FBR を対象としたリスクベース保全検討について
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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
近年、特に米国において軽水炉の安全規制に係る意 思決定にリスク情報を積極的に活用するしくみが実用 化され、設備稼働率が大幅に向上している状況を踏ま えて、日本の軽水炉においてもリスク情報の活用に向 けた取り組みが行われている[1]。高速増殖炉の場合、 軽水炉のように豊富な運転経験を有する段階になって はいないが海外先行高速炉の運転事例があり、日本で も基礎的な試験からモックアップ試験等を実施した常 陽、もんじゅの経験があり、同様の手法でのリスク情 報活用に関する研究が行われている[2]。しかし、ナト リウムを冷却材とする高速炉においては、原子力設備 に特有な炉心損傷のリスクに加えて、ナトリウム漏え いのリスクを考慮することが必要と考えられる。ここ ではナトリウム漏えいという観点からリスク評価手法 検討を行い、もんじゅを例として手法の適用を試みた。
2.検討
2.1 検討の流れ米国軽水炉を対象にした EPRI の RI-ISI 検討方式[3] が過去の運転経験をベースとした定性的評価であるこ とを参考に、FBR 先行プラントの運転経験を調査検討 することにより、ナトリウム内包壁の破損の可能性と 影響を検討し、「破損の起こり易さ」と「影響の大きさ」 の組み合わせをリスクとし、以下の手順で検討する。 1 先行炉事例調査:先行炉で発生した破損モード/メ連絡先:土井基尾、〒919-1279 福井県敦賀市白木1丁 目、日本原子力研究開発機構、電話: 0770-39-1031、 e-mail:doi.motoo@jaea.go.jpカニズムについて調査する。 2 FMEA による検討:機器配管の部位毎に考え得る破 損について「破損の起こりやすさ」と「影響の大きさ」を評価する。 3 リスクマトリックスによる評価:検査などの対策推奨箇所を指摘する。2.2 先行炉事例調査ナトリウム漏えいの観点から先行 FBR 破損事例より ナトリウム内包壁で考えられる破損要因を摘出した。 特徴的な破損事例は、サーマルストライピング、弁べ ローズのクラック、電磁誘導による圧力振動等である。 なお、先行破損事例として現れてはいないが、設計基 準で防止しているクリープ疲労などの破損要因につい ても発生の可能性として考慮する。2.3 FMEA による検討 (1) 「破損の起こり易さ」「破損の起こり易さ」については次の3項目それぞ れについてグレードを評価し、加点することで定性的 ランク付けを行った。 第1項目;荷重/破損要因によるランク付けFBR 先行炉破損事例の原因の大半は製作不良や運転 ミスとなっており、十分に解析評価された部位の破損 は稀である。あっても設計想定外荷重が原因の事例が ほとんどである。そこで、構造物にかかる荷重と破損 要因をどの程度設計評価に取り込んでいるかにより、 1技術基準に規定されていない新たな破損様式も解析 評価、2技術基準に規定された破損様式について解析 評価、3一般の規格により設計の3段階に分けた。56第2項目;計算裕度によるランク付け想定外の破損メカニズムの有無や制限値に対する設 計余裕の程度を加味して、破損の起こり易さをランク 分けする指標として設定した。また、新たに判明した 破損メカニズムについて解析評価されている場合は、 制限値に近い場合のみ更なる想定外荷重に対する余裕 が少ないことから破損の可能性を高点に区分する。 第3項目;検査の有効度によるランク付け - 破損の起こり易さは、検査で見つけた欠陥を除去す ることにより低減することから、検査の効果を考慮す る。ここでの検査とは漏えいが発生する前に欠陥を検 知する検査の有効度により3段階とし、減点する。 表1に設計グレードの高い部位の分類案を示す。 表1 「破損の起こり易さ」分類案計算裕度 荷重/要因| 検査有効度 「点数 ランク |(設計解析値)」 設計解析して |裕度少 | |検査できない|0|30|大 いない破損メ 制限値に- | 10 | 検査範囲制限] -5 | 25 | 大 カニズムが想 近い 定されるが、 (90%超) 正しく検出する|-1020 | 中 新たな荷重検査できない 0 | 21 | についても解|裕度有 検査範囲制限|-5| 16 1中 析している。正しく検出する|-10| 11 | 小. (2) 「被害の大きさ」 .... 軽水炉を対象としたリスクベース検査手法での影響 度の指標は、条件付炉心損傷頻度が使われている。こ こではナトリウム漏えいについて、安心への影響と周 辺設備への影響を合わせて次の3項目に分けた。 第1項目;漏えいの影響範囲によるランク付け 一本分類では漏えいナトリウム自体の影響範囲に限定。 漏洩室内を超えて影響が及ぶことは無いと考え、1室 内広範囲に影響、2漏洩箇所の周辺にまで影響、3限 定範囲内にのみ影響の3段階とした。 第2項目;漏えいの影響設備によるランク付け破損の「早期検知」「漏えいの抑制」「拡大防止」の 観点から防護が必要な設備の有無によりランク付けする。第3項目;安全性への影響によるランク付け 原子力施設の安全性の観点からは炉心への著しい影 響により分類することが考えられるが、FBR 設備はこ れらを踏まえた機器区分により設計製作されているの で安全性への影響は機器区分によりランク付けする。 * 表2に影響範囲が広い場合についての分類案を示す。表2 「被害の大きさ」分類案漏洩範囲室内まで影響設備 | 安全性 「点数|ランク 防護を必要とす 最重要 | 20150大 る設備に影響 | 10 重要 15| 45 | 大並 「防護が必要な 最重要 201411 設備に影響しな1 重要 |15|36 い並 11 22「中する|31|は「鳥番1(3) FMEA以上の方法に基づいて「破損の起こりやすさ」に関 係する情報および「被害の大きさ」に関係する情報を FMEA シートに整理し、ランク付けを行う。2.4 リスクマトリックスによる評価FMEA によりランク付けした結果をリスクマトリック ス上で定性的に評価する。相対的にリスクの大きい箇 所は検査等の対策を施すことが推奨される。以上の手法をもんじゅの主要部位に適用して得られ たリスクマトリックスの例を表3に示す。例示した点 は全て「最重要」の点で、被害の大きさは全て「大」 であるが、破損の起こり易さはほとんど「小」である。 1箇所「中」となっているが、これは絶対的なリスク を意味するものではなく、他の箇所に比べて相対的に リスクが高いと推定されることを意味する。したがっ て、保全計画策定において検査順位を考える上で、こ のような評価は有効と考えられる。表3 リスクマトリックスの例大一中-|-| 1箇所破損の起こり易さ8箇所大小 | 中 被害の大きさ3. まとめ ・ナトリウム冷却高速炉に特有のリスクに着目した保 全検討手法について紹介した。今後、PFM の導入など による「破損の起こり易さ」の定量化が重要と考える。 参考文献 [1] 原子力安全委員会、「リスク情報を活用した原子力 - 安全規制の導入の基本方針について」平成15年 [2] 「リスク情報を活用した安全規制の導入に関するタスクフォース」資料第 5-2-2 号 [3] ASME Sec. XI, div. 1 Case N-578-1 Risk-InformedRequirements for Class 1, 2, or 3 Piping, Method B.“ “FBR を対象としたリスクベース保全検討について“ “土井 基尾,Motoo DOI,月森 和之,Kazuyuki TSUKIMORI,渡士 克己,Katsumi WATASHI
近年、特に米国において軽水炉の安全規制に係る意 思決定にリスク情報を積極的に活用するしくみが実用 化され、設備稼働率が大幅に向上している状況を踏ま えて、日本の軽水炉においてもリスク情報の活用に向 けた取り組みが行われている[1]。高速増殖炉の場合、 軽水炉のように豊富な運転経験を有する段階になって はいないが海外先行高速炉の運転事例があり、日本で も基礎的な試験からモックアップ試験等を実施した常 陽、もんじゅの経験があり、同様の手法でのリスク情 報活用に関する研究が行われている[2]。しかし、ナト リウムを冷却材とする高速炉においては、原子力設備 に特有な炉心損傷のリスクに加えて、ナトリウム漏え いのリスクを考慮することが必要と考えられる。ここ ではナトリウム漏えいという観点からリスク評価手法 検討を行い、もんじゅを例として手法の適用を試みた。
2.検討
2.1 検討の流れ米国軽水炉を対象にした EPRI の RI-ISI 検討方式[3] が過去の運転経験をベースとした定性的評価であるこ とを参考に、FBR 先行プラントの運転経験を調査検討 することにより、ナトリウム内包壁の破損の可能性と 影響を検討し、「破損の起こり易さ」と「影響の大きさ」 の組み合わせをリスクとし、以下の手順で検討する。 1 先行炉事例調査:先行炉で発生した破損モード/メ連絡先:土井基尾、〒919-1279 福井県敦賀市白木1丁 目、日本原子力研究開発機構、電話: 0770-39-1031、 e-mail:doi.motoo@jaea.go.jpカニズムについて調査する。 2 FMEA による検討:機器配管の部位毎に考え得る破 損について「破損の起こりやすさ」と「影響の大きさ」を評価する。 3 リスクマトリックスによる評価:検査などの対策推奨箇所を指摘する。2.2 先行炉事例調査ナトリウム漏えいの観点から先行 FBR 破損事例より ナトリウム内包壁で考えられる破損要因を摘出した。 特徴的な破損事例は、サーマルストライピング、弁べ ローズのクラック、電磁誘導による圧力振動等である。 なお、先行破損事例として現れてはいないが、設計基 準で防止しているクリープ疲労などの破損要因につい ても発生の可能性として考慮する。2.3 FMEA による検討 (1) 「破損の起こり易さ」「破損の起こり易さ」については次の3項目それぞ れについてグレードを評価し、加点することで定性的 ランク付けを行った。 第1項目;荷重/破損要因によるランク付けFBR 先行炉破損事例の原因の大半は製作不良や運転 ミスとなっており、十分に解析評価された部位の破損 は稀である。あっても設計想定外荷重が原因の事例が ほとんどである。そこで、構造物にかかる荷重と破損 要因をどの程度設計評価に取り込んでいるかにより、 1技術基準に規定されていない新たな破損様式も解析 評価、2技術基準に規定された破損様式について解析 評価、3一般の規格により設計の3段階に分けた。56第2項目;計算裕度によるランク付け想定外の破損メカニズムの有無や制限値に対する設 計余裕の程度を加味して、破損の起こり易さをランク 分けする指標として設定した。また、新たに判明した 破損メカニズムについて解析評価されている場合は、 制限値に近い場合のみ更なる想定外荷重に対する余裕 が少ないことから破損の可能性を高点に区分する。 第3項目;検査の有効度によるランク付け - 破損の起こり易さは、検査で見つけた欠陥を除去す ることにより低減することから、検査の効果を考慮す る。ここでの検査とは漏えいが発生する前に欠陥を検 知する検査の有効度により3段階とし、減点する。 表1に設計グレードの高い部位の分類案を示す。 表1 「破損の起こり易さ」分類案計算裕度 荷重/要因| 検査有効度 「点数 ランク |(設計解析値)」 設計解析して |裕度少 | |検査できない|0|30|大 いない破損メ 制限値に- | 10 | 検査範囲制限] -5 | 25 | 大 カニズムが想 近い 定されるが、 (90%超) 正しく検出する|-1020 | 中 新たな荷重検査できない 0 | 21 | についても解|裕度有 検査範囲制限|-5| 16 1中 析している。正しく検出する|-10| 11 | 小. (2) 「被害の大きさ」 .... 軽水炉を対象としたリスクベース検査手法での影響 度の指標は、条件付炉心損傷頻度が使われている。こ こではナトリウム漏えいについて、安心への影響と周 辺設備への影響を合わせて次の3項目に分けた。 第1項目;漏えいの影響範囲によるランク付け 一本分類では漏えいナトリウム自体の影響範囲に限定。 漏洩室内を超えて影響が及ぶことは無いと考え、1室 内広範囲に影響、2漏洩箇所の周辺にまで影響、3限 定範囲内にのみ影響の3段階とした。 第2項目;漏えいの影響設備によるランク付け破損の「早期検知」「漏えいの抑制」「拡大防止」の 観点から防護が必要な設備の有無によりランク付けする。第3項目;安全性への影響によるランク付け 原子力施設の安全性の観点からは炉心への著しい影 響により分類することが考えられるが、FBR 設備はこ れらを踏まえた機器区分により設計製作されているの で安全性への影響は機器区分によりランク付けする。 * 表2に影響範囲が広い場合についての分類案を示す。表2 「被害の大きさ」分類案漏洩範囲室内まで影響設備 | 安全性 「点数|ランク 防護を必要とす 最重要 | 20150大 る設備に影響 | 10 重要 15| 45 | 大並 「防護が必要な 最重要 201411 設備に影響しな1 重要 |15|36 い並 11 22「中する|31|は「鳥番1(3) FMEA以上の方法に基づいて「破損の起こりやすさ」に関 係する情報および「被害の大きさ」に関係する情報を FMEA シートに整理し、ランク付けを行う。2.4 リスクマトリックスによる評価FMEA によりランク付けした結果をリスクマトリック ス上で定性的に評価する。相対的にリスクの大きい箇 所は検査等の対策を施すことが推奨される。以上の手法をもんじゅの主要部位に適用して得られ たリスクマトリックスの例を表3に示す。例示した点 は全て「最重要」の点で、被害の大きさは全て「大」 であるが、破損の起こり易さはほとんど「小」である。 1箇所「中」となっているが、これは絶対的なリスク を意味するものではなく、他の箇所に比べて相対的に リスクが高いと推定されることを意味する。したがっ て、保全計画策定において検査順位を考える上で、こ のような評価は有効と考えられる。表3 リスクマトリックスの例大一中-|-| 1箇所破損の起こり易さ8箇所大小 | 中 被害の大きさ3. まとめ ・ナトリウム冷却高速炉に特有のリスクに着目した保 全検討手法について紹介した。今後、PFM の導入など による「破損の起こり易さ」の定量化が重要と考える。 参考文献 [1] 原子力安全委員会、「リスク情報を活用した原子力 - 安全規制の導入の基本方針について」平成15年 [2] 「リスク情報を活用した安全規制の導入に関するタスクフォース」資料第 5-2-2 号 [3] ASME Sec. XI, div. 1 Case N-578-1 Risk-InformedRequirements for Class 1, 2, or 3 Piping, Method B.“ “FBR を対象としたリスクベース保全検討について“ “土井 基尾,Motoo DOI,月森 和之,Kazuyuki TSUKIMORI,渡士 克己,Katsumi WATASHI