フェーズドアレイ UT の RV セーフエンドへの適用
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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
PWR 型原子力プラントにおいて原子炉容器供用期間 中検査(以下 RV-ISI)は,維持規格に従い 10 年毎に所 定の範囲を体積検査する必要があり、UT を実施している。 RV-ISI は作業員のアクセスが困難な高線量環境下での検 査であるため、遠隔自動装置を用いた探傷が必要であり, 当社では水中自航式ロボット等を用いたシステムである Advanced UT(ACUT)マシン(Fig. 1)を用いて検査を実施 している。
一方, RV-ISI は定期検査においてクリティカル工程で あるため,定検工程短縮のニーズが高まっている。A-UT マシンでは、検査の実施にあたり航行による各 探傷箇所への位置決めを実施している。また、規定の要 求に適合した超音波探傷を実施するため,各検査箇所に 応じた探触子を搭載した探触子板の交換を実施し,検査 を行っている。これらの作業時間を短縮することで,全 体の探傷工程の短縮を実現することが可能となる。ここでは, フェーズドアレイ UT を用いたRV-ISI にお ける探傷工程短縮のための取り組みについて紹介する。2. 問題点とねらいA-UT マシンは、初期は水中台車1台で検査を実施し ていたが、航行管理を徹底することにより2台保傷が可 能になっている。 2 台の水中台車は互いに互換性がある が,主に容器胴部の溶接線を探傷する水中台車 No.1 と, 管台部を探傷する水中台車 No.2 とに分けた運用として いる。管台検査は,対象の形状が複雑であること,胴部 と比較して曲率が小さいこと等から,様々な種類の超音 波探触子を適用するため,多くの探触子板を必要とする。 このため、探触子板の交換回数及び各管台へのアクセス 回数が増え,探傷工程を増加させることとなる。特に, セーフエンド部に対しては,曲率が小さいことから,周 方向探傷用,軸方向探傷用の2式の探触子板を用いてい るため、探触子板の交換及び各管台へのアクセス回数が373多くなっている。これに対し,探傷屈折角を電子的に制御できるフェー ズドアレイ UT に着目すると,1つの探触子で複数の探 傷屈折角の超音波を入射することが可能となる。 探傷方向の違いによって2式の探触子板を用いているセ ーフエンド部に対してフェーズドアレイ UT を適用する ことで探触子数を削減し,探触子板を1式に削減するこ とが可能となり(Fig 2), 1回のアクセスで周・軸方向の 探傷を実現することが可能となる。Holder1(circumferential) Holder2(axial) Conventional probe holder:0°Phased array probe holder(axial and circumferential) Fig. 2 Concept of probe arrangement for phased array3. フェーズドアレイ UT 適用性試験3.1 探触子仕様本取り組みで開発したフェーズドアレイ UT 探触子の 仕様を Table 1 に示す。現状の手法では超音波難透過材 であるセーフエンド部に対して有効な手法である垂直法, ・縦波斜角45°,70°を適用しているが,フェーズドアレ イ UT では、現行法に相当する超音波の入射を可能とす る仕様とし,さらに超音波を集束させることにより検出 性を向上させることを狙って探触子を開発した。Table 1 Specification of probe for RV safe end 周波数1.5MHz モード縦波 屈折角0°~70° ・0°・縦波 45°相当 使用集束点を内表面近傍,板厚 屈折角中央部,外表面近傍に設定 ・縦波 70°相当集束点を内表面近傍に設定 チャンネル数 送受信とも 16ch×2列 探触子サイズ 1 60×60×52.5mm3.2 探触子板本取り組みで開発製作した探触子板を Fig 3 に示す。探 触子板は、マニピュレータの可搬重量を考慮した小型化 を図り,管台内面への倣い機構を有している。また,探 触子は他の探触子との音波の干渉を回避する配置とした。Fig.3Photograph of probe and probe holder3.3 適用性の確認試験 -3.2項に示した探触子板を A-UT マシンで使用してい る7軸マニピュレータに搭載し,模擬欠陥(スリット) を付与したセーフエンドのモックアップを探傷し,適用 性の確認を実施した。探傷は実機システムを使用し,実 機適用に向けたシステムの通信速度の試験をあわせて実 施した。実施事項及び確認結果を Table 2 に,試験状況 写真を Fig 4に示す。Table2 Test items and outline of results 検出性 「溶金中周方向 1mm 深さスリット検出可 | (Fig 5,6) | 溶金中軸方向 2.3mm 深さスリット検出可 通信速度 「実機配線にて通信速度に問題なし 探傷速度 | 100mm/sec(従来速度と同等)で探傷可 倣い性 「内表面形状に対し十分な倣い性を確認374フェーズドアレイ UT の適用により,溶金内の EDM ス リット(周方向 1mm,軸方向 2.3mm)を問題なく検出して おり,従来法(2.7mm の欠陥を検出)と同等以上の検出性 を持つことを確認した。また,探触子の重量及びサイズ は従来法と比較して大きくなっているが,探触子板の軽 量化等を図り,取扱い性,倣い性を確保した。 この試験により,実機 RV セーフエンドへのフェーズド アレイ UT 適用の目処を得た。Fig.4photograph of scanning test1mm slitThe other slitsFig.5Detection result of circumferential defectsdetection(C-Scope; Top view)Liked Vic.top(062 080 F2.3001.062 0.5KOMOThe other slits2.3mm slitFig.6 Detection result of axial defectsdetection(C-Scope; Top view) - 375 - 4. 4. フェーズドアレイ UT 適用時の工程評価- 適用性試験の結果, RV セーフエンドへのフェーズドア レイ UT 適用の目処を得た。これにより軸方向探傷から 周方向探傷への探触子板交換時間がなくなり,また位置 決め時間が半減する。 これを, 4ループプラント (8管台) に適用すると、半日以上の工程短縮が見込める。尚、現 在4ループプラントでの RV-ISI 工事は4日~5日であ ることから、探傷工程の短縮効果は大きいと考える。5.結言本取組みにより下記を得た。 1)超音波難透過材である RV セーフエンドの検査に適 用可能なフェーズドアレイ UT 探触子を開発し, Alloy600 合金検査に対しての有効性を確認した 2)A-UT マシンマニピュレータに搭載したフェーズド アレイ UT 探触子で取扱い性及び倣い性を確認し, 実機への適用性の目処を得た 3)フェーズドアレイ UT をセーフエンド部に適用する ことにより, RV-ISI の探傷工程短縮の目処を得た“ “フェーズドアレイ UT の RV セーフエンドへの適用 “ “西田 純一朗,Jun-ichiro NISHIDA,浅田 義浩,Yoshihiro ASADA,増本 光一郎,Koichiro MASUMOTO,村上 平八朗,Heihachiro MURAKAMI,川波 精一,Seiichi KAWANAMI
PWR 型原子力プラントにおいて原子炉容器供用期間 中検査(以下 RV-ISI)は,維持規格に従い 10 年毎に所 定の範囲を体積検査する必要があり、UT を実施している。 RV-ISI は作業員のアクセスが困難な高線量環境下での検 査であるため、遠隔自動装置を用いた探傷が必要であり, 当社では水中自航式ロボット等を用いたシステムである Advanced UT(ACUT)マシン(Fig. 1)を用いて検査を実施 している。
一方, RV-ISI は定期検査においてクリティカル工程で あるため,定検工程短縮のニーズが高まっている。A-UT マシンでは、検査の実施にあたり航行による各 探傷箇所への位置決めを実施している。また、規定の要 求に適合した超音波探傷を実施するため,各検査箇所に 応じた探触子を搭載した探触子板の交換を実施し,検査 を行っている。これらの作業時間を短縮することで,全 体の探傷工程の短縮を実現することが可能となる。ここでは, フェーズドアレイ UT を用いたRV-ISI にお ける探傷工程短縮のための取り組みについて紹介する。2. 問題点とねらいA-UT マシンは、初期は水中台車1台で検査を実施し ていたが、航行管理を徹底することにより2台保傷が可 能になっている。 2 台の水中台車は互いに互換性がある が,主に容器胴部の溶接線を探傷する水中台車 No.1 と, 管台部を探傷する水中台車 No.2 とに分けた運用として いる。管台検査は,対象の形状が複雑であること,胴部 と比較して曲率が小さいこと等から,様々な種類の超音 波探触子を適用するため,多くの探触子板を必要とする。 このため、探触子板の交換回数及び各管台へのアクセス 回数が増え,探傷工程を増加させることとなる。特に, セーフエンド部に対しては,曲率が小さいことから,周 方向探傷用,軸方向探傷用の2式の探触子板を用いてい るため、探触子板の交換及び各管台へのアクセス回数が373多くなっている。これに対し,探傷屈折角を電子的に制御できるフェー ズドアレイ UT に着目すると,1つの探触子で複数の探 傷屈折角の超音波を入射することが可能となる。 探傷方向の違いによって2式の探触子板を用いているセ ーフエンド部に対してフェーズドアレイ UT を適用する ことで探触子数を削減し,探触子板を1式に削減するこ とが可能となり(Fig 2), 1回のアクセスで周・軸方向の 探傷を実現することが可能となる。Holder1(circumferential) Holder2(axial) Conventional probe holder:0°Phased array probe holder(axial and circumferential) Fig. 2 Concept of probe arrangement for phased array3. フェーズドアレイ UT 適用性試験3.1 探触子仕様本取り組みで開発したフェーズドアレイ UT 探触子の 仕様を Table 1 に示す。現状の手法では超音波難透過材 であるセーフエンド部に対して有効な手法である垂直法, ・縦波斜角45°,70°を適用しているが,フェーズドアレ イ UT では、現行法に相当する超音波の入射を可能とす る仕様とし,さらに超音波を集束させることにより検出 性を向上させることを狙って探触子を開発した。Table 1 Specification of probe for RV safe end 周波数1.5MHz モード縦波 屈折角0°~70° ・0°・縦波 45°相当 使用集束点を内表面近傍,板厚 屈折角中央部,外表面近傍に設定 ・縦波 70°相当集束点を内表面近傍に設定 チャンネル数 送受信とも 16ch×2列 探触子サイズ 1 60×60×52.5mm3.2 探触子板本取り組みで開発製作した探触子板を Fig 3 に示す。探 触子板は、マニピュレータの可搬重量を考慮した小型化 を図り,管台内面への倣い機構を有している。また,探 触子は他の探触子との音波の干渉を回避する配置とした。Fig.3Photograph of probe and probe holder3.3 適用性の確認試験 -3.2項に示した探触子板を A-UT マシンで使用してい る7軸マニピュレータに搭載し,模擬欠陥(スリット) を付与したセーフエンドのモックアップを探傷し,適用 性の確認を実施した。探傷は実機システムを使用し,実 機適用に向けたシステムの通信速度の試験をあわせて実 施した。実施事項及び確認結果を Table 2 に,試験状況 写真を Fig 4に示す。Table2 Test items and outline of results 検出性 「溶金中周方向 1mm 深さスリット検出可 | (Fig 5,6) | 溶金中軸方向 2.3mm 深さスリット検出可 通信速度 「実機配線にて通信速度に問題なし 探傷速度 | 100mm/sec(従来速度と同等)で探傷可 倣い性 「内表面形状に対し十分な倣い性を確認374フェーズドアレイ UT の適用により,溶金内の EDM ス リット(周方向 1mm,軸方向 2.3mm)を問題なく検出して おり,従来法(2.7mm の欠陥を検出)と同等以上の検出性 を持つことを確認した。また,探触子の重量及びサイズ は従来法と比較して大きくなっているが,探触子板の軽 量化等を図り,取扱い性,倣い性を確保した。 この試験により,実機 RV セーフエンドへのフェーズド アレイ UT 適用の目処を得た。Fig.4photograph of scanning test1mm slitThe other slitsFig.5Detection result of circumferential defectsdetection(C-Scope; Top view)Liked Vic.top(062 080 F2.3001.062 0.5KOMOThe other slits2.3mm slitFig.6 Detection result of axial defectsdetection(C-Scope; Top view) - 375 - 4. 4. フェーズドアレイ UT 適用時の工程評価- 適用性試験の結果, RV セーフエンドへのフェーズドア レイ UT 適用の目処を得た。これにより軸方向探傷から 周方向探傷への探触子板交換時間がなくなり,また位置 決め時間が半減する。 これを, 4ループプラント (8管台) に適用すると、半日以上の工程短縮が見込める。尚、現 在4ループプラントでの RV-ISI 工事は4日~5日であ ることから、探傷工程の短縮効果は大きいと考える。5.結言本取組みにより下記を得た。 1)超音波難透過材である RV セーフエンドの検査に適 用可能なフェーズドアレイ UT 探触子を開発し, Alloy600 合金検査に対しての有効性を確認した 2)A-UT マシンマニピュレータに搭載したフェーズド アレイ UT 探触子で取扱い性及び倣い性を確認し, 実機への適用性の目処を得た 3)フェーズドアレイ UT をセーフエンド部に適用する ことにより, RV-ISI の探傷工程短縮の目処を得た“ “フェーズドアレイ UT の RV セーフエンドへの適用 “ “西田 純一朗,Jun-ichiro NISHIDA,浅田 義浩,Yoshihiro ASADA,増本 光一郎,Koichiro MASUMOTO,村上 平八朗,Heihachiro MURAKAMI,川波 精一,Seiichi KAWANAMI