超音波振動計を用いた縦型ポンプ診断

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カテゴリ: 第3回
1.緒言
- 近年、我国の原子力発電所においても、状態監視保 全(CBM)の導入が進められており、特に横置きの 非重要回転機に対して、振動診断を基にしたCBMの 導入が進んでいる。今後、信頼性を重視した保全計画 導入が進められるに従い、CBMの対象機器は増加し ていくものと予想される。その中で、縦型ポンプに対 しても、CBMを適用することにより、保守最適化の 効果として、信頼性向上及び保守費低減等が期待され ている。しかし、現状では、プラント現場に簡易に適 用可能で、かつ十分な精度のある、縦型ポンプの振動 診断手法は、ほとんど提案されていない。本稿では、 この問題を解決するために開発した、超音波振動計に よる軸振動計測と振動応答解析の組み合わせによる新 規の診断手法を紹介する。
2.縦型ポンプ診断の課題と対応一般に、振動診断では、診断の基準となる振動特性 (振動値や周波数特性等)を把握し、定期的に計測す る振動データを比較して、回転体アンバランスや軸受 故障等の異常について、徴候の検知や発生部位の評価 等を行っている。しかし、縦型ポンプへの適用には、 連絡先:日隈幸治、〒235-8523 神奈川県横浜市磯子区 新杉田8、(株)東芝原子力電気計装設計部、電話: 045-770-2431、e-mail:koji.higuma@toshiba.co.jp以下の問題点がある。 <診断基準の把握が困難>縦型ポンプでは、重力による軸受負荷がないことか ら、軸受に滑り軸受が使用されている場合、軸受特性 が安定しないため、振動データがばらつきやすく、非 線形自励振動が発生しやすいため、基準の振動特性が 把握しにくい。 <測定及び診断が困難>横型ポンプでは、軸受等の非回転部の振動加速度を 測定することにより、比較的容易に、診断が可能であ る。しかしながら、縦型ポンプでは、通常運転中はア クセス不能な床下に、ポンプ本体が設置されているた め、振動加速度の測定は難しい。また、非回転部の加 速度の変化は、異常の発生に対して十分な感度がない ため、測定データを基にした診断が難しい。縦型ポンプの振動診断では、以上の問題を解決する ために、非回転部の加速度よりも、異常の影響が顕著 に現れる軸振動を直接測定することが不可欠である。 しかし、従来の軸振動直接測定手法では、揚水管に穴 加工を施した上で、センサヘッドを常設しなければな らないため、実機適用が困難であるという問題点もあ るため、この解決も必要であった。 * 本稿で紹介する診断手法は、新規に開発した超音波 振動計を使用して、縦型ポンプの揚水管の外側から内部の軸振動を簡易に直接測定することにより、縦型ポ ンプに対しても振動診断の適用を可能としている。さ らに、軸振動計測と振動応答解析の組み合わせにより、 軸受摩耗の定量診断や進展予測も可能としている。こ れらの手法を用いることにより、これまで困難であっ た縦型ポンプに対する振動診断を基にしたCBM適用 を可能としている。以上の手法については、現在、実 機における検証を実施している。3. 超音波振動計図1は超音波振動計の原理と装置の写真である。本 装置は、図1の左上の外観写真にあるように、超音波 送受信器、超音波探触子、データ記録及び表示用の計 算機からなり、右上の写真のように、超音波探触子を 揚水管に取り付けて使用する。動作原理は、図1の下 側に示すとおりである。まず、揚水管の外側から内部 の回転軸に対して、一定周期で、超音波を発信し、反 射された軸のエコー波を受信する。パルス発信周期毎 に得られるエコー波受信時間の変動幅に液体中の音速 を乗じれば、軸振動変位量となる。以上を繰り返し、 パルス発信周期毎に求められる変位量を、時系列とし て処理することにより、測定対象の振動変位波形が復 元される。Ultrasonic pulser & receiverColumn pipeUltrasonicsensorではないか?Measured objectPump shaftClock pulseArrival time of echo = Object positionmemaUltrasonic probeWatern=4TimevibrationCasing of column pipelFig. 1 Principle of vibration measurement4.診断この超音波振動計により、縦型ポンプでも軸振動が 簡易かつ高精度に測定できるため、振動診断適用が可 能となる。一方、実機の点検報告書を調査し、劣化発 生状況を詳細に分析したところ、縦型ポンプの点検周 期を最適化する場合、特に海水ポンプにおいて、軸受 摩耗がクリティカルとなることが判ったため、超音波 振動計による軸振動測定と振動応答解析を組み合わせ た定量診断手法を開発することとした。図2は開発し た手法の概要であり、図3は振動応答解析に用いるモ デルである。モデルは図3の左側に示すように、ケー シングや揚水管等の構造物モデルに対して、軸受は剛 性と減衰特性を持つ軸受を介して回転軸モデルが支持 される構成となる。以下に、手法の概要を示す。 1) 振動応答解析モデル作成 - 対象となるポンプの寸法、材質、軸受形状等の仕様 をもとに振動応答解析モデルを作成する。 2) データベース作成 * 上記 1)の解析モデルを用いて、軸受摩耗が発生した 場合の振動の変化を振動応答解析より求め、軸受摩耗 量対軸振動観測値のデータベースを作成する。図3の 右側に示すように、軸受が摩耗した場合、剛性と減衰 特性が低下するので、振動が変化する。 3) 実機データ採取 * 実機において、超音波振動計により、軸振動を測定 し、上記 2)のデータベースを参照し、軸振動測定値か ら軸受摩耗量を求める。 4) 軸受摩耗量推定と予測 * 上記 3)を適切な周期で行った結果の傾向から、軸受 摩耗量が交換基準に達する時期を予測し、次回点検時 期を調整する。Analysis model1.Measurement by Ultrasonic vibrometerDynamical Simulation2.ExtractionN-component and OAData base (relation between shaft vibration andbearing wear)3.Estimation of Bearing wear 4.Optimization of maintenance timeFig.2 Outline of diagnosisShaft Model4070mmMotorBearing wearMeasurement ir ultrasonic vibroosterUNハンRotating shant==BeavingBearing Model==7700===よくなるクーポン10wColumn PipeFig.3Vibration analysis model and bearing wear以上の解析モデルと振動応答解析手法の検証のため、 図4に示す実機相当のモックアップ試験装置を製作し、 軸受摩耗加速試験を実施した。試験では、装置の試験 ループに砂を混入し、軸受を摩耗させながら振動を測 定し、試験装置で実測したと、振動応答解析で算出し た軸受摩耗対軸振動が一致することを確認した。Ball bearing40: Ultrasonic vibrometer (Dui) <-: Eddy current sensor (DA : Accelerometer (A1) TV:KeyphaserALSMotorHeadMotor coupling Ball bearingRotating speed 1420[rpm]20[m] Flow rate 10[m/h]DISA2Grand packingDeliverDul7Pressure Flow rateCoupling2622D2Submerged bearing :B] k Column pipe ID-0115Shaft D-0351736D3サイズなのでSubmerged bearing :B2 Impeller Submerged bearing :B Impeller(mm)Fig.4Suction Outline of examination machine図5は試験における軸受摩耗進展と振動推移の例であ る。本図の上段が超音波振動計による軸振動測定結果 で、下段が軸受摩耗の実測値である。両者の変化傾向 は、ほぼ一致しており、摩耗が進むに従って、非線形 自励振動に対応する回転数の1/2の周波数成分(1/2N成分)が発生し、その後摩耗の進展速度が増加 していることがわかる。図6は、この試験結果に対応 する振動応答解析結果の例であり、軸受摩耗発生前後 の軸各部の振動状況を表している。摩耗発生後は、軸 振動のリサージュが2重になっているが、これは、上 記の1/2N成分に対応したものであり、解析でも実 機で発生している非線形自励振動の発生が再現できる ことがわかる。図7は、軸受摩耗発生前後で、回転軸 の、実測した軸振動振幅と、解析により求めた振幅を 定量的に比較したものであり、縦軸が軸方向位置、横 軸が振幅である。これより、本手法により、軸受摩耗 対軸振動の特性を定量的にほぼ再現できることがわか る。なお、図7の右側のグラフは、実機で発生しうる 組み立て誤差を考慮し、軸のカップリング部に曲がり を発生させた試験と解析の結果であり、これより、実 機を想定した状況でも、本手法が有効であるといえる。Shaft vibration DS+ OA(Exp.)・OA (Cal. - IN 10-1/2NShaft vibration Cum0-p]Immart.sammluntumenuesta OamsteamisammyomSubmerged bearing B3Bearing clearance lim10_2040_6080 100 Operating time [hr]120140160Fig.5 Example of mock-up examinationMotorFlexible coupling Ball bearingGrand packingH++++Submerged bearing B1EMPLE+Submerged bearing B2 Submerged bearing B3+(1) before(2) afterFig.6 Example of simulation(2) after→ Before (Exp.)(Cal.) ? After (Exp.) ーーー(Cal.)Measure pointSubmerged bearing:B1Submerged bearning:B2Submerged beaning:B302040000100 12.102040Shah vibration Imp.pl1001200140 160180 Shaft vibration Lump-p!Fig. 7Comparison of shaft vibration between analysisresults and test results5. 実機における検証診断手法の実用化のためのフィールド試験を、実機 の縦型ポンプを対象として、実施中である。 まず、実機において超音波振動計によるデータ採取が 可能であることを検証し、その後、定期的にデータ採 取を継続している。この測定と並行して、対象ポンプ の振動モデルを作成し、振動応答解析により、軸振動 対軸受摩耗のデータベースを構築した。図8は、この データベースの例である。この図では、軸振動振幅の 軸方向の分布であり、横軸の左端がモータ最上部、右 端がポンプのインペラ先端であり、縦軸は軸の各位置 の軸振動振幅を表している。ここでは、パラメータと して、軸受隙間(摩耗量)を新品軸受の初期値から取 替え基準到達までの4段階に変化させて解析を実施し ており、それぞれの状態での振幅の分布を示している。 したがって、実測値(図中の▲と■)とこの図を照合 することにより、軸受摩耗量の推定を可能としている。 今後、次回の分解点検まで、データ採取を継続し、振 動測定結果から推定される軸受摩耗と、分解点検において実測される軸受摩耗を比較することにより実用化 が可能であることを検証する。0.000600r0.0005軸受直径クリアランス-- 新品の状態、 ---摩耗進行”小” ・・・×・・・摩耗進行““大““ ----取換基準到達・実測値(2006/1) ・ 実測値(2006/2)0.0004こち・軸振動OA[m]90000300・軸受0.0002・・・・・.8.20090.000101900/04/21床上汁点方向位置mlFig.8 Example of database (relationship betweenvibration and bearing wear)5.結言1. 本稿では、縦型ポンプのCBMに適用可能な振動診 断手法を紹介した。本手法の実用化は、プラントの信 頼性向上と保守費低減への寄与するものと期待される。 現在、本手法の実用化を目的に、実機を対象としたフ ィールド試験を実施中であり、良好な結果を得ている。 今後も、データの蓄積を進め診断精度の向上を図って いく。参考文献「11 尾崎健司他、”縦型ポンプの監視診断装置の開発““、D&D2002, 210 (2002) [2] 尾崎健司他、““ 海水ポンプの監視診断装置の開発”、D&D2004, 197 (2004)“ “超音波振動計を用いた縦型ポンプ診断“ “日隈 幸治,Koji HIGUMA,尾崎 健司,Kenji OSAKI,清水 俊一,Shunichi SHIMIZU,山下 和彦,Kazuhiko YAMASHITA,高柳 英彰,Hideaki TAKAYANAGI
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