保全に関する定量的解析手法に関する研究

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
る。現状知見に基づいて仮想的に時間を経過させ、未 来の予測を行い、その保全計画の良否を判断する。ま 現状、原子力発電所の保全は主に設計・運転・保守た、保全計画の改善を試みる際には境界条件を考慮す に関わるエキスパートによって立案・実施されている る。すなわち「頂上事象の発生確率はどこまで許容さ が、これら保全の体系を定量的に評価することができれるのか?」や「稼働率は合理的な範囲で確保できて れば、より効果的に保全活動を最適化することが可能 いるか?」等である。 となると考えられる。保全計画が改善されて、それに基づいて実際の保全 このため、現在、保全学会あるいは機械学会の場に 活動が実施される場合、プラント運転に伴って過去に おいて検討が進められている保全方程式の概念を整理 例の無いトラブルが発生した場合、そのトラブルの分 するとともに、保全方程式の定式化に向けた検討を実 析を通して現状知見が強化される。あるいは機器の故 施した。障がないこと等で故障率の見直しが実施される。新し 狙いは、保全方程式の構築であるが、この課題が困い知見に基づいてそれまでの保全計画は見直され、同 難な点は適切なモデルの構築にある。保全の全体像はじ保全計画に対しても以前とは異なった評価が下され 極めて複雑であり、数理的手法をそこに持ち込むには、 る。このようにして、未来の予測と過去の運転経験は 適切な問題の定式化が不可欠である。この課題を克服お互いに関連し合っている。 するには、小規模のモデルからスタートするしかない。 保全計画の立案や評価が、保全方程式のような客観本研究では、簡単なモデルとして劣化状態を導入で 的で普遍的な概念に基づいてなされるならば、その正 きる3状態モデルを考えた。検討を進めた結果、部分 当性や問題点について多くの人々で共通の土台で議論 点検の効果や劣化の程度等を定量的に評価できる可能 できるようになり、人々の安心確保に貢献できる可能 性を確認することができた。性もある。保全方程式の一つの例としては、プラントのライフ 2. 保全方程式の基本概念サイクルを通してのコスト等の評価が挙げられ、そこ 図-1は保全計画と保全方程式の関係を表したもので では定期検査における作業工程にかかるコスト、作業 ある。保全方程式自体は時間の流れに不変な概念であ 期間中プラントが停止することによる発電損失、定期 り、具体的な保全計画から、保全に係る費用の期待値 検査実施時およびプラント運転時におけるトラブルの や稼働率等の信頼性指標を算出するためには、機器の発生確率や、トラブル発生時の対応費用等が考慮され 故障モードや故障率といった「現状知見」が必要であることになる。こういった非常に単純な定式化においても各項目の 連絡先:清水 高、〒461-8680 名古屋市東区東新町1 実際の数値を求めるのは容易ではなく、それぞれにつ 中部電力(株) 原子力部 長期保全G、電話 052-951-8211 いてデータ収集・分析が必須であり、場合によっては E-mail: Shimizu.Takashi@chuden.co.jpパネル等で評価することが必要であると
エキスパートパネル等で評価することが必要であると 考えられる。境界条件: 稼働率やCDF、電力需要曲線等保全計画の改善仮想時間経過「保全計画保全計画一|| 保全方程式保全方程式保全に係る費用 各種信賴性指標現状知見: 機器の故障モードや故障率、 最新の検査技術や材料等ブラント間の水平展開含む 情報の整理黑時間註過実際の保全活動新規知見の獲得図-1 保全計画と保全方程式の関係 (止常状態):機器か止常な状態 (劣化状態):機器に部分的な劣化が認められ ・本格点検るが使用可能な状態 (故障状態):機器が機能を喪失し、故障してハスレ日立されスは能 3.3状態モデルによる検討 3.1 3状態モデル」 一般的に故障率とは、正常な状態にある機器が、単 位時間当たりに故障状態になる割合を指す。つまり、 機器に「正常状態」「故障状態」の2つの状態を想定し ている。本検討ではこの2状態系では無く、次のような3状 態系について検討を行うこととする。状態a(正常状態):機器が正常な状態 状態b(劣化状態):機器に部分的な劣化が認められるが使用可能な状態 状態 c(故障状態):機器が機能を喪失し、故障していると見なされる状態3.2 3状態モデルに関する定式化ある時刻 し における各状態の存在比率を考え、状態 a、状態b 、状態 c のそれぞれの比率を P. (0)P,() SP() と表す。ここで P. (1) + P(1) + P(t) = 1 が tに拠らず成立している。また、単位時間当たりの状 態間遷移率について次の3つを考える。2. :状態 a から状態 b への遷移率、正常な状態から劣化状態への遷移に対応。 2...:状態 b から状態 c への遷移率、劣化状態から故障状態への遷移に対応。→dash入→2 :状態 aから状態 c への遷移率、正常な状態から劣化状態を経ずに故障状態に遷移する場合に対応。 ここで遷移率の定義より次式が成立する。Sama (1) = -(so + 2 ) P., () STE (0) = 2.-P. (0) - 2, P. (0) STE() = Aug.P. (0) + 2, P. (0)-1ここで各遷移率が時間に拠らず一定としていること から、2は、新品に取替えても低減することができ ない偶発故障に対応していると考えることができる。 一方、状態 b を経て状態c に至る過程は状態b が発 見された場合に、そこで何らかの対策をとって状態 c に至るのを予防できると言う意味で偶発的ではない。 本議論では、機器の保全については、定期検査で実施 する場合についてのみ考える。定期検査時に実施可能 な点検方式として次の2つをモデル化して考える。・簡易点検:機器が状態 cにある場合のみ、異常を検知できるものとする。状態 a と状態 bに ついて区別できないので劣化状態は放置 される。状態 c であることを発見した場 合には、補修を実施、状態 a に復帰させ ることとする。==格点検:機器が状態 bにあるときでも異常を検知できる。状態 b、もしくは状態 c にある ことを発見した場合には、部分点検と同 様、補修を実施、状態 a に復帰させるこ ととする。P()本格点検のみ状態 a* )_B(t)状態 b)P()簡易点検と 本格点検・( 状態図-2 簡易点検と本格点検今、定期検査実施直前の時刻を、定期検査実施直後 の時刻を t。 + tr で表すと、簡易点検と本格点検の実 施は状態 a、状態b、状態のそれぞれの比率を川いて 次のように表現できる。○簡易点検 P(totty) = P. (to) + P (to) P(tottw) = P, (to) P(to +ta)=0○本格点検 Pato uts)=1 P,(totty)=0 P(totty)=0 式(1)~式(3)を用いることで定期検査モデルに基づい た保全効果についてのシミュレーションをすることが できる。2)計算例N定期検査毎に1回本格点検を実施する場合 本格点検を実施する場合、本格点検の実施頻度Nを 変更することで保全コストやリスクが変化する。ここ で、Nの最適化の視点から、最適化目標を設定する。代表的な最適化目標として、以下を考える。 【最適化目標-1] : 機器の故障確率を 5E-4 以下に抑えつ一つ、保全コストを最小化する。 N=4 とした場合、図-3 から機器の故障確率は、5E-4 以下に抑えられていることが分かる。一方、図-4から、 保全コストが大きくなっていることが分かる。さらに本格点検の頻度を上げてN=2とした場合の 計算結果を図-4~6に示す。図-4 では、機器の故障確 率の最大値は 2.3E-4 とN=4 の計算結果に比べ、さら に小さく抑えられているが、逆に保全コストは非常に 大きくなっており、保全コストとリスクの総和は結局、 N=4の計算結果の方が小さい。以上の結果から、機器の故障確率の上限値を超えな い範囲で、できるだけ上限値に近づくまで本格点検を 実施しないことが、この場合の最適化となり、特に[最 適化目標-1]について言えば、N=4 とすることが最適 な保全方式であるという計算結果となる。Pc0.0005 日N=40,00040:00:260.00020.000110_120306090_時間(月)図-3 状態c(故障状態)である確率PC0.00025AN-20.0002F000015年0,00010.000050_ 230 16090120時間(月) 図-4 状態 c(故障状態)である確率 3.33状態モデルを用いた計算例 1)計算における共通条件計算における共通条件を以下に示す ・ 基本的に機器の健全性は点検を実施しない限り分からないものとする。 13ヶ月運転した後、1ヶ月の定期検査を実施す る14ヶ月で1つのサイクルとする。 各定期検査では、必ず簡易点検と本格点検のいず れかを実施する。本格点検の実施頻度を N サイク ルに一回と表す。簡易点検では正常状態と劣化状 態の区別がつけられないので、劣化状態は次のサ イクルに持ち越される。 機器の状態遷移率として、次の値を用いる。別の 遷移率を用いる場合はその都度記述する。2. = 1E-4/月 21 = 1E-27月 Name = 1E-8/月保全コストについて を 1 、本格点検にかの値を用いる場合は ・ リスク算出のために 保全コストについては、簡易点検にかかるコスト を 1 、本格点検にかかるコストを 10 とする。別 の値を用いる場合はその都度記述する。 リスク算出のために、「機器の故障放置に伴う単位 時間当たりのリスク」を 2,000(1月)とする。 - 73 図-4 状態c(故障状態)である確率 1-Pa0.0024N=20.0019120.00061306090120時間(月) 図-5 状態 a(正常状態)でない確率 状態 a (正常状態)でない確率 図-5 状態 a(正常状態)でない確率1N=216041 :保全コスト+リスク 2:保全コスト 3:リスク10306090120時間(月) 図-6 保全コスト及びリスク3.結言1)3状態モデルを用いることで、点検手法の最適な組み合わせについて、簡単ではあるが検討するこ とができた。2) 正常/故障の単純な2状態系では考慮されない、機器の劣化発見等の点検結果に関するデータを、 信頼性解析に有効活用できる可能性を確認できた。木3) 劣化のイニシャライズについては偶発的で予想困難だが、状態監視技術を用いて劣化の進展をモニ タリングできるような機器については、「正常状 態」、「劣化開始後の状態」、「機能喪失状態」等に 分類することで、CBM 適用に関する議論ができる 可能性を確認できた。謝辞本研究に協力頂いた、日本保全学会の研究分科会及 びNPO「日本の将来を考える」のワーキンググルー プ委員各位に心から感謝します。74“ “保全に関する定量的解析手法に関する研究“ “肥田 茂,Shigeru HIDA,清水 高,Takashi SHMIZU
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