ベイズ統計を用いた点検・取替周期の最適化
公開日:
カテゴリ: 第3回
1.緒言
- 現在、プラントの保全をどう合理化するかについて、 盛んに議論され、法的な話や定検の短縮といった大き な話題から保全合理化の数理的手法等々、様々なレベ ルでの研究・検討が行われている。ここでは、数理的な 保全合理化の 1 テーマとして、機器/部品類の点検/ 取替周期の最適化を取り上げる。こうした最適化を図 るためには、故障率や故障分布関数のデータが不可欠 である。一方、日本のプラントの場合、トラブルを恐 れるあまり、寿命に達するかなり前に交換されてしま うため、安全に関わる機器はともかく、一般機器のデ ータまで十分整備されている訳ではない。特に、故障 分布関数の整備は遅れている。数少ない故障データか らでも、最尤推定法やベイズ推定法等により、故障率 や故障分布関数のパラメータを推測できることが示さ れている[1]。特に、ベイズ推定法は、一貫したデータ セットを収集する事が難しい状況でも、社内試験や異 なるプラントあるいは更に異なる種類のプラント等に おけるデータをベースに、少ない実プラントにおける データと統合することができるという利点を持ってい る。しかし、こうした推定にも誤差が付きのもで、リ スクを考慮すると、この誤差を適切に考慮して最適化を図る必要がある。ベイズ推定では、事後分布により こういった誤差を考慮することができる[2]。一方最尤 推定法では故障率や故障分布関数のパラメータに関す る確率密度関数は得られない。 - ここでは、従来の最尤推定法[3]による点推定値を用 いた最適化とベイズ推定法による確率密度関数を考慮 した最適化とを比較検討する。 2. 点検周期・交換周期の定式化 2.1 点検周期の定式化ここでは、機器の故障は点検されるまで発見できず、 機器は一定周期 T で点検され、機器が故障していた場 合には取替えられるものとする。ただし、機器の劣化 を考慮せず、機器は偶発故障により故障するものとす る。点検周期の間隔 T の間、故障率)の機器 i が故障 することなく作動する確率は信頼度関数 RCTDである。 機器 i が正常な場合に、期間 T の間に頂上事象が発生 する確率は、当該機器 iが正常な場合の単位時間当た りの頂上事象発生確率g(0,,q)を用いてT・g(0,,q') と書ける。したがって、点検周期の間隔 T の間、当該 機器が故障することなく作動した場合の頂上事象発生 確率はT・R(T)・g(0,,q)となる。 - 一方、当該機器が間隔 T内の時間 tに故障したとす ると、故障前および故障後の頂上事象発生確率は、そ れぞれt.g(1,,q)および(T -t).g(1,,q)と書ける。
ここで、g(1,94)は当該機器が故障している場合の頂 上事象発生確率である。また、当該機器が間隔 T内の 時間tまで故障せず、t とt+St の間で故障する確率は
Ret)(t)dt = f(t)dt である。 1. 従って、頂上事象が発生した場合の諸処の費用を Cr とすると、リスク CA(2)は、最終的に次のようにまと められる。 Cook(1)== CGI (i) | F(l)dr + Cyg(0, 4).T ここで、In(i) は、Birnbaum の重要度である。故障率がある確率密度関数h(2)をもつと、頂上 事象発生の期待リスク Cookは次のように表される。 Cos = Sca()()an = C,I) { FIN) dyn(a)da (2)+ Cre(0,,q)T 点検費用を Ce、点検により発見された機器の故障を 修復する費用を C, とすると、単位時間当たりの期待費 用 C(Tは下式で表される。CISIS F(t) dth(x)dx C(T) =C + C, SFCT)()dx 1T+Cng(0,,q) (3)式の右辺第2項の分子の第1項、第2項は、点検 周期毎に行われる1回の点検と故障している場合の1 回の取替の費用を意味している。また、(3)式の第3項 は、当該機器の点検・取替周期の最適化には関係しな い定数項である事を考え、以下、この項を除いた下式 で考えることとする。 C.(T) = C(T)-Crg(0,,q) CIAOS IS F(t)dth(R)dx- (4)C. + C, SFTH()da最適な点検周期は上式が最小となるTである。故障分布関数(不信頼度関数)に下記の指数分布を用 いる。 F(t)=1-exp(-xt)(5) f(t) = Keexp(-xt) (4)式に(5)式を代入し、(4)式を Tで微分して0と置く と、最終的に次式を得る。 (C,I ()T -C.) exp(-2T)(2)dx + C-1.05 -exp(-2TH()da(6) -crF hexp(-xTM(A)dx==C, 1(OS-nada-C-C, 故障率の確率密度関数を考慮した最適な点検周期は (6)式を解くことにより求めることができる。一方、故障率の代表値のみを用いて最適な点検周期 を求める式は、h(2)をデルタ関数と考え、最終的に下 式のように求められる。 (Cris(i) - 2C,)(1 + AT)exp(-2t)== CrIs(i) - AC -2C,(6)式あるいは(7)式を満たす Tが、最適な点検周期で ある。 2.2 取替周期の定式化ここでは、簡単のため、小修理取替を考える。小修 理取替とは、故障の有無に関わらず一定の期間 T毎に 機器を新品と交換し、期間 T内に故障した場合には応 急的な修理を行い、所定の交換時期に来た時点で機器 を新品と交換する取替政策を意味する。数理的には、 応急的な修理では機器の「若返り」は生じず、劣化進展 はそのまま継続するとする。このような数理モデルの下では、期間 T内に機器が 故障する期待数 NCTDは次式で与えられる事が分かって いる[3]。N(T) = 5““ 2(t)dt ここでは、故障分布関数としてワイブル分布を考え る。ワイブル分布は次式で表される。F() = 1-exp{-()““}-8f0-77-742expt-(““}]-9304、ここで、m は形状パラメータ、T は尺度パラメータ である。ワイブル分布では、故障率 2()は次のように 表される。-10200 = 100- (49““ 200 - 1092-999-10R(t)形状パラメータ mおよび尺度パラメータ の確率密 度関数を a(m, ) とすると、N(T)は次のように修正さ れる。_N(T) = Sat)== S. Song(““-““a(n,t)dndrdr-11JOJOJOCDを予防保全コスト(機器の交換に要するコスト)、 CGを機器が故障した場合のリスクと事後保全のコスト (機器の故障時の修理コスト)の和とすると、単位時間当 たりに要する保全コストは、次のように表される。 C;N(T)+C-12C(T)=T上式を目的関数として、これを最小化する T を求め ると、下式を得る。S. On-Freation, ander - 8 (13)(13)式を満たすTが最適な取替周期である。-133. 点検周期・取替周期の最適化試計算 3.1 点検周期の最適化(6)式を見ると、実プラントにおける故障データが十 分に整備されていない状況で、数少ない故障データか ら最尤推定法などにより故障率を推定し、その値を用 いて最適な点検周期を求めた解が果たして適切な解で あるかを判断することは容易ではないことが分かる。 一方、故障率は、対数正規分布を確率密度関数として 整備されている[2]。従って、ここでは、まず対数正規 分布を用いて(6)式から算出した解と、最尤推定法から 求めた故障率を用いて(7)式から算出した解とを比べ、 その違いを比較検討し、次に、ベイズ更新により得ら れる密度関数を用いた解と最尤推定法による解を比較 検討する。ベイズ更新の際に用いる尤度関数 L には(14)式のポ アッソン分布を用いる事とする。L(1) = (AT)““ e-2-14ここで、T は機器の総作動期間であり、n は総作動 期間中の故障回数である。但し、総作動期間 Tは、同 一な環境で作動する各機器の作動期間の和として算出 するものとする。 (1) 対数正規分布の効果故障データから対数正規分布を算出する際には、次 の2点を仮定した。 ・最尤推定法で得られた故障率の推定値は算術平均値であるとする。 ・エラーファクタ(EF)[4]を 10 とする。 最尤推定法による故障率が、0.02、0.01、0.005 /year となった場合の最適な点検周期を表1に示す。代表値 を用いたケースでは、参考のため、平均値の他に最頻 値、中央値を用いた解析結果についても示した。表1 点検周期最適化への分布効果 故障率 | 代表値を用いた点検周期 | 対数正 [(最尤推 | 平均値 | 最頻値 | 中央値 | 規分布 |0.02] 6.90| 965| 11.00 7.74 0.01 9 .42 | 38.80 | 16.00| | 9.700.005| 13.06 | 54.73 | 24.42| 13.24 | * 表1の結果を見る限り、今回の試計算の範囲では、 代表値として平均値を用いれば、必ずしも分布を考慮 する必要はないと評価される。 (2) ベイズ更新次に、ベイズ更新の手法により得られた故障率の確 率密度関数(事後分布)を用いて点検周期の最適化を図 った結果を表2(a)、表 200)に示す。ここでは、総作動 期間を 400 年・台とし、故障回数が0回~4回であった 場合を想定した。表の(a)は事前分布として平均故障率 0.005/year の対数正規分布(EF=10)を用いた結果であり、 表の(b)は、事前分布として一様分布を仮定した結果で ある。なお、表中の記号「-」は、計算値が求められな い事を示している。 表 2 (2) ベイズ更新を用いた最適点検周期(事前分布:対数正規分布)| 代表値を用いた評価 「ベイズ更新 故障回数、 ““最尤推定個算術平均?事後分布26.55 26.93 18.2518.22 18.48 13.06 14.07 14.25 10.77 11.77 11.91 9.42 10.29 10.41|23|4|30517.831-2-2019/03/04表2(6) ベイズ更新を用いた最適点検周期・機器あるいは部品(以降、機器)が作動開始後、どの (事前分布:一様分布)時点で故障したかという故障データを、機器の故 |故障回数代表値を用いた評価 「ベイズ更新 障分布関数が(15)式で示されるワイブル分布であ ““最尤推定?算術平均?事後分布るとして、モンテカルロ法を用いて算出する。16.43 18.25 13.03 13.24F() =1-exp{-()““}(15) 13.06 10.76 10.91 10.77m = 2.5, t = 1.5×10' h 9.429.54 9.42 8.73なお、この際、故障が2回発生した場合と5回発 8.46生した場合を想定し、それぞれ2ケースのデータ 表2(a)、(b)の結果を見ると、機器の故障が観測され セット(計4データ)を取得した。また、運転期間 る限り、最尤推定法による故障率の推定値を用いて最 は、4.2×10' h を仮定した。 適化しても、大きな問題が無いことが分かる。ただ、 ・上で得た故障データについて、下記の2つの方法 事前分布として一様分布を仮定した場合、事後分布か により、劣化特性を求める。 ら算出される最適値は、最尤推定値や事後分布から求1 最尤推定法により形状パラメータ m および めた算術平均値を用いて得られた最適値より小さく尺度パラメータを求める。 算されている事も分かる。これは、事前分布の影響が2 ベイズ更新の手法により、形状パラメータm 事後分布に現れている事に因るものと考えられる。即および尺度パラメータでの事後分布(確率密 ち、事後分布における故障率の比較的大きな領域での度関数)を求める(事前分布は一様分布)。 密度関数の値が、一様分布を仮定した場合の方が、対 ・m=2.5, r = 1.5×10' h により表される劣化特性の 数正規分布を用いた場合より大きくなっている事に因場合の最適な取替周期を基準として、1および2 る。なお、事前分布に対数正規分布を用いようと一様 の結果を用いて算出した取替周期を比較する。 分布を用いようと、事後分布は対数正規分布とは異な試計算結果を図1 (a)および図1 (b)に示す。図1(a) った分布となる。これは、対数正規分布では、最尤推 は、最尤推定法により求めたパラメータ m、tを用い 定値値が算術平均値と等しいとしたため、算術平均値 最適な取替周期をコスト比(C,JC)について求めた結果 と最頻値とで1桁以上の違いがあるのに対し、(14)式で を示した図である。また、図1(b)はベイズ更新により 与えた尤度関数では、最頻値が最尤推定値とほぼ等し得られたパラメータ m、t の確率密度関数を用いて、 い事に起因する。(13)式から求めた最適な取替周期をまとめた図である。 1 以上の結果をまとめると、数少ない故障しか観測さ Casell、Case12 は運転期間中に故障が2回発生した れなくても、故障回数を実際の回数に 0.5 回なり1回 場合を、Case21、Case22 は故障が5回発生した場合を 分を足して大きめに故障率を見積もれば、その値を用想定して得たデータから求めた解である。 いて最適化を図っても問題はないと評価される。コスト比(機器が故障した場合のコストに対する予防保全コスト)が大きくなるに連れて、取替周期が長く 13.2 ベイズ更新を用いた取替周期の最適化 なっている事が分かる。即ち、予防保全コストが故障 * 機器あるいは部品の適切な取替周期を求めるために時のコストに対してウェイトが増すと共に取替周期が は、機器あるいは部品の劣化特性のデータを整備する長くなっている。 必要がある。数少ない故障データから得られた劣化特 また、取替周期が短い範囲(コスト比が小さい領域) 性の信頼性は決して高いものではないが、劣化特性のでは、最尤推定法でもベイズ更新でも、(15)式の劣化特 把握には最尤推定法やベイズ推定法がある。性に対して求められた最適解に近い結果を与えており、 - ここでは、故障分布関数としてワイブル分布を想定両者に大差がない事が理解される。一方、取替周期が し、形状パラメータ m および尺度パラメータを最尤長い領域(コスト比が大きな領域)では、基準とした解と 推定法とベイズ推定法を用いて評価し、取替周期の最の差が大きくなる。これは、パラメータ m、tの僅か 適化のどのような違いが生じるかを評価検討する。 な違いが、長期間運転での劣化に仕方に大きな影響を - 解析は、下記の手順にて行う。与える事によるもので、T = 1.5×10' h に対して運転期306間を4.2×10' h と想定(劣化が進む前に交換される現 状を想定)した事に起因すると考えられる。Casell Case21取替周期標準!Case22 Case120.00010.00110.01コスト比(C,JC) 図1(a) 取替周期(最尤推定法)Case21 Caselts取替周期-Casel2 | Case22 趣雑0.0001 10.0010.01コスト比(C,JC) 図1 (6) 取替周期(ベイズ更新)4.結言実プラントでの数少ない故障データを基に、点検周 期や取替周期の最適化を図るための手法として、最尤推定法とベイズ更新の手法を取り上げ、サンプル計算 をする事により、最適化への影響を比較検討する目的 で、故障率や故障密度関数のパラメータの確率密度関 数を取り入れた最適化の定式化を行った。サンプル計 算では、点検周期の最適化については、故障分布関数 として指数分布を、取替周期の最適化ではワイブル分 布を想定し、2つの手法で、点検・取替周期にどのよ うな違いが生じるかを調べた。その結果、今回のサンプル計算の範囲では、(1)点検 周期、取替周期とも、最尤推定法でもベイズ更新の手 法でも大差の無い事が分かった。だた、常識的ではあ るが、いずれの方法を用いるにしても、故障データが 少ない限り、運転経験を大幅に越える点検・取替周期 を採用するには、注意が必要である。また、最尤推定 法にしろベイズ更新にしろ、それらの計算は容易であ るため、形式的に行う事が出来るが、そのベースには 各部品等に関する故障物理がしっかりと把握されてい る事が前提である。そうでなければ、安易に解析結果 を鵜呑みにすべきではない。参考文献[1] 笠井雅夫, ““ベイズ統計を用いた故障分布関数の更新”, 日本保全学会, 第2回学術講演会, 京都大学, 2005 年7月,pp.299-304. [2] 繁桝算男著, ““ベイズ統計入門”、東京大学出版会 [3] 三根久,河合 一著,信頼性・保全性の基礎数 12 理,日科技連, (1984) pp.151-159. [4] (財)電力中央研究所、”原子力発電所に関する確率論的安全評価用の機器故障率の算出”(1982 年度~ 1997 年度 16 ヶ年 49 基データ改訂版)、研究報告: P00001、平成 13年2月307“ “ベイズ統計を用いた点検・取替周期の最適化“ “笠井 雅夫,Masao KASAI,草刈 良至,Yoshiyuki KUSAKARI,能登谷 淳一,Junichi NOTOYA
- 現在、プラントの保全をどう合理化するかについて、 盛んに議論され、法的な話や定検の短縮といった大き な話題から保全合理化の数理的手法等々、様々なレベ ルでの研究・検討が行われている。ここでは、数理的な 保全合理化の 1 テーマとして、機器/部品類の点検/ 取替周期の最適化を取り上げる。こうした最適化を図 るためには、故障率や故障分布関数のデータが不可欠 である。一方、日本のプラントの場合、トラブルを恐 れるあまり、寿命に達するかなり前に交換されてしま うため、安全に関わる機器はともかく、一般機器のデ ータまで十分整備されている訳ではない。特に、故障 分布関数の整備は遅れている。数少ない故障データか らでも、最尤推定法やベイズ推定法等により、故障率 や故障分布関数のパラメータを推測できることが示さ れている[1]。特に、ベイズ推定法は、一貫したデータ セットを収集する事が難しい状況でも、社内試験や異 なるプラントあるいは更に異なる種類のプラント等に おけるデータをベースに、少ない実プラントにおける データと統合することができるという利点を持ってい る。しかし、こうした推定にも誤差が付きのもで、リ スクを考慮すると、この誤差を適切に考慮して最適化を図る必要がある。ベイズ推定では、事後分布により こういった誤差を考慮することができる[2]。一方最尤 推定法では故障率や故障分布関数のパラメータに関す る確率密度関数は得られない。 - ここでは、従来の最尤推定法[3]による点推定値を用 いた最適化とベイズ推定法による確率密度関数を考慮 した最適化とを比較検討する。 2. 点検周期・交換周期の定式化 2.1 点検周期の定式化ここでは、機器の故障は点検されるまで発見できず、 機器は一定周期 T で点検され、機器が故障していた場 合には取替えられるものとする。ただし、機器の劣化 を考慮せず、機器は偶発故障により故障するものとす る。点検周期の間隔 T の間、故障率)の機器 i が故障 することなく作動する確率は信頼度関数 RCTDである。 機器 i が正常な場合に、期間 T の間に頂上事象が発生 する確率は、当該機器 iが正常な場合の単位時間当た りの頂上事象発生確率g(0,,q)を用いてT・g(0,,q') と書ける。したがって、点検周期の間隔 T の間、当該 機器が故障することなく作動した場合の頂上事象発生 確率はT・R(T)・g(0,,q)となる。 - 一方、当該機器が間隔 T内の時間 tに故障したとす ると、故障前および故障後の頂上事象発生確率は、そ れぞれt.g(1,,q)および(T -t).g(1,,q)と書ける。
ここで、g(1,94)は当該機器が故障している場合の頂 上事象発生確率である。また、当該機器が間隔 T内の 時間tまで故障せず、t とt+St の間で故障する確率は
Ret)(t)dt = f(t)dt である。 1. 従って、頂上事象が発生した場合の諸処の費用を Cr とすると、リスク CA(2)は、最終的に次のようにまと められる。 Cook(1)== CGI (i) | F(l)dr + Cyg(0, 4).T ここで、In(i) は、Birnbaum の重要度である。故障率がある確率密度関数h(2)をもつと、頂上 事象発生の期待リスク Cookは次のように表される。 Cos = Sca()()an = C,I) { FIN) dyn(a)da (2)+ Cre(0,,q)T 点検費用を Ce、点検により発見された機器の故障を 修復する費用を C, とすると、単位時間当たりの期待費 用 C(Tは下式で表される。CISIS F(t) dth(x)dx C(T) =C + C, SFCT)()dx 1T+Cng(0,,q) (3)式の右辺第2項の分子の第1項、第2項は、点検 周期毎に行われる1回の点検と故障している場合の1 回の取替の費用を意味している。また、(3)式の第3項 は、当該機器の点検・取替周期の最適化には関係しな い定数項である事を考え、以下、この項を除いた下式 で考えることとする。 C.(T) = C(T)-Crg(0,,q) CIAOS IS F(t)dth(R)dx- (4)C. + C, SFTH()da最適な点検周期は上式が最小となるTである。故障分布関数(不信頼度関数)に下記の指数分布を用 いる。 F(t)=1-exp(-xt)(5) f(t) = Keexp(-xt) (4)式に(5)式を代入し、(4)式を Tで微分して0と置く と、最終的に次式を得る。 (C,I ()T -C.) exp(-2T)(2)dx + C-1.05 -exp(-2TH()da(6) -crF hexp(-xTM(A)dx==C, 1(OS-nada-C-C, 故障率の確率密度関数を考慮した最適な点検周期は (6)式を解くことにより求めることができる。一方、故障率の代表値のみを用いて最適な点検周期 を求める式は、h(2)をデルタ関数と考え、最終的に下 式のように求められる。 (Cris(i) - 2C,)(1 + AT)exp(-2t)== CrIs(i) - AC -2C,(6)式あるいは(7)式を満たす Tが、最適な点検周期で ある。 2.2 取替周期の定式化ここでは、簡単のため、小修理取替を考える。小修 理取替とは、故障の有無に関わらず一定の期間 T毎に 機器を新品と交換し、期間 T内に故障した場合には応 急的な修理を行い、所定の交換時期に来た時点で機器 を新品と交換する取替政策を意味する。数理的には、 応急的な修理では機器の「若返り」は生じず、劣化進展 はそのまま継続するとする。このような数理モデルの下では、期間 T内に機器が 故障する期待数 NCTDは次式で与えられる事が分かって いる[3]。N(T) = 5““ 2(t)dt ここでは、故障分布関数としてワイブル分布を考え る。ワイブル分布は次式で表される。F() = 1-exp{-()““}-8f0-77-742expt-(““}]-9304、ここで、m は形状パラメータ、T は尺度パラメータ である。ワイブル分布では、故障率 2()は次のように 表される。-10200 = 100- (49““ 200 - 1092-999-10R(t)形状パラメータ mおよび尺度パラメータ の確率密 度関数を a(m, ) とすると、N(T)は次のように修正さ れる。_N(T) = Sat)== S. Song(““-““a(n,t)dndrdr-11JOJOJOCDを予防保全コスト(機器の交換に要するコスト)、 CGを機器が故障した場合のリスクと事後保全のコスト (機器の故障時の修理コスト)の和とすると、単位時間当 たりに要する保全コストは、次のように表される。 C;N(T)+C-12C(T)=T上式を目的関数として、これを最小化する T を求め ると、下式を得る。S. On-Freation, ander - 8 (13)(13)式を満たすTが最適な取替周期である。-133. 点検周期・取替周期の最適化試計算 3.1 点検周期の最適化(6)式を見ると、実プラントにおける故障データが十 分に整備されていない状況で、数少ない故障データか ら最尤推定法などにより故障率を推定し、その値を用 いて最適な点検周期を求めた解が果たして適切な解で あるかを判断することは容易ではないことが分かる。 一方、故障率は、対数正規分布を確率密度関数として 整備されている[2]。従って、ここでは、まず対数正規 分布を用いて(6)式から算出した解と、最尤推定法から 求めた故障率を用いて(7)式から算出した解とを比べ、 その違いを比較検討し、次に、ベイズ更新により得ら れる密度関数を用いた解と最尤推定法による解を比較 検討する。ベイズ更新の際に用いる尤度関数 L には(14)式のポ アッソン分布を用いる事とする。L(1) = (AT)““ e-2-14ここで、T は機器の総作動期間であり、n は総作動 期間中の故障回数である。但し、総作動期間 Tは、同 一な環境で作動する各機器の作動期間の和として算出 するものとする。 (1) 対数正規分布の効果故障データから対数正規分布を算出する際には、次 の2点を仮定した。 ・最尤推定法で得られた故障率の推定値は算術平均値であるとする。 ・エラーファクタ(EF)[4]を 10 とする。 最尤推定法による故障率が、0.02、0.01、0.005 /year となった場合の最適な点検周期を表1に示す。代表値 を用いたケースでは、参考のため、平均値の他に最頻 値、中央値を用いた解析結果についても示した。表1 点検周期最適化への分布効果 故障率 | 代表値を用いた点検周期 | 対数正 [(最尤推 | 平均値 | 最頻値 | 中央値 | 規分布 |0.02] 6.90| 965| 11.00 7.74 0.01 9 .42 | 38.80 | 16.00| | 9.700.005| 13.06 | 54.73 | 24.42| 13.24 | * 表1の結果を見る限り、今回の試計算の範囲では、 代表値として平均値を用いれば、必ずしも分布を考慮 する必要はないと評価される。 (2) ベイズ更新次に、ベイズ更新の手法により得られた故障率の確 率密度関数(事後分布)を用いて点検周期の最適化を図 った結果を表2(a)、表 200)に示す。ここでは、総作動 期間を 400 年・台とし、故障回数が0回~4回であった 場合を想定した。表の(a)は事前分布として平均故障率 0.005/year の対数正規分布(EF=10)を用いた結果であり、 表の(b)は、事前分布として一様分布を仮定した結果で ある。なお、表中の記号「-」は、計算値が求められな い事を示している。 表 2 (2) ベイズ更新を用いた最適点検周期(事前分布:対数正規分布)| 代表値を用いた評価 「ベイズ更新 故障回数、 ““最尤推定個算術平均?事後分布26.55 26.93 18.2518.22 18.48 13.06 14.07 14.25 10.77 11.77 11.91 9.42 10.29 10.41|23|4|30517.831-2-2019/03/04表2(6) ベイズ更新を用いた最適点検周期・機器あるいは部品(以降、機器)が作動開始後、どの (事前分布:一様分布)時点で故障したかという故障データを、機器の故 |故障回数代表値を用いた評価 「ベイズ更新 障分布関数が(15)式で示されるワイブル分布であ ““最尤推定?算術平均?事後分布るとして、モンテカルロ法を用いて算出する。16.43 18.25 13.03 13.24F() =1-exp{-()““}(15) 13.06 10.76 10.91 10.77m = 2.5, t = 1.5×10' h 9.429.54 9.42 8.73なお、この際、故障が2回発生した場合と5回発 8.46生した場合を想定し、それぞれ2ケースのデータ 表2(a)、(b)の結果を見ると、機器の故障が観測され セット(計4データ)を取得した。また、運転期間 る限り、最尤推定法による故障率の推定値を用いて最 は、4.2×10' h を仮定した。 適化しても、大きな問題が無いことが分かる。ただ、 ・上で得た故障データについて、下記の2つの方法 事前分布として一様分布を仮定した場合、事後分布か により、劣化特性を求める。 ら算出される最適値は、最尤推定値や事後分布から求1 最尤推定法により形状パラメータ m および めた算術平均値を用いて得られた最適値より小さく尺度パラメータを求める。 算されている事も分かる。これは、事前分布の影響が2 ベイズ更新の手法により、形状パラメータm 事後分布に現れている事に因るものと考えられる。即および尺度パラメータでの事後分布(確率密 ち、事後分布における故障率の比較的大きな領域での度関数)を求める(事前分布は一様分布)。 密度関数の値が、一様分布を仮定した場合の方が、対 ・m=2.5, r = 1.5×10' h により表される劣化特性の 数正規分布を用いた場合より大きくなっている事に因場合の最適な取替周期を基準として、1および2 る。なお、事前分布に対数正規分布を用いようと一様 の結果を用いて算出した取替周期を比較する。 分布を用いようと、事後分布は対数正規分布とは異な試計算結果を図1 (a)および図1 (b)に示す。図1(a) った分布となる。これは、対数正規分布では、最尤推 は、最尤推定法により求めたパラメータ m、tを用い 定値値が算術平均値と等しいとしたため、算術平均値 最適な取替周期をコスト比(C,JC)について求めた結果 と最頻値とで1桁以上の違いがあるのに対し、(14)式で を示した図である。また、図1(b)はベイズ更新により 与えた尤度関数では、最頻値が最尤推定値とほぼ等し得られたパラメータ m、t の確率密度関数を用いて、 い事に起因する。(13)式から求めた最適な取替周期をまとめた図である。 1 以上の結果をまとめると、数少ない故障しか観測さ Casell、Case12 は運転期間中に故障が2回発生した れなくても、故障回数を実際の回数に 0.5 回なり1回 場合を、Case21、Case22 は故障が5回発生した場合を 分を足して大きめに故障率を見積もれば、その値を用想定して得たデータから求めた解である。 いて最適化を図っても問題はないと評価される。コスト比(機器が故障した場合のコストに対する予防保全コスト)が大きくなるに連れて、取替周期が長く 13.2 ベイズ更新を用いた取替周期の最適化 なっている事が分かる。即ち、予防保全コストが故障 * 機器あるいは部品の適切な取替周期を求めるために時のコストに対してウェイトが増すと共に取替周期が は、機器あるいは部品の劣化特性のデータを整備する長くなっている。 必要がある。数少ない故障データから得られた劣化特 また、取替周期が短い範囲(コスト比が小さい領域) 性の信頼性は決して高いものではないが、劣化特性のでは、最尤推定法でもベイズ更新でも、(15)式の劣化特 把握には最尤推定法やベイズ推定法がある。性に対して求められた最適解に近い結果を与えており、 - ここでは、故障分布関数としてワイブル分布を想定両者に大差がない事が理解される。一方、取替周期が し、形状パラメータ m および尺度パラメータを最尤長い領域(コスト比が大きな領域)では、基準とした解と 推定法とベイズ推定法を用いて評価し、取替周期の最の差が大きくなる。これは、パラメータ m、tの僅か 適化のどのような違いが生じるかを評価検討する。 な違いが、長期間運転での劣化に仕方に大きな影響を - 解析は、下記の手順にて行う。与える事によるもので、T = 1.5×10' h に対して運転期306間を4.2×10' h と想定(劣化が進む前に交換される現 状を想定)した事に起因すると考えられる。Casell Case21取替周期標準!Case22 Case120.00010.00110.01コスト比(C,JC) 図1(a) 取替周期(最尤推定法)Case21 Caselts取替周期-Casel2 | Case22 趣雑0.0001 10.0010.01コスト比(C,JC) 図1 (6) 取替周期(ベイズ更新)4.結言実プラントでの数少ない故障データを基に、点検周 期や取替周期の最適化を図るための手法として、最尤推定法とベイズ更新の手法を取り上げ、サンプル計算 をする事により、最適化への影響を比較検討する目的 で、故障率や故障密度関数のパラメータの確率密度関 数を取り入れた最適化の定式化を行った。サンプル計 算では、点検周期の最適化については、故障分布関数 として指数分布を、取替周期の最適化ではワイブル分 布を想定し、2つの手法で、点検・取替周期にどのよ うな違いが生じるかを調べた。その結果、今回のサンプル計算の範囲では、(1)点検 周期、取替周期とも、最尤推定法でもベイズ更新の手 法でも大差の無い事が分かった。だた、常識的ではあ るが、いずれの方法を用いるにしても、故障データが 少ない限り、運転経験を大幅に越える点検・取替周期 を採用するには、注意が必要である。また、最尤推定 法にしろベイズ更新にしろ、それらの計算は容易であ るため、形式的に行う事が出来るが、そのベースには 各部品等に関する故障物理がしっかりと把握されてい る事が前提である。そうでなければ、安易に解析結果 を鵜呑みにすべきではない。参考文献[1] 笠井雅夫, ““ベイズ統計を用いた故障分布関数の更新”, 日本保全学会, 第2回学術講演会, 京都大学, 2005 年7月,pp.299-304. [2] 繁桝算男著, ““ベイズ統計入門”、東京大学出版会 [3] 三根久,河合 一著,信頼性・保全性の基礎数 12 理,日科技連, (1984) pp.151-159. [4] (財)電力中央研究所、”原子力発電所に関する確率論的安全評価用の機器故障率の算出”(1982 年度~ 1997 年度 16 ヶ年 49 基データ改訂版)、研究報告: P00001、平成 13年2月307“ “ベイズ統計を用いた点検・取替周期の最適化“ “笠井 雅夫,Masao KASAI,草刈 良至,Yoshiyuki KUSAKARI,能登谷 淳一,Junichi NOTOYA