数値解析による EMAT の超音波特性評価 -送受信特性の周波数依存性-

公開日:
カテゴリ: 第3回
1. 緒言
超音波を用いて試験対象を破壊することなく安全性 や信頼性を評価する非破壊評価は、試料内に存在する き裂やボイド、複合材料の接合部における剥離などの 欠陥の検出に用いられている。永久磁石とコイルから 構成される電磁超音波探触子(EMAT)は、試料中に 直接超音波源を発生させるため、音響結合剤を必要と せず非接触での超音波送受信が可能になる。そのため 対象物が高温、移動している、表面が塗膜やさびに覆 われている場合でも使用でき高速スキャンや遠隔操作 が可能なため、高温、放射線、狭隘など過酷な環境で の非破壊評価に応用が期待されている [1] 。EMAT にはローレンツ型と磁歪型の2種類がある [2][31。 ローレンツ型 EMAT は励磁コイルにより導体内 に生じる渦電流と静磁場から生じるローレンツ力が超 音波を励起させる。また磁歪型 EMAT は励磁コイルに よる強磁性体の変形を利用する。ローレンツ型 EMAT の基本原理は Ludwig ら[4]や Thompson ら[5]により研 究され、Ogi ら[3]により有限要素法を用いた数値解析 も行われている。また Mitsuda ら[6]により EMAT によ る受信機構を含めての超音波探傷シミュレーションが、 船岡ら[7]や大下ら[8]により EMAT による欠陥の超音 波の画像化がおこなわれている。 1本研究では、Mitsuda らにより提案された解析手法を 用いて、ローレンツ型 EMAT の超音波の送受信過程の解析を行った。2章では EMAT の送受信機構の説明を 行い、3章では異なる周波数の印加電流に対して、超 音波の発生、伝ば、受信過程における解析結果を示す。
2. EMAT の送受信機構の基礎方程式
2.1 超音波の送受信機構 EMAT の基本構成は、静磁場をあたえるための永久 磁石と変動磁場の励起、検出をするコイルからなる。 Fig.1 はローレンツ型 EMAT の概略図である。コイルに 高周波電流を(紙面と垂直な方向に)印加すると周囲 に変動磁場が生じ、さらに導体試料表面付近では電磁 誘導により渦電流が流れる。このとき、永久磁石によ る静磁場下において渦電流の担い手となっている自由 電子にローレンツ力が働く。このような自由電子が他 の電子、イオン、分子に衝突することによって試料内 に超音波を発生させる。超音波の受信機構は送信機構 と逆の過程となる。すなわち試料表面部分が振動する ことによって渦電流が発生し、周囲の変動磁場によっ て EMAT コイルに電圧変化が生じる。 2.2 EMAT の支配方程式 - 本節では、文献[7]、[9]に従い、ローレンツ型 EMAT により生じる電磁場の支配方程式を示す。電場 Eおよ
228Magnetic induction BMagnetCoilOOLorentz force FFig. 1 Two dimensional sketch of EMATび磁束密度 B に対し、電気スカラーポテンシャルのお よび磁気ベクトルポテンシャルAを導入すると、EMAT コイル周囲の電磁場は次式に支配される。an- uovo + 3 ) - wa=0 V・1a = v.-of Vo + 1)-0() 2)ここで、J。は強制電流、Jは渦電流、は透磁率、6 は導電率である。このとき、導体表面近傍の渦電流分 布は次式で与えられる。Je = of = of - 94-vp)-3-4静磁場に対しては、強制電流項 J。や磁気ベクトルポ テンシャルの時間依存項DA/Dt を無視すると、ポテンシ ャルAはラプラス方程式に支配される。このとき渦電 流と永久磁石による静磁場から生じるローレンツ力は 次のように与えられる。F = Je x B 2.3 超音波伝ぱの支配方程式式(4)のローレンツ力により導体試料表面付近に弾 性波が発生する。このとき、振動の向きが入射面内に ある横波および振動の向きが入射面内に垂直な縦波が 生じる。Fig.1 のように試料が 2次元的とみなすことが できれば弾性波伝ぱによる変形もまた2次元的である と仮定することができる。弾性波による変位を u=(u, v) とすると、次の波動方程式に支配される。Pman=uAu + (2 + um)(▽・u)+F-5ここで、2、Hmはラーメの弾性定数、pmは物質密度で ある。 2.4 EMAT の受信過程の支配方程式 - EMAT 側の試料表面近傍に超音波が帰還すると、その振動と永久磁石による静磁場との相互作用により試 料中に渦電流が生じる。この渦電流の時間変化が周囲 に変動磁場を引き起こし、電磁誘導の法則により EMAT コイルに電圧変化が生じる。前節で示した超音 波の伝ぱによる粒子速度を v とすると、この受信過程 は xB項を運動起電力として式(1)、(2)の電場に加えれ ばよい。このとき、コイル中に生じる電圧変化が EMAT による超音波の受信信号となる。3. EMAT の超音波伝ぱシミュレーション 3.1 シミュレーション条件 - 解析には Fig.2 のように EMAT および試料が2次元 な場合を考える。印加電流には最大振幅 4 × 10' [A/m2)で、異なる周波数(0.5~2.0MHz)の正弦波一 周期のパルスを用いた。また Table 1 に今回の有限要素 モデルで用いる設定値を示す。Table 1 Parameters of simulation透磁率u| 導電率の[H/m] | [S/m] |導体試料(アルミ) | 1.26×105 | 3.64×10' | コイル(銅) | 1.26×10* | 5.99×10' |真空 | 1.26×10 | 0.0 | 要素の最小長さ | 0.5 [mm] 「永久磁石の磁束密度」 1.0 [T]300 mmSpecimen50 mm0 ーーEMATCoil -13 0.5 mm3 mmbe Magnet Fig.2 Arrangement of EMAT and Specimen - 229 |Eddy current(Am2)3.2 印加電流と渦電流密度変化 Fig.3 はコイルに電流を印加した際に試料中に発生8・107 する渦電流密度の分布である。コイルの近傍かつ試料 表面で渦電流が最大となっている。この部分における 渦電流密度とコイルの印加電流の時間変化を Fig.4 に 示す。(a)-(c)はそれぞれ印加電流の周波数が 0.5, 1.0,_ 0_ 0.5 1 1.5 2_ 2. 2.0MHz の場合である。Fig.4 よりパルスの印加電流にFreqency(MHz) 対して渦電流密度のピークが90度遅れて最大となっ ていることがわかる。Fig.5 は渦電流の最大値と周波数Fig.5 Relation of eddy current to frequency の関係である。これを見ると印加電流の周波数が高く なるほど渦電流は減少している。EMAT においては発 - 3.3 ローレンツカの分布 生する渦電流が大きいほうが超音波への変換効率は大Fig.6 はある時刻における試料中に発生する きくなる。しかし、渦電流を大きくするために超音波 ンツカの分布である。x方向のローレンツカ の周波数を低くすれば、解像度が低くなり探傷用の波 (SV波)を、y方向のローレンツ力は縦波(P として適さなくなることが予想される。発生させる。また、コイルと磁石の対称性から30mm10mm試料表面Fig.3 Eddy current density induced by EMAT30mm11.107渦電流Eddy current &10mm(A/m2)印加電流(a) Lorentz force Ft1500一2000-1・1071・107JVITIT渦電流10mmImpressed current(Alm2)Eddy current(A/m2)印加電流(a) Lorentz force Ft1-5102000-1107(ns)(a) 0.5MHz sine pulse30mm5107Impressed current10mm(Alm2)Eddy current?(Alm2)(b) Lorentz force F, Fig.6 Distribution of lorentz force by EMAT(ns)00 - doc1107 (b) 1.0MHz sine pulse ↑↑↑11075.107Impressed current(A/m2)Eddy current(Alm2)3.4 超音波の伝ぱ解析3.3節で示したローレンツ力によって励起され 音波の伝ぱ解析を行った。解析には差分法を適月 時間差分を at=10ns、空間差分を Ax= Ay=0.5r_ し、コイルの印加電流の周波数は 1.0MHz とした 音波発生から 7 u sec 後の変位の横波成分(変位の (▽xu)) を Fig.7 に示す。EMAT から深さ方向に植-5.1! 107 (c) 2.0MHz sine pulse (ns) Fig.4 Eddy current induced by impressed current8・107Eddy current(A/m2)1010_0.52_2.51 1.5 Freqency(MHz)3.3 ローレンツカの分布Fig.6 はある時刻における試料中に発生するローレ ンツカの分布である。 X方向のローレンツ力は横波 (SV波)を、y方向のローレンツ力は縦波(P波)を 発生させる。また、コイルと磁石の対称性から、x 方 向成分は2つの対称なピークをもち、y 方向成分は反 対称となることがわかる。今回想定しているモデルは 横波を発生させる目的のコイルと磁石の構成であるが、 横波成分と比べてその大きさは小さいものの、縦波も 発生することがわかる。この場合、式(4)からローレン ツカの時間変化は Fig.4 の渦電流と同じく、印加電流に 対して位相が遅れて変化する。(A/m2)3.4 超音波の伝ば解析 * 3.3節で示したローレンツ力によって励起される超 音波の伝ば解析を行った。解析には差分法を適用し、 時間差分を込t=10ns、空間差分をAx= Ay=0.5mm と し、コイルの印加電流の周波数は 1.0MHz とした。超 音波発生から7u sec 後の変位の横波成分(変位の回転 (▽xu)) を Fig.7 に示す。EMAT から深さ方向に横波が - 230 -伝ばしていくが、同時に EMAT を中心に横波が拡散し ていく様子もわかる。試料底面おすすめです試料表面 EMATVFig. 7 Propagation of SV wave3.5 EMAT による超音波の受信3.2節で求めた 3 つの異なる周波数(0.5, 1.0, 2.0MHz) の正弦波パルスに対する渦電流密度から式(4) を用いてローレンツ力を計算し、3.4節に従って超音 波の伝ば解析を行った。さらに2.4節で述べた受信過 程の解析方法によってコイル中に生じる電圧変化を計 算する。 Fig.8 はこのようにして求められたコイルに生 じる電圧の時間変化である。いずれも 33 u sec 付近で 底面から反射して帰還したパルスが確認できるが、周 波数が高いほど反射エコーが小さくなることがわかる。 これは、3.2節で述べたように周波数が高くなると生 じる渦電流が小さくなり、結果試料内に発生する超音 波が小さくなったためである。また Fig.9 は印加電流の 周波数と受信した反射エコーのピーク電圧(Fig.8 にお ける R の値)の関係である。周波数が高くなるほど受 信電圧は減少し、0に近づくことがわかる。3.10-6(V)1.106-1.1056-3.10~6(a) 0.5MHz sine pulse3.106(V)1.1076-1-106-3.106(b) 1.0MHz sine pulse3.106 (1)1-1056-1-106-3.10~ 8 0 0(us) (c) 2.0MHz sine pulse Fig.8 Received voltage of ultrasonic wave by EMAT2010-7Received voltage (V)10.5 11522.5Frequency (MHz) 2・107.107!Received voltage (110Frequency (MHz)Fig. 9 Relation of received voltage to frequency4.結言ローレンツ型 EMAT について、超音波の送受信過 程の数値解析を行った。印加パルスの周波数が高い と発生する超音波が小さくなり、受信信号としてコ イルに生じる電圧も小さくなった。今後は欠陥を有 する試料について同様の解析を行い、欠陥の検出や サイジングに対して印加電流の最適な周波数を求 めることが課題となる。参考文献[1] 日本材料科学会編,先端材料シリーズ,超音波と材料,裳華房, 1992. [2] 超音波便覧編集委員会編, 超音波便覧, 丸善, 1999. [3] H. Ogi, M. Hirao, K. Minoura and H. Fukuoka,Quasi- Nonlinear Analysis of Lorentz-Type EMAT by Finite Element Method, Trans. JSME, Vol. 61A,pp. 638-645, 1995. [4] R. Ludwig and X.-W. Dai, J. Appl. Phys., Vol.60,pp.89-98, 1991. [5] R. B. Thompson, Physical Acoustics 19, AcademicPress, New York, 1988. [6] Takahiro Mitsuda and Eiji Matsumoto, NumericalAnalysis of Ultrasonic Inspection using Electromagnetic Acoustic Transducer, Studies in Applied Electromagnetic and Mechanics 23 ,pp.60-67, 2002. [7] 船岡,松本,電磁超音波探触子を用いた内部欠陥の画像化シミュレーション,日本 AEM 学会誌,Vol.10, No.4, pp.378-383 , 2002. [8] 大下,松本,電磁超音波探触子による探傷の解像 一度,第11回 MAGDA コンファレンス講演論文集,93-98, 2002. [9] 坪井始編著, 数値電磁解析法の基礎, 養賢堂, 1994231“ “数値解析による EMAT の超音波特性評価 -送受信特性の周波数依存性-“ “北村 信二,Shinji KITAMURA,琵琶 志朗,Shiro BIWA,松本 英治,Eiji MATSUMOTO
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)