公的施設建設における客観的社会合意形成方法論の検討

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カテゴリ: 第3回
1.緒言
響等について、賛成派、反対派の間で、社会科学的、 * 原子力施設の立地を円滑に進め、原子力産業の健全 人文科学的、科学技術的視点での客観的な定量的指標 な発展とわが国のエネルギーの安定供給を図る上では、 に基づいて議論を行う必要がある。原子力発電に関し 国民の間の社会的合意形成特に、原子力施設の立地場てはさまざまな立場から書物が出版され、円卓会議、 所における住民の社会的合意形成が極めて重要である。 アンケートなど社会合意形成のための方法が試みられ こうした社会的合意形成に関連しては、原子力工学のている。一般の人々の原子力発電に対する態度を 1998 みならず、社会学、心理学等の様々な学問領域との連年の世論調査[8]で見ると、原子力発電の重要度を認め 携によって研究が進められている[1]-[4]。 しかし、社会ているのは全体の 80%近くであるが、「積極的に推進 合意形成への試みとしては、アンケート調査結果などする」と「全面的に廃止する」という極端な意見はそ の統計的処理を行った例はある[5][6]が、一続きの報道。 れぞれ一割にも満たない。「現状を維持する」「推進の 記事などの文献における文脈の流れを分析した結果は方向」「廃止の方向」の三つがほぼ拮抗している。その 未だないようである。一方、原子力発電所建設反対の声をあげる地域があり、 . 本報では、この文脈の流れに視点をおき、新潟日報国民全体の意識と受苦の住民との意識の違いは次第に に掲載されたインタビューの記事を解析対象に、新聞 乖離していく感がある。 報道のあり方と社会合意形成の方法を検討した。日本社会合意を形成するにはアンケート調査等の統計処 は他国と比べて報道機関に対する信頼度が高い国であ理方法等が有力な手段となるが、反対運動の活発な地 る[7]から住民の意見を探ることは社会合意形成の上か 域では調査自体行えず、意識の把握が不可能となるこ らも有効であると考えられる。とも多い[9]。よって原子力発電所建設予定地の住民の - 原子力発電所やごみ処理場のような公的施設は、豊意識を把握したものは極めて少なく、また、アンケー かな生活環境には必要である。しかし、その社会合意トに使用する質問項目によっては、感情や本音が十分 形成は難しく遅延による経済的損失等により社会全体 把握できない恐れもある。したがって、原子力発電所建設予定地の住民の感情や本音を把握するために直接 連絡先:井波真弓、〒182-8525 東京都調布市緑ヶ丘生の声を聞いたインタビュー記事は貴重な資料といえ 1-25、白百合女子大学堀井研究室、電話: 03-3326-7604、 e-mail:mayumimi@interlink.or.jpる。具体的な解析対象として、5回にわたり掲載され
た原子力発電所建設予定地周辺に住む住民のインタビ ュー記事を用いて、数学的手法であるウェーブレット 多重解像度解析により記事構成を一つの文脈の流れ [10]-[12]と捉え、キーワードがどこに現れるか、どのよ うな変化で時系列上に現れるのかを明らかにする。す なわちこれを暗黙知と本論では定義し解析を試みる。 2. 新聞記事の解析 2.1 解析対象 - 解析対象の記事は、原子力発電所建設をめぐる住民 投票を 1996年8月4日に控え「新潟日報」が同年7月 29 日から8月2日まで「一票への思い 町民 108 人イ ンタビュー」と題して5日連続5回シリーズで掲載し た記事である。インタビュー対象は新潟県西浦原郡巻 町の町民である。インタビューの手法は住宅地、海岸 部、商店街周辺、農村部の4地域で各 25 人以上、合計 100 人以上を目標に 17 人の記者が7月 13、14、20、21 日の土、日曜日を中心に家々を訪ね歩き、「住民投票を どう思う」「原発に対する思い」など 10 項目の設問を もとにインタビューしたものである。156 人に申し込 み 108 人(年齢など不回答者も除く)が回答した。記 事は 17 人の記者のメモをもとにアンカーと呼ばれる 別の記者がまとめあげたものである。シリーズの一回目は「流れ」と題して全体を総括し た記事となっており、以下順に「住宅地で」「海辺で」 「農村部で」「中心街で」となっている。 2.2 解析方法 1. 本研究で用いる解析方法は、記事構成とその流れを 明らかにすることが目的である。データ数から客観的 でない点があることは否めないが、一つの方法論とし ての妥当性を検討する。新聞記事の記者の記述とインタビューの会話に注目 してテクストを4種類に分類する。句点で区切られる 一文を単位とするが、文の中にある鍵括弧に囲まれた 住民の意見は句点のあるなしにかかわらず一文とした。 また、鍵括弧と鍵括弧をつなぐことばも一つと数えた。 例えば「会社員の男性は『安全性に不安がある』とし ながら『しかし・・・』とかたった。」という文章は、 /会社員の男性は/「安全性に不安がある」/としな がら/「しかし・・・」/とかたった。/というよう に5つの文とした。このようにして得られた各回の記 事の要素数(節・文章数)は記者の記述した部分と住 民の意見の文章とに分け、住民の意見の文章部分はさらに、賛成、反対、その他に細分化し、その結果を Table 1に示す。Table 1 Number of ElementsSupporting Adverse Other JournalistTotal opinions | opinions opinions Summary | 51 | 9 | 8 | 19 Residential area 24 | 11 | 10 116Seaside 32 | 12 | 10 | 9 163 Farm | 32 | 5 | 12 | 14 163Town | 33 | 4 | 0 | 24 161 | Total | 172 | 41 | 40 | 82 | 335 |87611Table 1 に示された各回の記事の生データを相互に比 較検討するために出現頻度率を計算し、そのデータに 離散値系ウェーブレット変換の多重解像度解析を適用 する。任意の一文に対して、該当する評価は1、該当 しない評価は0として、ベクトル S, =1, 2, ..., 4 を作 成し、S, 1, 2, ..., 4 それぞれに、離散値系ウェーブレ ニット変換を適用する。離散値系ウェーブレット変換を 適用する場合、ベクトルの要素数は2のべき乗である 必要がある。ここではゼロ要素を追加して所望の条件 を満たした。S,の次元は Table 1 の各回のデータの要素 数である。この評価データに対して(1)式で示されるウ ェーブレット変換を実行した[13]。 S;' = WS,==1, 2, ...,4 (1) ここで、S,, 1,2,....4はそれぞれの評価データに対す るウェーブレットスペクトラムである。また、W は、 ウェーブレット変換行列を示す。ウェーブレット変換 行列の作成には対象データの一定値成分を抽出するこ とが可能である Daubechies 2 次基底を用い、記事の中 での意見配置を可視化する。評価データ S, 1,2,....4は、多重解像度解析より各 レベルに分解することができる。S = WIE [S,Y, -1,2,...4, (2)式において、WF は W の転置行列、j はレベルを示す。 レベル毎に記事の中での意見の配置を可視化し考察す る。なお、再現された各レベルのデータから追加した 0は削除した。-23.解析結果 3.1 主な記事構成とその流れの抽出 新聞記事の解析結果から記事の主な要素は記者の記nagare : level00.4 0.35Amplitude35 25Journalist Other opinionsAdverse opinions Supporting opinions長 0.150.1 0.0506040 Sentence80(a) Summaryjutaku: level00.2 0.175Other opinions JournalistSupporting opinions0.1519 0.125Amplitude0.075 0.0510_10Adverse opinions / 20.30 40 50Sentence60(b) Residential areaumibe : level 025JournalistOther opinionsAmplitudeSupporting opinions7Adverse opinions.11」述であり、インタビューでの賛成、反対、その他の意 一見には地域ごとの違いが現れた。以下、それぞれの記 事内容と本解析結果との相関について述べる。記事の主要な要素を把握するために、ウェーブレッ ト多重解像度解析のレベル0の結果を Fig. 1 に示す。 Fig.1 はそれぞれ、「総括記事」「住宅地」「海辺」「農村 部」「中心街」における解析結果であり、記者、賛成、 反対、その他のそれぞれの平均である。レベル0では 全体のトーンがわかる。縦軸は記事を「記者」「賛成」 「反対」「その他」の4つに分類したものの出現頻度率 の変化を示している。レベル0以外場合、縦軸の「振 幅」は前後の出現頻度率の差をとっているために、負 になる場合がある。横軸は記事要素の時系列で、節・ 文章総数と一致している。「総括記事」「住宅地」「海辺」 「農村部」「中心街」の5つの記事はともに記者の記述 が最も高い割合を占めている。次に「その他の意見」 が主要な要素となり、「賛成・反対の意見」の差は小さ く要素としてもその他の意見より低い割合を占めてい て、記者の記述とその他の意見によって記事全体が構 成されていることがわかる。次に、記事を順に見ていくこととする。「総括記事」 は記者が全体をまとめたもので特に地域を限定してい ない。賛成派、反対派の意見は僅かに賛成派が多いが、 ほぼ同じ割合であり、中立であろうとする記者の態度 が伺える。「住宅地で」の住宅地とは旧来からの街区、集落を 取り巻くように開発された地域で新潟県、県央圏のベ ッドタウンの役割も担っている。ここでは地域とのし がらみが少なく自分の意見を言う人が多い。5つの記 事の中で引用が一番多く、記者の記述は少なくなって いる。 「海辺」では三つの要素の差が全体で一番低い。賛成 が一番多く意見をはっきりさせない人の割合も一番少 ない。漁業補償を受けた人は態度をすでに明らかにし ていること、また漁業は危険を伴う個人的な仕事が多 いことから意見をいう傾向が認められると考えられる。「農村部」は昔ながらの農村集落で、新しい住宅が めだってきたところである。ここは唯一反対意見が賛 成意見を上回っている。「中心街」は人口が密集した昔ながらの家並みが軒 を連ねる巻町の中心部である。個人営業が多い土地柄 で、答えた人は主に自営業の人たちである。ここでは 反対意見を述べず、態度も明らかにしない。それは自0.0501_10) 2030 Sentence405060(c) Seaside noson : level 0AmplitudeJournalistAdverse opinions Other opinions/ Supporting opinions0_102030 40 Sentence5060(d) Farmchushin : level00.250.2AmplitudeJournalist Supporting opinionsAdverse opinions Other opinionsen 0.10.05o-10~ 20 - 30 - 405060Sentence(e) TownF ig.1Level 0 of the wavelet multi-resolution analysiFig. 1 Level 0 of the wavelet multi-resolution analysis.1899/12/08rareinta6SummaryAmplitudeSummaryNiplitudejutab:6jutalisretaResidential areaAmplitudeResidential areaAmplitudeCaten.coaertanceunibe : data 16SeasideAmplitudeSeasideNuplitude1.3005061110203405040Santec.canon : asha : 6noson 1 enota 16FarmAmplitudeFarmAmplitude10 201000010233040500taustan : BataTownAmplitudeTownapraidu110203040500(a) Journalist(b) Other opinionsTowntakusaiset:60AmplitudeResidential areaAmplitude10203040505Sterce.....400SummaryapnattySummaryAmplitudeSerter.cafutakeucaisel6Residential areaAmplitudeResidential areaAmplitude120304050StriceSentencesite : saiso: 16urbestantai 16SeasideAsplitudeSeasidesprodov102030500Saritance10205sentancereansaisaj6tomonhantat6FarmAmplitudeFarmoprad31020350Sentence5193/09/17Setar.codishinraiseit6tushdiapnardenTownTownapna duy10203040500Sartorce10203003の(c) Supporting opinions (d) Adverse opinions Fig. 2 Level 6 of wavelet multi-resolution analysis.分の立場を明確に述べれば影響が直接経営に跳ね返っ てくるためと思われる。 * 以上のことから、意見の表明には地域差が存在し、 それは自らの生活形態とも大きなかかわりがあること がわかった。日本人の場合、言語習慣として中間的な 回答をすることが多い[14]ことが指摘されるが、これは 人間関係を優先させるためのもので、スタンスを明確 にして意見を述べるのではなく、互いに主張を認め合 いながらも知識や感情の間で揺れながら自己の判断を 行おうとする日本型のコミュニケーションが行われて いると考えられる。地域住民の場合、原子力エネルギ ーの必要性そのものの議論よりも地域生活に結びつい た仕事や人間関係を優先してインタビューに答えてい ると解釈される。 3.2 構成要素の時系列変化Fig. 2 は Fig. 1で見た記事の主要な要素に関するウェ ーブレット多重解像度解析結果のレベル 6 を示す。レ ベル6とは、記事を時間軸方向に 64 に要素分割した場 合の要素の出現頻度率の変化を示す。縦軸は記事を4 つに分類した各々の要素の出現頻度率の変化を示し、 横軸は記事要素を時系列に一列に並べたもので、Table 1 の要素数と一致している。レベル 6 はひとつの記事 の文の進行を一つの時系列と考えたとき、それぞれの 出現頻度率の変化に対応するものであり、初め、中、 終わりのどの位置にどの様な要素が多く出現するかに よって、読み手の印象は変化する。つまり論理の展開 が明らかになり、読み手の印象を把握することができ る。一つのまとまりある記事のような主張ある文章は 単に箇条書きされた文を並列しただけではない。重要 なことは論証の流れであり、要素の論理的な結合が説 得力を持ち、記者のインタビュー印象と深い関わりが ある。例えば、肯定と否定の順序により、記者のイン タビュー印象を察することができると思われる。図は 「総括記事」「住宅地」「海辺」「農村部」「中心街」の 順に縦に並べてある。記者のとらえた住民の意見は「総 括記事」で述べられているが、記者は賛成・反対意見 を交互にとりあげ、目立った偏重は見られない。この ように記者には常に中立を保とうとする態度が見られ る。しかし、反対意見でもって記事を終えている。住宅地では、反対、賛成の意見が他の地域に比較し て、多く出現しており、賛成意見でもって記事を終え ている。海辺での調査では、賛成意見が主導であり、 賛成意見で記事を閉じ、農村部はどちらつかずの意見23主導で、反対意見から賛成へと変化している。中心街 では、反対ゼロと言う結果が出ており、全体としては、 態度表明しないトーンで進んでいる。Fig.1 を見ると記者の記述は「総括記事」の部分が一 番多く、「住宅地」が一番少なく、その他はほぼ一定の 割合であることがわかる。最初の「総括記事」は記者 が全体の流れの方向を示すため引用部分が少なく記者 自身の記述割合が高い。次の「住宅地」は意見も割合 自由に言える雰囲気の中、インタビューからの引用も 多く、主体を記者から住民へと移している。「海辺で」 「農村で」「中心街で」では、記者とインタビューの構 成割合は同じであるが、意見を言わない、言えない割 合が増加する順に配置されている。 * Fig.2 から意見の現れ方を見ると賛成は後半で、反対 は前半で述べられる傾向にある。4.考察4.1 地域性にみる「しがらみ」と社会合意形成ここでは、解析結果と「しがらみ」について検討す ることにする。インタビューの中にも「しがらみ」は 数回用いられており、意見表明においても影響を与え ている。地域のしがらみが比較的少ないといわれる住 宅地では「知らん人ばかりだから人間関係が楽...町内 ではいろんなしがらみがある。...だから正直な気持ち を投票で表せるのはいい。実は私ら夫婦も原発推進の 人に頼まれて表向きは原発賛成。でも本心は反対」と 述べる。しかし、中心街となると、「商売人がどっちに 入れるかなんて、口が裂けても言わんねて」と意見表 明が困難であると述べている。Fig. 2 の中心街の調査結 果において反対意見が全くないことが「しがらみ」の 存在を裏付けている。このように、「しがらみ」は経済 活動と古くからの習慣、人間関係とのかかわりから生 じており、住民の言動を規制していることが窺える。 従って、時系列の結果の影に本音が隠れている可能性 が高い。社会合意形成を必要とする地域において住民 が隠蔽している真意を暗黙知と捉え、記者という媒体 を通して単にことばで表現されたことを表面的に理解 するのではなく、可視化された暗黙知を手がかりに住 民の文化を理解することが、必要であると考えられる。 - 山室[15]は「しがらみ」の二面性を「共同性維持装置」 と「抑圧装置」とし、原子力発電所建設計画などのよ うな国家が推進する計画においては「抑圧装置」とし て作用すると捉えている。巻原発計画においては推進派が強い状況があり、計画に違和感を持つ住民は自分 の立場を明確にしないようにしながら、家や孫などの 社会的単位に責任を一時的に帰属させながら意思表示 をする「かこつけ」を行っていると述べている。 公的施設の建設には地域の人々の合意が重要であるか ら生活環境を理解し、住民の立場に立った対応策をと らなければ社会合意を形成するのは極めて難しいと思 われる。 1 日本には議論の土壌が十分になく、その上自分の立 場を鮮明にすることで地域の住民は経済生活を脅かさ れ、人間関係が破壊される恐れがある。地方の住民に とって原子力発電所建設をめぐっては原子力発電その ものの必要性より生活を維持すること優先させている。 社会合意を形成するにはその部分をケアすることが必 要ではないだろうか。新潟日報の記事はこのようは事 情を踏まえて意思表示を促したと考えられる。相互理解による合意形成を得るためには単にことば で表現されたことを表面的に理解するのではなく、可 視化された暗黙知を手がかりに住民の文化を理解する ことが、必要である。本研究は住民が「しがらみ」に よって隠蔽している真意を暗黙知と捉え、記者という 媒体を通して掴もうとする試みである。 4.2 新聞報道のあり方と社会合意形成 1新聞報道のあり方を Fig. 1 及び Fig. 2 から考察する。 Fig.1 を見ると、記者は日常会話に上ることの少ない原 子力発電所建設について、まず全体の流れを知らせ、 次に自由な意見を掲載して主体が住民であることをア ピールしている。それから自己の立場をはっきり表明 できない地域を掲載している。このように配列順を工 夫することで、住民の共感を得ながら意見を出すよう 促していったのではないかと考えられる。 1 新聞記事の書き方としては、大事な主張は前半に言 われることが多いのではないだろうか。Fig. 1 は賛成意 見が反対意見より高い割合を示しているが、Fig. 2 では 反対意見を前半に持ってくることで、より中立を目指 していることがわかる。 1 新聞記事報道における日本語の特徴が社会合意形 成に影響を与えると考えられるものに間接表現が上げ られる。ここでインタビューに答えた人たちの会話を 日本語の特徴と合わせて考えて見たい。 - 森田[16]によると日本語は、発話者がどんな視点に立 っているかを認識した上で、場合に応じて表現を選択 していくことで言語生活を円滑に進めているから、外14部現象を把握していく表現者の意識を追う姿勢が理解 者にとっては必要であると指摘する。この指摘をこの 場合に当てはめると、自己の外部に起こったさまざま な出来事を外部現象、すなわち原子力施設の設置に関 すること、それに対し意見を述べる住民を表現者とし、 話を聞いてその内容を理解する人を理解者、つまり記 者となる。記者の記述が、原発に対して住民がどのよ うな考えを持っているかを知らせる情報としての役割 を担っているため、記者が話者側の視点に立ってイン タビューを選択する必要があると考えられる。 インタビューに述べられた間接表現に、しがらみを口 にすること、察してほしいと望むこと、周囲のうわさ を話すことなどがある。間接表現であっても、相手の 事情や言わんとすることが聞き手である記者にすぐ理 解されるため、あるいは、状況を察することに重点が 置かれるため、会話の中断に追い込まれることが多く、 本音が聞き出しにくい。他の人を気にして自分の意見を表明しにくい状況の 中では、自己の意思表明を避け、建前と本音を使い分 けているようである。発話者が真に意図する内容を理 解するには場面や発話者の置かれた状況を理解、考慮 する必要があり、字面の背後にある暗黙知を探らなけ ればならない。5.結言ウェーブレット解析を用いた新聞記事の文脈解析に より原発立地予定地域住民の意思表明に関して、次の ような知見が得られた。 10文脈の流れ 住宅地、海辺、農村部、中心街におけるそれぞれの 意見の相違が文脈の流れに現れた。住宅地では、前 半から中間部にかけて反対意見が見られ、後半に賛 成意見が見られた。農村部では住宅地と同様の傾向 見られるが、相対的に意見数が少ない。しかしなが ら、海辺では、前半、中間、後半部に賛成意見が分 布し、少数の反対意見が前半と、後半に現れている。 中心街では、反対意見が全く見られず、中間部に少 数の賛成意見が現れた。 2)新聞報道のあり方 新聞記者の記述には記者の中立的態度が現れている。 これは採用するインタビューの配列が賛成・反対・ その他に偏ることのないよう要素数、即ち文章の数 において配慮されていることからわかる。参考文献[1]下川純一、“原子力利用-フランス国民の受けとめ方と事業側の社会的対応”、原子力工業、Vol.36,No. 12、1990、pp.41-69. [2]電力新報社、“クロスオーバーファイル 日本のエネルギー政策に強い不信感 エネルギー不足を予測 する有識者”、エネルギーフォーラム、486、1995、pp.23-24. [3]傍島真、“原子力受容問題の論点”、日本原子力研究所JAERI - Review、1999、p.206. [4]原子力安全システム研究所 社会システム研究所、“安心の探求”、株式会社プレジデント社、2001. [5]林知己夫、守川伸一、“国民性とコミュニケーション原子力発電に対する態度構造と発電側の対応のあ り方”、(株) 原子力安全システム研究所、1、1994、pp.93-158. [6]木村浩、“原子力政策や立地に影響を与える因子は何か”、エネルギー、34[5]、2001、pp.115-117. 「71 B. アーモンド、B. ウィルソン編、 玉井治、山本慶裕訳、“価値 新しい文明学の模索に向けて”、東海大学出版会、1994、pp.45-46. [8]柴田哲治、友清裕明、“原発国民世論一世論調査に見る原子力意識の変遷”、ERC 出版、1999、pp.124-125. 「91角田勝也、社会的問題の解決プロセス、“安心の探求”、(株)原子力安全システム研所 社会システム研究所、株式会社プレジデント社、2001、pp.126-139. [10] H.Iwasaki, K.Miyazawa, H. Tsuchiya, Y.Saito, K.Horii,“Linear Space analysis for Literary Style““ , Proceedings of PSFVIP-3, Hawaii, USA.2001,pp.18-21, F3384. [11]堀井清之、齋藤兆古、特許「文学作品解析方法および解析装置」、特願 JP10-102673A. [12]諸星典子、堀井清之、文学研究における可視化の位置、堀井清之、宮沢賢治・角山茂章 編、“「文系 知」と「理系知」の融合 コンピュータによる文 学における暗黙知可視化”、近代文芸社、2002、pp.5-14. [13]斎藤兆古、“ウェーブレット変換の基礎と応用一Mathematica で学ぶ”、 朝倉書店、1998. [14]永井廉子、原子力発電に対する態度を測定する、“安心の探求“、(株) 原子力安全システム研究所 社 会システム研究所、株式会社プレジデント社、2001、pp.181-190. [15]山室敦嗣、原子力発電所建設問題における住民の意思表示、“境社会学研究4”、1998、pp.188-201. [16]森田良行、発話の場面、発せられる表現、“日本人の発想、日本語の表現”、中央公論社、1996、pp. 5-14.“ “公的施設建設における客観的社会合意形成方法論の検討“ “井波 真弓,Mayumi INAMI,遠藤 久,Hisashi ENDO,齋藤 兆古,Yoshifuru SAITO,堀井 清之,Kiyoshi HORII
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