原子力発電設備の保全活動と維持基準
公開日:
カテゴリ: 第3回
1.緒言
1 2003 年 10 月の電気事業法の改正に伴い、従来から 実施されていた事業者による自主的な点検が定期事業 者検査として法的にも国による管理のもとに入るとと もに、この検査により国の技術基準に適合することが 事業者に課せられることになった。さらに健全性評価 制度の導入により、定期事業者検査により微小な「き ず」が認められた場合にはいわゆる欠陥評価を行い設 備の構造健全性に問題のないことを示すことにより技 術基準を満足することが求められるようになった。この健全性評価の部分がいわゆる維持基準の核であ り、具体的な技術的詳細要求を規定した(社)日本機械学 会機械学会(以下「機械学会」)の維持規格が技術基準 に対する仕様規格として認められた。わが国でいわゆる高経年プラントが増加するにとも ない、近年設備の保全活動の重要性が高まりつつあり、 これに伴い保全活動を考慮に入れた規格基準の整備も 重要になり維持規格の役割も変わって行くことも考えたものの、技術基準で設備は建設当初の状態のまま「維 1. はじめに持」することが求められており、供用期間中検査でき 2003 年 10 月の電気事業法の改正に伴い、従来から 裂が検出された場合に、そのき裂が設備の構造健全性 実施されていた事業者による自主的な点検が定期事業 に対して無害かどうかにかかわらず建設当初の状態に 者検査として法的にも国による管理のもとに入るととなるよう補修あるいは取替をせざるを得なかった。 もに、この検査により国の技術基準に適合することが 一方、米国では 1971 年に米国機械学会(ASME)の 事業者に課せられることになった。さらに健全性評価 Boiler & Pressure Vessel Code Section XI が策定され、供 制度の導入により、定期事業者検査により微小な「き用期間中検査で検出されたき裂に対して破壊力学等に ず」が認められた場合にはいわゆる欠陥評価を行い設基づく欠陥評価を行い、き裂が設備の構造健全性に問 備の構造健全性に問題のないことを示すことにより技 題のないことを示されれば、補修あるいは取替をせず 術基準を満足することが求められるようになった。 に継続運転が許容されていた。この健全性評価の部分がいわゆる維持基準の核であこのような状況において、わが国でも 1993 年から通 り、具体的な技術的詳細要求を規定した(社)日本機械学 商産業省(当時)の委託を受けて(財)発電設備技術検査 会機械学会(以下「機械学会」)の維持規格が技術基準協会(以下「発電技検」、当時)において ASME の Boiler に対する仕様規格として認められた。& Pressure Vessel Code Section XI にならった維持基準 わが国でいわゆる高経年プラントが増加するにとも の検討が行われ、1996年に「維持規格原案」としてま ない、近年設備の保全活動の重要性が高まりつつあり、 とめられた。また、1996年に出された国の経年化対策 これに伴い保全活動を考慮に入れた規格基準の整備も方針の中で、経年変化に対応して破壊力学に基づく欠 重要になり維持規格の役割も変わって行くことも考え陥評価の導入を骨子とした技術基準(維持基準)の整 られる。備の必要性が示された。さらに、2002年7月に国の原 以下に、これまでの保全活動における維持規格の役子炉安全小委員会の基準化戦略ワーキンググループに 割と、今後の維持規格の役割の展望について述べる。 より、技術の進歩に迅速・柔軟に対応し、より高度な科学的合理的な安全規制を目指すために基準体系を整 2.維持基準の整備備し、国の規制基準を性能規定化するとともに学協会 2.1 「維持基準」の整備規格を活用し補完的に組み入れるべきとの提言が行わ ←わが国においては運転中の発電用原子力設備に対し れ、その中で具体的にそれまでに策定されていた機械 て、供用期間中検査の実施が義務付けられ、具体的な学会維持規格の適用性を検討することが早急な課題と 技術規定として(社)日本電気協会原子力規程「供用期間された。 中検査規程(JEAC4205)」が実質的に適用されてはい2.1「維持基準」の整備 ~わが国においては運転中の発電用原子力設備に対し て、供用期間中検査の実施が義務付けられ、具体的な 技術規定として(社)日本電気協会原子力規程「供用期間 中検査規程(JEAC4205)」が実質的に適用されてはい」
Maintenance Activity たものの、技術基準で設備は建設当初の状態のまま「維 持」することが求められており、供用期間中検査でき 裂が検出された場合に、そのき裂が設備の構造健全性 に対して無害かどうかにかかわらず建設当初の状態に なるよう補修あるいは取替をせざるを得なかった。一方、米国では 1971 年に米国機械学会(ASME)の Boiler & Pressure Vessel Code Section XI が策定され、供 Boiler & Pressure Vessel Code Section XI が策定され、供 用期間中検査で検出されたき裂に対して破壊力学等に 基づく欠陥評価を行い、き裂が設備の構造健全性に問 題のないことを示されれば、補修あるいは取替をせず 題のないことを示されれば、補修あるいは取替をせず に継続運転が許容されていた。このような状況において、わが国でも 1993 年から通 商産業省(当時)の委託を受けて(財)発電設備技術検査 協会(以下「発電技検」、当時)において ASME の Boiler とめられた。また、1996年に出された国の経年化対策 方針の中で、経年変化に対応して破壊力学に基づく欠 陥評価の導入を骨子とした技術基準(維持基準)の整 備の必要性が示された。さらに、2002年7月に国の原 子炉安全小委員会の基準化戦略ワーキンググループに より、技術の進歩に迅速・柔軟に対応し、より高度な 科学的合理的な安全規制を目指すために基準体系を整 備し、国の規制基準を性能規定化するとともに学協会 規格を活用し補完的に組み入れるべきとの提言が行わ れ、その中で具体的にそれまでに策定されていた機械 学会維持規格の適用性を検討することが早急な課題と2.2 日本機械学会維持規格の整備わが国の規制基準の性能規定化の流れの中で、 1997 年 10 月に機械学会に発電用設備規格委員会が火力発 電、原子力発電の高度化と高信頼度化を推進する上で、 その基盤となる発電用設備に関する技術規格の整備と 高度化を担当する目的で設置され、透明性、信頼性の ある活動体制が敷かれた。その後、1999年3月には発 電用設備規格委員会の下部委員会の原子力専門委員会 のもとに維持規格分科会が設置され、維持規格策定に 向けた作業が開始された。そして2000年5月に「発電 用原子力設備規格維持規格(JSME S NA1-2000) 」 [1] (以下「維持規格」(2000 年版)が機械学会から発行 された。「維持規格」(2000年版)では、クラス1機器 の容器、管を対象として、検査によりき裂が検出され た場合の「評価」に関する規定が示されている。「評価」 の規定には、欠陥評価を図1の手順で行うことが規定 されている。(検出き裂)き裂のモデル化 (だ円/半だ楕円形状,深さ長さ)一評価不要欠陥基準 による判定(除:SCC)基準を満足い基準を不満足 き裂進展評価(疲労, SCC)破壊評価に基づく 許容基準による判定基準を満足V基準を不満足 ! 補修又は取替運維統図1 欠陥評価の手順さらに、2002 年 10 月には供用期間中検査として行 われる「検査」の規定を追加した「維持規格」(2002 年版) [21、2004年 12月には「検査」「評価」の結果継 続運転ができない場合に必要となる「補修・取替」に 関する規定として補修章を加えた「維持規格」(2004 年版) [3]の審議がそれぞれ終了し、発行された。「維持 規格」(2004 年版)の発行により「検査」「評価」「補 修・取替」の大きな柱となる規定体系が整備され、供 用運転開始後の原子力発電設備の構造の安全性・健全 性を評価し、その後の運転を合理的に定めることになった[4]。これら「維持規格」のうち 2000年版で「評価」の規 定、2002 年版で「検査」の規定に対して、国による技 術評価が 2003年9月までに行われ、これら規格が技術 的に妥当であること、及び活用に際して諸条件を課す ことが必要であることが確認され、健全性評価の項 目・方法および定期事業者検査における供用期間中検 査の方法に関する国の関係省令を満たす具体的仕様規 格として位置づけられることになった[5]。このように して 2003 年 10月の電気事業法の改正に伴い健全性評 価制度が整備され、11、機械学会維持規格を技術的ベー スにして、わが国においても維持基準が整備された。3.保全活動の展開当初、原子力発電設備の保全の考え方は、図2に示 すように供用期間中検査を中心としたもので、機械学 会維持規格をベースとし、特に具体的な経年変化事象 を考慮してはいないが、設備の構造安全性・健全性の 観点での信頼性を確保するために有効なものであった。(供用期間中検査)檢?計画検査の実施(運転継続)_欠陥検出?し欠陷評価基準を満足!VN補修/取替図2 維持規格(当初)による保全の考え方一方、わが国の原子力発電設備は運転開始後30年 以上となるいわゆる高経年プラントも数多くなり、高 経年化に伴う損傷に関する知見も得られてきており、 国および民間でその対応が幅広くとられてきている。 設備の構造健全性の観点からは BWR のシュラウド、 シュラウドサポートでの SCC、PWR のニッケル合金の SCCなどを視野に置いた保全活動が行われてきている。 原子力発電設備に対する最近の保全プロセスは、対象257設備あるいは考慮する経年変化事象により必ずしも画 一的ではないものの、図3の例に示すようなものと考 えられる。保全計画 経年変化評価個別檢?計画予防保全検査の実施欠陥検出(運転継続)欠陷評価補修/取替?年?化評再檢討(標準検査計画へ)図3 保全プロセスの一例これらの保全活動には、設備の経年変化を検知する 技術、定量化するための検査技術、経年変化を予測し、 構造安全性・健全性を評価する技術、さらには設備の 構造安全性・健全性をより高めるための補修・取替技 術に加え経年変化を予防/緩和するための技術が必要 であり、より高度な技術の開発が行われている。また、 保全活動のための技術開発とともに、技術水準の確保、 向上及び設備の信頼性確保の観点から、これらの技術 を活かす規格、あるいは指針類の整備が必要となる。このような状況において、(社)火力原子力発電技術協 会 (以下「火原協会」)に「炉内構造物点検評価ガイド ライン検討会」が設置され、主に炉内構造物を対象と して点検評価指針の検討が行われている。当初は BWR シュラウドのように点検や補修が困難な部位に対して 構造物の構造機能、安全上の重要度を整理することに より技術的根拠が明確で合理的な点検等のガイドライ ン(指針)を策定することを目的として活動していた が、対象を炉内構造物以外の主要設備に広げるととも に、点検だけでなく、具体的な経年変化事象を考慮し た補修・取替方法、さらには予防保全方法に関するガ イドラインを策定するようになってきている[6]。これ らのガイドラインは機械学会維持規格にも個別検査・ 評価規定、補修・取替の工法あるいは予防保全工法に 関する規定として取り入れられ、発電設備の保全活動に適用されている。 _ しかし、これらのガイドラインも多くは保全の個々 のプロセスに対するものであり、保全プロセス全体、 保全計画の策定方法あるいは保全、検査方法の選択に 関するガイドラインの整備は必ずしも十分ではない。4. 維持規格の展望- 今後、高経年化対応に伴い原子力発電設備の保全活 動の充実がはかられると考えられることから、このよ うな活動に活用できる規格基準を策定して行くことが 求められる。また、設備の効率的な活用の観点から、 より合理性のある保全活動のためリスクを考慮した手 法を取り入れた規格基準も整備されて行くことも求め られる。学協会規格は設備の信頼性確保とともに技術 水準の向上を目標とするものであり、機械学会維持規 格はその位置づけから原子力発電設備の保全活動の高 度化に対応するよう規格整備を充実させて行くことが 必要であると考える。5.おわりに当初、機械学会維持規格は発電用原子力設備に関す る国の健全性評価制度の中での供用期間中検査と欠陥 評価を中心とした保全活動に対応するものであったが、 今後は、高経年化対応あるいは設備利用の高度化対応 といった、積極的保全活動を支える規格となるよう充 実を諮ってゆくことが必要である。参考文献[11 (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2000年版)」、JSME S-NA1-2000、2000年 [2] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2002 年版)」、JSME S-NA1-2002、2002年 [3] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2004 年版)」、JSME S-NA1-2004、2004年 「41 鹿島光一、“原子力維持規格の概要““、 保全学、Vol.4、No.3、2005、 pp.11-16. [S] 山本哲也、“原子力発電設備の健全性評価制度の整備について”、非破壊検査、第54巻9号、2005年9月、 pp.482-486. [6] (社)火力原子力発電技術協会「炉内構造物等点検評価ガイドラインについて(第2版)」、JVIP-01-第 2版、2005年258“ “原子力発電設備の保全活動と維持基準“ “小山 幸司,Koji KOYAMA
1 2003 年 10 月の電気事業法の改正に伴い、従来から 実施されていた事業者による自主的な点検が定期事業 者検査として法的にも国による管理のもとに入るとと もに、この検査により国の技術基準に適合することが 事業者に課せられることになった。さらに健全性評価 制度の導入により、定期事業者検査により微小な「き ず」が認められた場合にはいわゆる欠陥評価を行い設 備の構造健全性に問題のないことを示すことにより技 術基準を満足することが求められるようになった。この健全性評価の部分がいわゆる維持基準の核であ り、具体的な技術的詳細要求を規定した(社)日本機械学 会機械学会(以下「機械学会」)の維持規格が技術基準 に対する仕様規格として認められた。わが国でいわゆる高経年プラントが増加するにとも ない、近年設備の保全活動の重要性が高まりつつあり、 これに伴い保全活動を考慮に入れた規格基準の整備も 重要になり維持規格の役割も変わって行くことも考えたものの、技術基準で設備は建設当初の状態のまま「維 1. はじめに持」することが求められており、供用期間中検査でき 2003 年 10 月の電気事業法の改正に伴い、従来から 裂が検出された場合に、そのき裂が設備の構造健全性 実施されていた事業者による自主的な点検が定期事業 に対して無害かどうかにかかわらず建設当初の状態に 者検査として法的にも国による管理のもとに入るととなるよう補修あるいは取替をせざるを得なかった。 もに、この検査により国の技術基準に適合することが 一方、米国では 1971 年に米国機械学会(ASME)の 事業者に課せられることになった。さらに健全性評価 Boiler & Pressure Vessel Code Section XI が策定され、供 制度の導入により、定期事業者検査により微小な「き用期間中検査で検出されたき裂に対して破壊力学等に ず」が認められた場合にはいわゆる欠陥評価を行い設基づく欠陥評価を行い、き裂が設備の構造健全性に問 備の構造健全性に問題のないことを示すことにより技 題のないことを示されれば、補修あるいは取替をせず 術基準を満足することが求められるようになった。 に継続運転が許容されていた。この健全性評価の部分がいわゆる維持基準の核であこのような状況において、わが国でも 1993 年から通 り、具体的な技術的詳細要求を規定した(社)日本機械学 商産業省(当時)の委託を受けて(財)発電設備技術検査 会機械学会(以下「機械学会」)の維持規格が技術基準協会(以下「発電技検」、当時)において ASME の Boiler に対する仕様規格として認められた。& Pressure Vessel Code Section XI にならった維持基準 わが国でいわゆる高経年プラントが増加するにとも の検討が行われ、1996年に「維持規格原案」としてま ない、近年設備の保全活動の重要性が高まりつつあり、 とめられた。また、1996年に出された国の経年化対策 これに伴い保全活動を考慮に入れた規格基準の整備も方針の中で、経年変化に対応して破壊力学に基づく欠 重要になり維持規格の役割も変わって行くことも考え陥評価の導入を骨子とした技術基準(維持基準)の整 られる。備の必要性が示された。さらに、2002年7月に国の原 以下に、これまでの保全活動における維持規格の役子炉安全小委員会の基準化戦略ワーキンググループに 割と、今後の維持規格の役割の展望について述べる。 より、技術の進歩に迅速・柔軟に対応し、より高度な科学的合理的な安全規制を目指すために基準体系を整 2.維持基準の整備備し、国の規制基準を性能規定化するとともに学協会 2.1 「維持基準」の整備規格を活用し補完的に組み入れるべきとの提言が行わ ←わが国においては運転中の発電用原子力設備に対し れ、その中で具体的にそれまでに策定されていた機械 て、供用期間中検査の実施が義務付けられ、具体的な学会維持規格の適用性を検討することが早急な課題と 技術規定として(社)日本電気協会原子力規程「供用期間された。 中検査規程(JEAC4205)」が実質的に適用されてはい2.1「維持基準」の整備 ~わが国においては運転中の発電用原子力設備に対し て、供用期間中検査の実施が義務付けられ、具体的な 技術規定として(社)日本電気協会原子力規程「供用期間 中検査規程(JEAC4205)」が実質的に適用されてはい」
Maintenance Activity たものの、技術基準で設備は建設当初の状態のまま「維 持」することが求められており、供用期間中検査でき 裂が検出された場合に、そのき裂が設備の構造健全性 に対して無害かどうかにかかわらず建設当初の状態に なるよう補修あるいは取替をせざるを得なかった。一方、米国では 1971 年に米国機械学会(ASME)の Boiler & Pressure Vessel Code Section XI が策定され、供 Boiler & Pressure Vessel Code Section XI が策定され、供 用期間中検査で検出されたき裂に対して破壊力学等に 基づく欠陥評価を行い、き裂が設備の構造健全性に問 題のないことを示されれば、補修あるいは取替をせず 題のないことを示されれば、補修あるいは取替をせず に継続運転が許容されていた。このような状況において、わが国でも 1993 年から通 商産業省(当時)の委託を受けて(財)発電設備技術検査 協会(以下「発電技検」、当時)において ASME の Boiler とめられた。また、1996年に出された国の経年化対策 方針の中で、経年変化に対応して破壊力学に基づく欠 陥評価の導入を骨子とした技術基準(維持基準)の整 備の必要性が示された。さらに、2002年7月に国の原 子炉安全小委員会の基準化戦略ワーキンググループに より、技術の進歩に迅速・柔軟に対応し、より高度な 科学的合理的な安全規制を目指すために基準体系を整 備し、国の規制基準を性能規定化するとともに学協会 規格を活用し補完的に組み入れるべきとの提言が行わ れ、その中で具体的にそれまでに策定されていた機械 学会維持規格の適用性を検討することが早急な課題と2.2 日本機械学会維持規格の整備わが国の規制基準の性能規定化の流れの中で、 1997 年 10 月に機械学会に発電用設備規格委員会が火力発 電、原子力発電の高度化と高信頼度化を推進する上で、 その基盤となる発電用設備に関する技術規格の整備と 高度化を担当する目的で設置され、透明性、信頼性の ある活動体制が敷かれた。その後、1999年3月には発 電用設備規格委員会の下部委員会の原子力専門委員会 のもとに維持規格分科会が設置され、維持規格策定に 向けた作業が開始された。そして2000年5月に「発電 用原子力設備規格維持規格(JSME S NA1-2000) 」 [1] (以下「維持規格」(2000 年版)が機械学会から発行 された。「維持規格」(2000年版)では、クラス1機器 の容器、管を対象として、検査によりき裂が検出され た場合の「評価」に関する規定が示されている。「評価」 の規定には、欠陥評価を図1の手順で行うことが規定 されている。(検出き裂)き裂のモデル化 (だ円/半だ楕円形状,深さ長さ)一評価不要欠陥基準 による判定(除:SCC)基準を満足い基準を不満足 き裂進展評価(疲労, SCC)破壊評価に基づく 許容基準による判定基準を満足V基準を不満足 ! 補修又は取替運維統図1 欠陥評価の手順さらに、2002 年 10 月には供用期間中検査として行 われる「検査」の規定を追加した「維持規格」(2002 年版) [21、2004年 12月には「検査」「評価」の結果継 続運転ができない場合に必要となる「補修・取替」に 関する規定として補修章を加えた「維持規格」(2004 年版) [3]の審議がそれぞれ終了し、発行された。「維持 規格」(2004 年版)の発行により「検査」「評価」「補 修・取替」の大きな柱となる規定体系が整備され、供 用運転開始後の原子力発電設備の構造の安全性・健全 性を評価し、その後の運転を合理的に定めることになった[4]。これら「維持規格」のうち 2000年版で「評価」の規 定、2002 年版で「検査」の規定に対して、国による技 術評価が 2003年9月までに行われ、これら規格が技術 的に妥当であること、及び活用に際して諸条件を課す ことが必要であることが確認され、健全性評価の項 目・方法および定期事業者検査における供用期間中検 査の方法に関する国の関係省令を満たす具体的仕様規 格として位置づけられることになった[5]。このように して 2003 年 10月の電気事業法の改正に伴い健全性評 価制度が整備され、11、機械学会維持規格を技術的ベー スにして、わが国においても維持基準が整備された。3.保全活動の展開当初、原子力発電設備の保全の考え方は、図2に示 すように供用期間中検査を中心としたもので、機械学 会維持規格をベースとし、特に具体的な経年変化事象 を考慮してはいないが、設備の構造安全性・健全性の 観点での信頼性を確保するために有効なものであった。(供用期間中検査)檢?計画検査の実施(運転継続)_欠陥検出?し欠陷評価基準を満足!VN補修/取替図2 維持規格(当初)による保全の考え方一方、わが国の原子力発電設備は運転開始後30年 以上となるいわゆる高経年プラントも数多くなり、高 経年化に伴う損傷に関する知見も得られてきており、 国および民間でその対応が幅広くとられてきている。 設備の構造健全性の観点からは BWR のシュラウド、 シュラウドサポートでの SCC、PWR のニッケル合金の SCCなどを視野に置いた保全活動が行われてきている。 原子力発電設備に対する最近の保全プロセスは、対象257設備あるいは考慮する経年変化事象により必ずしも画 一的ではないものの、図3の例に示すようなものと考 えられる。保全計画 経年変化評価個別檢?計画予防保全検査の実施欠陥検出(運転継続)欠陷評価補修/取替?年?化評再檢討(標準検査計画へ)図3 保全プロセスの一例これらの保全活動には、設備の経年変化を検知する 技術、定量化するための検査技術、経年変化を予測し、 構造安全性・健全性を評価する技術、さらには設備の 構造安全性・健全性をより高めるための補修・取替技 術に加え経年変化を予防/緩和するための技術が必要 であり、より高度な技術の開発が行われている。また、 保全活動のための技術開発とともに、技術水準の確保、 向上及び設備の信頼性確保の観点から、これらの技術 を活かす規格、あるいは指針類の整備が必要となる。このような状況において、(社)火力原子力発電技術協 会 (以下「火原協会」)に「炉内構造物点検評価ガイド ライン検討会」が設置され、主に炉内構造物を対象と して点検評価指針の検討が行われている。当初は BWR シュラウドのように点検や補修が困難な部位に対して 構造物の構造機能、安全上の重要度を整理することに より技術的根拠が明確で合理的な点検等のガイドライ ン(指針)を策定することを目的として活動していた が、対象を炉内構造物以外の主要設備に広げるととも に、点検だけでなく、具体的な経年変化事象を考慮し た補修・取替方法、さらには予防保全方法に関するガ イドラインを策定するようになってきている[6]。これ らのガイドラインは機械学会維持規格にも個別検査・ 評価規定、補修・取替の工法あるいは予防保全工法に 関する規定として取り入れられ、発電設備の保全活動に適用されている。 _ しかし、これらのガイドラインも多くは保全の個々 のプロセスに対するものであり、保全プロセス全体、 保全計画の策定方法あるいは保全、検査方法の選択に 関するガイドラインの整備は必ずしも十分ではない。4. 維持規格の展望- 今後、高経年化対応に伴い原子力発電設備の保全活 動の充実がはかられると考えられることから、このよ うな活動に活用できる規格基準を策定して行くことが 求められる。また、設備の効率的な活用の観点から、 より合理性のある保全活動のためリスクを考慮した手 法を取り入れた規格基準も整備されて行くことも求め られる。学協会規格は設備の信頼性確保とともに技術 水準の向上を目標とするものであり、機械学会維持規 格はその位置づけから原子力発電設備の保全活動の高 度化に対応するよう規格整備を充実させて行くことが 必要であると考える。5.おわりに当初、機械学会維持規格は発電用原子力設備に関す る国の健全性評価制度の中での供用期間中検査と欠陥 評価を中心とした保全活動に対応するものであったが、 今後は、高経年化対応あるいは設備利用の高度化対応 といった、積極的保全活動を支える規格となるよう充 実を諮ってゆくことが必要である。参考文献[11 (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2000年版)」、JSME S-NA1-2000、2000年 [2] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2002 年版)」、JSME S-NA1-2002、2002年 [3] (社)日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(2004 年版)」、JSME S-NA1-2004、2004年 「41 鹿島光一、“原子力維持規格の概要““、 保全学、Vol.4、No.3、2005、 pp.11-16. [S] 山本哲也、“原子力発電設備の健全性評価制度の整備について”、非破壊検査、第54巻9号、2005年9月、 pp.482-486. [6] (社)火力原子力発電技術協会「炉内構造物等点検評価ガイドラインについて(第2版)」、JVIP-01-第 2版、2005年258“ “原子力発電設備の保全活動と維持基準“ “小山 幸司,Koji KOYAMA