炉内構造物検査用の渦電流探傷技術の開発
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カテゴリ: 第3回
1.緒言
原子力発電プラントの高経年化に伴い、各種構造物 の検査・診断の重要性が増してきている。各種構造物 のうち炉内機器の検査においては、まず目視試験(V T)を実施し、インディケーションが検出され、ひび かどうかの確認後、ひびの場合には超音波探傷試験(U T)によりひび深さを確認している。しかし、UTの 場合には、曲率を有する金属表面・表層部においては ひびの形状(特に長さ)を把握することが難しい場合 がある。一方、金属表面・表層部の検査技術として、伝熱管 検査などに渦電流探傷試験(ECT)が適用されている。 また、ECTの高速検査のためにマルチコイルプローブ も開発、実用化されている[1] [2]。しかし、曲率半径 20mm までをひとつのプローブで対応可能としたもの は無く、さらに、ECTによりひびの長さを評価する技 術は確立されていない。そこで本研究では、原子炉内の曲率を有する複雑形 状部に適用可能なフレキシブルマルチコイルプローブ を開発し、このプローブによる検出性とひび長さ評価 法に関して検討した。以下、その結果を報告する。
Tetsuya MATSUI Member,善夫 Yoshio NONAKA、2. フレキシブルマルチコイルプローブフレキシブルマルチコイルプローブは、エッチング による配線を施したフィルム基板をベースとして、そ の上に複数のコイルを配置した構造とすることで、平 面から曲面部の表面に密着させることができる。コイ ル部には、結線部の防水処理及びコイルの保護を目的 に、可撓性樹脂でコーティングが施されている。開発 したプローブは、Fig.1 に示すように、十分な可撓性を 持つことが分かる。次に、曲率半径 20mm の曲面に放 電加工スリットを付与した試験体を用いて、このプロ ーブの検出性を確認した。Fig.2 に試験体及び周波数 100kHzで1ライン走査して得られたCスコープ像を示 す。この C スコープ画像より、曲面においても深さ1 ~5mm のスリットを十分な感度で検出できることが 分かる。Bend the probeArrayed multi-coilScanningPrinted lineflexible base plate Fig. 1 Flexible multi-coil ECT probe350SUS304ProbeDepth5mm3mm1 mm(a) Specimen (radius of curvature:20mm)Depth:5mm3mm1mm150mm (b) C scope image Performance on curved surfaceFig. 23.長さ評価方法Fig.3 に、放電加工スリットの上部を通過するマルチ コイルプローブ1 要素(図中白色)の検出電圧の長さ 方向分布を示す。検出電圧の分布は、スリット両端で 高くなる特徴を持つことから、この特徴に着目して、 デシベルドロップ法によるひび長さ評価方法を開発し た。Output (V)Probe・ Specimen 1Fig. 3 Output voltage with flexible multi-coil ECT probeFig.4 に、深さと形状(矩形と半楕円)が異なる長さ 5~40mm の放電加工スリットに対して、長さ評価 を実施した例を示す。この試験結果により、スリット 長さを誤差±3mm 以内の精度で評価できることが分 かる。また、このプローブの検出電圧を利用した長さ 評価法は、ひびの形状、深さの影響も小さいことから、 応力腐食割れの長さ評価に有効であると考えられる。50EDM slit shaperectangle A:semiellipse+3mm / __ (40,10)・ -3mmEstimated length (mm)(20,10)(30,5) (11.8,5)--/- (20,10)-------(Length[mm],Depth[mm]) _ 10_ 20_ 30_ 40_ 50Actual length (mm)(110Fig.4Length sizing result4.結言*1) 原子炉内の複雑形状部位を検査する渦電流探傷プローブとして、曲率半径 20mm まで密着可能なフ レキシブル性を持つマルチコイル渦電流プローブを開発した。 2) 曲面への適用性として、曲率半径 20mm の曲面部に付与した深さ1~5mm の放電加工スリットを検出できることを確認した。 3) 長さ評価法として、デシベルドロップ法による試験を実施した結果、±3mm の誤差で長さを評価で きることを確認した。参考文献 [1] 川田かよ子、川瀬直人、黒川政秋、浅田義浩、“インテリジェント ECT システム(蒸気発生器伝熱管 検査用新型 ECT(渦流探傷)システム”、検査技術6月号(2005)、 pp.66-72. [2] 江原英治、“渦流アレイ探傷技術の生産ラインへの適用““、第8回表面探傷シンポジウム講演論文集、 pp.121-126、2006.351“ “炉内構造物検査用の渦電流探傷技術の開発“ “西水 亮,Akira NISHIMIZU,松井 哲也,Tetsuya MATSUI,小池 正浩,Masahiro KOIKE,吉田 功,Isao YOSHIDA,野中 善夫,Yoshio NONAKA
原子力発電プラントの高経年化に伴い、各種構造物 の検査・診断の重要性が増してきている。各種構造物 のうち炉内機器の検査においては、まず目視試験(V T)を実施し、インディケーションが検出され、ひび かどうかの確認後、ひびの場合には超音波探傷試験(U T)によりひび深さを確認している。しかし、UTの 場合には、曲率を有する金属表面・表層部においては ひびの形状(特に長さ)を把握することが難しい場合 がある。一方、金属表面・表層部の検査技術として、伝熱管 検査などに渦電流探傷試験(ECT)が適用されている。 また、ECTの高速検査のためにマルチコイルプローブ も開発、実用化されている[1] [2]。しかし、曲率半径 20mm までをひとつのプローブで対応可能としたもの は無く、さらに、ECTによりひびの長さを評価する技 術は確立されていない。そこで本研究では、原子炉内の曲率を有する複雑形 状部に適用可能なフレキシブルマルチコイルプローブ を開発し、このプローブによる検出性とひび長さ評価 法に関して検討した。以下、その結果を報告する。
Tetsuya MATSUI Member,善夫 Yoshio NONAKA、2. フレキシブルマルチコイルプローブフレキシブルマルチコイルプローブは、エッチング による配線を施したフィルム基板をベースとして、そ の上に複数のコイルを配置した構造とすることで、平 面から曲面部の表面に密着させることができる。コイ ル部には、結線部の防水処理及びコイルの保護を目的 に、可撓性樹脂でコーティングが施されている。開発 したプローブは、Fig.1 に示すように、十分な可撓性を 持つことが分かる。次に、曲率半径 20mm の曲面に放 電加工スリットを付与した試験体を用いて、このプロ ーブの検出性を確認した。Fig.2 に試験体及び周波数 100kHzで1ライン走査して得られたCスコープ像を示 す。この C スコープ画像より、曲面においても深さ1 ~5mm のスリットを十分な感度で検出できることが 分かる。Bend the probeArrayed multi-coilScanningPrinted lineflexible base plate Fig. 1 Flexible multi-coil ECT probe350SUS304ProbeDepth5mm3mm1 mm(a) Specimen (radius of curvature:20mm)Depth:5mm3mm1mm150mm (b) C scope image Performance on curved surfaceFig. 23.長さ評価方法Fig.3 に、放電加工スリットの上部を通過するマルチ コイルプローブ1 要素(図中白色)の検出電圧の長さ 方向分布を示す。検出電圧の分布は、スリット両端で 高くなる特徴を持つことから、この特徴に着目して、 デシベルドロップ法によるひび長さ評価方法を開発し た。Output (V)Probe・ Specimen 1Fig. 3 Output voltage with flexible multi-coil ECT probeFig.4 に、深さと形状(矩形と半楕円)が異なる長さ 5~40mm の放電加工スリットに対して、長さ評価 を実施した例を示す。この試験結果により、スリット 長さを誤差±3mm 以内の精度で評価できることが分 かる。また、このプローブの検出電圧を利用した長さ 評価法は、ひびの形状、深さの影響も小さいことから、 応力腐食割れの長さ評価に有効であると考えられる。50EDM slit shaperectangle A:semiellipse+3mm / __ (40,10)・ -3mmEstimated length (mm)(20,10)(30,5) (11.8,5)--/- (20,10)-------(Length[mm],Depth[mm]) _ 10_ 20_ 30_ 40_ 50Actual length (mm)(110Fig.4Length sizing result4.結言*1) 原子炉内の複雑形状部位を検査する渦電流探傷プローブとして、曲率半径 20mm まで密着可能なフ レキシブル性を持つマルチコイル渦電流プローブを開発した。 2) 曲面への適用性として、曲率半径 20mm の曲面部に付与した深さ1~5mm の放電加工スリットを検出できることを確認した。 3) 長さ評価法として、デシベルドロップ法による試験を実施した結果、±3mm の誤差で長さを評価で きることを確認した。参考文献 [1] 川田かよ子、川瀬直人、黒川政秋、浅田義浩、“インテリジェント ECT システム(蒸気発生器伝熱管 検査用新型 ECT(渦流探傷)システム”、検査技術6月号(2005)、 pp.66-72. [2] 江原英治、“渦流アレイ探傷技術の生産ラインへの適用““、第8回表面探傷シンポジウム講演論文集、 pp.121-126、2006.351“ “炉内構造物検査用の渦電流探傷技術の開発“ “西水 亮,Akira NISHIMIZU,松井 哲也,Tetsuya MATSUI,小池 正浩,Masahiro KOIKE,吉田 功,Isao YOSHIDA,野中 善夫,Yoshio NONAKA