ECT 複合センサの試作を行 い,ECT プローブ及び EMAT プローブとしての機能 評価を実施し,その有効性を検証する。表 1 ECT と UT の比較SubjectsSurface Defects|| ECT | UT LECT/UT SensingECTO Sizing (inlola | ECTO depth) SensingI UT / ECT O SizingA UT / ECT A Sensing || x To UT O Sizing | O U T OSurface Layer Defects(Depth <5mm)Deep Defects (Depth>=5mm)2. 実験と結果2.1. EMAT-ECT 複合センサの概要 ・ センサの動作原理を図 1 に示す.励磁コイルに励 磁電流を流し,試験体表面に渦電流を誘起させる.渦 電流はき裂の存在により変化するため, 励磁コイル内194側に検出コイルを配し, 渦電流の時間変化に伴う磁束 変化を誘導起電力によって測定することで渦電流探 傷が可能である[21. また,コイル上に永久磁石を配 すことで静磁場を作用させ, 渦電流との相互作用によ り検査体表面にローレンツ力を発生させ,これにより 試験体内に超音波を送信する. 送信された超音波は試 験体底面ないしは試験体内部のき裂で反射されるた め, 送信と逆の過程で超音波を受信し, エコーの時間 差を測定することで電磁超音波探傷が可能である [3][41. 製作した EMAT-ECT 複合センサの概要を図 2 に示す. センサは,底面外周の励磁コイル,励磁コイ ル内側の二つの検出コイル, コイル上に配置されたネ オジウム磁石より構成される.Flux by eddy currentFlux by exciting currentExciter coilExciter coil1Bias magneticfieldmagnetic LPickup coil --E SISEddy currentLorenz forceUltrasonicwave図 1 EMAT-ECT 複合センサの動作原理Nd Magnet B=1.1~1.2T0.5mm16mmExciter Coil100turns100tums 400) Sim| 8mmPickup Coil 1Pickup Coil 220mm 図2 EMAT-ECT 複合センサ2.2. パルス回路の製作EMAT は超音波の機械-電気変換効率が低いため, 大電流のパルス波を用いて励磁する必要がある[3]. そのための励磁電流源となるパルス回路を製作した. 製作した回路の概要を図 3 に示す.高圧電源を用い てコンデンサを充電し,その放電電流である大電流パ ルスを EMAT-ECT 複合センサに供給する. 本回路に EMAT-ECT 複合センサを接続し、充電電圧 1563V に おいて放電した際の電流波形から高周波ノイズを除 去すると図 4 に示すような波形が得られた.電流は 最大約 50A、振動の周波数は約 840kHz であった。TriggerTriggerSWBIODEGNDD2 DIODED3 DIODEHigh Voltage Power SupplyProbeExete 2007000pFTHULU0.055Probe PickupCh.2Ch.1OscilloscopetoGNDGND図 3 大電流パルス回路60TCurrent [A]Tima L10146:: Time [us]図4 充電電圧 1563V におけるパルス電流波形2.3. ECT センサとしての機能評価EMAT-ECT 複合センサは一個の励磁コイルを共通 に用いている. 励磁がパルス状になることから, ECT は必然的にパルス ECT となる.試作した複合センサ の渦電流プローブとしての機能を評価するため, 図 3 のパルス回路を励磁電流源としたパルス ECT を行っ た.使用した試験片を図 5 に示す。縦 200mm,横 220mm, 厚さ20mm の SUS304 ステンレス板に深さの 異なる EDM(Electro Discharge Machining)スリットを4 箇所導入したものである. 全ての EDM スリットの長 さと幅はそれぞれ 10mm, 1mm であり,深さは 2mm, 4mm, 8mm, 12m と変化する. * パルス ECT の実験体系を図 6に示す.試験片のき 裂上に EMAT-ECT 複合センサを配置し, パルス回路 からの充電電圧 1562V での放電電流を励磁電流とし た. 瞬間最大電流は約 50A である. ピックアップコ イルに生じた電圧をオシロスコープで観測した。 得られた検出信号の高周波ノイズ成分を 1MHzロー ・パスフィルタで除去し, 励磁電流の振幅で規格化する と図 7に示される波形の信号が得られた.信号を解195析するためにAt と Peak to Peak の二つのパラメータ をそれぞれのスリットの波形信号から抽出した.ここ で,At2は図7中に示す二つのゼロクロス時間 ty2 間の時間, Peak to Peak はた間の1波長の波の最大値 と最小値との差を示す.各々の EDM スリットについ てこれら二つのパラメータに関して整理したものを 図 8に示す.Atの値によりスリットの有無が判別 でき,またスリットが深いほど Peak to Peak 振幅が減 少する傾向が確認できた.以上より, EMAT-ECT 複 合センサを用いたパルス ECT によりき裂の検出とサ イジングが可能と考えられ,複合センサの ECT プロ ーブとしての機能が確認された.240mm12mm8mmProbe260mm図 5 SUS304 試験片Pulse Generator Charge Voltage 1563VScannerOscilloscopeSpecimenExciterPickupEMAT-ECT multi ProbeEDM Flaw図 6 パルス ECT 実験体系--:- No Flaw2mm 4mm 8mm 12mmAmplitude [V]Peak to PeakAtta=tat-4-20_210 1214164 6 8 Time [us]図7 ピックアップコイルからの信号2.304・12mm4mm ,2mmAtz [usec].8mmNo Flaw11 5051 5253545556P-P Amnlitude IVNo Flaw50515552 53 54 P-P Amplitude [V]図 8 Peak to Peak 振幅 - At プロット2.4. EMAT センサとしての機能評価 - 複合センサの EMAT プローブとしての機能を評価 するため,図 3 に示されるパルス回路を励磁電流源 として超音波探傷を行った.実験体系を図 9に示す. 試験片は 2.3 節で用いたものと同じ試験片を用いた. 試験片の深さ 12mm のスリットの裏面から超音波を 入射し,その反射波を観測した.超音波の送信には EMAT-ECT 複合センサの励磁コイルを用い, パルス 回路からの充電電圧 1875V、最大電流約 60A の放電 電流を励磁電流とした.受信には複合センサに近接さ せて設置した超音波プローブを用いた. 超音波プロー ブは縦波用(10MHz)と横波用(2MHz)の二種類を用い た.超音波プローブからの信号はパルサーレシーバー (Panametrics 社製 5800PR)を通した後,オシロスコー プにて観測した.図 10 に受信に縦波プローブを用いた際の信号を, 図 11 に横波プローブを用いた際の信号を示す. SUS304 において,縦波音速は 5.8km/s,横波音速は 3.1km/s である[49. 図 10 について,図中に示すピーク aとピーク b の間隔は 7.0 usであり,音速から求めた 伝播距離が 40.6mm であることと,試験片の厚みが 20mm であることから,これは底面エコーと考えられ る.き裂によるエコーを観測することはできなかった. 図 11 について, ピーク b とピークcの間隔が 12.9us であることから,伝播距離は 40.0mm であり,試験片 厚さが 20mm なので,これは底面エコーと考えられる. また, ピーク a とピーク b の間隔が 7.73 usであり, これから求められる距離が23.96mmであることから、 入射面からピーク aまでの伝播距離が 16.04mm とな るため、ピーク aはスリットによるエコーと考えられ る.以上より,受信に横波超音波プローブを用いるこ とで, EMAT による超音波探傷が実現できることがわ かり, EMAT-ECT 複合センサの EMAT プローブとし ての機能が確認された.196Pulse Generator Charge Voltage 1875VUltrasonic ProbeExciterSpecimenTrigger112mmEMAT-ECT multi probePulser/Receiver Panametrics 5800PROscilloscope図9 EMAT 実験体系PleaseAmplitude [V]Back Echoe0。1020Time Luel1020Time [us]図 10 縦波超音波プローブによるエコー波形 - 197Flaw Echo1bMateNAMEHけてterestemberAmplitude [V]Back EchoTime [us]図 11 横波超音波プローブによるエコー波形3. まとめ 1. 本研究では EMAT-ECT 複合センサを提案した.試 作した EMAT-ECT 複合センサとパルス回路を用いて パルス渦電流探傷を行い, ECT センサとしての機能 を確認した.また, EMAT-ECT 複合センサと超音波 プローブを用いて超音波の送受信を行い, EMAT セン サとしての機能を確認した.参考文献 [1] RC177 軽水型原子力発電所保全研究分科会(フェーズ2)研究報告書,日本機械学会, 2002. 非破壊検査技術シリーズ 渦電流探傷試験III, 日本非破壊検査協会, 1990. [3] 村山理一, 電磁超音波センサの基礎, 非破壊検査. 51,2, 2002, pp. 62-67. 非破壊検査技術シリーズ 超音波探傷試験III, 日本非 破壊検査協会, 1989.“ “電磁超音波・渦電流複合センサの開発とその有効性の検証“ “鈴木 研一郎,Kenichiro SUZUKI,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,佐藤 武志,Takeshi SATO,Philippe Guy,Amelie Casse
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