複雑形状欠陥の渦電流探傷による新しい深さサイジング法

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カテゴリ: 第3回
1.緒言
きない場合がある。このため、欠陥内部の導電率を仮 - 近年、化学プラントや原子力発電プラントの高経年 定した逆解析による深さサイジング法や、複雑・複 化に伴い、各種構造物の検査や診断が重要になってき 数の欠陥形状を事前知識として導入した逆解析による ている。なかでも、原子力発電プラントでは応力腐食深さサイジング法(8)などが試みられている。しかしな 割れ(SCC)が相次いで発見されたことを契機にして、 がら、これらの手法はいずれも導電率の分布や欠陥の 「維持規格」の整備が精力的に進められるようになり、数などの事前知識が必要である。このため、筆者らは、 これに付随して、SCC の検出・サイジング技術の研究 複数の計測周波数で得られるECT信号の線形結合で構 開発が広く進められている。超音波探傷法は、この欠成する「深さサイジング指標」という仮想信号を導入 陥サイジング技術として、最も実用性・信頼性の高いし、その係数を最適化することで、導電率に影響され 方法として期待されており、様々な検証試験を通してずに深さのみに依存する指標を作ることができること の標準化・規格化が進められているが、これと平行しを示した9,10。しかしながら、この指標も、欠陥形状の て、この超音波探傷法を補完し、より信頼できる検査 複雑さには影響されてしまう。 を行うために、渦電流探傷法(ECT)の開発も精力的 - 本報告では、SCC 深さサイジングへの影響因子とし に進められている(1~6)。て重要な欠陥形状の中で、特に、近接並行欠陥の深さ - ECT は、本来は表面付近の微細な欠陥の検出に用いサイジングの問題を解決する手段を検討する。前報に られるものであるが、近年、電磁場の浸透深さをより ならった深さサイジング指標を導入し、その係数を最 深くした渦電流プローブの開発、電磁界解析と組み合適化することで、近接並行欠陥の本数や欠陥開口幅に わせた欠陥サイジング法の開発などによって、5-10mm 影響されず、深さのみに依存する指標が構成できるこ にいたる欠陥深さの計測が可能になりつつある(1,3)。し とを示す。前報では、導電率変化への感度を最小に、 かしながら、ECT により SCC のような欠陥の深さサイ深さ変化への感度を最大にする条件を評価尺度として、 ジングを行う場合、1欠陥内の部分接触による通電の 深さサイジング指標を求めたが、今回は、深さ予測誤 影響があること、2分岐・曲がり・複数並行欠陥など複 差を最小にするというもう少し直接的な評価尺度で、 雑な形状であること、という二つの主要因によって出 欠陥形状に依存しない指標を求めることを試みる。電磁界解析により作成したデータと、インコネル試験片 連絡先: 兼本 茂(会津大学コンピュータ理工学部)、に加工した近接並行 EDM スリットのデータを用いて、 〒965-8580 会津若松市一箕町鶴賀、電話: 深さサイジング指標の作成と検証を行った。 0242-37-2501、e-mail: kanemoto@u-aizu.ac.jp
もちろん、最終的なゴールは、前述の SCC 深さサイ
Shigeru KANEMOTO Member 程 衛英 Weiying CHENG Member 古村 一朗 Ichiro KOMURA Member - 342ジングの二つの主要因である部分通電と複雑形状の影 響の両方を緩和する深さサイジング指標の確立である が、これは将来の課題として、その第一歩として、各 要因の深さサイジング手法の検討は重要と考える。 2. 近接並行欠陥の影響 ・・いいなーい - me , ・・・・、 ルー 定である。まず、欠陥の表面を走査した際の ECT 計測信号を下 記のように表す。y = var (xy),y(x)““, ここで、サフィックスの am と ph は、ECT 信号の振幅 と位相を、「は、k番目の探傷周波数を、x, は、1番 * 本論文では、近接並行欠陥の深さサイジングに着目 した検討を進める。計測に用いるプローブの大きさよ りも小さい範囲の中で、近接して並行に入った欠陥が ある場合、ECT 信号のCスキャン表示では一本の欠陥 に見えてしまうが、信号の振幅は、同じ深さの一本だ けの欠陥より大きくなってしまう。Fig.1 には、2mm と 4mm の単独欠陥(インコネル試験片に EDM 加工で作 成したスリットで、長さ 20mm、開口幅 0.2mm)のリ サージュ波形を、1mm 間隔で平行に入れた深さ 2mm の近接並行欠陥(長さと開口幅は単独欠陥と同じ)と 比べたものを示す。計測は、400kHz の探傷周波数でク ロスコイル型プローブを用いた。この結果から、振幅 だけに着目した深さサイジングをしてしまうと、2mm の平行欠陥を 4mm の単独欠陥と間違えてしまう可能 性があることが分かる。しかしながら、リサージュ波 形のパターンの違いを定量化できれば、正しい深さサ イジングができる可能性がある。小島らは、欠陥本 数を事前知識として与えて深さサイジングする方法を 提案しているが、もし、この様な知識なしに深さサイ ジングすることが可能であれば、実用上のメリットは 大きい。本論文の目的は、このような事前知識を用い ずに深さサイジングをする方法の提案である。と位相を、「は、k番目の探傷周波数を、x,は、1番目の走査位置とする。このとき、c を y と同じ次元の 未知係数として、下記の線形結合によるパラメータ S を深さサイジング指標として定義する。S=c*y-2この深さサイジング指標 Sが、欠陥形状や本数によら ず深さのみに感度を持つ仮想信号として求まれば、欠 陥深さd と s の校正曲線を事前に作っておくことで、 計測データから深さサイジングができることになる。 本論文では、深さに応じて信号が飽和する一般的傾向 を考慮して、下記の 2 次式による校正曲線を用いるも のとする。To=2mm(2 Slit parallel)ImaginaryD=4mm011cm2 RealFig. 1 Comparison of ECT signals of different depthcracks.d pred = a, xSxS +a, XS+azここで、a, -a,は校正データから求めるフィッティング係数で、dpresは、深さの推定値である。(2)式の係数cの決め方は、前報では、導電率への感度を最小に するという条件を用いたが、本報告では、下記の予測 誤差を最小にする条件とする。a = -12 (40mm --doprad)-4N==1ここで、N は学習データのケース数である。一方、 (2)式で用いる観測信号は、計測周波数、走査位置、- 343 -3. 深さサイジング指標の導出- 前報(9,100では、導電率の影響を最小限にする深さサイ ジング指標を最適化法で求め、これを用いた深さサイ ジングにより、異なる導電率の欠陥の深さを精度よく サイジングできることを示した。本論文では、この基 本的な考え方は踏襲する。すなわち、欠陥の深さのみ に感度を持つ深さサイジング指標が存在するという仮 定である。まず、欠陥の表面を走査した際の ECT 計測信号を下 記のように表す。y = [van (xy),ya(x)““,(1) ここで、サフィックスの am と ph は、ECT 信号の振幅 と位相を、「は、k番目の探傷周波数を、x, は、1番 dorea = 4, × SxS + a, × S + as (3) a - a, は校正データから求めるフィッティン振幅、位相などから多様な組み合わせが選択可能で ある。この中で適切なモデルを選択するために、下 記の赤池情報量基準を用いる。AIC = N logo? +2p ここで、pは係数 c の次元である。すなわち、パラメ ータ数が多いほどペナルティを課し、できるだけ小さ いモデルを選択するという考え方である。4.検証結果近接並行欠陥の深さサイジングの検証を目的に、イ ンコネル 600 試験片 (300mmx122mmx10mm 厚)を用 いて、Table.1 に示すような 10種類の EDM スリットを 作成した。深さ 2.6mm の欠陥と間隔 1-3mm の近接並 行欠陥の他に、欠陥の開口幅(0.2、0.4mm)や欠陥形 状(矩形、三角、楕円)も作成し、多様な形状の欠陥 を模擬している。これらの異なる種類の欠陥に対して 正しい深さサイジングをする普遍的な指標を発見する ことが本論文の目的となる。Table 1 Slit Types in Test Piece for Depth Sizing 番号深さ 幅 「欠陥長さ形状「欠陥数「欠陥間隔] 2mm | 0.2mm | 20mm 「矩形」 1. 12 2mm 0.4mm 20mm 「矩形4mm 0.2mm 20mm 「矩形」 2mm 0.2mm20mm拓形| 21.1mm 2mm 0.2mm 20mm |矩形 '2:12mm 6mm 0.2mm 20mm |矩形」2mm 0.2mm 1 20mm 「三角 |8 | 2mm | 0.2mm | 20mm 楕円 91 2mm | 0.2mm 120mm 「矩形3mm 10 4mm | 0.2mm | 20mm | 矩形| 1mm|3|4|5|6||11122- これらの各欠陥の計測は、5mm 外径のクロスコイル 型プローブと多重周波数 ECT 信号計測装置 (RD-Tech、 MultiScan MS5800)を用いて行い、400、200、100、50kHz の4通りの周波数のデータを取得した。プローブの走 査は、欠陥を囲む 40mmx40mm の領域で行ったが、そ の中で、欠陥中央部を直交して走査した一次元方向の データのみを今回の解析では用いている。さらに、深 さサイジング手法の普遍性を確認するために、上記の 試験データと同じ計測を電磁界解析で模擬した結果も 用いている。模擬した欠陥形状の種類が限られている ため、解析によるデータから深さサイジング指標を求 め、その指標を試験データで検証することで、手法の 普遍性が高められると考えた。また、解析と試験の結果を同じ校正曲線で扱えることが確認できれば、将来 的には、解析で多様な欠陥形状を模擬し、そこから深 さサイジング指標を作ることで、試験だけではできな い普遍性の高い結果を得ることが出来る。(2)式の深さサイジング指標の導出に当たっては、(1) 式の ECT 計測信号を具体化する必要がある。このため に、複数の周波数で計測された ECT 信号から、リサー ジュ波形を代表する特徴量として、Table.2 に示すよう な7ケースの組み合わせパターンを選んだ。ここで、 計測周波数は 400kHz と 100kHz を選択し、また、計測 信号の実部・虚部を振幅と位相に変換した量を用いる。 更に、リサージュ波形を代表する量として、最大振幅 を与える走査位置での値と、その半値となる走査位置 での値を含めて、合計8種類の計測信号を定義した。 さらに、この中から表に示すような 2-8 信号の組み合 わせパターンを7ケース定義し、この中から最適な深 さサイジング指標を探索することとした。Table.2Combination of ECT signals for Depth SizingIndex Construction 400W211FrequencySignalAmplitudePhaseAmplitudePhaseAmplitudePhaseAmplitudePhaseRosition OaseMax/2Max/2MaxMaxMax/2Max/212345a7| |0| || logoooool||| QQ||| || la logtoto Foto100探索手順としては、まず、Table.2 の7ケースの観測 パターンについてそれぞれ Table.1 の 10通りの試験デ ータ(電磁界解析による結果)を用いて(4)式を最小に する深さサイジング係数cと構成係数 a を求める(学 習データ、Analysis と記載)。さらに、この係数を、イ ンコネル試験片で得た同じ 10 通りのデータを用いて 深さサイジングを行い、(4)(5)式の予測誤差と AIC を評 価する。これらの結果をまとめたものが、Table.3 であ る(テストデータ、Test Piece と記載)。表内に、AIC 最小のケースを下線で示しておいた。なお、予測誤差 に関しては平方根をとった値を RMS として示してい る。これより、学習データで最小値となるケース7(8 種の計測信号を全て利用)は、テストデータでは必ず しも最小値とならないことがわかる。学習データへの 過渡の適合となったためといえる。一方、ケース6が、 テストデータでの最小値を与えている。これは、400kHz- 344 -と 100kHz の二つの周波数の振幅と位相差を用いるケ ースであり、深さサイジング指標は下記のようになっ た。S=-27.8yamaookin-9.5ya100x12-7.4yam100km +21.3ya100kmこの深さサイジング指標と深さ推定値の結果を Fig.2(a)に示す。丸印は学習データの結果であり、×印 はテストデータの結果であるが、いずれのデータに関 しても、1mm 程度の誤差範囲内で深さ推定が良好に行 われていることがわかる。一方、ケース7の結果を Fig.2(b)に示すが、学習データでの深さ予測の結果は良 好であるが、テストデータでの結果が劣化しているこ とがわかる。また、二つのパラメータの中で最良であ るケース4 (400kHz と 100kHz の位相差)の結果を Fig.2(c)に示すが、これも、妥当な深さ推定値が得られ ている。このときの深さサイジング指標は下記のよう に得られている。S = -4.76yonaokin+ 7.08 y100kHzこの係数の有効性を見るため、単純な位相差による深 さサイジング結果を Fig.2(d)に示した。最適化手法を使 うことで大きな精度向上となっていることがわかる。Table 3 Results of Depth Prediction Error and AICCaseRMSAIC Number of ParameterTest AnalysisTest Analysis Piece ||Ple ce 0.920 0.916 .935 22.254 0.663 | 0.558 | -4.223 | -7,6770.860 | 0584 | 0.975 -6.771 10.235 | 0.537 | -24.956 , -8.4270.234 | 1.137 | -21.003 | 10.5630.187 | 20132 | -21.426 | -20.580 101130.427 | -28.175 | 0.328114.150x0000Sizing IndexDepth Prediction(mm)XXDepth(mm)Depth(mm)Ian Cocok (a) Case.6-1650x00xx CDSizing IndexDepth Prediction(mm)246 Depth(mm)246 Depth(mm)gxxxR 800Sizing IndexDepth Prediction(mm)00×1024624 61 Depth(mm)Depth(mm) hars-18301124Depth(mm)Depth(mm)(6) Case.7xSizing IndexDepth Prediction(mm)oxxx0024 Depth(mm)246 Depth(mm)(c) Case 4Sizing IndexoxO0wxODepth Prediction(mm)02468Depth(mm)Depth(mm) (d) Phase Difference (S = yph400kHz - yph\00kHz) Fig.2 Depth Sizing Index(Left) and Depth Prediction Results(Right) (Circle: Analysis, Cross: Test Piece)5.結言- 近接平行欠陥を含む複雑形状欠陥の深さサイジング を行う方法を提案した。欠陥の本数や形状に影響され ず深さのみに感度を持つ深さサイジング指標を最適化 法で求めるが、その際、赤池情報量基準(AIC)を用 いて最適なモデルを選択することで、より普遍性のあ345るサイジング方法にすることができた。手法の妥当性 は、EDM スリットを付与した試験片を用いた計測と、 対応する電磁界解析による模擬データを用いて行った。 - 今回は、限られた種類の欠陥のみでの検証結果であ るが、電磁界解析を利用することで、多様な欠陥を模 擬して、そこから普遍的な深さサイジング指標を構築 することで、より実用性の高いサイジング手法を確立 できると考えられる。特に、SCC 深さサイジング法と して確立するためには、複雑形状という要因に加えて、 欠陥内の部分接触による導電率の変化も含めて、普遍 的な深さサイジング指標を探索してゆく必要があるが、 これは今後の課題としたい。参考文献 「11 高木敏行、遠藤久、”厚肉構造物のための渦電流探|傷技術”、非破壊検査、Vol.53、No.10、2004、pp.602-607. [2] 小島史男、渦電流探傷シミュレータと逆問題解析”、非破壊検査、Vol.53、No.10、2004、pp.596-601. [3] ラディスラブヤノーセック、陳振茂、遊佐訓考、宮健三、厚肉材に渦電流探傷法を適用するための 新しい励磁手法の提唱”、非破壊検査、Vol.54、No.4、 2005、pp.206-211.[4] W. Cheng, I. Komura and M. Shiwa, “Eddy CurrentExamination of Fatigue Cracks in Inconel Welds”, under the review of Journal of Pressure vesseltechnology since May, 2005. [5] W. Cheng and K. Miya, “Reconstruction of ParallelCracks by ECT”, International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics Vol.14, 2001/2002 ,pp495-502. [6] 兼本茂、程衛英、志波光晴、古村一朗、“渦電流探傷における欠陥形状復元のための新しい信号処理法”、保全学、Vol.5、No.1、2006、pp.63-70. [7] N. Yusa, Z. Chen, K. Miya, T. Uchimoto and T. Takagi ,“Large-scale parallel computation for the reconstruction of natural stress corrosion cracks from eddy current testing signals”, NDT&E International, Vol.36, 2003,pp.449-459. [8] 小島史男、池田拓也、““渦電流探傷法における階層型自然き裂モデルによるき裂診断解析法”、日本保全学会、第2回学術講演会要旨集、2005 、pp.81-82. [9] W.Cheng, S.Kanemoto, I.Komura and M.Shiwa 、“Depth Sizing of Partial-Contact Stress Corrosion Cracks from ECT Signals”, NDT&E International,Vol. 39、 Issue 5、 2006、pp.374-383. [10] 兼本茂、程衛英、志波光晴、古村一朗、”部分接触 SCC の渦電流探傷による新しい深さサイジング 法”、保全学、投稿中(2006).346“ “複雑形状欠陥の渦電流探傷による新しい深さサイジング法“ “兼本 茂,Shigeru KANEMOTO
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