中高温度の塩素含有環境下における金属材料の腐食と防食
公開日:
カテゴリ: 第3回
1.緒言
我が国の石油精製を含む化学工業全体に おける'97 年の腐食コストは、約1兆円であ り、売上高 67 兆円の 1.6%を占める。これ は、'74年時の腐食コスト 1500 億円の約 6 倍であり、売上高 19 兆円の 0.8%と比較し 2倍に増えている)。また、既存の腐食防 食技術で損傷全体 の 25%は解決できると言 われているが 、20 年前から腐食傾向に変化 はない 2)。その原因の一つとして、石油化 学プラントでは、腐食形態および腐食環境 が多種多様であることである。中でも、塩 素による腐食は、温度、水蒸気圧、他の化 学成分濃度、腐食生成物などにより影響さ れ、メカニズムが複雑であるため、完全な 解決に至っていない。従って、本研究にお いては、最も腐食事例の多い色々な塩素含 有雰囲気における各種金属材料の腐食およ び防食技術について研究した。 連絡先:松田宏康 、〒105-7117 東京都港 区東新橋 1-5-2 汐留シティーセンター、三井化学(株) 生産・技術企画管理部、電話:03-6253-2504、 e-mail : Hiroyasu.Matsuda @mitsui-chem.co.jp2項、3項において、最近環境、省エネル ギー問題から注目を浴びているゴミ焼却炉 を中心とした中高温塩素環境下での腐食問 題を取り上げた。2. HCl を含む高温湿潤ガス環境における - ステンレス鋼及び INi 基合金の腐食にお - よぼす酸化物及び塩化物の影響2.1 はじめに- 塩素ガス系でのステンレス鋼の湿食にっ いて研究した。HC1、02 ガス系におけるス テンレス鋼の乾食は、オキシクロリネーシ ョン反応により進行し、揮発性の FeC1の 生成により高い速度を示すと一般に説明さ れている45)。しかし、露点に近い比較的低 温では、あまり述べられておらず 47) 、ゴ ミ 焼却処理施設、ボイラーなどに代表される 伝熱面腐食はあまり取扱われていない。そ こで、180°C前後の HCl、02 及 び H20 混合 ガス中における SUS304L ステンレス鋼伝熱 面の腐食挙動に着目し、伝熱面を模擬した
試験装置を用いて腐食速度を調べるととも に、熱力学検討を加えて、腐食メカニズム を推定した。HC+ m HC1+ (114) m O2 → HC-Clm+ (1/2) m H20 (1) (m:定数)2.2 実験方法HCl、02 及び H2O を含む高温ガスに暴露される 伝熱面を模擬した試験装置を製作し、高温ガス環境 下で伝熱面腐食試験を行うとともに、その腐食メカ ニズムに検討を加えた。Fig.2.1 に高温ガス腐食試 験装置を示する)。 2.2実験方法2.2.1 高温ガス腐食試験HCl、02 及び H2O を含む高温ガスに暴露される 伝熱面を模擬した試験装置を製作し、高温ガス環境 下で伝熱面腐食試験を行うとともに、その腐食メカ ニズムに検討を加えた。Fig.2.1 に高温ガス腐食試 験装置を示す3。ガス濃度の制御はHClの反応率が30-40%になるよ うに温度、触媒量、供給ガス量およびガス組成を 変化させ、所定のHCl、02、H2O組成を得た。ま た、HCを供給しない場合には、(1)式の反応が生 じないため、混合プレヒーターにH2Oを補給した。 そのさい補給したH2Oを補給水と記し、(1)式の反 応により生成するH2Oを生成水と記して区別する ことにする。Oz-mixtureTestcelldetails2.2.2 液相形成温度の測定Test-pieceGASN, 02 \Preheater0030)OIL Side.view..腐食生成物による吸湿現象に着目し、HCl を含む 湿潤ガス環境中に置かれた各種金属塩化物の液相形 成温度の測定を行った。金属塩化物として、FeCla、Upper view_O2-mixtureTestcelldetailsGASTest-piecePreheater000高Upper viewSide viewHCIFilterTestcellMix-preheaterAbsorptionvesselReducing valve Fig.2.1 Schematic drawing of high temperature corrosion test apparatus 腐食実験にさいしては、7 個の試験片を伝熱板上に置き、材質の違い及び試験 片上での触媒の有無、化合物の有無の腐食に対する 影響を調査した。化合物は、試験片表面に生じる腐 食生成物を模擬した鉄酸化物あるいは鉄塩化物の粉 末(試薬)であり、これらを試験片上に付着させて 腐食試験を行った。化合物物は、試験片面 10mm。 を中心として周囲にその面積の10倍程度までほぼ 均一に付着させた。 試料室に供給する HCl 等の 供給ガス温度を230~250°Cとし、試験片を乗せた伝熱板の裏からオイルバスによる冷却を行い、試験 一片の温度を 130~210°Cに保った。試験室におけるガスの圧力は大気圧、ガス流速は 2mm/sec 以下、 試験期間は5日間である。- 401,反応ガス組成の制御を以下のようにして行った。腐食生成物による吸湿現象に着目し、HCl を含む 湿潤ガス環境中に置かれた各種金属塩化物の液相形 成温度の測定を行った。金属塩化物として、FeCl2、 FeCla、NiCl2、CrCl2 および CuCl2 粉末を用い、そ れぞれの粉末を成型器にセットして 10mmQ× 5mmH のペレットにした。Gas flowElectric resistance measurementTemperature controlE.LTD Pt electrode1mm Test coupon ]Thermo couple Heater.Glass pipe Glass filterGas: Vapor from 20mass% HCI solution(Azeotrope) at 65°CGas outFig. 2.2 Schematic drawing of apparatus for the measurement of liquid phase generation temperature. Nitrogen gas which passed through 20wt%HCl solution at 65 °C was supplied at 2.5mol / hr.FeCl3FeCI,C-CI, N2 Flow : 56 NL/hrが 1M 2 になる時間を計測し、吸湿開始時間と1 吸湿開始時間と温度との関係をプロットし、リ 始時間が無限大となる温度を液相形成温度と測定方法は、以下のようである (Fig.2.2)。金属 塩化物ペレットを一定温度に保ったガラスフィルタ ー上にセットし、ペレット表面に2本の Pt ワイヤ ー電極を 1mm 間隔で接触させる。その後、65°Cの 20wt%HCl溶液中をバブリングさせた窒素ガスを試 料表面に対して垂直に流した。全圧は 100kPa、ガ ス分圧は HCl 1.6kPa、H2O 13kPa である。流 量は 2.5mol/hr である。白金ワイヤー電極間に、電 流の時間変化を測定して電極間の抵抗値の変化を追 跡した。塩化物試料が湿潤 N2ガスにより、吸湿す ると、抵抗値が時間とともに減少するので、抵抗値 が 1M 2 になる時間を計測し、吸湿開始時間とした。 吸湿開始時間と温度との関係をプロットし、吸湿開 始時間が無限大となる温度を液相形成温度とした。Rise of dew point from 65°CNiCl22 20CuCl,Fig.2.4 Liquid phase generation temperature of various metal chlorides exposed to a wet HCl gas stream. Nitrogen gas which passed through 20mass% HCl solution at 65 °C was supplied at 561 / min.2.3 結果2.3.1 高温ガス腐食試験結果2.3.2 液相形成温度測定結果Fig.2.3 に示すように、腐食減量より求めた腐食 速度を比べると、付着物なしの試験片においては、 腐食速度は 0.1mm/y 程度であるのに対し、鉄化合 物 (FeCl2、Fe2O3、FeCl3 : 各 1g) を付着させた試 験片の場合には、腐食速度は FeCl2、Fe2O3、FeCl3 の順で増加し、最高で 0.8mm/y まで増加している ことが明らかである。FeCla、FeCla、NiCl2、CrCl2 および CuCl2 の液相 形成温度を Fig.2.4 に示す。縦軸には、液相形成温 度とガス飽和温度(65 °C)の差をプロットしてある。 各種金属塩化物により液相形成温度は大きく異なる。 CuCl2 や NiCl2 においては、液相形成温度は、ガス 飽和温度よりも10~20°C高いだけであるが、CrCl2 FeCl2 及び FeCl3 においては、液相形成温度は、露 点より80~90°Cも高い。FeClaは最も高い値を示し、 他の金属塩化物に比べて吸湿性が極めて高いことが わかる。このことから FeCl3を含む腐食生成物が試 験片表面に存在すると、露点よりも高い温度で湿食 環境が生じることが明らかである。1「Gas temp.%3B230°C,Metal temp.;163°C Press. ; Ambience, Test term;432ksFeCl, 1gCorrosion rate mm/yFe20, 1g2.4 伝熱面での腐食メカニズムFeCl, 1gno compoundKinds of iron compounds Fig.2.3 Corrosion rate of SUS304L coveredwith/without FeCl2,Fe2O3, and FeCl3 in N2-HCl-O2 gas at 162 °Cfor 5 daysHC1、0,環境での腐食は鉄のオキシクロリネー ション反応に起因すると言われている)。腐食試験 後の 304L の観察及び分析より、一例として、以下 のガス組成の高温ガス(160~200 °C)中、伝熱条 件下における 304L の腐食メカニズムについて熱力 学的考察を加える(Fig.2.5)。圧力比は、以下である。p(H2O) : p(HCl) : p(02)=0.15:0.9:0.3-4他の金属塩化物に比べて吸湿性が極めて高いことが わかる。このことから FeCl3を含む腐食生成物が試 験片表面に存在すると、露点よりも高い温度で湿食 - 402 -HCI, H,0 and 02. gasJ1 @FeCl(Fe,Cls) gasIron compounds surface HighIron HCl (FeO)rust H,0,0, HCIFeci, VRH,0 * HOLD CFeCI,0,HCP Fe2+ (Cathode) Low (Fe)Heat (Anode) |exchangesurface Fig.2.5 Schematic drawing of the corrosion mechanismof stainless steels in HCl- H20-02 gas at high temTemperatureperature.304L を蒸気ガス雰囲気中に保持すると、まずステ ンレス鋼に含まれる Fe が HC1 と反応し、表面に FeCl2 が生成して時間とともに成長していく (Fig.2.5 プロセス1)。 - FeCl2 は温度が低いほど安定であり、高温になる と、FeCl. 外層は、Fe2O3 に変化していく(Fig.2.5、 プロセス2)。 |- 外層に生成した Fe2O3 は緻密でないため、保護皮 膜としては不完全であり、HC1 ガスが FeCl2層を浸 透し、FeCl2 / 素地金属界面に新たな FeCl2 を生成 する。この反応の繰り返しにより付着物層は、Fe203 /FeCl2 二層構造となり、時間とともに成長して厚さ を増していく。Fe2O3/ FeCl2 層の二層構造の成長は、断熱効果を より促進し、Fe2O3 層の内部の温度を低下させる。 また、それと同時に、液相形成温度以下では多孔質 この Fe2O3層に HCl が特異的に吸着し、FeCl3を形成 する(Fig.2.5、プロセス3)。Fe2O3層の内部において Fe2O3 あるいは FeCl2 か ら生成した FeCl3 は、比較的低い温度域で蒸気圧が 高いので、著しく腐食が進行する(Fig.2.5、プロセ ス@)。また、FeCl3 は吸湿性が高く、露点より最大 90°C 高い温度においても吸湿・溶解して濃厚 FeCl3溶液 を形成する。FeCl3溶液中の Fe3+イオンは、加水分 解により、塩酸水溶液環境を作り出すとともに 5),6)、 Fe の酸化剤として作用し、ステンレス鋼を激しく 腐食させる。上述の作用に加え、FeCl3溶液が HClことも腐食をガスを吸収し、溶液の pH が低下することも腐食を 促進する要因となろう。溶液中に溶解した Fe2+ イオンは、FeCl2 となり (Fig.2.5、プロセス3)、Fe2O3 の形成を促進する ことになる (Fig.2.5、プロセス2)。2.5 結論160~200°C前後の HC1、02 及び H20 混合ガス中 におけるステンレス鋼(SUS304L)の伝熱面の腐 食挙動を調べるともに、熱力学的考察により腐食メ カニズムを検討した結果、次のことが結論づけられ た。(1) ステンレス鋼の腐食は、Fe のオキシクロリネーション反応により進行し、腐食生成物として FeCla, Fe2O3を経てFeCl3が最終的に生成する。 これら化合物の生成は、熱力学的に合理的に説明できる。 (2) FeCl3は露点よりも90°C高い温度以下または熱力学的に FeCl3 が安定な領域において、ガス中 の H2O を吸収し、吸湿・溶解する。これが、 HC1 酸性湿式腐食環境を形成し、ステンレス鋼 の腐食を促進する。上述のステンレス鋼の腐食 速度が温度依存性を持つことは、FeCl. の溶解 速度が、温度が低いほど大きいためと理解でき(3) ステンレス鋼表面上では、HCI が特異的に吸着して塩化物が濃縮し易く、比較的低温では酸化 物安定相を形成することにより防食するのは、 難しい。3.高温 02-C12-HCI-H20 混 境での 金属元素および合金のエロ ージョン・コロージョ3.1 はじめに403第3項では、2項より高温、高濃度の塩素 ガス環境中における各種材料のエロージョ ン・コロージョンを取り上げた 。 1000°C 近くの高温で、低塩素高酸素濃度腐食環境 において、Cr を含む Ni基や Co 基合金の 腐食速度が数mm/y程度の大きな値を示す ことが知られている 8) -12)。一方、500°C以 下で塩素濃度が高く、酸素、水分濃度が低 い環境下においては、金属塩化物が安定に なるため、その腐食速度は 0.1 mmly 前後で 小さく、腐食はあまり重要な問題とはなら ない 7),13)-16)。そこで、著者らは、実験室 および実機での 415°C の Cl2 - 02 - HC1H20 混合ガス環境において、Ni および Cr の純金属、Ni基合金、または Ni および Co 基溶射各種材料の腐食挙動を調べるととも に、粒子流動の有無によるエロージョンを 検討した。3.2 実験方法- 実験は実験室試験と実機試験を行った。 実験室試験では反応器形状と塩素供給以外 は 2項と同じ試験装置を用いた。 - 実機は、粒子流動を伴うエロージョン・ コロージョン環境を有する円筒形流動相と 粒子流動のない装置出口ガス相から構成さ れている。2 種の試験片(板材、溶射材) を流動相に、比較として、板材をガス相に 取り付けた。 - 実験室、実機試験とも 415°C の 26% C1221% 02 - 12% HC1 - 21% H20 混合ガス環境で ある。但し、圧力は、実験室では常圧であ り、実機では 0.5 MPa である。流速は、実 験室では、3mm/s であり、実流速を約 100 mm/s と した。試験期間は、実験室では、約 10°ks であり、実機では 約 2.9 × 10*ks(1 年 間の試験を行った。 - 板状試験片は、純 Ni 金属、Ni 基合金 (HA214、In600、In625、In686、C-22、C-276)、 Incoloy 825 (以下、In825 とする)および Fe 基合金 SUS329J1 である。またいくつかの Ni 基合金に Cr または Al 拡散浸透処理を、 1000-1100°C で10時間施し、実験に供した。0.60.5Labo. gas Plant gasPlant fluid ? Cr difu. A Al difu.0.40.30.20.1_SZ8C-276 |170r|In686 | HA214 In600In625329J1 160r3Mo170r17M0 18Cr40C08MoFig.3.1Comparison of the corrosion rate among severalmetals(plates) with / without metal spray coatings in HCl-C12-02-H20 hot gas atmosphere at 415°C. Marks(Labo. gas: Laboratory test without erosion,Plant gasD/fluid ■:Test without/with erosion in the industrial plant,CrO/Al Adifu.:Cr or Al difusion coating material in the industrial plant witherosion) それぞれ、●Cr Difu. A AI(Fig.3.1 中、それぞれ、●Cr Difu. A AI difu.と表わす)溶射試験片は、母材として純 Ni および Fe 基合金を用い、これに 17Cr6Mo(数値は mass%を示し、Ni濃度はバランス量とした。 以下同様)、18Cr40C06Mo、16Cr3Mo、C-276 相当品である 17CT17Mo を数百um厚で溶 射した 。いずれの溶射材料もシリコンを 3-4%前後含む自溶合金であり、ガスフレー ム溶射後、970-1100°Cで再溶融した。また、 一部の溶射した試験片に Cr および Al を、 1000-1100°C で 10時間、拡散処理を施した。3.3 実験結果- Fig.3.1 に実験室および実機腐食試験によ って得られた各種材料の腐食速度を示して いる。その結果、以下のことが明らかにな った。 - 実機での粒子流動を伴わないガス相にお ける腐食速度は、流動相における腐食速度 の数分の1である。さらに、実験室では、 その約 1/10 である。 - 純 Ni の腐食速度が Ni 基合金よりも小さ く (0.04 mmly)、気相部と同じ傾向である。-404“ “中高温度の塩素含有環境下における金属材料の腐食と防食“ “松田 宏康,Hiroyasu MATSUDA
我が国の石油精製を含む化学工業全体に おける'97 年の腐食コストは、約1兆円であ り、売上高 67 兆円の 1.6%を占める。これ は、'74年時の腐食コスト 1500 億円の約 6 倍であり、売上高 19 兆円の 0.8%と比較し 2倍に増えている)。また、既存の腐食防 食技術で損傷全体 の 25%は解決できると言 われているが 、20 年前から腐食傾向に変化 はない 2)。その原因の一つとして、石油化 学プラントでは、腐食形態および腐食環境 が多種多様であることである。中でも、塩 素による腐食は、温度、水蒸気圧、他の化 学成分濃度、腐食生成物などにより影響さ れ、メカニズムが複雑であるため、完全な 解決に至っていない。従って、本研究にお いては、最も腐食事例の多い色々な塩素含 有雰囲気における各種金属材料の腐食およ び防食技術について研究した。 連絡先:松田宏康 、〒105-7117 東京都港 区東新橋 1-5-2 汐留シティーセンター、三井化学(株) 生産・技術企画管理部、電話:03-6253-2504、 e-mail : Hiroyasu.Matsuda @mitsui-chem.co.jp2項、3項において、最近環境、省エネル ギー問題から注目を浴びているゴミ焼却炉 を中心とした中高温塩素環境下での腐食問 題を取り上げた。2. HCl を含む高温湿潤ガス環境における - ステンレス鋼及び INi 基合金の腐食にお - よぼす酸化物及び塩化物の影響2.1 はじめに- 塩素ガス系でのステンレス鋼の湿食にっ いて研究した。HC1、02 ガス系におけるス テンレス鋼の乾食は、オキシクロリネーシ ョン反応により進行し、揮発性の FeC1の 生成により高い速度を示すと一般に説明さ れている45)。しかし、露点に近い比較的低 温では、あまり述べられておらず 47) 、ゴ ミ 焼却処理施設、ボイラーなどに代表される 伝熱面腐食はあまり取扱われていない。そ こで、180°C前後の HCl、02 及 び H20 混合 ガス中における SUS304L ステンレス鋼伝熱 面の腐食挙動に着目し、伝熱面を模擬した
試験装置を用いて腐食速度を調べるととも に、熱力学検討を加えて、腐食メカニズム を推定した。HC+ m HC1+ (114) m O2 → HC-Clm+ (1/2) m H20 (1) (m:定数)2.2 実験方法HCl、02 及び H2O を含む高温ガスに暴露される 伝熱面を模擬した試験装置を製作し、高温ガス環境 下で伝熱面腐食試験を行うとともに、その腐食メカ ニズムに検討を加えた。Fig.2.1 に高温ガス腐食試 験装置を示する)。 2.2実験方法2.2.1 高温ガス腐食試験HCl、02 及び H2O を含む高温ガスに暴露される 伝熱面を模擬した試験装置を製作し、高温ガス環境 下で伝熱面腐食試験を行うとともに、その腐食メカ ニズムに検討を加えた。Fig.2.1 に高温ガス腐食試 験装置を示す3。ガス濃度の制御はHClの反応率が30-40%になるよ うに温度、触媒量、供給ガス量およびガス組成を 変化させ、所定のHCl、02、H2O組成を得た。ま た、HCを供給しない場合には、(1)式の反応が生 じないため、混合プレヒーターにH2Oを補給した。 そのさい補給したH2Oを補給水と記し、(1)式の反 応により生成するH2Oを生成水と記して区別する ことにする。Oz-mixtureTestcelldetails2.2.2 液相形成温度の測定Test-pieceGASN, 02 \Preheater0030)OIL Side.view..腐食生成物による吸湿現象に着目し、HCl を含む 湿潤ガス環境中に置かれた各種金属塩化物の液相形 成温度の測定を行った。金属塩化物として、FeCla、Upper view_O2-mixtureTestcelldetailsGASTest-piecePreheater000高Upper viewSide viewHCIFilterTestcellMix-preheaterAbsorptionvesselReducing valve Fig.2.1 Schematic drawing of high temperature corrosion test apparatus 腐食実験にさいしては、7 個の試験片を伝熱板上に置き、材質の違い及び試験 片上での触媒の有無、化合物の有無の腐食に対する 影響を調査した。化合物は、試験片表面に生じる腐 食生成物を模擬した鉄酸化物あるいは鉄塩化物の粉 末(試薬)であり、これらを試験片上に付着させて 腐食試験を行った。化合物物は、試験片面 10mm。 を中心として周囲にその面積の10倍程度までほぼ 均一に付着させた。 試料室に供給する HCl 等の 供給ガス温度を230~250°Cとし、試験片を乗せた伝熱板の裏からオイルバスによる冷却を行い、試験 一片の温度を 130~210°Cに保った。試験室におけるガスの圧力は大気圧、ガス流速は 2mm/sec 以下、 試験期間は5日間である。- 401,反応ガス組成の制御を以下のようにして行った。腐食生成物による吸湿現象に着目し、HCl を含む 湿潤ガス環境中に置かれた各種金属塩化物の液相形 成温度の測定を行った。金属塩化物として、FeCl2、 FeCla、NiCl2、CrCl2 および CuCl2 粉末を用い、そ れぞれの粉末を成型器にセットして 10mmQ× 5mmH のペレットにした。Gas flowElectric resistance measurementTemperature controlE.LTD Pt electrode1mm Test coupon ]Thermo couple Heater.Glass pipe Glass filterGas: Vapor from 20mass% HCI solution(Azeotrope) at 65°CGas outFig. 2.2 Schematic drawing of apparatus for the measurement of liquid phase generation temperature. Nitrogen gas which passed through 20wt%HCl solution at 65 °C was supplied at 2.5mol / hr.FeCl3FeCI,C-CI, N2 Flow : 56 NL/hrが 1M 2 になる時間を計測し、吸湿開始時間と1 吸湿開始時間と温度との関係をプロットし、リ 始時間が無限大となる温度を液相形成温度と測定方法は、以下のようである (Fig.2.2)。金属 塩化物ペレットを一定温度に保ったガラスフィルタ ー上にセットし、ペレット表面に2本の Pt ワイヤ ー電極を 1mm 間隔で接触させる。その後、65°Cの 20wt%HCl溶液中をバブリングさせた窒素ガスを試 料表面に対して垂直に流した。全圧は 100kPa、ガ ス分圧は HCl 1.6kPa、H2O 13kPa である。流 量は 2.5mol/hr である。白金ワイヤー電極間に、電 流の時間変化を測定して電極間の抵抗値の変化を追 跡した。塩化物試料が湿潤 N2ガスにより、吸湿す ると、抵抗値が時間とともに減少するので、抵抗値 が 1M 2 になる時間を計測し、吸湿開始時間とした。 吸湿開始時間と温度との関係をプロットし、吸湿開 始時間が無限大となる温度を液相形成温度とした。Rise of dew point from 65°CNiCl22 20CuCl,Fig.2.4 Liquid phase generation temperature of various metal chlorides exposed to a wet HCl gas stream. Nitrogen gas which passed through 20mass% HCl solution at 65 °C was supplied at 561 / min.2.3 結果2.3.1 高温ガス腐食試験結果2.3.2 液相形成温度測定結果Fig.2.3 に示すように、腐食減量より求めた腐食 速度を比べると、付着物なしの試験片においては、 腐食速度は 0.1mm/y 程度であるのに対し、鉄化合 物 (FeCl2、Fe2O3、FeCl3 : 各 1g) を付着させた試 験片の場合には、腐食速度は FeCl2、Fe2O3、FeCl3 の順で増加し、最高で 0.8mm/y まで増加している ことが明らかである。FeCla、FeCla、NiCl2、CrCl2 および CuCl2 の液相 形成温度を Fig.2.4 に示す。縦軸には、液相形成温 度とガス飽和温度(65 °C)の差をプロットしてある。 各種金属塩化物により液相形成温度は大きく異なる。 CuCl2 や NiCl2 においては、液相形成温度は、ガス 飽和温度よりも10~20°C高いだけであるが、CrCl2 FeCl2 及び FeCl3 においては、液相形成温度は、露 点より80~90°Cも高い。FeClaは最も高い値を示し、 他の金属塩化物に比べて吸湿性が極めて高いことが わかる。このことから FeCl3を含む腐食生成物が試 験片表面に存在すると、露点よりも高い温度で湿食 環境が生じることが明らかである。1「Gas temp.%3B230°C,Metal temp.;163°C Press. ; Ambience, Test term;432ksFeCl, 1gCorrosion rate mm/yFe20, 1g2.4 伝熱面での腐食メカニズムFeCl, 1gno compoundKinds of iron compounds Fig.2.3 Corrosion rate of SUS304L coveredwith/without FeCl2,Fe2O3, and FeCl3 in N2-HCl-O2 gas at 162 °Cfor 5 daysHC1、0,環境での腐食は鉄のオキシクロリネー ション反応に起因すると言われている)。腐食試験 後の 304L の観察及び分析より、一例として、以下 のガス組成の高温ガス(160~200 °C)中、伝熱条 件下における 304L の腐食メカニズムについて熱力 学的考察を加える(Fig.2.5)。圧力比は、以下である。p(H2O) : p(HCl) : p(02)=0.15:0.9:0.3-4他の金属塩化物に比べて吸湿性が極めて高いことが わかる。このことから FeCl3を含む腐食生成物が試 験片表面に存在すると、露点よりも高い温度で湿食 - 402 -HCI, H,0 and 02. gasJ1 @FeCl(Fe,Cls) gasIron compounds surface HighIron HCl (FeO)rust H,0,0, HCIFeci, VRH,0 * HOLD CFeCI,0,HCP Fe2+ (Cathode) Low (Fe)Heat (Anode) |exchangesurface Fig.2.5 Schematic drawing of the corrosion mechanismof stainless steels in HCl- H20-02 gas at high temTemperatureperature.304L を蒸気ガス雰囲気中に保持すると、まずステ ンレス鋼に含まれる Fe が HC1 と反応し、表面に FeCl2 が生成して時間とともに成長していく (Fig.2.5 プロセス1)。 - FeCl2 は温度が低いほど安定であり、高温になる と、FeCl. 外層は、Fe2O3 に変化していく(Fig.2.5、 プロセス2)。 |- 外層に生成した Fe2O3 は緻密でないため、保護皮 膜としては不完全であり、HC1 ガスが FeCl2層を浸 透し、FeCl2 / 素地金属界面に新たな FeCl2 を生成 する。この反応の繰り返しにより付着物層は、Fe203 /FeCl2 二層構造となり、時間とともに成長して厚さ を増していく。Fe2O3/ FeCl2 層の二層構造の成長は、断熱効果を より促進し、Fe2O3 層の内部の温度を低下させる。 また、それと同時に、液相形成温度以下では多孔質 この Fe2O3層に HCl が特異的に吸着し、FeCl3を形成 する(Fig.2.5、プロセス3)。Fe2O3層の内部において Fe2O3 あるいは FeCl2 か ら生成した FeCl3 は、比較的低い温度域で蒸気圧が 高いので、著しく腐食が進行する(Fig.2.5、プロセ ス@)。また、FeCl3 は吸湿性が高く、露点より最大 90°C 高い温度においても吸湿・溶解して濃厚 FeCl3溶液 を形成する。FeCl3溶液中の Fe3+イオンは、加水分 解により、塩酸水溶液環境を作り出すとともに 5),6)、 Fe の酸化剤として作用し、ステンレス鋼を激しく 腐食させる。上述の作用に加え、FeCl3溶液が HClことも腐食をガスを吸収し、溶液の pH が低下することも腐食を 促進する要因となろう。溶液中に溶解した Fe2+ イオンは、FeCl2 となり (Fig.2.5、プロセス3)、Fe2O3 の形成を促進する ことになる (Fig.2.5、プロセス2)。2.5 結論160~200°C前後の HC1、02 及び H20 混合ガス中 におけるステンレス鋼(SUS304L)の伝熱面の腐 食挙動を調べるともに、熱力学的考察により腐食メ カニズムを検討した結果、次のことが結論づけられ た。(1) ステンレス鋼の腐食は、Fe のオキシクロリネーション反応により進行し、腐食生成物として FeCla, Fe2O3を経てFeCl3が最終的に生成する。 これら化合物の生成は、熱力学的に合理的に説明できる。 (2) FeCl3は露点よりも90°C高い温度以下または熱力学的に FeCl3 が安定な領域において、ガス中 の H2O を吸収し、吸湿・溶解する。これが、 HC1 酸性湿式腐食環境を形成し、ステンレス鋼 の腐食を促進する。上述のステンレス鋼の腐食 速度が温度依存性を持つことは、FeCl. の溶解 速度が、温度が低いほど大きいためと理解でき(3) ステンレス鋼表面上では、HCI が特異的に吸着して塩化物が濃縮し易く、比較的低温では酸化 物安定相を形成することにより防食するのは、 難しい。3.高温 02-C12-HCI-H20 混 境での 金属元素および合金のエロ ージョン・コロージョ3.1 はじめに403第3項では、2項より高温、高濃度の塩素 ガス環境中における各種材料のエロージョ ン・コロージョンを取り上げた 。 1000°C 近くの高温で、低塩素高酸素濃度腐食環境 において、Cr を含む Ni基や Co 基合金の 腐食速度が数mm/y程度の大きな値を示す ことが知られている 8) -12)。一方、500°C以 下で塩素濃度が高く、酸素、水分濃度が低 い環境下においては、金属塩化物が安定に なるため、その腐食速度は 0.1 mmly 前後で 小さく、腐食はあまり重要な問題とはなら ない 7),13)-16)。そこで、著者らは、実験室 および実機での 415°C の Cl2 - 02 - HC1H20 混合ガス環境において、Ni および Cr の純金属、Ni基合金、または Ni および Co 基溶射各種材料の腐食挙動を調べるととも に、粒子流動の有無によるエロージョンを 検討した。3.2 実験方法- 実験は実験室試験と実機試験を行った。 実験室試験では反応器形状と塩素供給以外 は 2項と同じ試験装置を用いた。 - 実機は、粒子流動を伴うエロージョン・ コロージョン環境を有する円筒形流動相と 粒子流動のない装置出口ガス相から構成さ れている。2 種の試験片(板材、溶射材) を流動相に、比較として、板材をガス相に 取り付けた。 - 実験室、実機試験とも 415°C の 26% C1221% 02 - 12% HC1 - 21% H20 混合ガス環境で ある。但し、圧力は、実験室では常圧であ り、実機では 0.5 MPa である。流速は、実 験室では、3mm/s であり、実流速を約 100 mm/s と した。試験期間は、実験室では、約 10°ks であり、実機では 約 2.9 × 10*ks(1 年 間の試験を行った。 - 板状試験片は、純 Ni 金属、Ni 基合金 (HA214、In600、In625、In686、C-22、C-276)、 Incoloy 825 (以下、In825 とする)および Fe 基合金 SUS329J1 である。またいくつかの Ni 基合金に Cr または Al 拡散浸透処理を、 1000-1100°C で10時間施し、実験に供した。0.60.5Labo. gas Plant gasPlant fluid ? Cr difu. A Al difu.0.40.30.20.1_SZ8C-276 |170r|In686 | HA214 In600In625329J1 160r3Mo170r17M0 18Cr40C08MoFig.3.1Comparison of the corrosion rate among severalmetals(plates) with / without metal spray coatings in HCl-C12-02-H20 hot gas atmosphere at 415°C. Marks(Labo. gas: Laboratory test without erosion,Plant gasD/fluid ■:Test without/with erosion in the industrial plant,CrO/Al Adifu.:Cr or Al difusion coating material in the industrial plant witherosion) それぞれ、●Cr Difu. A AI(Fig.3.1 中、それぞれ、●Cr Difu. A AI difu.と表わす)溶射試験片は、母材として純 Ni および Fe 基合金を用い、これに 17Cr6Mo(数値は mass%を示し、Ni濃度はバランス量とした。 以下同様)、18Cr40C06Mo、16Cr3Mo、C-276 相当品である 17CT17Mo を数百um厚で溶 射した 。いずれの溶射材料もシリコンを 3-4%前後含む自溶合金であり、ガスフレー ム溶射後、970-1100°Cで再溶融した。また、 一部の溶射した試験片に Cr および Al を、 1000-1100°C で 10時間、拡散処理を施した。3.3 実験結果- Fig.3.1 に実験室および実機腐食試験によ って得られた各種材料の腐食速度を示して いる。その結果、以下のことが明らかにな った。 - 実機での粒子流動を伴わないガス相にお ける腐食速度は、流動相における腐食速度 の数分の1である。さらに、実験室では、 その約 1/10 である。 - 純 Ni の腐食速度が Ni 基合金よりも小さ く (0.04 mmly)、気相部と同じ傾向である。-404“ “中高温度の塩素含有環境下における金属材料の腐食と防食“ “松田 宏康,Hiroyasu MATSUDA