PD 資格試験の実施経過とその方向
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カテゴリ: 第3回
1.緒言
PD 認証制度(PD: Performance Demonstration) とは、 特定の産業分野・部位の超音波探傷試験を行う検査技 術に対し、検査対象物の形状と検出すべき損傷形態を 模擬した試験体を使用してその検査に必要な性能の実 証 (Performance Demonstration) を求めるものである。このPD認証制度は米国で原子力発電プラントの超音 波探傷試験技術者に対して要求されたのが始まりであ り、その後各国で採用されているが、国内の PD 認証 開始までの経緯については2005年4月の保全学会誌で 山口により解説されている。1](財) 電力中央研究所は原子力発電プラントの信頼性 向上への貢献を目的に、平成 17 年 11月に材料科学研 究所に PD センターを設立し、電力、(財)発電設備技 術検査協会及びメーカーなどの協力を得ながら PD試 験実施の体制作りを進め、平成18年3月から軽水型原 子力発電所のオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部 のき裂深さ測定のPD 資格試験を開始した。平成18年6月上旬の時点までに、第1期試験として 6回の PD 資格試験を実施した。これまでの受験者は計 18 人でありそのうち9人が合格ラインに達している。 ここでは、軽水型原子力発電所用機器に対する PD 資 格試験の仕組みとこれまで試験を行ってきた成果、及 び今後改良すべき点などについて報告する。
2. PD 実施関連組織図1は現在実施している軽水型原子力発電所のオース テナイト系ステンレス鋼配管溶接部のSCC深さ測定 PD 資 格試験に関連している機関を示している。PD 諮問委員会は PD 認証システムに参加している各機 関が適切に運営されていることを評価すると共に PD シス テムの技術的な適切性や国際的調和に関して評価・提言 を行う役割を担っている。このため、PD諮問委員会の委員 は専門性と中立性が強く求められている。PD認証機関は国内の非破壊検査技術者の認証で長年 の実績を持つ(社)日本非破壊検査協会がその役割を担っ ている。(社)日本非破壊検査協会は PD 認証運営委員会 を設置し、そこが PD 認証機関として各種 PD 関連機関の 承認とPD 資格者の認証を行っている。PD 資格試験機関は PD 資格試験の計画から試験結果 の判定までの試験運営と記録等の管理を行い、PD 試験 センターは資格試験を実施する機関であるが、これは(財) 電力中央研究所の材料科学研究所 PD センター(以下 PD センターと称す)が両機関の機能を兼ね備える形で行って いる。なお PD 資格試験は、PD センターが横浜市鶴見区 にある(財)発電設備技術検査協会 溶接・非破壊検査技 術センターの場所と設備を借り上げて実施している。 - PD 研修センターは、PD 資格試験の不合格者が不合格 通知から 30 日未満に再試験を受けるための研修と、毎年 の PD 認証資格更新のための技量維持確認研修を行う役 割を担っている。PD資格試験に合格するためにはSCCの259探傷経験が不可欠であるが、実プラントで SCC の探傷を 行う機会はきわめて希である。また、受験者が自前で SCC 試験体を保有するのは経済的負担が大きい。このため SCC 試験体を保有する研修センターは、PD 研修あるいは、 新技術の開発での活用が期待される。PD諮問委員会「(適切性評価、意見具申)PD認証機関 (社)日本非破壊検査協会(財)電力中央研究所 材料科学研究所 PDセンター(審査承認)PD認証運営委員会(認証)(受験)(研修プログラム承認)PD資格試験機関機能 ・PD資格試験の運営 ・PD資格試験の合否判定 ・PD資格試験記録の保管申請者(研修)(PD研修センター(研修要件規定)PD試験センター機能(財)発意設備技術検査協会 (財)電子科学研究所・PD資格試験実施図1 PD 認証に関わる組織3. PD 資格試験の実施方法PD 資格試験の実施方法は以下のようになっている。 1) 受験資格PD 資格試験は JIS Z 2305 の UT レベル2又はそれと 同等以上の資格を有する者なら誰でも受験可能であ] る。同等の資格には海外の非破壊検査協会が認定す る超音波検査技術者資格も含まれている。 2)試験体の形状PD 資格試験では、実際の原子力発電プラントのステ ンレス配管材料及び溶接部形状を模擬した配管突合 せ溶接部に SCCを付与した試験体が使用される。 試験では現在以下の試験体が準備されている。 大口径管:公称外径 600A 公称肉厚 35 mm 中口径管:公称外径 350A 公称肉厚 25 mm小口径管:公称外径 150A 公称肉厚 10 mm 3) SCC の深さ測定試験では、管径の異なる 3 種類以上の試験体を組み 合わせた 10 個以上の SCC について深さの測定が求 められる。 10 個のSCC のうち6個の深さは下表の分布 とし、残りの深さは下表の区分のいずれかに振り分け られている。SCC の深さh(公称肉厚%) | SCC の最小個数 0No.1、2005、pp.8-12. は平成18年8月に予定している。未だ受験者数の予測が[2] 笹原利彦、“超音波探傷技術の認証試験(PD)”、 つけ難いため試験日程がなかなか決まらずにご迷惑をお検査技術 Vol.10, No.4 、2005. * 第1期では予想以上の数の受験者を受け入れることと なり、試験回数を大幅に増やすこととなった。第 2 期試験 は平成18年8月に予定している。未だ受験者数の予測が つけ難いため試験日程がなかなか決まらずにご迷惑をお かけしていると考える。できるだけ早めに試験日程を発表 できる環境を整えたいと考えている。
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PD 認証制度(PD: Performance Demonstration) とは、 特定の産業分野・部位の超音波探傷試験を行う検査技 術に対し、検査対象物の形状と検出すべき損傷形態を 模擬した試験体を使用してその検査に必要な性能の実 証 (Performance Demonstration) を求めるものである。このPD認証制度は米国で原子力発電プラントの超音 波探傷試験技術者に対して要求されたのが始まりであ り、その後各国で採用されているが、国内の PD 認証 開始までの経緯については2005年4月の保全学会誌で 山口により解説されている。1](財) 電力中央研究所は原子力発電プラントの信頼性 向上への貢献を目的に、平成 17 年 11月に材料科学研 究所に PD センターを設立し、電力、(財)発電設備技 術検査協会及びメーカーなどの協力を得ながら PD試 験実施の体制作りを進め、平成18年3月から軽水型原 子力発電所のオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部 のき裂深さ測定のPD 資格試験を開始した。平成18年6月上旬の時点までに、第1期試験として 6回の PD 資格試験を実施した。これまでの受験者は計 18 人でありそのうち9人が合格ラインに達している。 ここでは、軽水型原子力発電所用機器に対する PD 資 格試験の仕組みとこれまで試験を行ってきた成果、及 び今後改良すべき点などについて報告する。
2. PD 実施関連組織図1は現在実施している軽水型原子力発電所のオース テナイト系ステンレス鋼配管溶接部のSCC深さ測定 PD 資 格試験に関連している機関を示している。PD 諮問委員会は PD 認証システムに参加している各機 関が適切に運営されていることを評価すると共に PD シス テムの技術的な適切性や国際的調和に関して評価・提言 を行う役割を担っている。このため、PD諮問委員会の委員 は専門性と中立性が強く求められている。PD認証機関は国内の非破壊検査技術者の認証で長年 の実績を持つ(社)日本非破壊検査協会がその役割を担っ ている。(社)日本非破壊検査協会は PD 認証運営委員会 を設置し、そこが PD 認証機関として各種 PD 関連機関の 承認とPD 資格者の認証を行っている。PD 資格試験機関は PD 資格試験の計画から試験結果 の判定までの試験運営と記録等の管理を行い、PD 試験 センターは資格試験を実施する機関であるが、これは(財) 電力中央研究所の材料科学研究所 PD センター(以下 PD センターと称す)が両機関の機能を兼ね備える形で行って いる。なお PD 資格試験は、PD センターが横浜市鶴見区 にある(財)発電設備技術検査協会 溶接・非破壊検査技 術センターの場所と設備を借り上げて実施している。 - PD 研修センターは、PD 資格試験の不合格者が不合格 通知から 30 日未満に再試験を受けるための研修と、毎年 の PD 認証資格更新のための技量維持確認研修を行う役 割を担っている。PD資格試験に合格するためにはSCCの259探傷経験が不可欠であるが、実プラントで SCC の探傷を 行う機会はきわめて希である。また、受験者が自前で SCC 試験体を保有するのは経済的負担が大きい。このため SCC 試験体を保有する研修センターは、PD 研修あるいは、 新技術の開発での活用が期待される。PD諮問委員会「(適切性評価、意見具申)PD認証機関 (社)日本非破壊検査協会(財)電力中央研究所 材料科学研究所 PDセンター(審査承認)PD認証運営委員会(認証)(受験)(研修プログラム承認)PD資格試験機関機能 ・PD資格試験の運営 ・PD資格試験の合否判定 ・PD資格試験記録の保管申請者(研修)(PD研修センター(研修要件規定)PD試験センター機能(財)発意設備技術検査協会 (財)電子科学研究所・PD資格試験実施図1 PD 認証に関わる組織3. PD 資格試験の実施方法PD 資格試験の実施方法は以下のようになっている。 1) 受験資格PD 資格試験は JIS Z 2305 の UT レベル2又はそれと 同等以上の資格を有する者なら誰でも受験可能であ] る。同等の資格には海外の非破壊検査協会が認定す る超音波検査技術者資格も含まれている。 2)試験体の形状PD 資格試験では、実際の原子力発電プラントのステ ンレス配管材料及び溶接部形状を模擬した配管突合 せ溶接部に SCCを付与した試験体が使用される。 試験では現在以下の試験体が準備されている。 大口径管:公称外径 600A 公称肉厚 35 mm 中口径管:公称外径 350A 公称肉厚 25 mm小口径管:公称外径 150A 公称肉厚 10 mm 3) SCC の深さ測定試験では、管径の異なる 3 種類以上の試験体を組み 合わせた 10 個以上の SCC について深さの測定が求 められる。 10 個のSCC のうち6個の深さは下表の分布 とし、残りの深さは下表の区分のいずれかに振り分け られている。SCC の深さh(公称肉厚%) | SCC の最小個数 0
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