非破壊検査を考慮した原子炉容器の確率論的構造健全性評価手法の開発

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
確率論的破壊力学(PFM: Probabilistic Fracture Mechanics)は、構造機器に対する負荷や材料強度のばら つき、あるいは欠陥寸法分布・存在確率等を考慮して機 器の信頼性や健全性を合理的に評価できる手法として注 目されている。今日、安全率に基づく決定論的な評価に 対する合理的な説明、妥当性の評価あるいはこれに変わ る評価法として、手法整備やコード開発が進められてお り、国外では、破断前漏洩や経年圧力容器の健全性評価 に関わる規制に取り込まれる動向にある。このような背 景から、経年機器のより合理的な健全性評価法の確立を 目的に、NRC/EPRIやOECDINEA のワーキンググループ による国際ベンチマーク解析が実施されている。我が国 においても、規制・規格への確率論的手法の導入に備え、 評価手法の整備を行っておくことが必要である。(独)日本原子力研究開発機構では、軽水炉構造機器 の健全性に関する研究の一環として、平成8年度から確 率論的破壊力学解析コード PASCAL(PFM Analysis of Structural Components in Aging LWR)の開発を行っている [1]-[4]。このコードは原子炉圧力容器に加圧熱衝撃(PTS:
Pressurized Thermal Shock)等の過渡荷重が発生した場合 の破壊確率を解析するコードである。ここでは PASCAL の解析機能及び標準的解析手法について説明するととも に、破壊確率に対する非破壊検査の影響について検討し た結果の例を述べる。2. PASCAL の機能2.1 解析の流れPASCAL は原子炉圧力容器に PTS 等の過渡荷重が発生 した場合の健全性を評価する解析コードであり、容器に 対する負荷や材料強度のばらつき、あるいは欠陥寸法分 布・存在確率、中性子照射による圧力容器鋼の照射脆化 等を考慮して、モンテカルロ法により破壊確率を算出す る。PASCAL では、初期き裂寸法分布、化学成分含有率、 中性子照射量、破壊靭性値、き裂検出確率等が確率変数 として取り扱われる。Fig.1 に解析の流れを示す。初期き裂寸法分布に従いき 裂寸法が決定される。き裂検出確率に基づいて、この寸 法のき裂に対する検出の判定を実施し、検出と判定され た場合は補修されたものとみなして、再度初期き裂寸法 分布に従ってき裂がサンプリングされる。き裂が検出さ れなかった場合、過渡事象下におけるき裂の進展の判定 を行う。ある時刻においてき裂が進展しない場合は、過 渡事象の時間ステップを進行させて、新たな時刻におけ75る負荷状態でき裂の進展を判定する。き裂が途中で破壊 に至った場合、またはき裂が破壊せずに過渡事象が終了 した場合は新たにき裂のサンプリングを行い、同様の手 順で評価を行う。このように、多数のサンプルに対して 破壊・非破壊の判定を行ってき裂の破壊確率を算出する。2.2 主な機能開発の成果 - 平成 13 年度までに開発した PASCAL ver.1[1]は、表面 き裂に対する解析機能を有し、既存解析コードや国際ベ ンチマーク解析等により検証を進め、すでに国内外で公 開している。その後も、最新の研究成果や知見等に基づ いた機能開発を行ってきた。内部欠陥に対する日本機械 学会維持規格の評価法及び電中研の応力拡大係数算出法 の導入、さらに破壊靭性評価法に関してはマスターカー ブ法及びORNL の統計モデルの導入を実施した[2]。また、 圧力容器内面の肉盛溶接部と母材との境界における応力 不連続に対応するため、3次元モデルによる FEM解析に 基づいて、半楕円表面き裂の無次元化応力拡大係数デー タベースを作成した[3]。これにより PASCAL で膨大な数 の破壊力学解析を実施する上で、短時間で高精度の応力 拡大係数の算出を可能とした。これらの機能改良を反映 して、現在までに PASCAL ver.2 の開発をほぼ完了した。2.3 標準的解析手法PASCAL の開発当初から実施してきた機能改良及び感 度解析により得られた知見、並びに最新の知見を取りま とめて、PTS時における原子炉圧力容器の標準的 PFM解 析手法を提案した。PASCAL による解析に必要となる主 な入力項目と、PASCAL が有する評価式、さらに PASCAL においてデフォルト値に設定した条件、すなわち標準的 解析手法の一覧を Table 1 に示す。この標準的解析手法を反映したグラフィックユーザー インターフェース(GUI) の画面例を Fig. 2 に示す。Table 1の標準的解析手法の各評価式はすでに選択されており、 ユーザーは想定する原子炉圧力容器に関わるパラメータ の入力のみで解析を実行することが可能である。入力条 件を以下に示す。 (1) RPV Information高速中性子照射量過渡事象種類(データベースより選択) (2) Initial Flaw 1. 初期き裂形状・ き裂方向・ 深さ及びアスペクト比の分布の考慮の有無 (3) Material Property * 化学成分平均値・ JU) RTNDT ERJ?・ き裂存在部位 (4) Inspection 1非破壊検査シナリオ 1. 検査モデルの精度及び回数(5) Additional Settings 1. 解析精度等Sampling LoopRandom SamplingDetectedInspectionTransient Loop iCrack Initiation -Failure or T-Loop EndiVessel FailureS-Loop EndProbability of FailureFig. 1 PFM Analysis FlowTable 1 Analysis Conditions in PASCAL ItemFunctions and ConditionPASCAL K, database* Ky for semi-elliptical crack | Newman-Raju equationShiratori equation, etc.CRIEPI equation* Ky for embedded crackASME equationORNL Weibull distribution model*Kic and Kja equationNRC modelRTNDT shift equationASME section XI model, etc. JEAC 4201 equation* U.S.Regulatory Guide 1.99 Rev2 RCC-M equation, etc. Kj/Kt, and plastic collapse* R6 methodFailure criterionconsidered* Warm pre-stressnot considered Decrease of upper shelf | JEAC 4201 equation* toughness| U.S.Regulatory Guide 1.99 Rev.2 *: Default settings in PASCAL76PASCAL - Normal Card Image Group Select Traut View Era Graph DataBape Post-PASCAL OptionHelpInitial FlaMaterial PropertyInspectionAdditional SettingsRPV Information Analysis tte ---fost・Fluencenumbers of fluencefuence (x10~191cm2 Ex1MoMRPV geometry and transient . elasticRELOAD 300file pathelastic loop 200 Veac_pts_1_msib_17819 200Jaeni_seat_stoca file nameJaerl_se42_sbloca feac_pts_1_msib_17819.pfm15 ・・・・・ wortsmusb Joeri_scof_mblocabase thickness clad thickness ・ c s_1_msb_1701 DISE0.00 a01mm_1017Inner radius ・Shop_ 20161.994 ・コンボは21日 ・.3_03_181 b03coco_214 Nec_eri_benchmarkgraph (ayapornature) Prosr_tr1_sbloce * Prosr_r2_nsbgraph (stress vs thickness) モ ンPost_r3jts]CCOOOOOOU CELLmiastic-platticnaph (stress vs time)graph (lpad trasedanFig. 2 Typical View of PASCAL GUI3. PASCAL による解析例- 2.3 で示した標準的解析手法に基づいて、破壊確率に対 する非破壊検査の影響について検討を行った。非破壊検 査以外の主な解析条件を Table 2 に示す。 解析対象は3ル ープの PWR である。軸方向溶接部に半楕円のき裂が 1 個存在し、かつ過渡事象として主蒸気管破断事象が発生 したと仮定する。主蒸気管破断事象時における水温及び 圧力の時刻歴を Fig. 3 に示す。また、非破壊検査に関す る入力条件は Table 3 の通りである。PSI と ISI の非破壊 検査に相当するモデルとその精度の組み合わせにより計 5ケース実施した。荒川モデル[5]及び PNNL モデル[6]に よる検出確率を、本ケースで用いた初期き裂深さ分布で ある Marshall 分布の確率密度と併せて Fig. 4 に示す。荒 川モデル(Excellent)は試験対象を両面から 30度毎に探 傷した場合、荒川モデル(Normal)は試験対象を片面か ら 45 度毎に探傷した場合に相当するものである。Fig. 4 からわかるように、ISI 相当の検査モデルは PSI 相当の検 査モデルよりも精度が低いものを選択した。PASCAL による主蒸気管破断事象発生時の条件付き破 壊確率の解析結果を Fig. 5 に示す。検査を実施しないケ ース 1 の場合と比較して、PSI 相当として荒川モデル (Excellent) を考慮したケース 2-1 の場合は、破壊確率が 約60分の1にまで低下している。一方、PSI に加えて ISI 相当として PNNL モデル(Good)を考慮したケース 2-2 の場合は、ISI としては検査を考慮しない場合と破壊確率 がほぼ等しい。また、ISI 相当として荒川モデル (Normal) を考慮したケース 2-3 の場合でも破壊確率はケース 2-1 から 30%程度低下するに過ぎない。このように、非常に精 度の高い非破壊検査を実施すると、それ以降に精度の低 い検査を実施したとしても破壊確率に対する検査の効果 は限定的であることが示された。言い換えれば、供用前 検査等において精度の高い検査を一度でも実施すること が、破壊確率の低減に有効である。また、PSI 及び ISI 相 当として荒川モデル (Normal) を考慮したケース 3では、 検査を実施しないケース1と比較して、破壊確率は10分 の1近くまで低下しているものの、PSI 相当に荒川モデル (Excellent)を考慮したケース 2-3 と比較すると、破壊確 率は6倍程度高いという結果が得られた。なお、本ケースではき裂深さ分布に Marshall 分布を適 用しているが、非破壊検査に関する解析結果は、初期の き裂深さ分布と非破壊検査モデルの組み合わせに依存す ると考えられる。また、PASCAL では製造欠陥のみを対 象としており、運転中の要因によるき裂の発生や進展は 考慮していない。そのため、さらに詳細な評価を行う場 合はこれらの条件についても検討する必要がある。Table 2Input Condition for Case Study (excluding InspectionModel)ItemConditionRPV3-loop PWRTransientInitial crackMain steam line break (see Fig. 3) Shape: semi-elliptical Depth: Marshall distribution Aspect ratio: log-normal distributionCu: 0.14%, Ni: 0.8%, | P: 0.012%, Si: 0.2%-50°CChemicalcomposition Initial RTNDTTable 3 Input Conditions for Case Study ConsideringInspection Performance Case PSI modelISI model 1 N/AN/A 2-1 | ARAKAWA (Excellent) | N/A 2-2 ARAKAWA (Excellent) | PNNL(Good)ARAKAWA (Excellent) | ARAKAWA (Normal) 3 | ARAKAWA (Normal) ARAKAWA (Normal)2019/02/03afluid temperature |--pressure2。。fluid temperature(deg_C)pressure(MPa)642010_5_10.15 .. 20time(min)2530Fig. 3 Histories of Fluid Temperature and System Pressureafter Main Steam Line BreakFig. 3シーピーメーメー*-*-*-----------------*.0 16Probability of DetectionProbability Density+ ARAKAWA(Excellent) -ARAKAWA(Normal) * PNNL(Good) - Marshall Distribution10_102030 40 50 Crack Depth (mm)607080Fig. 4 Probability of Detection of NDE models and Probability Density of Marshall-type Crack Distribution0.0010.0001Conditional Probability of Failure0.000001- Case 1 1.E-07e-Case 2-1** Case 2-2 1.E-08+ Case 2-3Case 3 1.E-09 10_246_18_10Fast Neutron Fluence (x1099 n/cm2, E>1MeV)Fig. 5 Results of Case Study on Inspection Performance(Probability of Detection)Fig. 53. 結言1) 原子炉圧力容器に加圧熱衝撃等の過渡荷重が発生し た場合の破壊確率を解析する、確率論的破壊力学解析 コード PASCAL を開発した。2) 種々の機能改良の知見を取りまとめて標準的解析手 法を提案した。この標準的解析手法に基づく解析を実施するための GUI を整備した。 3) PASCAL を用いて実施した感度解析から、供用前検査における精度の高い検査が破壊確率低減に最も有効 であること等、非破壊検査における欠陥検出確率の破 壊確率に及ぼす影響を示した。本研究は経済産業省原子力安全・保安院からの受託事 業「確率論的構造健全性評価技術調査」の成果の一部で ある。参考文献 [1] 柴田勝之、鬼沢邦雄、李銀生、加藤大輔、2001、“確率論的破壊力学コード PASCAL の開発と使用手引き、JAERI-Data/Code 2001-011. [2] Onizawa, K., Shibata, K., Suzuki, M., Kato, D., and Li, Y.,2004, “Embedded crack treatments and fracture toughness evaluation methods in probabilistic fracture mechanics analysis code for the PTS analysis of RPV”, ASME PVP Vol.481, RPV Integrity and Fracture Mechanics, AmericanSociety of Mechanical Engineers, pp. 11-17. [3] Onizawa, K., Shibata, K., and Suzuki, M., 2005,“Development of stress intensity factor coefficients database for a surface crack of an RPV considering the stress discontinuity between cladding and base metal”, Proceedings of 2005 ASME/JSME Pressure Vessels andPiping Division Conference. [4] 小坂部和也、加藤大輔、鬼沢邦雄、柴田勝之、2006、“原子炉圧力容器用確率論的破壊力学解析コード PASCAL2 の使用手引き 及 び解析手法”、JAEA-Data/Code(投稿手続中) [5] Arakawa, T., 1988, “Japanese evaluation of the Japaneseresults, Ultrasonic inspection of heavy section steel components”, The PISC-II Final Report, Part-II, pp.409427. [6] Khaleel M.A. and Simonen F.A., 2000, “A model forpredicting vessel failure probabilities including the effects of service inspection and flaw sizing errors”, Nuclear Engineering Design, Vol. 200, pp. 353-369.“ “非破壊検査を考慮した原子炉容器の確率論的構造健全性評価手法の開発“ “小坂部 和也,Kazuya OSAKABE,鬼沢 邦雄一,Kunio ONIZAWA,柴田 勝之,Katsuyuki SHIBATA
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