原子力における社会構成的リスク低減のための情報提示に関する研究

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
原子力発電に代表される大規模システムの安全性は 人的因子と組織要因に強く依存する[1]。原子力発電に おいては、機械的な信頼性が向上しているために、相 対的に人間に起因するトラブルが支配的になってきて いる。このような状況下においては、プラントで働い ている人々の挙動が、外的な社会の強い影響下にある ということに十分注意を払わなければならない。従来 の人間信頼性解析においては、社会的影響は行動形成 因子(Performance Shaping Factor:PSF)やエラー促進因子 (Error Forcing Context)等により考慮されていると考 えることも可能であるが[2][3]、十分にその影響が考慮 されているとは言い難い。民主化と情報公開が進んだ 社会では、市民は科学技術の持つ潜在的リスクに対し て厳しい批判の眼を向ける[4]。原子力技術はとりわけ そのような批判のターゲットになりやすい特性を持っ ことはリスク認知心理学の分野で広く知られている。 このような批判自体は技術の健全性を向上させる上で 有意義であるが、時には負の影響すなわち技術リスク そのものの増大をもたらすこともある。 - 例えば、原子力プラントにおいて重大な事故が発生 した場合、社会は厳しく原子力産業を批判し、結果と して様々な影響が現れる。第一に、規制行政側は再発防止策を導入するが、このことが結果として必要以上 の規制の煩雑化をもたらす可能性は無視できない。第 二に、立地地域の地方自治体が異常時通報の即時性を 強く要求し、その結果、異常発生時に運転員が事態収 拾のみならず通報にも過度の関心を払うことを要請さ れる事態も起こりうる。第三に、原子力プラントの運 営組織は現場作業者のエラーを防ぐために管理を更に 強めようとするが、それが結果的に現場の作業者のス トレスの増大を招き、リソースが消費されヒューマン エラー、ひいてはプラント事故の確率が増大すること になる。つまり技術システムと社会の間に密な相互作 用が働き、その結果、技術システムのリスクが実際に 増大するわけである、このようなリスク成分を本研究 では社会構成的リスク(Social Construct Risk)と呼ぶこ とにする。本報告では、この種のリスクを低減するた めの情報提示に関する対応方策について検討を行った 結果を述べる。
2.手法
2.1 実践的手法. 本研究では、社会構成的リスク低減の方策を以下の ように立案し実践した。
Step-1: 市民側の不安や懸念の実態を的確に認識する Step-2. その懸念の解消に寄与するため提示されるべ き情報を同定する。ただしここで本研究の独自の着想として、この情報 の提示は次の二つの方向に向けてなされるべきと考え ている。 Step-2-1 専門家から市民に向けての情報提示 Step-2-2 コミュニケーション実践専門家から、一般集団内部に向けての情報提示 Step-3 情報提示媒体の選択と提示プラットフォーム設計 Step-4 提示情報コンテンツの作成と実装Step-1 の要請に応えるため、筆者らは対話フォーラ ムと名づけた立地地域密着型実践研究(アクションリ サーチ)を3年半にわたって実施している[5]。この実 践研究から得られた知見を受けて Step-2 を進めた。こ こで Step-2 の内容を上記のように両方向で考えている ことは実践経験を踏まえた本研究独自の着想である。 社会構成的リスクをもたらしている背後要因である市 民と技術の間の緊張関係は、市民側の知識の不足のみ に由来するのではなく、専門家側の市民の懸念に対す る理解不足と、専門家内部での問題解決努力の不足と とにも由来すると考えるのが本研究の立場である。 - 次いで Step-3 としてこの目的に特化したウエブサ イトを活用することとし、その設計を行い、Step4 ま での措置を経てプロトタイプを製作して運用を開始し ている[6]。またその情報コンテンツの妥当性および提 示効果の評価については、ウエブサイトを通じての提 示と、直接対話場での提示の2通りの方策で進めてい る、現時点では予備的な評価結果が得られた段階であ るが、市民、技術専門家双方から肯定的な評価を受け ている。2.2 保全最適化に関する情報提示前節の情報提示は一般的な市民側の懸念に対応する ことを主な目的としているが、これとは異なる方向性 を持つアプローチとして、保全に関連する情報提示の 可能性に関する取り組みも行っている。近年、原子力 プラントにおける規制緩和の一環として、経済性を考 慮した保全の最適化の議論が進められている。定期点 検実施の間隔を引き延ばすことにより、コストの削減 を図ろうとしているが、市民側からこの変更は安全性軽視と受け取られかねない危険性をはらんでいる。本 研究では、プラント運転状況の評価をモンテカルロ法 で確率論的に評価する手法を開発し、分解等の侵襲的 な内容を含む保全活動は、必ずしも多くの回数を行う ことが安全性の向上に繋がるわけでないということを わかりやすく示す枠組みを構築した[7]。その事実を元 にしてプラントの経済性、信頼性そして安全性を両立 することを目指していることを一般市民に理解しても らうことが、社会構成的リスクを減らしていく上で重 要な役割を果たすと考えている。3. 結言本稿では、社会構成的リスクを低減するための試み として、一般市民との対話を通じた実践的情報提供と、 保全のリスクに特化した情報提供の方策に関して述べ た。本研究は原子力を対象として進めているが、本研 究から得られる知見は他の社会構成的リスクが発生す る可能性のある分野にも適用される一般性を有してい ると考える。参考文献 [1] J. Reason, MANAGING THE RISK OFORGANIZATIONAL ACCIDENTS, AshgatePublishing Limited. , 1997. [2] A. D. Swain and H. E. Guttmann, Handbook of humanreliability analysis with emphasis on nuclear power plant applications, NUREG/CR-1278, Sandia NationalLab. 1983. [3] U.S. Nuclear Regulatory Commission, ““TechnicalBasis and Implementation Guidelines for A Technique for Human Event Analysis (ATHEANA)““, DraftReport, NUREG-1624,1998. [4] U. Beck, World Risk Society, Polity Press, 1999. [5] E.Yagi, M.Takahashi, M.Kitamura, “Attempt ofdialogue forum series for on-demand information disclosure about nuclear facilities, PSAM7: Seventh International Conf. on Probabilistic Safety Assessment and Management, Berlin, 3522-3527, 2004www.procom.niche.tohoku.ac.jp [7] 白石他,BWR の保全活動におけるコスト及びリスクの同時評価法の構築, 日本保全学会第2回 学術講演会要旨集,pp.83-88,2005.[6]- 302 -“ “原子力における社会構成的リスク低減のための情報提示に関する研究“ “北村 正晴,Masaharu KITAMURA,高橋 信,Makoto TAKAHASHI,橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME,白石 夏樹,Natsuki SHIRAISHI,八木 絵香,Ekou YAGI
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