超音波探傷試験によるき裂深さサイジングの信頼性に関する検討
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カテゴリ: 第3回
1. はじめに
・ オーステナイト系ステンレス鋼配管突合せ溶接部 のき裂深さサイジング技量に関して、(社)日本非破 壊検査協会規格 NDIS0603 「超音波探傷試験システ ムの性能実証における技術者の資格及び認証」 附 属書(規定)「軽水型原子力発電所用機器に対する PD 資格試験」 [1](以下、NDIS0603 と記す)が制定さ れ、国内でもき裂深さサイジングの技量の指標(測 定誤差の判定基準)が示されるとともに、技量認証 (以下、PD と記す)制度が運用されている。超音波探傷試験によるき裂深さサイジング精度 の信頼性という観点において、NDIS0603 の判定基 準が健全性評価のために求められる水準を満足し ているかどうかを把握すること、及び深さ測定精度 を評価する際の真とする深さをどの様に決めるの かを検討することは重要なことである。NDIS0603 の判定基準に関して、著者らは既報[2] においてUT 技術者の技量向上を図る上での目標を 示す方法を検討する目的で、NDIS0603 の判定基準 がオーステナイト系ステンレス鋼管の健全性のため に求められる水準に達しているかを評価した。これ は「ある統計的な誤差を有する集団が PD に合格し た上でき裂の深さを測定したときに、誤差が -4.4mm を超える確率」を計算し、求められている 水準に達しているかどうかを調査したものである。本報では、既報23と同様の手順で乱数の発生条件 を変えた再計算により判定基準の妥当性を再確認し た結果を示すとともに、き裂深さ測定精度を評価す る際の「真とする深さ」の測定方法を検討した結果 を示す。
2. 判定基準に関する評価
2-1) 評価方法NDIS0603の判定基準が健全性のために求められ ている水準に達しているかを評価する方法の概要を 図1に示す。このでは、健全性評価上確保すべき誤 差は-4.4mm 以内という前提で評価した。 *評価の具体的な手順は、まず、誤差の平均値と標 準偏差をパラメータとして、ある統計的な誤差を有 する集団がき裂深さを測定した時に、誤差が -4.4mm を超える確率(a)を計算した。この a の 計算においては、ある誤差平均(u)と標準偏差(o) を有する正規分布(N(u,o)から、式(1)に従いか ら-4.4 までの積分として算出した。a = [! exp(-(-4““ na (1)- 次に、その統計的な誤差を有する集団が PD 試験 に合格する確率(P)を計算した。合格率 P は、あ る誤差平均(u)と標準偏差(o)を有する正規分布 (N(u,o)から、ランダムに10個の数値を250 通り 抽出し、250 通りの中から PD 判定基準に照らし合 わせて合格/不合格を判定して合格率 Pとした。263った。オーステナイト系ステンレス鋼管の健全性評 価のために求められている測定水準を誤差-4.4mm 以内という前提では、95%の信頼度で NDIS0603 の判定基準は妥当であると考えられる。平均以、標準偏差 0, の正規分布ランダムに10データ 抜取り PD 判定基準 に照らして合格率を 推定Xxxl x Ex xx x x-4.4 mm誤差図1 判定基準の評価方法の概念図誤差の標準偏差(mm)誤差が-4.4mmを超える確率 a(%)12 1-10_12 誤差の平均(mm)図2 誤差が-4.4mm を超える確率(a)の計算結果[2]---誤差の標準偏差(mm)NDIS 0603に基づく合格率の推定値 P(%)---uuuuuuuuitsumi132-10.12 誤差の平均(mm)図 3 NDIS0603 に基づくPD 試験合格率の推定値RUSTEE誤差の標準偏差(m)(%) dx0最大値 3.763判定基準 NDIS 0603 (250通り、Randon Seed:2)0mmeue............................mome.............--L1-3-2- 1 0誤差の平均(mm) 図4 Q XPの推定値そして、ある統計的な誤差を有する集団が PD試 験に合格した上でき裂深さを測定したときに、誤差 が-4.4mm を超える確率として、a と P の積(a × P)を用いて健全性評価のための水準に達している か調査した。2-2) 評価結果この評価では、超音波探傷試験による深さサイジ ング誤差が正規分布となることを前提とした2。誤 差の平均値(u)と標準偏差(o)をパラメータとして、 その誤差平均と標準偏差を有する集団が、誤差 -4.4mm を超える確率(a)を式(1)から計算した。 その結果を図2にグレイスケールで示す[2。図の横 軸と縦軸は各々誤差の平均値と標準偏差である。ま た、図中の半円状の線はサンプル数(n)が 10 個にお ける誤差の RMS(RMSE)を式(2)より計算したもの であり、各半円状の線に示した数値は誤差の RMS である。誤差平均がマイナスかつ標準偏差が大きく なるほど、a は大きくなり、誤差の RMS が 3.2mm 以下の範囲であってもaは最大で 15%であった[2]。RMSE = u+ 2-102-2n次に、誤差平均()と標準偏差(o)を有する正規分 布(N(u,o)から、ランダムに 10 個の数値を250 通 り抽出し、NDIS0603 の判定基準(誤差が 4.4mm を超えて下回らない、かつ、誤差の RMS が 3.2mm 以下)に基づき合格率(P)を推定した[23。実施した方 法は既報2と同様であるが、乱数発生の種を2とし て再度計算して推定した合格率(P)を図3に示す。乱 数の種を1として計算した既報2]の結果とほぼ同じ であった。そして PD 制度の導入の効果として、ある統計的 な誤差を持つ集団が PD 試験に合格した上でき裂深 さを測定した時に、誤差が-4.4mm を超える確率が どの程度になるかを、a XP で評価した[2。ここで も計算の手順は既報と同様とし、乱数発生の種を2 として再度計算した結果を図4に示す。図の横軸と 縦軸は各々誤差の平均値と標準偏差であり、算出し たa XP を色合いと等高線で示す。また、図中には、 サンプル数 10 における誤差の RMS が 3.2mm とな る線も合わせて点線で示す。図4より、a XP の最 大値は 3.76%であった。この結果も既報と同等であ264探傷面からの深さ(mm) KIMISSIERMIR MAMMA515SI19図(a)は板厚 22mm の試験体での探傷結果の例であり、 3. 真とする深さ測定に関する検討き裂深さは 4mm 程度(開口部及び先端部の深さ位置 3-1) 測定方法の検討が各々22mm、18mm 程度) と予備判定した。図(b)は板 - ここでは、オーステナイト系ステンレス鋼管試験 厚18mm の試験体の探傷結果の例であり、き裂深さを 体を対象とし、き裂深さ測定精度を評価する際の「真 - 8mm程度と予備判定しものである。 とする深さ」の決め方を検討した結果を示す。まず、A VC-Side (B) +3dB: Main Gate. 測定方法については、基本的には超音波探傷試験に42.01 よる方法を採用したが、試験体は実機配管と違って 被爆や姿勢等の制約が無いため、配管の内外面の両に広がり(約 4mm) 面から、そしてき裂の両側から探傷した。さらに、 き裂の開口部を直接観察し開口部と裏波との位置関 係や裏波の形を把握した。これは、超音波探傷結果 を評価する時の情報になることに加えて、後述する 超音波探傷シミュレーション解析において、溶接部 の形状や欠陥の位置を入力する時のデータとする。軸方向の位置(mm) Twowned-100 また、き裂深さの把握に繋がるのではないかと思132.0 mm C38.9mm える情報として、例えば、き裂の開口状況を直接観(a) 画像上の指示の広がり方から予備判定した結果 察し、き裂が複雑に分岐していそうかどうかをある浅い(4mm 程度)と判定したき裂 程度推定することや、PT(浸透探傷試験)の浸透液の にじみ具合などから深さの情報を得た。広がり(約 8mm) - き裂深さ測定に適用する超音波探傷試験方法は改 良UT 法とし、具体的には自動探傷法による横波及び 縦波斜角端部エコー法やフェーズドアレイ法を適用 した。本報で適用した方法は、外面から探傷した横 波端部エコー法では公称周波数 2MHz 及び 5MHz で屈 折角 45 度、縦波端部エコー法では公称周波数 3MHz 及び 5MHz で屈折角 45度、そして内面からの探傷で は、公称周波数 2MHz のフェーズドアレイ法により屈軸方向の位置(mm) 折角60度と 70度の縦波で探傷した。欠陥深さの予(b) 画像上の指示の広がり方から予備判定した結果 備判定法として用いる2次クリーピング波法及びモ深い(8mm 程度)と判定したき裂 ード変換波法も自動探傷で測定した。次に、これら の測定データから真とする深さを評価する方法及び図5 超音波探傷画像上の指示の広がり方からき裂深さ 手順を示す。を予備判定した例SVC-Side (B) Channel 1: Main Gate.4024HI'''' (uu)北黙6GF回速1T'''''''''1817日129.0mm550 -21.1mm3-2) 深さ評価の方法・手順の検討 * 欠陥深さの評価に先立ち、深さの予備判定を実施 した。欠陥深さの予備判定方法は、2 次クリーピン グ波法及びモード変換波法によってモード変換波に よるエコーの有無から判定する方法に加えて、自動 探傷結果を画像表示した時に、画像上の指示の板厚 方向への広がり方を把握する方法も用いた。図5は 縦波斜角法による探傷結果をBスコープ表示した画 像上の広がり方から深さを予備判定した例である。予備判定の結果をもとに、横波/縦波端部エコー 法及びフェーズドアレイ法の探傷結果から、各々き 裂深さを評価した。探傷結果から深さを評価する際 に、超音波探傷シミュレーション解析結果を活用し 端部エコーの識別や先端部の特定を行った。シミュ レーション解析の入力データは、溶接部の形状や裏 波の形、き裂開口部の位置及び予備判定結果に基づ く深さ等である。265- シミュレーション結果を活用した深さ評価方法を 有効に活用した例を図6及び図7に示す。これは板 厚 20.5mm の試験体の探傷結果であり、図 6(a)には 横波端部エコー法のBスコープ画像を示す。このき 裂では、モード変換波法の結果では振幅は小さいも ののモード変換波が出現するあたりのビーム路程に エコーが認められていた。図 6(a) 中に A と記した矢 印のエコーは探傷面から深さ 14mm にあり、これが端 部エコーと仮定すると、き裂深さは 6.5mm と測定さ れてモード変換波法による予備判定結果と良く対応 - している。しかし、探傷画像上の広がり方から深さ を予備判定した結果は、図6(a) 中に B と記した矢印 で示す様に 4mm 程度以下と判定した。縦波斜角法に よる探傷結果では図 6(b)に示す様に探傷面から深 さ14mm 近辺に端部エコーらしいエコーは無く、画像 の広がりから予備判定した結果は約 4mm 程度であっ た。また、内面から水浸法で探傷した結果でも表面 不感帯内の浅いき裂と考えられた図6(a) 中にAと記 した矢印で示したエコーは端部エコーとは考え難く、 判断に迷った。そこで、き裂深さやき裂の傾きを変えてシミュレ ーション解析を行った。その結果の例として深さ 2mm のき裂でのシミュレーション解析結果を図7に 示す。図7は自動探傷と同様に、探触子の位置を変 えて解析して得られたシミュレーションによる波形 をBスコープ画像表示したものである。これは周波 数 5MHz の横波探触子を模擬した解析結果であり、図 6に示した探傷条件と対応するものである。図7中 の A, B で示した矢印部分が各々コーナーエコー及び 端部エコーである。図7ではCと記した矢印部分に 探傷面からの深さ位置が 15mm 程度にエコーが確認 された。シミュレーション解析結果より伝搬経路を 調査した結果、き裂へ当たった横波が反射する際に 縦波にモード変換して探触子へ戻った経路と推定さ れた。このシミュレーション解析結果も考慮して図 6(a)の A と記した矢印のエコーは端部エコーでは無 いと判断し、このき裂は深さを 4.5mm(横波)、 3.9mm(3MHz 縦波)、4.3mm(5MHz 縦波)と評価した。なお、後述する切断調査でき裂深さを実測した結 果、深さは 3.4mm であり、図6(a) に A と記したエコ ーはき裂の先端部では無かった。VC-Side (B) +6dB: Main Gate0探傷面からの深さ(mm)RE------B0「き裂開口部 |26120mm'20 軸方向の位置(mm) -50 | 27.4mm29.0 mm 図6(a) 横波斜角法による探傷画像の例VC-Side (B) +3dB: Main2019/01/01「探傷面からの深さ(mm) b““““HTTET““GETき裂開口部」120timi 110 | |-100 軸方向の位置(mm)50 | | 28.4 mm29.6 mm 図6(b) 3MHz 縦波斜角法による探傷画像の例探傷面からの深さ位置(mm)ooooo振幅(相対値)BK25LaLumin i tunnnnnnnnnnnnnnny -10 1102040 軸方向の位置(mm)30図7 き裂深さ 2mm におけるシミュレーション解析結果(横波斜角法の解析)3-3)真とする深さ評価手順の検証 - 前項までに検討した内容の妥当性を検証するため、 オーステナイト系ステンレス鋼のき裂(SCC)10個に ついて 3-1)で示した方法で測定し、3-2)で検討した 方法・手順で横波/縦波端部エコー法及びフェーズ ドアレイ法の手法ごとに深さを評価した。深さの評266価において、き裂の先端部が溶接金属内に入ってい ると推定したき裂では、横波斜角法では深さを評価 しなかったが、適用した手法ごとにき裂深さを評価 した。10個全てのき裂深さを評価した後に、切断調査で き裂深さを実測した結果と比較した。その結果を図 8に示す。ここで、深さが約 15mm の二つのき裂に ついては、切断調査の結果き裂の先端(き裂深さの 半分程度)は、溶接金属内に入っていた。他のき裂 の先端部は溶接熱影響部内に存在していた。図8は、 一つのき裂に対して複数の手法/条件で測定した結 果を全て記載したものであり、極端な過大評価ある いは過小評価は無いことが確認された。UT測定深さ(mm)0255_ 10 15 20 切断調査で測定した深さ(mm)図8 き裂深さ測定結果* 最後に、一つのき裂に対して複数の手法/条件で 測定した結果から、き裂の深さの代表値を評価する 方法を検討した。この方法には、測定値の最大をと る方法、平均値をとる方法、あるいは、き裂深さに 応じて例えば浅いき裂であれば横波での測定値を選 択し深いき裂であれば縦波の測定値を選択する方法 などが考えられる。ここでは、最大値を選択する方 法と平均値を選択する方法について、深さ測定精度 を比較した。その結果を図9に示す。今回のデータ は、一つのき裂に対して個々の手法間での差異が小さいため、最大値を選択する方法と平均値を選択す る方法とでは、同等の測定精度であった。・全手法中最大25 一誤差平均:0.24mm標準偏差: 1.12mm 誤差のRMS: 1.09mmUT測定深さ(mm)0510 1520125 切断調査で測定した深さ(mm)(a) 適用した複数手法間の最大値を選択■全手法の平均誤差平均:-0.54mm 標準偏差:0.99mm 誤差のRMS: 1.07mmUT測定深さ(mm)25105 1110 15 20切断調査で測定した深さ(mm)(6) 適用した複数手法間の平均値を選択図9 き裂深さ代表値の総合判断方法検討結果2673-4)真とする深さ評価方法のまとめ今回の検討結果を流れ図にしたものを図 10 に示 す。き裂開口部や裏波の詳細な調査や、この調査結 果に基づくシミュレーション解析を活用した端部エ コーの識別支援など、試験体の測定に特有な項目は あるものの、この様な手順を踏まえて測定した「真 とする深さ」の測定精度は、誤差の RMS(Root Mean Square 32 乗平均の平方根)は 1mm 程度であるこ とが確認された。「き裂開口部、裏波等の観察/調査き裂深さの予備判定 ・2 次クリーピング波法、モード変換波法 | UT 画像上の指示の広がりより把握き裂深さサイジング (内面/外面、両側探傷) ・横波/縦波端部エコー法 | ・フェーズドアレイ法シミュレー ション解析 による端 部エコー 識別支援| 複数手法の最大値/平均値を 選択し、真とする深さとする図 10 き裂の真とする深さの決定手順 4. まとめ- 超音波探傷試験によるき裂深さサイジングの信頼 性に関する検討として、PD 判定基準の妥当性を評 価した結果及び、き裂深さ測定精度を評価する際に、 真とする深さをどの様に決定するかを検討した結果 について示した。ともに、今後データの蓄積を継続 し、超音波探傷試験によるき裂深さサイジングの信 頼性をより向上することが重要であると考えられる。参考文献[1] (社)日本非破壊検査協会規格 “NDIS0603 超 * 音波探傷試験システムの性能実証における技術 者の資格及び認証”、平成 17年5月18日 制定(発行 平成17年6月 20 日) [2] 古川敬、古村一朗、米山弘志、山口篤憲、超音波探傷試験によるき裂深さサイジングにおける 教育訓練目標の指標について、保全学、 4-3(2005) pp.50-55-268“ “超音波探傷試験によるき裂深さサイジングの信頼性に関する検討“ “古川 敬,Takashi FURUKAWA,古村 一朗,Ichirou KOMURA,米山 弘志,Hiroshi YONEYAMA,山口 篤憲,Atsunori YAMAGUCHI
・ オーステナイト系ステンレス鋼配管突合せ溶接部 のき裂深さサイジング技量に関して、(社)日本非破 壊検査協会規格 NDIS0603 「超音波探傷試験システ ムの性能実証における技術者の資格及び認証」 附 属書(規定)「軽水型原子力発電所用機器に対する PD 資格試験」 [1](以下、NDIS0603 と記す)が制定さ れ、国内でもき裂深さサイジングの技量の指標(測 定誤差の判定基準)が示されるとともに、技量認証 (以下、PD と記す)制度が運用されている。超音波探傷試験によるき裂深さサイジング精度 の信頼性という観点において、NDIS0603 の判定基 準が健全性評価のために求められる水準を満足し ているかどうかを把握すること、及び深さ測定精度 を評価する際の真とする深さをどの様に決めるの かを検討することは重要なことである。NDIS0603 の判定基準に関して、著者らは既報[2] においてUT 技術者の技量向上を図る上での目標を 示す方法を検討する目的で、NDIS0603 の判定基準 がオーステナイト系ステンレス鋼管の健全性のため に求められる水準に達しているかを評価した。これ は「ある統計的な誤差を有する集団が PD に合格し た上でき裂の深さを測定したときに、誤差が -4.4mm を超える確率」を計算し、求められている 水準に達しているかどうかを調査したものである。本報では、既報23と同様の手順で乱数の発生条件 を変えた再計算により判定基準の妥当性を再確認し た結果を示すとともに、き裂深さ測定精度を評価す る際の「真とする深さ」の測定方法を検討した結果 を示す。
2. 判定基準に関する評価
2-1) 評価方法NDIS0603の判定基準が健全性のために求められ ている水準に達しているかを評価する方法の概要を 図1に示す。このでは、健全性評価上確保すべき誤 差は-4.4mm 以内という前提で評価した。 *評価の具体的な手順は、まず、誤差の平均値と標 準偏差をパラメータとして、ある統計的な誤差を有 する集団がき裂深さを測定した時に、誤差が -4.4mm を超える確率(a)を計算した。この a の 計算においては、ある誤差平均(u)と標準偏差(o) を有する正規分布(N(u,o)から、式(1)に従いか ら-4.4 までの積分として算出した。a = [! exp(-(-4““ na (1)- 次に、その統計的な誤差を有する集団が PD 試験 に合格する確率(P)を計算した。合格率 P は、あ る誤差平均(u)と標準偏差(o)を有する正規分布 (N(u,o)から、ランダムに10個の数値を250 通り 抽出し、250 通りの中から PD 判定基準に照らし合 わせて合格/不合格を判定して合格率 Pとした。263った。オーステナイト系ステンレス鋼管の健全性評 価のために求められている測定水準を誤差-4.4mm 以内という前提では、95%の信頼度で NDIS0603 の判定基準は妥当であると考えられる。平均以、標準偏差 0, の正規分布ランダムに10データ 抜取り PD 判定基準 に照らして合格率を 推定Xxxl x Ex xx x x-4.4 mm誤差図1 判定基準の評価方法の概念図誤差の標準偏差(mm)誤差が-4.4mmを超える確率 a(%)12 1-10_12 誤差の平均(mm)図2 誤差が-4.4mm を超える確率(a)の計算結果[2]---誤差の標準偏差(mm)NDIS 0603に基づく合格率の推定値 P(%)---uuuuuuuuitsumi132-10.12 誤差の平均(mm)図 3 NDIS0603 に基づくPD 試験合格率の推定値RUSTEE誤差の標準偏差(m)(%) dx0最大値 3.763判定基準 NDIS 0603 (250通り、Randon Seed:2)0mmeue............................mome.............--L1-3-2- 1 0誤差の平均(mm) 図4 Q XPの推定値そして、ある統計的な誤差を有する集団が PD試 験に合格した上でき裂深さを測定したときに、誤差 が-4.4mm を超える確率として、a と P の積(a × P)を用いて健全性評価のための水準に達している か調査した。2-2) 評価結果この評価では、超音波探傷試験による深さサイジ ング誤差が正規分布となることを前提とした2。誤 差の平均値(u)と標準偏差(o)をパラメータとして、 その誤差平均と標準偏差を有する集団が、誤差 -4.4mm を超える確率(a)を式(1)から計算した。 その結果を図2にグレイスケールで示す[2。図の横 軸と縦軸は各々誤差の平均値と標準偏差である。ま た、図中の半円状の線はサンプル数(n)が 10 個にお ける誤差の RMS(RMSE)を式(2)より計算したもの であり、各半円状の線に示した数値は誤差の RMS である。誤差平均がマイナスかつ標準偏差が大きく なるほど、a は大きくなり、誤差の RMS が 3.2mm 以下の範囲であってもaは最大で 15%であった[2]。RMSE = u+ 2-102-2n次に、誤差平均()と標準偏差(o)を有する正規分 布(N(u,o)から、ランダムに 10 個の数値を250 通 り抽出し、NDIS0603 の判定基準(誤差が 4.4mm を超えて下回らない、かつ、誤差の RMS が 3.2mm 以下)に基づき合格率(P)を推定した[23。実施した方 法は既報2と同様であるが、乱数発生の種を2とし て再度計算して推定した合格率(P)を図3に示す。乱 数の種を1として計算した既報2]の結果とほぼ同じ であった。そして PD 制度の導入の効果として、ある統計的 な誤差を持つ集団が PD 試験に合格した上でき裂深 さを測定した時に、誤差が-4.4mm を超える確率が どの程度になるかを、a XP で評価した[2。ここで も計算の手順は既報と同様とし、乱数発生の種を2 として再度計算した結果を図4に示す。図の横軸と 縦軸は各々誤差の平均値と標準偏差であり、算出し たa XP を色合いと等高線で示す。また、図中には、 サンプル数 10 における誤差の RMS が 3.2mm とな る線も合わせて点線で示す。図4より、a XP の最 大値は 3.76%であった。この結果も既報と同等であ264探傷面からの深さ(mm) KIMISSIERMIR MAMMA515SI19図(a)は板厚 22mm の試験体での探傷結果の例であり、 3. 真とする深さ測定に関する検討き裂深さは 4mm 程度(開口部及び先端部の深さ位置 3-1) 測定方法の検討が各々22mm、18mm 程度) と予備判定した。図(b)は板 - ここでは、オーステナイト系ステンレス鋼管試験 厚18mm の試験体の探傷結果の例であり、き裂深さを 体を対象とし、き裂深さ測定精度を評価する際の「真 - 8mm程度と予備判定しものである。 とする深さ」の決め方を検討した結果を示す。まず、A VC-Side (B) +3dB: Main Gate. 測定方法については、基本的には超音波探傷試験に42.01 よる方法を採用したが、試験体は実機配管と違って 被爆や姿勢等の制約が無いため、配管の内外面の両に広がり(約 4mm) 面から、そしてき裂の両側から探傷した。さらに、 き裂の開口部を直接観察し開口部と裏波との位置関 係や裏波の形を把握した。これは、超音波探傷結果 を評価する時の情報になることに加えて、後述する 超音波探傷シミュレーション解析において、溶接部 の形状や欠陥の位置を入力する時のデータとする。軸方向の位置(mm) Twowned-100 また、き裂深さの把握に繋がるのではないかと思132.0 mm C38.9mm える情報として、例えば、き裂の開口状況を直接観(a) 画像上の指示の広がり方から予備判定した結果 察し、き裂が複雑に分岐していそうかどうかをある浅い(4mm 程度)と判定したき裂 程度推定することや、PT(浸透探傷試験)の浸透液の にじみ具合などから深さの情報を得た。広がり(約 8mm) - き裂深さ測定に適用する超音波探傷試験方法は改 良UT 法とし、具体的には自動探傷法による横波及び 縦波斜角端部エコー法やフェーズドアレイ法を適用 した。本報で適用した方法は、外面から探傷した横 波端部エコー法では公称周波数 2MHz 及び 5MHz で屈 折角 45 度、縦波端部エコー法では公称周波数 3MHz 及び 5MHz で屈折角 45度、そして内面からの探傷で は、公称周波数 2MHz のフェーズドアレイ法により屈軸方向の位置(mm) 折角60度と 70度の縦波で探傷した。欠陥深さの予(b) 画像上の指示の広がり方から予備判定した結果 備判定法として用いる2次クリーピング波法及びモ深い(8mm 程度)と判定したき裂 ード変換波法も自動探傷で測定した。次に、これら の測定データから真とする深さを評価する方法及び図5 超音波探傷画像上の指示の広がり方からき裂深さ 手順を示す。を予備判定した例SVC-Side (B) Channel 1: Main Gate.4024HI'''' (uu)北黙6GF回速1T'''''''''1817日129.0mm550 -21.1mm3-2) 深さ評価の方法・手順の検討 * 欠陥深さの評価に先立ち、深さの予備判定を実施 した。欠陥深さの予備判定方法は、2 次クリーピン グ波法及びモード変換波法によってモード変換波に よるエコーの有無から判定する方法に加えて、自動 探傷結果を画像表示した時に、画像上の指示の板厚 方向への広がり方を把握する方法も用いた。図5は 縦波斜角法による探傷結果をBスコープ表示した画 像上の広がり方から深さを予備判定した例である。予備判定の結果をもとに、横波/縦波端部エコー 法及びフェーズドアレイ法の探傷結果から、各々き 裂深さを評価した。探傷結果から深さを評価する際 に、超音波探傷シミュレーション解析結果を活用し 端部エコーの識別や先端部の特定を行った。シミュ レーション解析の入力データは、溶接部の形状や裏 波の形、き裂開口部の位置及び予備判定結果に基づ く深さ等である。265- シミュレーション結果を活用した深さ評価方法を 有効に活用した例を図6及び図7に示す。これは板 厚 20.5mm の試験体の探傷結果であり、図 6(a)には 横波端部エコー法のBスコープ画像を示す。このき 裂では、モード変換波法の結果では振幅は小さいも ののモード変換波が出現するあたりのビーム路程に エコーが認められていた。図 6(a) 中に A と記した矢 印のエコーは探傷面から深さ 14mm にあり、これが端 部エコーと仮定すると、き裂深さは 6.5mm と測定さ れてモード変換波法による予備判定結果と良く対応 - している。しかし、探傷画像上の広がり方から深さ を予備判定した結果は、図6(a) 中に B と記した矢印 で示す様に 4mm 程度以下と判定した。縦波斜角法に よる探傷結果では図 6(b)に示す様に探傷面から深 さ14mm 近辺に端部エコーらしいエコーは無く、画像 の広がりから予備判定した結果は約 4mm 程度であっ た。また、内面から水浸法で探傷した結果でも表面 不感帯内の浅いき裂と考えられた図6(a) 中にAと記 した矢印で示したエコーは端部エコーとは考え難く、 判断に迷った。そこで、き裂深さやき裂の傾きを変えてシミュレ ーション解析を行った。その結果の例として深さ 2mm のき裂でのシミュレーション解析結果を図7に 示す。図7は自動探傷と同様に、探触子の位置を変 えて解析して得られたシミュレーションによる波形 をBスコープ画像表示したものである。これは周波 数 5MHz の横波探触子を模擬した解析結果であり、図 6に示した探傷条件と対応するものである。図7中 の A, B で示した矢印部分が各々コーナーエコー及び 端部エコーである。図7ではCと記した矢印部分に 探傷面からの深さ位置が 15mm 程度にエコーが確認 された。シミュレーション解析結果より伝搬経路を 調査した結果、き裂へ当たった横波が反射する際に 縦波にモード変換して探触子へ戻った経路と推定さ れた。このシミュレーション解析結果も考慮して図 6(a)の A と記した矢印のエコーは端部エコーでは無 いと判断し、このき裂は深さを 4.5mm(横波)、 3.9mm(3MHz 縦波)、4.3mm(5MHz 縦波)と評価した。なお、後述する切断調査でき裂深さを実測した結 果、深さは 3.4mm であり、図6(a) に A と記したエコ ーはき裂の先端部では無かった。VC-Side (B) +6dB: Main Gate0探傷面からの深さ(mm)RE------B0「き裂開口部 |26120mm'20 軸方向の位置(mm) -50 | 27.4mm29.0 mm 図6(a) 横波斜角法による探傷画像の例VC-Side (B) +3dB: Main2019/01/01「探傷面からの深さ(mm) b““““HTTET““GETき裂開口部」120timi 110 | |-100 軸方向の位置(mm)50 | | 28.4 mm29.6 mm 図6(b) 3MHz 縦波斜角法による探傷画像の例探傷面からの深さ位置(mm)ooooo振幅(相対値)BK25LaLumin i tunnnnnnnnnnnnnnny -10 1102040 軸方向の位置(mm)30図7 き裂深さ 2mm におけるシミュレーション解析結果(横波斜角法の解析)3-3)真とする深さ評価手順の検証 - 前項までに検討した内容の妥当性を検証するため、 オーステナイト系ステンレス鋼のき裂(SCC)10個に ついて 3-1)で示した方法で測定し、3-2)で検討した 方法・手順で横波/縦波端部エコー法及びフェーズ ドアレイ法の手法ごとに深さを評価した。深さの評266価において、き裂の先端部が溶接金属内に入ってい ると推定したき裂では、横波斜角法では深さを評価 しなかったが、適用した手法ごとにき裂深さを評価 した。10個全てのき裂深さを評価した後に、切断調査で き裂深さを実測した結果と比較した。その結果を図 8に示す。ここで、深さが約 15mm の二つのき裂に ついては、切断調査の結果き裂の先端(き裂深さの 半分程度)は、溶接金属内に入っていた。他のき裂 の先端部は溶接熱影響部内に存在していた。図8は、 一つのき裂に対して複数の手法/条件で測定した結 果を全て記載したものであり、極端な過大評価ある いは過小評価は無いことが確認された。UT測定深さ(mm)0255_ 10 15 20 切断調査で測定した深さ(mm)図8 き裂深さ測定結果* 最後に、一つのき裂に対して複数の手法/条件で 測定した結果から、き裂の深さの代表値を評価する 方法を検討した。この方法には、測定値の最大をと る方法、平均値をとる方法、あるいは、き裂深さに 応じて例えば浅いき裂であれば横波での測定値を選 択し深いき裂であれば縦波の測定値を選択する方法 などが考えられる。ここでは、最大値を選択する方 法と平均値を選択する方法について、深さ測定精度 を比較した。その結果を図9に示す。今回のデータ は、一つのき裂に対して個々の手法間での差異が小さいため、最大値を選択する方法と平均値を選択す る方法とでは、同等の測定精度であった。・全手法中最大25 一誤差平均:0.24mm標準偏差: 1.12mm 誤差のRMS: 1.09mmUT測定深さ(mm)0510 1520125 切断調査で測定した深さ(mm)(a) 適用した複数手法間の最大値を選択■全手法の平均誤差平均:-0.54mm 標準偏差:0.99mm 誤差のRMS: 1.07mmUT測定深さ(mm)25105 1110 15 20切断調査で測定した深さ(mm)(6) 適用した複数手法間の平均値を選択図9 き裂深さ代表値の総合判断方法検討結果2673-4)真とする深さ評価方法のまとめ今回の検討結果を流れ図にしたものを図 10 に示 す。き裂開口部や裏波の詳細な調査や、この調査結 果に基づくシミュレーション解析を活用した端部エ コーの識別支援など、試験体の測定に特有な項目は あるものの、この様な手順を踏まえて測定した「真 とする深さ」の測定精度は、誤差の RMS(Root Mean Square 32 乗平均の平方根)は 1mm 程度であるこ とが確認された。「き裂開口部、裏波等の観察/調査き裂深さの予備判定 ・2 次クリーピング波法、モード変換波法 | UT 画像上の指示の広がりより把握き裂深さサイジング (内面/外面、両側探傷) ・横波/縦波端部エコー法 | ・フェーズドアレイ法シミュレー ション解析 による端 部エコー 識別支援| 複数手法の最大値/平均値を 選択し、真とする深さとする図 10 き裂の真とする深さの決定手順 4. まとめ- 超音波探傷試験によるき裂深さサイジングの信頼 性に関する検討として、PD 判定基準の妥当性を評 価した結果及び、き裂深さ測定精度を評価する際に、 真とする深さをどの様に決定するかを検討した結果 について示した。ともに、今後データの蓄積を継続 し、超音波探傷試験によるき裂深さサイジングの信 頼性をより向上することが重要であると考えられる。参考文献[1] (社)日本非破壊検査協会規格 “NDIS0603 超 * 音波探傷試験システムの性能実証における技術 者の資格及び認証”、平成 17年5月18日 制定(発行 平成17年6月 20 日) [2] 古川敬、古村一朗、米山弘志、山口篤憲、超音波探傷試験によるき裂深さサイジングにおける 教育訓練目標の指標について、保全学、 4-3(2005) pp.50-55-268“ “超音波探傷試験によるき裂深さサイジングの信頼性に関する検討“ “古川 敬,Takashi FURUKAWA,古村 一朗,Ichirou KOMURA,米山 弘志,Hiroshi YONEYAMA,山口 篤憲,Atsunori YAMAGUCHI