交流透磁率を用いた強磁性材料の機械特性評価

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カテゴリ: 第3回
1.緒言
転位等の格子欠陥に起因した機械特性の劣化を要因とす る構造物の経年劣化が問題視されている. 構造物の経 年劣化を非破壊的に検査する手法としては超音波探傷, 渦電流探傷等の方法が用いられており,発生した微小 な亀裂を検出することが可能である.一方,建設後数 十年が経過した構造物の数は今後増加の一途を辿るも のと考えられ経年劣化に起因した事故を未然に防止 する目的から, 亀裂発生前に機械特性を評価すること が重要である. 構造物には鉄系強磁性材料が用いられ ており,その磁気特性は硬さ等の機械特性と良い相関 関係をもつことが知られている 1) 2).このような背景のもと強磁性材の機械特性と磁気 特性との良い相関を利用し,材料の内部組織や機械 特性を磁気計測により非破壊で評価する研究が行わ れている. これまで、磁気特性としてはメジャーヒス テリシスループから得られる保磁力,残留磁化など のパラメータが用いられてきた.一方, マイナーヒス テリシスループ測定により得られる磁気パラメータ が内部組織に敏感で高感度に計測が可能との報告が なされている)しかし, メジャーループでは印加磁場を大きくする 必要があり, マイナーループでは、励磁振幅が小さく連絡先:菊池弘昭, 〒020-8551 岩手県盛岡市上田 4-3-5, 岩手大学工学部附属金属材料保全工学研究センター, 電話: 019-621-6890, e-mail:hkiku@iwate-u.ac.jpかつ測定が低周波なために, 出力信号が小さくなり誤 差が大きいなどの問題が考えられる.また, 計測に時 間を要するため広範囲を短時間で評価する用途には 適していない. 短時間に低消費電力で計測できる方法 を開発できれば、マイナーループ法と併用することで 広範囲を効率良く高精度に評価することが可能にな る.本研究では,磁気特性のひとつである透磁率に着 目して透磁率と機械特性や内部組織の相関について 検討した. 磁性体をコアにしたコイル素子のインピー ダンスは材料の透磁率に依存して変化する.よって, 交流インピーダンス計測により短時間及び微小励磁 電流で材料の透磁率を算出し,強磁性材料の機械特性 や内部組織変化を非破壊で評価する方法について検 討した.
2. 実験方法
測定試料には純鉄及び S15C 鋼を用いた. S15C 鋼の 組成は鉄を主成分に, 0.15-0.20wt.%C, 0.15-0.35wt.%Si, 0.30-0.60wt.%Mn である. S15C 鋼では、はじめ 1173 K で 1 時間焼きなましを行い,そのままの板材(圧延率 0%)及び,異なる圧延率 5, 10, 20, 40 %で冷間圧延した 板材を作製して,それらから Fig. 1(a) に示す寸法の額 縁状試験片をそれぞれ切り出した.純鉄の試料については、単結晶及び多結晶の試料を 準備した。単結晶の試料は 54, 95, 135, 142 MPa の引張 応力を付加した後応力を徐荷し, Fig. 1(0) に示すよう1900/07/16に額縁状試験片に切り出した.一方, 多結晶の試料に ついては,温度を変えて熱処理を施し粒径が異なる試 料を作製した後,リング試料(Fig. 1(C))を切り出した. 粒径の大きさは 37, 109 及び 790 um であった. - 各試料に直径 0.3 mm の銅線を S15C 鋼には 180 回, 単結晶の純鉄には 100 もしくは 200 回, 多結晶には 60 回それぞれ巻いてコイル素子を作製し, LCR メーター (HIOKI 2250)を用いてコイル素子のインピーダンスを 測定した. 周波数は1Hz ~10 kHz とし, コイルに印加 する電流は 10 mA とした. 測定したインピーダンスか ら透磁率実部(μ')と虚部(以”)を算出した.3.実験結果- Fig. 2 は圧延率に対する透磁率の大き さ (u = Jul+xml )を S15C 鋼において示した図である. 圧 延率の増加に伴い,透磁率は単調に減少した. 圧延率 の増加とともに硬さが単調に増加することは明らかに されており,透磁率と硬さが相関を持つといえる. - Fig. 3 は, 転位密度に対する透磁率の大きさを純鉄 の単結晶について示した図である. 転位密度の増加に 伴い,透磁率は減少した. 転位密度が増加することは 硬さの増加も意味している.このことから,硬さの増 加に対し透磁率は減少し,この結果は S15C 鋼の場合1900/02/03Thickness: 10(a)S15CRolling directionUnit: mm[010][100]1900/01/19Thickness: 1mm(b) Single crystal Fig. 1 Dimensions of specimens.Thickness: 3mm (c) PolycrystalULIOL 100 HALL0| 100Hz10.... wwww.ularmt-tute r .. ..de 1020304010'10'108, 10° 12 Rolling reduction (%)Dislocation density (cm2)01899/12/3110 0'01900/01/091 100 Grain size (um)Fig. 2Permeability vs. rolling reduction (S15C).Fig. 3Permeability vs. dislocation density.Fig. 4 Permeability vs. grain size.- 199 -と一致する。Fig. 4 は純鉄の多結晶の場合における粒径の大きさ に対する透磁率の大きさを示したものである. 粒径の 増加とともに透磁率は増加する。粒径の増加に対して、 硬さは減少する。硬さと透磁率の関係については、 S15C 鋼, 純鉄の単結晶の場合と同様である. - 以上のように,機械特性の変化と透磁率は相関関係 をもち,かつ透磁率は非破壊で計測可能なため,透磁 率の計測から機械特性を間接的に非破壊で見積もるこ とが可能になるものと思われる.4. まとめS15C 鋼について透磁率と圧延率の相関を,一方, 純 鉄の単結晶, 多結晶において透磁率と転位密度及び粒 径の間の相関をインピーダンス計測により定量的に明 らかにした. S15C 鋼では圧延率の増加、すなわち硬さ の増加とともに透磁率は減少し,単結晶では引張応力 の増加、すなわち転位密度の増加に対して透磁率は減 少した. 多結晶では粒径が大きくなるのに従って透磁 率は増加した.以上の結果より,交流インピーダンス 計測による機械特性や内部組織の非破壊評価が可能で あると考えられる.参考文献[11. H. Kronmuller, Int. J. Nondestruct. Tetsing, 3,・315(1972). [2] S. Takahashi, J. Echigoya, Z. Motoki, J. Appl. Phys., 87,805(2000). [3] S. Takahashi, L. Zhang and T. Ueda, Magnetic hysteresisminor loops in Fe single crystal, J. Phys.: Cond. Matter, 15,7997(2003).“ “交流透磁率を用いた強磁性材料の機械特性評価“ “菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,荒 克之,Katsuyuki ARA,鎌田 康寛,Yasuhiro KAMADA,小林 悟,Satoru KOBAYASHI,高橋 正氣,Seiki TAKAHASHI
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