リスク評価応用保全計画支援システムの開発
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カテゴリ: 第3回
1.緒言
・ 近年、原子力プラントの運用、特に保全活動へのリ スク情報の活用に関する検討が行われている。また、 リスク評価技術の応用だけでなく、実際のプラント運 用のためのリスク監視システムの必要性が高まってい る。当社では、炉心損傷頻度、スクラム頻度、原子炉 手動停止頻度を指標としたプラントリスク監視システ ム、更にプラント運用とリンクしたリスク監視システ ム、リスク評価技術をベースとした保全支援システム などの開発を行っている。その一環として、従来の故 障事例を基に、保全作業によるプラント信頼性向上効 果や保全活動に係るリソース等のデータやモデルを取 り込み、プラント健全性と経済性を両立させる保全計 画を支援するシステムの開発を行っている。本稿では、 本システムを用いて原子力プラントの保全作業頻度の 検討の試計算を行い、システムの評価機能を確認した ので報告する。
2. 評価手法および試評価結果* 本システムの基本構成を Fig. 1 に示す。本システム は、評価対象プラントに関して、機器故障データ、補 修期間、補修費用、検査期間、検査費用、計画外停止 による損害額、キャッシュフロー、割引率(金利)等連絡先:竹澤伸久、〒235-8523 横浜市磯子区新杉田町8、(株)東芝 電力・社会システム技術開発センター、電 話: 045-770-2353、e-mail: nobuhisa.takezawa@toshiba.co.jpを入力して、運用期間におけるシステム故障確率遷移、 総コスト(保全コストと損害額の和)、事業の正味現在 価値(NPV)をシミュレーションで評価する事により、 補修時期、補修間隔、検査時期、検査間隔、機器交換 時期、機器交換間隔、保全方法等の最適化を支援する。 * 本システムの評価手法は確率論的リスク評価手法に 基づいたもので、概要は以下の通りである。 (1)プラントの計画外停止を頂上事象として、その原因 となる設備、系統、機器の故障との関連性を表すフ ォルトツリー(FT)を構築する(Fig. 2)。31710番が当道DOR時間単位rhour店名リストファイル選択sample.datal.csv 成データファイル選択 Isample_data1.csvデータファイル選択sanple_data2.csv 保全データファイル選択 Isample.data3.csv 機器特性評価データ選択sample_input.datdateyour 計算定OK(BWRプラントて原子炉本体◆原子炉圧力容器及び戸内構造物 て原子炉冷却系統設備 ◆主蒸気系原子炉冷却材再循環系 ◆原子炉停止時冷却系 非常用炉心冷却設備 ◆残留熱除去系 ◆ 低圧戸心スプレイ系Fig. 2 プラントの系統レベルにおけるフォルトツリーの例10プラント番外停止リスクマップ 「面正集じるく影響度> 平均計画外停止時間(hour) ×10010劇界一時・タービン子機本体発生件数 く起こり易さ>Fig.3 計画外停止の発生件数と平均計画外停止時間のリスクマップによる表示例(2)公開された事故故障データベースやプラントの実績 データから、計画外停止事例の故障データを抽出し て分析することで、機器(あるいは系統)の故障率 とその故障による平均計画外停止時間を推定する(Fig. 3)。 (3)モンテカルロ法でプラントの状態遷移のシミュレー ションを行い、計画外停止発生頻度を予測する。具 体的には、機器(系統)の故障率から時間ステップ毎の 故障確率を導出し、それと乱数の大小比較によって機器 (系統)の状態を評価した上で、FT に基づいてプラン トの状態を評価する。さらに、総コストやNPV を評価 し、計画外停止発生頻度の低減と総コスト削減(NPV 増大)にとって重要な機器(系統)を評価する。NPVNPVレー* は次式によって算出される。 NPV - TCF(K)-Cu (k) -C, (K)(1+r)* ここで、k:年度 N:運用年数、 CF(k) : k 年度の保全コストと計画外停止による損害額を除いたキャッシュフロー Cy(k) : k 年度の保全コスト C,(k) : k 年度の計画外停止による損害額r:割引率(金利) である。 (4)重要な機器(系統)の補修時期、補修間隔、検査時期、 検査間隔、機器交換時期、機器交換間隔、保全方法等を パラメータとして、計画外停止発生頻度、総コスト、NPV の改善効果を予測し、投資対効果を最大化する保全計画 の策定を支援する。 今回、本システムの評価機能確認のため、ニューシ ア[1]の事故故障データベースから国内 BWR プラント の同じ型の炉に関する計画外停止事例の故障データ (1992年1月~2005年8月)を抽出・分析し、それを 用いて試評価を行った。今回はあくまでも評価機能確 認を目的とするため、故障データの分析にあたっては、 次の条件を仮定した。 (1)フォルトツリーを系統レベルで構築し、故障率と平均計画外炉停止時間を系統レベルで評価する。 (2)故障率算出にはプラント運転開始時からの正確な延べ運転時間を使う必要があるが、今回用いたデータ においてはプラント運転開始時が不明なため、1992 年1月で全プラントが新品と仮定して、延べ運転時 間を算出する。 (3)各系統について故障率一定の偶発故障を仮定する。時間計画保全時間、時間計画保全と事後保全の費用、 計画外停止による損害額、保全コストと計画外停止に よる損害額を除いたキャッシュフロー、割引率(金利) については、文献等からの推定値を仮定した (Table 1)。 - まず、計画外停止発生頻度の試評価を行った。時間 計画保全として、1年に1回、プラントを停止して全 ての機器交換を実施すると仮定した。その結果、計画 外停止発生頻度のシステムによる評価結果は実績値と 良く一致することを確認した(Fig. 4)。 1次に、機器交換の間隔をパラメータとして、保全計318画の総コストと NPV の試評価を行った。時間計画保全 ではプラントを停止して全ての機器交換を実施すると 仮定した。その結果、保全計画の総コスト (Fig. 5) と NPV(Fig.6)の比較が可能なことを確認した。Table1 試評価に用いた入力データ 項目設定?,3516(時間) 時間計画保全時間 (2004 年度の1炉当たりの計画停止時間[2]に等しいと仮定)228(万円/時間) 時間計画保全と(2004年度の総修繕費/総停止 事後保全のコスト時間[2, 3]に等しいと仮定) 計画外停止による2(億円/日) 損害額 保全コストと計画 外停止による損害112(億円/炉年) [4] 額を除いたキャッ シュフロー 「割引率(金利)5(%/年)o:システムによる評価結果 - △ : 実績値計画外停止発生頻度(/10年)BWR4RWR5o:システムによる評価結果 : 実績値BWR4BWR5計画外停止発生頻度の試評価結果と実績値--: 計画外停止による損害額+保全コスト ロー: 保全コスト 4: 計画外停止による損害額Fig.4 計画外停止発生頻度の試評価結果と実績値--: 計画外停止による損害額+保全コスト ーロー:保全コスト --: 計画外停止による損害額---------コスト(相対値/10年)------機器交換を1年に1回機器交換を2年に1回Fig. 5 機器交換を1年に1回実施と2年に1回実施におけるコストの試評価結果機器交換を1年に1回Fig. 5 機器交換を1年に1回実- サスコストの出証点正味現在価値 NPV(相対値/10年)機器交換を1年に1回機器交換を2年に1回Fig. 6 機器交換を1年に1回実施と2年に1回実施における NPV の試評価結果3.結言リスク評価技術を応用したプラント健全性と経済 性を両立させる保全計画を支援するシステムの開発 を行った。本システムを用いて原子力プラントの保全 作業頻度の検討の試計算を行い、システムの評価機能 を確認できた。 --今後の課題としては、本システムによって、運転実 績、耐用年数、故障率、状態監視データなど多様な形 で存在している実際のデータを用いて実プラントの 評価を行うことが挙げられる。参考文献[11 原子力発電情報公開ライブラリ “ニューシア““http://www.nucia.jp/. [2] 日本原子力産業会議、原子力産業新聞 2005.4.7(第2278 号). [3] 2004 年度の国内電力会社の原子力発電における修繕費の推定値を用いた. [4] 2004 年度の国内電力会社の原子力発電における営業利益と減価償却費の和の1炉当たりの額に等し いと仮定した.319
“ “リスク評価応用保全計画支援システムの開発“ “竹澤 伸久,Nobuhisa TAKEZAWA,牟田 仁,Hitoshi MUTA,中原 克彦,Katsuhiko NAKAHARA
・ 近年、原子力プラントの運用、特に保全活動へのリ スク情報の活用に関する検討が行われている。また、 リスク評価技術の応用だけでなく、実際のプラント運 用のためのリスク監視システムの必要性が高まってい る。当社では、炉心損傷頻度、スクラム頻度、原子炉 手動停止頻度を指標としたプラントリスク監視システ ム、更にプラント運用とリンクしたリスク監視システ ム、リスク評価技術をベースとした保全支援システム などの開発を行っている。その一環として、従来の故 障事例を基に、保全作業によるプラント信頼性向上効 果や保全活動に係るリソース等のデータやモデルを取 り込み、プラント健全性と経済性を両立させる保全計 画を支援するシステムの開発を行っている。本稿では、 本システムを用いて原子力プラントの保全作業頻度の 検討の試計算を行い、システムの評価機能を確認した ので報告する。
2. 評価手法および試評価結果* 本システムの基本構成を Fig. 1 に示す。本システム は、評価対象プラントに関して、機器故障データ、補 修期間、補修費用、検査期間、検査費用、計画外停止 による損害額、キャッシュフロー、割引率(金利)等連絡先:竹澤伸久、〒235-8523 横浜市磯子区新杉田町8、(株)東芝 電力・社会システム技術開発センター、電 話: 045-770-2353、e-mail: nobuhisa.takezawa@toshiba.co.jpを入力して、運用期間におけるシステム故障確率遷移、 総コスト(保全コストと損害額の和)、事業の正味現在 価値(NPV)をシミュレーションで評価する事により、 補修時期、補修間隔、検査時期、検査間隔、機器交換 時期、機器交換間隔、保全方法等の最適化を支援する。 * 本システムの評価手法は確率論的リスク評価手法に 基づいたもので、概要は以下の通りである。 (1)プラントの計画外停止を頂上事象として、その原因 となる設備、系統、機器の故障との関連性を表すフ ォルトツリー(FT)を構築する(Fig. 2)。31710番が当道DOR時間単位rhour店名リストファイル選択sample.datal.csv 成データファイル選択 Isample_data1.csvデータファイル選択sanple_data2.csv 保全データファイル選択 Isample.data3.csv 機器特性評価データ選択sample_input.datdateyour 計算定OK(BWRプラントて原子炉本体◆原子炉圧力容器及び戸内構造物 て原子炉冷却系統設備 ◆主蒸気系原子炉冷却材再循環系 ◆原子炉停止時冷却系 非常用炉心冷却設備 ◆残留熱除去系 ◆ 低圧戸心スプレイ系Fig. 2 プラントの系統レベルにおけるフォルトツリーの例10プラント番外停止リスクマップ 「面正集じるく影響度> 平均計画外停止時間(hour) ×10010劇界一時・タービン子機本体発生件数 く起こり易さ>Fig.3 計画外停止の発生件数と平均計画外停止時間のリスクマップによる表示例(2)公開された事故故障データベースやプラントの実績 データから、計画外停止事例の故障データを抽出し て分析することで、機器(あるいは系統)の故障率 とその故障による平均計画外停止時間を推定する(Fig. 3)。 (3)モンテカルロ法でプラントの状態遷移のシミュレー ションを行い、計画外停止発生頻度を予測する。具 体的には、機器(系統)の故障率から時間ステップ毎の 故障確率を導出し、それと乱数の大小比較によって機器 (系統)の状態を評価した上で、FT に基づいてプラン トの状態を評価する。さらに、総コストやNPV を評価 し、計画外停止発生頻度の低減と総コスト削減(NPV 増大)にとって重要な機器(系統)を評価する。NPVNPVレー* は次式によって算出される。 NPV - TCF(K)-Cu (k) -C, (K)(1+r)* ここで、k:年度 N:運用年数、 CF(k) : k 年度の保全コストと計画外停止による損害額を除いたキャッシュフロー Cy(k) : k 年度の保全コスト C,(k) : k 年度の計画外停止による損害額r:割引率(金利) である。 (4)重要な機器(系統)の補修時期、補修間隔、検査時期、 検査間隔、機器交換時期、機器交換間隔、保全方法等を パラメータとして、計画外停止発生頻度、総コスト、NPV の改善効果を予測し、投資対効果を最大化する保全計画 の策定を支援する。 今回、本システムの評価機能確認のため、ニューシ ア[1]の事故故障データベースから国内 BWR プラント の同じ型の炉に関する計画外停止事例の故障データ (1992年1月~2005年8月)を抽出・分析し、それを 用いて試評価を行った。今回はあくまでも評価機能確 認を目的とするため、故障データの分析にあたっては、 次の条件を仮定した。 (1)フォルトツリーを系統レベルで構築し、故障率と平均計画外炉停止時間を系統レベルで評価する。 (2)故障率算出にはプラント運転開始時からの正確な延べ運転時間を使う必要があるが、今回用いたデータ においてはプラント運転開始時が不明なため、1992 年1月で全プラントが新品と仮定して、延べ運転時 間を算出する。 (3)各系統について故障率一定の偶発故障を仮定する。時間計画保全時間、時間計画保全と事後保全の費用、 計画外停止による損害額、保全コストと計画外停止に よる損害額を除いたキャッシュフロー、割引率(金利) については、文献等からの推定値を仮定した (Table 1)。 - まず、計画外停止発生頻度の試評価を行った。時間 計画保全として、1年に1回、プラントを停止して全 ての機器交換を実施すると仮定した。その結果、計画 外停止発生頻度のシステムによる評価結果は実績値と 良く一致することを確認した(Fig. 4)。 1次に、機器交換の間隔をパラメータとして、保全計318画の総コストと NPV の試評価を行った。時間計画保全 ではプラントを停止して全ての機器交換を実施すると 仮定した。その結果、保全計画の総コスト (Fig. 5) と NPV(Fig.6)の比較が可能なことを確認した。Table1 試評価に用いた入力データ 項目設定?,3516(時間) 時間計画保全時間 (2004 年度の1炉当たりの計画停止時間[2]に等しいと仮定)228(万円/時間) 時間計画保全と(2004年度の総修繕費/総停止 事後保全のコスト時間[2, 3]に等しいと仮定) 計画外停止による2(億円/日) 損害額 保全コストと計画 外停止による損害112(億円/炉年) [4] 額を除いたキャッ シュフロー 「割引率(金利)5(%/年)o:システムによる評価結果 - △ : 実績値計画外停止発生頻度(/10年)BWR4RWR5o:システムによる評価結果 : 実績値BWR4BWR5計画外停止発生頻度の試評価結果と実績値--: 計画外停止による損害額+保全コスト ロー: 保全コスト 4: 計画外停止による損害額Fig.4 計画外停止発生頻度の試評価結果と実績値--: 計画外停止による損害額+保全コスト ーロー:保全コスト --: 計画外停止による損害額---------コスト(相対値/10年)------機器交換を1年に1回機器交換を2年に1回Fig. 5 機器交換を1年に1回実施と2年に1回実施におけるコストの試評価結果機器交換を1年に1回Fig. 5 機器交換を1年に1回実- サスコストの出証点正味現在価値 NPV(相対値/10年)機器交換を1年に1回機器交換を2年に1回Fig. 6 機器交換を1年に1回実施と2年に1回実施における NPV の試評価結果3.結言リスク評価技術を応用したプラント健全性と経済 性を両立させる保全計画を支援するシステムの開発 を行った。本システムを用いて原子力プラントの保全 作業頻度の検討の試計算を行い、システムの評価機能 を確認できた。 --今後の課題としては、本システムによって、運転実 績、耐用年数、故障率、状態監視データなど多様な形 で存在している実際のデータを用いて実プラントの 評価を行うことが挙げられる。参考文献[11 原子力発電情報公開ライブラリ “ニューシア““http://www.nucia.jp/. [2] 日本原子力産業会議、原子力産業新聞 2005.4.7(第2278 号). [3] 2004 年度の国内電力会社の原子力発電における修繕費の推定値を用いた. [4] 2004 年度の国内電力会社の原子力発電における営業利益と減価償却費の和の1炉当たりの額に等し いと仮定した.319
“ “リスク評価応用保全計画支援システムの開発“ “竹澤 伸久,Nobuhisa TAKEZAWA,牟田 仁,Hitoshi MUTA,中原 克彦,Katsuhiko NAKAHARA