海外の保全及び検査制度の調査
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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
昨年2月日本機械学会に「原子力規制の最適化に関 する研究会」を立ち上げた。そこで今年の1月に「訪 欧調査団」を結成し、フィンランドとフランスの規制 機関と電力事業者を訪問し、最新の状況を調査した。この団は、規制機関である経済産業省の原子力安 全・保安院、大学、電力、メーカーなどから構成され た、従来なかったユニークなもので、両国とも最高の
各国の設備利用率10.950.90.8580%、0.70.650.6~日本 アメリカフランス ーーフィンランド0.550.51980 1981 1992 1993 1984 1985 1986 1987 1998 1999 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004- 273 -効果有 2. フィンランドの世界新記録1安全性と設備利用率に影響しない上、保全が経済的 2.1 燃料交換を7日4時間の最短記録効果無 1 まずフィンランドを訪問した。昨年のオルキルオトTVO(電力会社)が、PSA(確率的安全解析) 1号機の燃料交換期間は7日4時間16分という、考で評価したところ えられない世界記録を達成していた。日本の最短記録1は施設全体の5% 2 10% 3 18% | は浜岡の29日であり、その4分の1以下という飛び 4 67%であった。 ぬけた記録である。またこれにより、設備利用率は9 この1、2、3につき状態監視保全を行っている。 8%という高い記録を残している。TVOの人々も、安全性と設備利用率に影響し、その 上図を見れば、国の平均としても1990年以来9 影響は多大という機器が、全体のわずか5%というの 0%以上の記録を続けている。に、びっくりしたそうである。また、安全性と設備利用率に影響しない上、保全が経済的効果無という機器 2.2 徹底した状態監視保全が67%と、全体の3分の2という事実にも驚いたと ここでは徹底した状態監視保全を行っていた。動的言っていた。 な機器には振動計、騒音計、油分析計を取り付け、ま た静的な機器には温度計、流量計などを取り付けて 2.3 徹底したスペア・パーツ 状態監視を行っている。彼らのモットーとして、状態監視保全と一体なのがスペア・パーツである。 If it works, do not touch it.現在オルキルオト発電所には、なんと22,600品 と言われた。いじり壊しを避け、分解点検より状態監 のスペア・パーツが用意されているという。タービン 視保全を重視するという思想である。から制御棒まで総額は6.6億ユーロ、すなわち100 これも機器の重要性から決定している。原子力発電 億円のストックである。状態監視保全で何かの兆候が 所内の機器を次の4つに分類している。でれば、直ちに交換するという姿勢である。原子炉建 1安全性と設備利用率に影響し、その影響は多大 屋の前に高さはその半分位のスペアパーツの建物が 2安全性と設備利用率に影響し、その影響は些少 建っていた。 ◎安全性と設備利用率に影響しないが、保全が経済的MA2742.4 世界最大の原子力発電所を建設中同じオルキルオトの3号機として、世界最大の16 0万kwのヨーロッパ型 PWR(EPR)を建設中で あった。下のその写真を示す。人口がわずか550万 人と東京の半分の人口で、このような大きな発電所を 建設している理由をラクソネン長官に聞いたところ、 その答えは次の2点である。まず京都議定書を遵守す るためには、2010年までに160万kwの発電所 を完成させ、古い火力発電所を停止しなければならな い。また昨年16%の電力をロシア、スウェーデンか ら輸入した。ロシアはウクライナのガス・パイプライ ンを閉止したこともあり、輸入は無くしたい。そのた めにも160万kwの原子力発電所の建設は急務であ るとの答えであった。3. フランスの原子力は文化大革命中 3.1 原子力オーソリティを大統領直轄組織に 1次にフランスを訪問した。会議にはラコステ総 局長は欠席であり、驚いていると、メモが入り「今、 大臣と緊急会議を行っており、午後パリの本部に来て 下さい。」とあった。ラコステ総局長とは2ケ月ぶりで歓迎してくれた。 シラク大統領が突然、大臣にも話をしないで、テレビ で原子力を大統領の直下の組織にするとの声明を出し た。今までは環境省、産業省、厚生省の下部組織であ ったことから、効率性、迅速性に欠けていたので、原 子力機関を独立させ、ASN (Authority Safety Nuclear) を設立するということであった。6月に議会で承認さ れ、正式に発足することに決定した。フランスの原子力は電力の80%を占めており、そ の役割は一層強化されよう。- 275 -3.2 フランスの 原子力は文化大革命中 * 電力のEDF本社を訪問したところ、このよう な言葉が返って来て驚かされた。状態監視保全の データを収集して規制側と交渉し、いろいろな改 善をしているとの報告があった。ひとつの例として、原子炉冷却ポンプの保守に ついての説明を受けた。これは月に1回サーベラ ンス・テストを要求されており、2時間ほど運転 する。これは1年では24時間稼動することにな り、10年では240 時間すなわち10日稼動 する。保安規定では10年毎に分解点検し、軸受 け等の交換をしている。しかし例えば給水ポンプ は1年間回りぱなしであり、10日間で点検する ポンプなどはない。これを規制側と折衝し状態監 視保全に変更した。このような科学的な改善に取 り組み、前ページのように点検周期を見直してい ンス・ する。 り、1 ノ守の文矢としている。しかし別んは相小ハーレー は1年間回りぱなしであり、10日間で点検する4. アメリカも絶好調 ポンプなどはない。これを規制側と折衝し状態監4.1 アメリカの原子力も好成績 見保全に変更した。このような科学的な改善に取今年の7月来週からアメリカに同じ調査団を派遣する り組み、前ページのように点検周期を見直してい が、1997年からの原子力による発電量は、大きく伸びて、原子力発電所を建設していないにもかかわらず、100万kw20基分の増加と同じである。これ 3.3 フランスもEPRの建設を決定は設備利用率の向上と、下に示すようなライセンス更 フィンランドで世界最大の160万kWのEPRを新と出力アップなどによるものである。 3.3 フランスもEPRの建設を決定フィンランドで世界最大の160万kwのEPRを 建設中であるが、本家のフランスでこの建設が決定しLicense Renewal Program> 2739325Granted - UnannouncedUnder NRC Review Intend to Renew- 276 -サイトはフラマンビル3号機で、2006年5月 5 日に正式に申請し、初コンクリート打ちは、2007 年末 の予定で、2012 年に完成の予定である。総建設費用は 33億ユーロ(4700億円)で、発電コストは0. 046ユーロ(6.5円) /kwhを予定している。現在のフラマンビルは138.2万kwのPWRが 2基運転中であり、そこの3号機として建設される。 これは温室効果の低減を図る目的もあり、鉱山・エネサイトはフラマンビル3号機で、2006年5月 5 日に正式に申請し、初コンクリート打ちは、2007 年末 の予定で、2012 年に完成の予定である。総建設費用は 33億ユーロ(4700億円)で、発電コストは0. 246ユーロ (6.5円) /kwh を予定している。現在のフラマンビルは138.2万kwのPWRが 2基運転中であり、そこの3号機として建設される。 これは温室効果の低減を図る目的もあり、鉱山・エネ レギー労働組合(CGT)も「化石燃料価格の高騰と 環境問題から、建設に賛成」と述べている。“ “海外の保全及び検査制度の調査“ “水町 渉,Wataru MIZUMACHI
昨年2月日本機械学会に「原子力規制の最適化に関 する研究会」を立ち上げた。そこで今年の1月に「訪 欧調査団」を結成し、フィンランドとフランスの規制 機関と電力事業者を訪問し、最新の状況を調査した。この団は、規制機関である経済産業省の原子力安 全・保安院、大学、電力、メーカーなどから構成され た、従来なかったユニークなもので、両国とも最高の
各国の設備利用率10.950.90.8580%、0.70.650.6~日本 アメリカフランス ーーフィンランド0.550.51980 1981 1992 1993 1984 1985 1986 1987 1998 1999 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004- 273 -効果有 2. フィンランドの世界新記録1安全性と設備利用率に影響しない上、保全が経済的 2.1 燃料交換を7日4時間の最短記録効果無 1 まずフィンランドを訪問した。昨年のオルキルオトTVO(電力会社)が、PSA(確率的安全解析) 1号機の燃料交換期間は7日4時間16分という、考で評価したところ えられない世界記録を達成していた。日本の最短記録1は施設全体の5% 2 10% 3 18% | は浜岡の29日であり、その4分の1以下という飛び 4 67%であった。 ぬけた記録である。またこれにより、設備利用率は9 この1、2、3につき状態監視保全を行っている。 8%という高い記録を残している。TVOの人々も、安全性と設備利用率に影響し、その 上図を見れば、国の平均としても1990年以来9 影響は多大という機器が、全体のわずか5%というの 0%以上の記録を続けている。に、びっくりしたそうである。また、安全性と設備利用率に影響しない上、保全が経済的効果無という機器 2.2 徹底した状態監視保全が67%と、全体の3分の2という事実にも驚いたと ここでは徹底した状態監視保全を行っていた。動的言っていた。 な機器には振動計、騒音計、油分析計を取り付け、ま た静的な機器には温度計、流量計などを取り付けて 2.3 徹底したスペア・パーツ 状態監視を行っている。彼らのモットーとして、状態監視保全と一体なのがスペア・パーツである。 If it works, do not touch it.現在オルキルオト発電所には、なんと22,600品 と言われた。いじり壊しを避け、分解点検より状態監 のスペア・パーツが用意されているという。タービン 視保全を重視するという思想である。から制御棒まで総額は6.6億ユーロ、すなわち100 これも機器の重要性から決定している。原子力発電 億円のストックである。状態監視保全で何かの兆候が 所内の機器を次の4つに分類している。でれば、直ちに交換するという姿勢である。原子炉建 1安全性と設備利用率に影響し、その影響は多大 屋の前に高さはその半分位のスペアパーツの建物が 2安全性と設備利用率に影響し、その影響は些少 建っていた。 ◎安全性と設備利用率に影響しないが、保全が経済的MA2742.4 世界最大の原子力発電所を建設中同じオルキルオトの3号機として、世界最大の16 0万kwのヨーロッパ型 PWR(EPR)を建設中で あった。下のその写真を示す。人口がわずか550万 人と東京の半分の人口で、このような大きな発電所を 建設している理由をラクソネン長官に聞いたところ、 その答えは次の2点である。まず京都議定書を遵守す るためには、2010年までに160万kwの発電所 を完成させ、古い火力発電所を停止しなければならな い。また昨年16%の電力をロシア、スウェーデンか ら輸入した。ロシアはウクライナのガス・パイプライ ンを閉止したこともあり、輸入は無くしたい。そのた めにも160万kwの原子力発電所の建設は急務であ るとの答えであった。3. フランスの原子力は文化大革命中 3.1 原子力オーソリティを大統領直轄組織に 1次にフランスを訪問した。会議にはラコステ総 局長は欠席であり、驚いていると、メモが入り「今、 大臣と緊急会議を行っており、午後パリの本部に来て 下さい。」とあった。ラコステ総局長とは2ケ月ぶりで歓迎してくれた。 シラク大統領が突然、大臣にも話をしないで、テレビ で原子力を大統領の直下の組織にするとの声明を出し た。今までは環境省、産業省、厚生省の下部組織であ ったことから、効率性、迅速性に欠けていたので、原 子力機関を独立させ、ASN (Authority Safety Nuclear) を設立するということであった。6月に議会で承認さ れ、正式に発足することに決定した。フランスの原子力は電力の80%を占めており、そ の役割は一層強化されよう。- 275 -3.2 フランスの 原子力は文化大革命中 * 電力のEDF本社を訪問したところ、このよう な言葉が返って来て驚かされた。状態監視保全の データを収集して規制側と交渉し、いろいろな改 善をしているとの報告があった。ひとつの例として、原子炉冷却ポンプの保守に ついての説明を受けた。これは月に1回サーベラ ンス・テストを要求されており、2時間ほど運転 する。これは1年では24時間稼動することにな り、10年では240 時間すなわち10日稼動 する。保安規定では10年毎に分解点検し、軸受 け等の交換をしている。しかし例えば給水ポンプ は1年間回りぱなしであり、10日間で点検する ポンプなどはない。これを規制側と折衝し状態監 視保全に変更した。このような科学的な改善に取 り組み、前ページのように点検周期を見直してい ンス・ する。 り、1 ノ守の文矢としている。しかし別んは相小ハーレー は1年間回りぱなしであり、10日間で点検する4. アメリカも絶好調 ポンプなどはない。これを規制側と折衝し状態監4.1 アメリカの原子力も好成績 見保全に変更した。このような科学的な改善に取今年の7月来週からアメリカに同じ調査団を派遣する り組み、前ページのように点検周期を見直してい が、1997年からの原子力による発電量は、大きく伸びて、原子力発電所を建設していないにもかかわらず、100万kw20基分の増加と同じである。これ 3.3 フランスもEPRの建設を決定は設備利用率の向上と、下に示すようなライセンス更 フィンランドで世界最大の160万kWのEPRを新と出力アップなどによるものである。 3.3 フランスもEPRの建設を決定フィンランドで世界最大の160万kwのEPRを 建設中であるが、本家のフランスでこの建設が決定しLicense Renewal Program> 2739325Granted - UnannouncedUnder NRC Review Intend to Renew- 276 -サイトはフラマンビル3号機で、2006年5月 5 日に正式に申請し、初コンクリート打ちは、2007 年末 の予定で、2012 年に完成の予定である。総建設費用は 33億ユーロ(4700億円)で、発電コストは0. 046ユーロ(6.5円) /kwhを予定している。現在のフラマンビルは138.2万kwのPWRが 2基運転中であり、そこの3号機として建設される。 これは温室効果の低減を図る目的もあり、鉱山・エネサイトはフラマンビル3号機で、2006年5月 5 日に正式に申請し、初コンクリート打ちは、2007 年末 の予定で、2012 年に完成の予定である。総建設費用は 33億ユーロ(4700億円)で、発電コストは0. 246ユーロ (6.5円) /kwh を予定している。現在のフラマンビルは138.2万kwのPWRが 2基運転中であり、そこの3号機として建設される。 これは温室効果の低減を図る目的もあり、鉱山・エネ レギー労働組合(CGT)も「化石燃料価格の高騰と 環境問題から、建設に賛成」と述べている。“ “海外の保全及び検査制度の調査“ “水町 渉,Wataru MIZUMACHI