軽水炉圧力容器鋼溶接部の照射脆化評価技術
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カテゴリ: 第3回
1.緒言
材、溶接金属および熱影響部になるように加工した。 原子力発電所における監視試験は、原子炉圧力容器 微小試験片は、JMTR において 290+ 13°Cの温度で、 の中性照射脆化を評価し、継続運転に関する判断基準 0.75 および 1.3×10-1n/m (E>1MeV) まで照射した。 を与えるものである。長期間の運転に伴う問題の一つ2.2 寸法効果の解析 に監視試験片の不足が挙げられる。解決方法として、(1)上部棚エネルギー (USE)の標準化 監視試験済み試験片を再利用する方法があり、溶接を微小試験片の結果から標準試験片の結果を予測する 用いて標準形状へ再生する方法や試験片を微小化する方法の検討によると、これまでの多くの研究から体積 方法が考えられる。前者においては、再生時の溶接に規格による方法((BX) で規格化、ここで B:試験片 よる脆化の回復、後者においては衝撃特性の試験片サ幅、b: リガメント幅)が適しているとされている。そ イズ効果が課題となる。こで、まず、非照射材について検討した。 シャルピー衝撃試験片(母材部)の標準形状への再従来の研究から USE と試験片幅 B との間に以下の 生技術については、国のプロジェクトとして平成 11関係式が成り立つ事が推測できる。 年から独立行政法人原子力安全基盤機構(開始当時は (財)発電設備技術検査協会)により検討され、今般
(a:定数、 B:試験片幅) 一方、国のプロジェクトが開始されたのと同時期に、 1 本研究では統一的で精度の高い方法を見いだす意味 当社は高経年化対策の一環として、東北大学等と微小で、他の研究者が行った 21 鋼種の試験データの整理 試験片による監視試験片再生技術の開発に取り組んで を行った。その結果、どの鋼種でも指数 n は 2.5~2.9 きた[2]ので紹介する。程度であり、体積規格が妥当であることを裏付けていることが分かった。 2. シャルピー衝撃試験Fig. 1 は本研究で得られた 1/3 サイズ試験片の USE 2.1 試験方法と指数 n の関係を示している。1/3 サイズ試験片の指 本研究で使用した材料は、A533B Cl.1 圧力容器鋼 数nは USE が 7.9J 以上の場合は USE の値に依存せず、 である。試験片サイズは標準サイズ、1/3 サイズ、 USE が 7.9J 未満の場合には、指数 n は USE と線形の連絡先:熊野秀樹、〒461-8680 名古屋市東区東新町 1 番地、中部電力(株)原子力部長期保全グループ、電話: 050-7772-1209、e-mail:Yuya.Hideki@chuden.co.jp385関係にある。n=2.88 n=0.07 × USE + 2.3(USE > 7.9J) (USE <7.9J)exponent n00: un-irradiated: Irradiated (Base Metal): Irradiated (HAZ) : Irradiated (Deposit)510USE (1/3size) Fig. 1 The plots of n exponents against USE (1/3 size)例えば、1/3 サイズ試験片で得られた USE から標準 サイズ試験片の USE を求めるには、式(2)ないし(3)に より指数 n を求め、最も代表的な a の値 (a = 0.25) と標準サイズ試験片の試験幅を用いて、USE(標準) を得ることができる。データ点数が少ないものの照射材から得られた n値 をFig.1 中にプロットしている。USE が 7.9J より小さ い領域にプロットされ、かつ式(3)を満足しているよう に見える。しかし、定数 a や式(3)は照射材と非照射材 とで異なることも十分考えられるので、今後、照射材 のデータ 点数を増やして式(2)および(3)の妥当性を検 証する必要がある。 (2)延性脆性遷移温度(DBIT)の相関 DBTT の標準化については、様々な方法があるもの の、いずれも適用範囲は限定されており、一般的な方 法は確立されていない。そこで、本研究ではまず得ら れたデータの分析を行った。非照射材については、微 小試験片と標準試験片の DBTT の間に式(4)のような 比例関係が認められた。DBTT (微小試験片)= a × DBTT (標準) (4) 式(4)における非照射材の a の値は 1/3 サイズで 0.867、1.5mm サイズで 0.619 であった。照射材に関し ては標準サイズ試験片のデータが無いため、照射材、 非照射材それぞれの 1/3 サイズ試験片と 1.5mm サイズ 試験片で得られた DBTT の関係を分析した(Fig. 2)。DBTT (K) (1.5mm)Base HAZ Depo. Unin. O DIrr. A100 - 200 , 300DBTT (K) (1/3 size) Fig. 2 The correlation of DBTT between standardand sub-sized specimensFig. 2 から分かるように、非照射材および照射材と もに比例関係が認められるが、非照射材と照射材とで は直線の傾きが異なっており、標準サイズにおいても」 同様の事が予想されることから、今後は照射データの 充実が必要であることが分かる。3. 結論」本研究では主に非照射材に関する以下の知見を得た。 1) 異なるサイズの試験片の USE は E = a×B” で表される。指数 n は 1/3 サイズ試験片では E>7.9J の時 ( n=2.88、E<7.9J の時n=0.07×USE+2.3 である。 2) 標準サイズと微小サイズで得られた DBTT には比例関係がある。非照射材の比例定数は 1/3 サイズで 0.867、1.5mm サイズで0.619 であった。4. まとめ標準サイズの試験片のうち、仮に熱影響部や溶接金 属部が不足する場合には微小試験片技術は重要な開発 課題となる。本研究では、微小試験片技術の実機適用 性を非照射材の知見を中心に検討した。今後、技術確 立のためには標準サイズの照射試験片データの充実が 必要である。参考文献 [1] 「原子炉圧力容器監視試験片の再生に関する調査報 告書」独立行政法人原子力安全基盤機構規格基準部、2006年4月(JNES-SS-0601) [2] 鈴木哲也、木村晃彦、軽水炉圧力容器溶接部の照射脆化挙動評価技術”、原子力学会誌、 vol.41, No.11 (1999)386“ “軽水炉圧力容器鋼溶接部の照射脆化評価技術“ “熊野 秀樹,Hideki YUYA,鈴木 哲也,Tetsuya SUZUKI,肥田 茂,Shigeru HIDA,木村 晃彦,Akihiko KIMURA
材、溶接金属および熱影響部になるように加工した。 原子力発電所における監視試験は、原子炉圧力容器 微小試験片は、JMTR において 290+ 13°Cの温度で、 の中性照射脆化を評価し、継続運転に関する判断基準 0.75 および 1.3×10-1n/m (E>1MeV) まで照射した。 を与えるものである。長期間の運転に伴う問題の一つ2.2 寸法効果の解析 に監視試験片の不足が挙げられる。解決方法として、(1)上部棚エネルギー (USE)の標準化 監視試験済み試験片を再利用する方法があり、溶接を微小試験片の結果から標準試験片の結果を予測する 用いて標準形状へ再生する方法や試験片を微小化する方法の検討によると、これまでの多くの研究から体積 方法が考えられる。前者においては、再生時の溶接に規格による方法((BX) で規格化、ここで B:試験片 よる脆化の回復、後者においては衝撃特性の試験片サ幅、b: リガメント幅)が適しているとされている。そ イズ効果が課題となる。こで、まず、非照射材について検討した。 シャルピー衝撃試験片(母材部)の標準形状への再従来の研究から USE と試験片幅 B との間に以下の 生技術については、国のプロジェクトとして平成 11関係式が成り立つ事が推測できる。 年から独立行政法人原子力安全基盤機構(開始当時は (財)発電設備技術検査協会)により検討され、今般
(a:定数、 B:試験片幅) 一方、国のプロジェクトが開始されたのと同時期に、 1 本研究では統一的で精度の高い方法を見いだす意味 当社は高経年化対策の一環として、東北大学等と微小で、他の研究者が行った 21 鋼種の試験データの整理 試験片による監視試験片再生技術の開発に取り組んで を行った。その結果、どの鋼種でも指数 n は 2.5~2.9 きた[2]ので紹介する。程度であり、体積規格が妥当であることを裏付けていることが分かった。 2. シャルピー衝撃試験Fig. 1 は本研究で得られた 1/3 サイズ試験片の USE 2.1 試験方法と指数 n の関係を示している。1/3 サイズ試験片の指 本研究で使用した材料は、A533B Cl.1 圧力容器鋼 数nは USE が 7.9J 以上の場合は USE の値に依存せず、 である。試験片サイズは標準サイズ、1/3 サイズ、 USE が 7.9J 未満の場合には、指数 n は USE と線形の連絡先:熊野秀樹、〒461-8680 名古屋市東区東新町 1 番地、中部電力(株)原子力部長期保全グループ、電話: 050-7772-1209、e-mail:Yuya.Hideki@chuden.co.jp385関係にある。n=2.88 n=0.07 × USE + 2.3(USE > 7.9J) (USE <7.9J)exponent n00: un-irradiated: Irradiated (Base Metal): Irradiated (HAZ) : Irradiated (Deposit)510USE (1/3size) Fig. 1 The plots of n exponents against USE (1/3 size)例えば、1/3 サイズ試験片で得られた USE から標準 サイズ試験片の USE を求めるには、式(2)ないし(3)に より指数 n を求め、最も代表的な a の値 (a = 0.25) と標準サイズ試験片の試験幅を用いて、USE(標準) を得ることができる。データ点数が少ないものの照射材から得られた n値 をFig.1 中にプロットしている。USE が 7.9J より小さ い領域にプロットされ、かつ式(3)を満足しているよう に見える。しかし、定数 a や式(3)は照射材と非照射材 とで異なることも十分考えられるので、今後、照射材 のデータ 点数を増やして式(2)および(3)の妥当性を検 証する必要がある。 (2)延性脆性遷移温度(DBIT)の相関 DBTT の標準化については、様々な方法があるもの の、いずれも適用範囲は限定されており、一般的な方 法は確立されていない。そこで、本研究ではまず得ら れたデータの分析を行った。非照射材については、微 小試験片と標準試験片の DBTT の間に式(4)のような 比例関係が認められた。DBTT (微小試験片)= a × DBTT (標準) (4) 式(4)における非照射材の a の値は 1/3 サイズで 0.867、1.5mm サイズで 0.619 であった。照射材に関し ては標準サイズ試験片のデータが無いため、照射材、 非照射材それぞれの 1/3 サイズ試験片と 1.5mm サイズ 試験片で得られた DBTT の関係を分析した(Fig. 2)。DBTT (K) (1.5mm)Base HAZ Depo. Unin. O DIrr. A100 - 200 , 300DBTT (K) (1/3 size) Fig. 2 The correlation of DBTT between standardand sub-sized specimensFig. 2 から分かるように、非照射材および照射材と もに比例関係が認められるが、非照射材と照射材とで は直線の傾きが異なっており、標準サイズにおいても」 同様の事が予想されることから、今後は照射データの 充実が必要であることが分かる。3. 結論」本研究では主に非照射材に関する以下の知見を得た。 1) 異なるサイズの試験片の USE は E = a×B” で表される。指数 n は 1/3 サイズ試験片では E>7.9J の時 ( n=2.88、E<7.9J の時n=0.07×USE+2.3 である。 2) 標準サイズと微小サイズで得られた DBTT には比例関係がある。非照射材の比例定数は 1/3 サイズで 0.867、1.5mm サイズで0.619 であった。4. まとめ標準サイズの試験片のうち、仮に熱影響部や溶接金 属部が不足する場合には微小試験片技術は重要な開発 課題となる。本研究では、微小試験片技術の実機適用 性を非照射材の知見を中心に検討した。今後、技術確 立のためには標準サイズの照射試験片データの充実が 必要である。参考文献 [1] 「原子炉圧力容器監視試験片の再生に関する調査報 告書」独立行政法人原子力安全基盤機構規格基準部、2006年4月(JNES-SS-0601) [2] 鈴木哲也、木村晃彦、軽水炉圧力容器溶接部の照射脆化挙動評価技術”、原子力学会誌、 vol.41, No.11 (1999)386“ “軽水炉圧力容器鋼溶接部の照射脆化評価技術“ “熊野 秀樹,Hideki YUYA,鈴木 哲也,Tetsuya SUZUKI,肥田 茂,Shigeru HIDA,木村 晃彦,Akihiko KIMURA