信頼性ベースの原子力配管肉厚の検討及び検査時期の予測

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カテゴリ: 第3回
1. はじめに
米国では、リスク概念を導入した確率論的安全評 価 (PSA) を原子力発電所の安全管理に利用し合理化を 進めている。ASME Section XI(維持規格) については、 すでに確率論を導入し合理的な保守管理に入っており、 Section II (設計・建設規格)についても、今後確率 論を導入した合理的な規格に改定していくことを計画 している。日本では、原子力配管設計においては、これまでASME Section IIを参考にして設計技術基準を定めてきた。 現行の ASME の手法は主に決定論的な設計手法に準拠 している。しかし、原子炉配管設計においては、荷重 条件、材料特性や製造寸法などさまざまな不確かさを 伴う。これまでの許容応力設計(ASD)法では決定論的 な安全係数を用いて不確かさを扱ってきたため、場合 によっては、過剰に保守的な設計となっており、個々 の不確かさと安全裕度の関係が明確ではない。 一方、荷重条件、材料特性や製造寸法などさまざまな 不確かさを考慮し、確率論を利用した信頼性ベースの 設計手法は、建築、橋梁、港湾等の分野では、積極的 に導入され、大きな成果を上げている。信頼性ベース の設計手法の建築構造での適用では 3~5%のコスト削 減が示されている[1]。橋梁設計分野では、複数の限界状態を同時に考慮し、信頼性ベースの手法を用いて 様々な設計条件のもとで設計される RC 橋脚や場所打 ち杭基礎などから構成される橋梁系の安全性の均一化 問題について検討されている[2]。船舶・海洋構造物分 野では、有限要素法、確率評価法および部材重要度評 価手法を統合した数値シミュレーションに基づく総合 的構造信頼性評価法の開発・適用に関する研究が行わ れている[3]。また、原子力分野では、確率論的破壊力 学に基づく原子炉機器の定量的リスクベース評価につ いても検討されている[3]。 信頼性ベースの設計手法の 原子炉の配管設計および保全への適用により、次のよ うな利点が考えられる。 1 安全裕度は破損確率を用いて定量的に明示できる。
2 破損確率を基準にした設計で安全裕度の合理的分 1配が可能である。 3 破損確率の時間依存性解析が可能で、これに基づい
た保全計画の合理化が可能である。 1 安全裕度を合理的に設定できるので、従来の許容応力設計法による配管肉厚に比べて薄くできる可能があり、コストの削減に結びつく。 . 本研究は信頼性ベースの設計手法を計算コード化し 原子炉配管設計に適用する。また、配管の SCC(Stress Corrosion Cracking: 応力腐食割れ)の進展による破 損確率の時間増加を推定し、破損確率を目標破損確率 以内に抑えるような検査時期の予測について検討する。622. 信頼性ベースの設計手法の概要 2.1 破損確率と信頼性指標ここで、強度 X を持つ部材に荷重 X, が作用した場合 の破損確率の算出について説明する。XR、Xはともに 確率変数であり、図1に示すように強度 X の分布関数 と確率密度関数を Fr(x) 、 fr(x) 、荷重 X, の分布関数と 確率密度関数を F(x) 、 f(x) とする。一般に図1のように、これらの確率密度曲線が交じる 部分がある。荷重が強度を上回る場合、破損すること になり、この破損する可能性の大きさを破損確率P,を 用いて評価し、次式で与えられる。Py = SFR(x) f(x)dx-1実際には、材料の強度や荷重などの確率分布関数が わかることは一般に困難である。そこで、平均値と標 準偏差を用いて安全性を評価するものとして信頼性指 標が提案されている。信頼性指標Bは次のように定義 される。B=Hz0zここで、 Z=XR-X、限界状態関数と呼ばれる。以0z はそれぞれ2の平均値および標準偏差である。1-2以z、12f(x)dx(e)s (e)sF(x)x x+dxARS XL図1 破損確率の計算信頼性指標Bの計算について、確率変数が正規分布 にしたがう場合、FOSM (First Order Second Moment Method、1次近似2次モーメント)法を用い、そうで はない場合、AFOSM (Advanced First Order Second Moment Method、改良1次近似2次モーメント)法を用 いて近似計算することができる。また、信頼性指標Bと破損確率 PPの関係は近似的に 次式で与えられる。P, = 1-0(B)1899/12/27ここで、(●)は平均値0、標準偏差1の標準正規確率分 布関数である。PD3.配管破損条件信頼性ベースの配管設計において、材料の強度、肉 厚、内径、内圧など設計パラメータが確率変数として 扱われる。ASME Sec. IIIでは、配管の破損はの設計状態、 2運転状態、3過度荷重状態、◎緊急荷重状態の4つ の破損条件が定義されている。例えば、1の設計状態 では、設計圧力に対する配管の必要最小肉厚 tm は、次 式のように与えられる。(4) ' 2s. +0.8P ここで、Sm は許容応力(MPa)、P は内圧(MPa)、D は 内径(mm)である。また、内圧と自重などを考慮する場合、これらの荷 重により生じる曲げ応力による破損条件は、次式で表 される。月 20 + B, M, 51.550 ここで、MAは配管の自重などによる断面モーメント (N・mm)、Zは断面係数(mm)、t は肉厚(mm)、B、B, は主応力指数で 0.5 と 1.0 である。許容応力 Sm-min(2Sy/3, Su/4)、Sy は降伏応力、Su は極限強度 である。 1各設計確率変数の平均値と標準偏差がわかれば、 AFOSM 法を用いて各破損条件に対応する破損確率が 求められる。-54. 破損確率に基づいた検査時期の予測SCC の進展により配管の破損確率が時間経過にとも なって増加していく。ここで、「JSME 維持規格 2004」 の SCC の進展速度予測式[5]を用いて SCC 深さの時間 増加が計算することができる。また、SCC の深さを配 管の全周減肉として考えて、AFOSM 法を用いて破損 確率の時間増加が求められる。これにより、破損確率 を目標破損確率以内に抑えるような検査時期の予測が 可能である。635. 計算例・ ここで、実機データを用いて信頼性ベースの配管肉 厚設計及び破損確率に基づいた検査時期の予測の例を 示す。 [例I] 配管の目標破損確率を予め設定し、破損確率 を目標破損確率以内に抑えるように配管の肉厚を計算 する。設計条件の統計特性を表1に示す。表1 設計条件の統計特性平均値 | 標準偏差 | 外 径 (mm) | 318.5 | 1.27 | 公称肉厚(mm) | 25.4 . | 1.59 内 圧 (MPa) | 13.32 0.66 降伏応力(MPa) | 32329.1 配管材質:STPT48020ASD法による必要最小肉厚 : 18.2mm対応する破損確率:1.4×10-12必要最小肉厚さ(mm)肉厚差△=6.4mm必要最小肉厚 : 11.8mmm0.0000000000010.00000000010.000000010.0000010.0001破?礎?図2 破損確率に対応する肉厚の計算結果図2現設計では、配管の必要最小肉厚が 18.2mm(安全率 が 4.2 である)となっている。一般的に、原子炉では、 破損確率を 100~107 (本例の場合、従来の ASD 法の安 全率 2.25~2.97 に相当する)としている[6]。これを カバーして、破損確率を 1.0× 10~12~1.0×10-4の間に 変化させるとき、信頼性ベースの手法を用いて配管の 肉厚を計算し、計算結果を図2に示す。図2より、要 求された目標破損確率が 1.4×10-12 (安全率が 4.2) よ り小さい場合、信頼性ベースの手法による設計は従来 の ASD 法に比べて肉厚を薄くできる。文献[6]を参考に して、要求された目標破損確率を 1.0×10(安全率が 2.25) と設定した場合、対応する必要最小肉厚が 11.8mm となり、ASD 法に比べて 6. 4mm 薄くできる。[例II] 原子炉再循環系配管ヘッダ管 (400A、材質: 材質:鋭敏化 SUS304)の SCC の進展による破損確率の 増加の時間依存性を予測する。データの統計特性を表 2に示す。この場合の予測結果を図3に示す。図3よ り、SCC の初期深さ a。(検査により初めて発見された ときの SCC 深さの測定値)は破損確率の時間変化に大 きく影響する。また、目標破損確率を 1.0×10-と設 定し、目標破損確率を超えたときに検査を実施する場 合に、SCC の初期深さ a =3.0 と 4. 0mm に対応する次の 検査時期はそれぞれ 11.8、8.5 年であり、両者の差は 3.3 年となる。したがって、この a。の差が検査精度に 対応していると考えられるならば、SCC の初期深さの 検査精度は次回検査時期の予測に大きく影響し、検査 精度の向上は次回の検査時期の合理化につながる。以上の計算例より、信頼性ベースの手法を原子炉配 管設計及び保全計画に適用することによりコストの削 減に結びつく。外表2 設計条件の統計特性平均値 | 標準偏差 径 (mm) | 406.4 2.44 公称肉厚(mm) | 26.01.63 圧 (MPa) | 7.96 0.4 降伏応力(MPa) | 11510.35 材質:鋭敏化 SUS304内0.0000001a%3D2mm破損確率 Pf\0.000000010.0000000011.-04ap4mm0.000010.000001ap%3D3mm0.0000001a%3D2mm破損確率 Pf0.000000010.0000000010.00000000010.00000000001024 6141618208_10 12時間(年)図3 破損確率の時間依存性の計算結果(a): SCC 初期深さ)6.結言本研究は、信頼性ベースの設計手法を原子炉配管設 計に適用した。また、配管の SCC の進展による破損確図364率の時間増加を推定し、破損確率を目標破損確率以内 に抑えるような検査時期の予測について検討した。計 算例により、以下の3点が言える。 1) 信頼性ベースの手法を用いて配管肉厚を計算するとき、目標破損確率に応じた合理的な肉厚設計が - 可能となり、従来の ASD 法より肉厚を薄くでき、コストダウンの可能性がある。 2) 破損確率に基づいた検査計画を策定する場合、SCCの初期深さの測定値は次回検査時期の予測に大きく影響する。 3) SCC の測定精度の向上は検査計画の合理化につながり、検査コスト低減の可能性がある。参考文献 [1] Adams. T. and_Stevenson, J., 1997,“Differential Design and Construction Cost of Nuclear Power Plant Piping Systems as a Function of Seismic Intensity and Time Period of Construction,” Welding Research CouncilBulleting 426、 November 1997. [2] 秋山充良、松中亮治、土井充、鈴木基行:構造系信頼性評価法と構造最適化手法を用いた RC橋脚と場 所打ち杭基礎間の耐力階層化に関する基礎的研究、構造工学論文集、Vol.47A、pp.743-752、2001 [3] 日本溶接協会:確率論的破壊力学に基づく原子炉機器の定量的リスクベース評価の最新動向、2005 [4] 岡田 博雄:崩壊モード解析に基づく大型撒積貨物船の構造信頼性評価に関する研究、日本造船学会論文集、No.174、1993 [5] JSME 日本機械学会 : 発電用原子力設備規格一維持規格(案)、2004 [6] 清宮 理:構造設計概論、技報堂出版、200365 -“ “信頼性ベースの原子力配管肉厚の検討及び検査時期の予測“ “凌 元錦,Yuanjin LING,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,真木 紘一,Koichi MAKI
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