原子力発電所の職場における繁忙感について

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
病院に勤務している医師や看護師、航空機のパイロ ットや航空管制官など非常に忙しく仕事をしている職 場は多い。そのような職場で働く彼らまたは彼女らは、 繁忙感をもちながら仕事をしているのであろうか。繁 忙感とは、人の心の中に存在する主観的感覚であり、 それらが業務量の過剰さや作業環境、作業条件などの」 不十分さに関連するのかどうかは明らかではない。ま た、繁忙感はプラスのイメージなのか、マイナスのイ メージなのかも個人によって捉え方が異なると思われ る。プラスのイメージで捉えれば、適度な繁忙感は仕 事を効率よくこなすためには必要不可欠なものであり、 マイナスのイメージで捉えれば、少しでも低減させな ければならない。どちらにしても、人間はある繁忙感 をもちながら仕事をしているように思われる。原子力発電所に勤務している職員は、原子力発電の 安全、安定運転に向けて、種々の仕事に取り組んでい るが、どのような繁忙感をもっているのであろうか。 繁忙感に関する現状を把握することができれば、より ゆとりのある快適な職場環境を提供することが可能と なる。
図1 繁忙感モデル2.調査方法の検討2.1 繁忙感モデルの作成 - 従来研究において原子力発電所の繁忙感に関して研 究したものは見あたらない。従って、発電所の職員が どのような職場環境で仕事を行っているときに、繁忙 感を感じるのか、繁忙感はどのような要因から影響を 受けているのかを心理学的知見を応用して検討する必 要がある。そこで、繁忙感を形成すると思われる要因を分析者 がブレーンストーミングにより抽出し、KJ法により 直接要因と間接要因に分けたモデルを図1に示す。こ の作業で、11 の直接要因を抽出することができた。そ の定義を以下に示す。人的資電力支性)くんに技館 意欲相性(突発性)切迫性外的環境などスタンス26情報量:当該業務に関する情報が過多、もしくは過少。 適度な量であれば問題はないが、過多であれば繁忙感が高くなり、過少であればイライラ感が生じ繁忙 1.感が高くなることが推測される。 情報時機:他部署や協力会社との間で行う情報のやり とりのタイミング。思い通りにいかなければ繁忙感 は高くなると推測される。 支援性:当該業務について支援を受けられない職場環境であれば繁忙感は高くなると推測される。 阻害性:当該業務の遂行が阻害されれば繁忙感は高くなると推測される。 業務量:連続的に処理しなければならない当該業務の量が多ければ繁忙感は高くなると推測される。 重複性:同時に処理しなければならない業務数が多ければ繁忙感は高くなると推測される。 制御性:当該業務を自分で制御することができなけれ ・ば繁忙感は高くなると推測される。 切迫性:当該業務の処理期限が切迫していれば繁忙感は高くなると推測される。 突発性:突発的に飛び込んできた業務であれば繁忙感は高くなると推測される。 到達性:当該業務の目標や到達点が見えていなければ * 繁忙感は高くなると推測される。 能力:当該業務が担当者の能力、経験以上のものを要 * 求していれば繁忙感は高くなると推測される。2.2 繁忙感に関する意識調査図1に示した繁忙感モデルの直接要因の妥当性を検 証するために、質問紙による繁忙感に関する意識調査 を実施する。質問紙は、11 の各直接要因に対して一つの質問項目 を設定し、さらに業務の計画性および繁忙感に関する 質問項目を追加し、合計 13項目からなる質問紙とした。回答者は、それぞれの質問に対して、現在の業務状 況について「ない」~「ある」の5段階評価で回答す る。また、最後には最近の繁忙ぶりに関する自由記述 欄を設けた。 1調査対象者は、X電力会社の3つの原子力発電所に 勤務している課長以下全員を対象とした。また、各発 電所の忙しさをできる限りそろえるために、各発電所 の運転計画を参照し、1 基のユニットが定期検査中で ある時期に実施する。3. 3.調査結果* 繁忙感に関する意識調査は、3つの発電所の事務系、 技術系部門の課長以下全員を対象に、平成 17 年 11月 14 日から 26 日にかけて実施した。A発電所:454 名、 B発電所:465 名、C発電所:402名の合計 1,321 名の 有効回答を得た。3.1 繁忙感モデルの妥当性検証 (1) 繁忙感に影響を及ぼす 11 要因の整理 * 繁忙感に影響を及ぼす直接要因の 11 要因を整理す るために、意識調査結果で得られたデータの因子分析 (主因子法)を行った。因子分析の結果、11 要因は2 つの因子に集約されることが判った。各要因と各因子 間の因子負荷量を表1に示す。因子1は「重複性」、「切 迫性」、「阻害性」、「突発性」、「業務量」、「情報量」の 6要因、因子 2は「能力」、「制御性」、「到達性」、「支 援性」、「情報時機」の5要因である。2つの因子はそ れぞれに含まれる要因の特徴から、因子1は「外的要 因」、因子2は「内的要因」と命名した。表1 因子分析結果(主因子法)因子負荷量0.277 0.386 0.227 0.3010.448因子 重複性 切迫性 阻害性 突発性 業務量 情報量 能力 制御性 到達性 支援性 情報時機0.748 0.691 0.659 0.643 0.619 0.562 0.157 0.343 0.332 0.358 0.2770.367 0.665 0.611 0.509 0.410 0.382(2) 2因子が繁忙感を説明する度合の検討因子分析により得られた2因子のそれぞれに対して、 どの程度の説明力を有するかを検討するため重回帰分 析を行った。その結果を表2と表3に示す。重回帰分析の結果から、因子1の繁忙感の説明度合 が高く、分析の精度も良いことが判った。また、因子- 27 -1の各要因の P-値のうち「突発性」の値が 0.04 であ り、棄却水準の 0.05 に近い。さらに、「突発性」が「切 迫性」と「重複性」の概念に近いということから、因 子1からこの「突発性」を取り除く方が妥当であると 判断した。 . 従って、原子力発電所の職場における繁忙感は、「業 務量」、「切迫性」、「情報量」、「重複性」、「阻害性」の 5つの要因に影響を受けていることが判った。表2 因子1による重回帰分析結果回掃統計 重相関 R 重決定 R2 補正 R2 標準誤差 觀測数0.74 0.55 0.55 0.731321P-相體業務量 切迫性 情報量 重複性 阻害性 突発性」0.28 0.23 0.12 0.12 0.08 0.05値 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.040.66 0.64 0.54 0.58 0.49 0.50A発電所(454名) -O-B発電所 (465名) -3-C発電所 (402名)図2 評定結果(発電所別比較)表3 因子2による重回帰分析結果回帰統計 重相関 R 重決定 R2 補正 R2 標準誤差 觀測数0.56 0.32 0.32 0.901321係数P-値支援性 能力 制御性 到達性 [情報時機0.22 0.19 0.15 0.11 0.070.00 0.00 0.00 0.00 0.01相関0.42 0.41 0.42 0.37 0.303.2 繁忙感に関する意識調査結果 * 繁忙感に関する質問紙項目のうち重回帰分析により 抽出した5つの要因の評定値をレーダーチャートに示 す。図2は、3つの各発電所の平均値を示しており、ど の発電所も同じような傾向を呈し、発電所間に大きな 差異は認められなかった。「繁忙感」に直接影響を与え ている5要因のうち、「業務量」以外の要因が「業務量」 と比較して訴えが高いと言える。 * 発電所組織を大きく分けると、保修部門、発電部門、 管理部門があり、さらに保修部門には電気、計装、原 子炉、タービンの職能に分かれている。図3は、一例 として保修部門のうちのある職能における発電所別比 較を示しており、同じ部門内の職能でも、評定値の傾 向に差が認められる。この傾向は、保修部門の他の職 能でも認められた。【繁忙感】4.81業務量、>盟審性ク情報量」切迫性業務量で>盟性情報量切迫性【繁忙感】4.6業務量盟審性[情報圖切迫性A発電所-B発電所で発電所図3 評定結果 (保修部門のある職能における発電所別比較)-28-結原子力発電所の職場における繁忙感は、「業務量」、 「切迫性」、「情報量」、「重複性」、「阻害性」の5つ の要因に影響を受けていることが判った。 調査した3つの発電所の5つの要因の評定値は、 どの発電所も同様の傾向を示しており、発電所間 に大きな差異は認められなかった。 部門間、職能間には、「繁忙感」及び5つの要因の 評定値の傾向に差があることが示された。 以上のことから、発電所全体の平均値のような代 表値は、各部門、各職能間の差異を相殺している ことが考えられる。 繁忙感は、個人の主観的な感覚であるため、本来 は個人に焦点を当てるべきであるが、対策検討上 はできる限り最小の組織単位で考えることが実効 的である。本調査研究によって、更なる職場環境 改善方策を検討するにあたっては、各部門、各職 能の特徴を考慮する必要性が示唆された。55. 今後の予定1. 本研究では、原子力発電所の職場における繁忙感に 直接影響を与えている要因を抽出し、発電所職員に対 する質問紙調査により各要因の評定値を求めることが できた。 __ しかしながら、その評定値の妥当性を確認するため には何らかの基準が必要であるが、そのような基準を 文献や従来研究に求めることができなかった。そこで、 別の評定尺度を用意する必要があるが、他産業分野と の比較が容易にでき、調査自体も簡便に行うことので きる蓄積的疲労兆候調査を実施した。この調査結果に ついては、別の機会に報告したい。 - 29 -“ “原子力発電所の職場における繁忙感について“ “作田 博,Hiroshi SAKUDA,井上 枝一郎,Shiichiro INOUE,細田 聡,Satoshi HOSODA,施 桂栄,Guirong SHI,奥村 隆志,Takashi OKUMURA,余村 朋樹,Tomoki YOMURA
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