アモルファスMIセンサを用いた2方向センシングおよび 漏洩磁束密度分布関数のパラメータによる欠陥深さと欠陥位置の評価

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
磁性体の表面または内部に傷などの欠陥があると、 磁性体と欠陥部との境界で磁気的性質が異なるため、 欠陥部周辺で磁束線が試験片表面から漏れる。この漏 洩磁束密度の分布と強度を適当な磁界センサを用いて 計測することにより欠陥を検出するのが漏洩磁束探傷 法(Magnetic Flux Leakage Testing) である。従来の MFLT では、試験片のヒステリシスの影響を除くために磁化 器によって磁気飽和に近い状態まで磁化し、漏洩磁束 密度の垂直方向成分成分のみを測定するのが一般的で ある。しかし、高感度でかつ測定レンジの広いセンサ を用いれば、より小型の磁化器や地磁気のみでの漏洩 磁束が精度よく測定ができる。さらに、2方向の漏洩 磁束成分を共に測定することができ、より情報量の多 い探傷が可能になるはずである。 1. 本研究ではそのような高感度で測定レンジの広いセ ンサとしてアモルファスMIセンサを用い、弱く直流 磁化した試験片表面近傍の水平および垂直方向の磁束 密度成分 B,、B,を測定する。その結果を用いて、試験 片に存在する表面欠陥および背面欠陥の傷深さと存在 する面の表と裏を識別することを試みる。そのために、磁気双極子モデルから導かれた磁束密度分布を簡単な 初等関数を用いて近似して、実測した磁束密度分布に 対してその関数に含まれるパラメータを決定する。
2. 漏洩磁束密度分布関数
1 Hzy=0|P(x,Z)-mSurfacecharge density Fig. 1 Dipole model of MFL磁気双極子モデルは漏洩磁束の代表的な解析的表現 であり、Zatspin と Shcherbinin'によって提示された。 これは、直流磁化された試験片中に存在する溝状傷の 向き合った両面に正負の磁荷を一様に分布させ、漏洩 磁界はそれらの作り出す磁界により表されるとしたも のである。それによると、傷両端面に分布する単位面 積あたりの磁荷を m(Wb/m2)、真空の透磁率を u (H/m) とすれば、Fig.1 のような二次元モデルについて磁界分 布H(Alm)は、以下のようになる。220Magnetizing coil-y)Hx-21koiltantan -1[n-1 --tan2nHo(x- ax+aA+Magnetic LeakageSensorSurface flawSpecimenHz = 27HotFig.2 Analytical model大きくなっていることがわかる。m (x + a)+ (y + d); 2nHo (x - a) + y^(-a) + (y + 50 ) 11 (+a)+ ym( (x+a) + (v + 8) 2m2~2zuo (““ (x - a)+ y^ .(x-a) + (y + b); )(x+a)^+y2-2しかし、この関数は理想的な表面欠陥においてのみ 有効であり、背面欠陥には適用できない。そのため、 この磁界分布を次のような簡単な関数で近似する。 (c + a)+ 72 )大きくなっていることがわかる。この磁束密度分布を(3)、(4)式で近似して定まるパラ しかし、この関数は理想的な表面欠陥においてのみ メータ ay, b,および az, b,を、深さ なに対してプロッ 効であり、背面欠陥には適用できない。そのため、 トしたものが Fig.4、Fig.5 である。図の実線は、実測値 の磁界分布を次のような簡単な関数で近似する。 を下式で最小二乗近似したものである。B = f.exp(g.x)+hBy = q expl-o-(z - 4.9J+qB. = 0, -t expl-2. (a - d≫P|表面欠陥では B、および B,共にパラメータ ay, anは 深さをに対して指数関数的に増加しており、パラメータ by, b, は指数関数的に減少している。一方、背面欠 C2.x + C2陥では、パラメータ ay, anについては表面欠陥と同様 ただし、上式は(1)、(2)式においてリフトオフは一定と した x 軸方向の分布を近似したものである。この式中 のパラメータ ay, a, は磁束密度のピーク値を表し、by, b, はピークの鋭さを表す。次章ではこれらのパラメー タを用いて、溝幅を固定した欠陥の、深さに対する評 価を試みる。3.二次元静磁界解析 3.1 解析モデルFig.2 に解析モデルを示す。磁化器としてコイルを用 い、コイル間距離は 140mm、コイル内磁束密度は 0.5(T) とした。試験片は SS400 を想定し、比透磁率は 3000、 保持力は 80(A/m)とした。試験片は長さ 200mm、厚さ 5mm で中央部には欠陥として幅 1mm の溝を設け、そ の深さ を 1、2、3、4mm の間で変化させた。また、 溝が試験片表面に存在する場合(表面欠陥)と背面に 存在する場合(背面欠陥)について解析した。 3.2 解析結果 - 前節の解析により得られたリフトオフ 1mm におけ る磁束密度分布を Fig.3 に示す。表面欠陥、背面欠陥共 に深さが大きくなるほど漏洩磁束密度のピーク値が-221・ 表面欠陥では B、および B,共にパラメータ ay, anは 深さとに対して指数関数的に増加しており、パラメー タ by, b, は指数関数的に減少している。一方、背面欠 陥では、パラメータ a, anについては表面欠陥と同様 の相関を示しているが、パラメータ by, brについては 深さをに対して指数関数的に増加していることがわか る。また、表面欠陥にくらべて背面欠陥の方のパラメ ータは小さく、それは特にパラメータ by, brについて 顕著に見られる。しかし、パラメータ by, b, につい ては深さが浅い場合は非常に変化の度合いが小さく、 単独で深さを評価することは困難である。そのため、 パラメータ ab, と as, b,を組み合わせて評価する 必要がある。 - 以上の結果から欠陥の表裏および深さが未知の 欠陥を同定する方法について述べる。ただし、欠陥 の幅については既知であると仮定する。 (P1) あらかじめ同じ材質と厚みの試験片について、既知の幅および数種類の異なる深さ を持つ模擬欠陥を作成し、一定のリフトオ フにおける欠陥面および裏面の磁束密度 分布 B、B,を測定する。 得られた磁束密度分布から Fig.4 に相当するグラフに測定点をプロットする。 (P3) (5)式を用いて測定点を最小二乗近似したものを上のグラフに描き込む。 (P4) 未知の欠陥を持つ試験片について、(PI)と(P2)同じリフトオフにおいて磁束密度分布 B、B,を測定する。 (PS) 得られた磁束密度分布を(3)、(4)式で最小二乗近似し、パラメータ a, b, と as, b,を決 定する。 パラメータ ay, apの値と Fig.4(a)、(c)の近似 曲線との交点を求め、表面あるいは背面欠陥 の場合の深さち、与を決定する。(P7) 深さ5、5 の値と Fig.4()、(d)の近似曲線との交点を求め、表面あるいは背面欠陥の場合のパラメータ by, b2の推定値を決定する。 (P8) (PS)において実測値から得られたパラメータ b, b, と、(P7)の推定値を比較し、b,が近 い場合には表面欠陥で深さが5、6, が近い場 合には背面欠陥で深さがうとする。(P6)と(溝深さ)」・4mm 03mm2mm Imm(溝深さ)」 ・4mm 03mm ・2mm AmmBx(G)Bx(G)100-40-20wwwwwwww 140020 x(mm)2010 20-40113(mm) (b) Distribution of By (Back surface flaw)|(a) Distribution of B; (Front surface flaw)20F TTT20F TFT(溝深さ)1 ・4mm 03mm 42mm(溝深さ) ・4mm o 3mm 42mm A ImmA 1mmBz(G)Bz(G)140 -20020-40x(mm)x(mm)(c) Distribution of B, (Front surface flaw)(d) Distribution of B, (Back surface flaw).3 Calculated resultsparameter aparameter b;(mm) (a) Dependence of parameter a, on flaw depth &(Front surface flaw)E (mm) (b) Dependence of parameter b, on flaw depth ?.(Front surface flaw)parameter aparameter bi(mm)(c) Dependence of parameter a, on flaw depth &(d) Dependence of parameter b, on flaw depth 5 (Back surface flaw)(Back surface flaw) Fig.4 Approximation parameters of horizontal component Bx- 222 -0.12CT0.151:55:120.060.001-23(mm)0.4 ??????parameter azparameter b25(mm) (a) Dependence of parameter az on flaw depth 5(Front surface flaw)E (mm) (b) Dependence of parameter b2 on flaw depth &(Front surface flaw)0.034parameter azparameter b2(mm)E (mm) (c) Dependence of parameter az on flaw depth &(d) Dependence of parameter b2 on flaw depth & (Back surface flaw)(Back surface flaw) Fig.5 Approximation parameters of vertical component B,4. アモルファスMIセンサを用いた計測として、磁束密度 BA、B,を 1mm 間隔で測定した。 14.1 試験片および計測方法4.2 計測結果 前章で述べた欠陥の表裏および深さを推定するため 計測によって得られた磁束密度分布を Fig.8 に示す。 の基準となるパラメータを決定するための試験片形状 この磁束密度分布を(3)、(4)式で近似して得られたパラ を Fig.6 に示す。長さ 250mm、幅30mm、厚さ 5mmのメータ ay, b,および az, bを、深さ なに対してプロッ 短冊状試験片(SS400 鋼)の中央に、幅 1mm、長さ 15mm トしたものが Fig.9、Fig.10 である。解析結果と同様の の長方形(正しくは両端には加工に用いたエンドミル 相関関係を示していることがわかる。これにより、 の半径 0.5mm のRがついている)で深さが 1、2、3、 SS400 鋼からなる厚さ 5mm の部材表面に存在する幅 4mm の非貫通溝を設ける。1mm の欠陥に対しては、手順(P1)~(PS)に従って欠陥 - 計測システムの概略図を Fig.7 に示す。(株)栄進化。 の表裏および深さを推定することが可能である。 学製 HMA-1 を用いて試験片を直流磁化する。磁極間 隔は 140mm、磁極形状は 25mm 角である。磁化電流値長方形の非貫通溝(幅1mm、長さ15mm、深さ・・・) は 0.4(A)とし、それによって生じる磁束密度はおよそ厚さ5 0.13(T)である。磁極と試験片の接触が理想的ではない ことから、より磁極の影響を受けにくくするため、3250 章における解析の値よりも磁束密度の値を小さくした。Fig.6 Specimen 磁束密度センサには(株)AMI 製アモルファス MI セ ンサを用いた。センサの素子部の形状は約 0.45mm 角X-Y plotter と空間分解能が高く、30G の広い測定範囲と ImG の 高感度を併せ持つという特徴がある。計測に際してリGP-IB フトオフは約 1mm とし、また欠陥を中心とすると 30mm の直線上を走査した。ここでは同一のセンサを 用いて、感磁方向を試験片の長さ方向および垂直方向Fig. 7 Experimental systemMagnetizing yorkControlSpecimenINAFAMI sensorA/D converter223ち(溝深さ)? 4mm 03mm 42mmImm15(深さ)・4mm 03mm2mm AlmmBx(G)Bx(G)LenremoreAhh-30-20-10' 01020301,590000000.0.000~ 240000mmmmmmmm -30 -20 -10 0 10 20 30x(mm) (a) Distribution of B, (Front surface flaw)(b) Distribution of By (Back surface flaw)(溝深さ) ・4mm・3mm 42mm A Imm(深さ) ・4mm o 3mm 42mm A ImmBz(G)Bz(G)900001-30 -20 -10-02030x(mm).50 -20 -10-0-10-2030x(mm) (d) Distribution of B, (Back surface flaw)(c) Distribution of B, (Front surface flaw)Fig.8 Experimental resultparameter a(mm)(a) Dependence of parameter a, on flaw depth &(Front surface flaw)parameter a(mm)(c) Dependence of parameter a, on flaw depth &(Back surface flaw)Fig.9 Approximation parameters of horizontal component Bxparameter bi(mm) (b) Dependence of parameter b, on flaw depth &(Front surface flaw) 0.14― ―――parameter bi(mm)(d) Dependence of parameter b, on flaw depth &(Back surface flaw)224parameter azparameter b2(mm)(mm)(mm)(a) Dependence of parameter az on flaw depth ?(Front surface flaw)parameter a(mm) (c) Dependence of parameter az on flaw depth ?(Back surface flaw)Fig.10 Approximation parameters of vertical component B.5.結言二次元静磁界解析を用いて、漏洩磁束密度分布関数 のパラメータから、欠陥幅が既知の場合に欠陥深さと 欠陥位置を同定する方法を示した。すなわち、 1) FEM による二次元静磁界解析に基づいて、磁束密 度分布の垂直方向成分および水平方向成分を測定 し、未知の欠陥の表裏および深さの推定が可能であ ることを示した(手順(P1)~(P8)) 2) 高感度で測定レンジの広いアモルファスMIセンサを用いて、SS400 鋼における欠陥に対して、上 記の推定法に必要なパラメータと欠陥位置および 欠陥深さとの関係を求めた。(mm)(b) Dependence of parameter b2 on flaw depth &(Front surface flaw)parameter b2(mm)(d) Dependence of parameter b2 on flaw depth &(Back surface flaw)参考文献 [1] N. N. Zatspin and V. E. Shcherbinin, “Defektoskopiya”, 12, 1966, pp.50. [2] C. E. Edwards and S. B. Palmer, “The magnetic leakagefield of surface-breaking cracks”, J. Phys. D., 19, 1986,pp.657-667. 「31 関根和喜、“磁気探傷法による鋼の欠陥評価技術の現状と問題点”、鉄と鋼、74、1988、pp.2231-2238. [4] D. Minkov and J. Lee and T. Shoji, “Determining thesizes of 3-D surface cracks using dipole model of a crack and Hall element measurements”, Journal ofJAEM, Vol.9, No.1, 2001, pp.78-84. [5] 社団法人日本非破壊検査協会、“非破壊評価工学”、1998、pp.78-101. [6] 笠井尚哉、関根和喜、丸山裕章、“Far-side 漏洩磁束探傷法によるタンク底板の表面傷と裏面きずの識 別手法”、非破壊検査、Vol.51、No.10、2002、 pp.650-656.225“ “アモルファスMIセンサを用いた2方向センシングおよび 漏洩磁束密度分布関数のパラメータによる欠陥深さと欠陥位置の評価“ “安部 正高,Masataka ABE,琵琶 志朗,Shiro BIWA,松本 英治,Eiji MATSUMOTO
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