モデル・データ・検査技術融合に基づく炉内材料劣化に関する研究開発

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カテゴリ: 第3回
1. 緒言
照射環境におかれる複雑な材料のシステムとしての 原子力システムを長期間にわたって利用してゆくため に、放射線照射場における材料劣化挙動は、我々が解 決しなければならない最大の課題である。特に、革新 炉における構造材料の使用環境は、既存の軽水炉材料 の使用環境とは大幅に異なるため、現象論的外挿によ って材料挙動を予測することは、多くの制限と限界が 存在する。実証的データの存在し得ない領域で供用さ れる革新炉構造材料においては、供用と併せて健全性 評価を行い、安全性を維持し、信頼性を確保すること が革新炉実現への必要条件である。加えて、革新炉構 造材料においては、既存の軽水炉構造材料と異なり、 未だ供用温度、照射量、核変換生成物ヘリウム生成量、 供用期間など材料が供される照射環境が定量的に決ま っていないことも特筆すべき事項である。すなわち、革新炉構造材料においては、現段階では、どのような 照射条件下でも適用可能な健全性評価手法を確立する ことが求められている。これまで、その評価手法の一つとして、照射損傷の 基礎過程からマクロな材料照射効果の物理的メカニズ ムを明らかにし、これに基づいたシミュレーションか ら材料挙動予測を行うことの重要性について、我々の グループは立証してきた[1-3]。また、これまで行われ てきた照射データを集積し、照射劣化に及ぼす重要な 因子を明らかにすることで、モデル化の観点からデー タを整理するデータモデルは、従来型のデータベース とは異なり、材料挙動予測モデルの妥当性評価、高度 化に対しても不可欠な手法である[4]。一方で、スエリ ングなど非常に多くの因子が影響を及ぼす照射劣化に 関しては、材料の供用開始から寿命末期までを包括的 に予測するモデルの構築が試みられてきた。しかし、 複合的極限環境で使用される材料の挙動を単一的なモ デルのみで予測することは、信頼性に乏しいため、材 料挙動予測モデルや照射データモデルと併せて、供用 中の材料の劣化具合を非破壊的に検査する手法の開発が重要となろう。 1. 本研究開発では、以上に示した、材料挙動予測モデ ル、照射データモデル、非破壊検査技術の3つの技術 を個々に開発し、高度化するのみならず、材料劣化予 測の観点から融合させる。それにより、実証的データ の存在しない領域で使用される材料の照射劣化を評価 する手法を構築し、魅力的な革新炉実現のため、炉内 構造材料の安全性の維持並びに信頼性の確保に寄与す ることを目的とする。本研究開発で構築する照射硬化予測モデルは、従来 の計算機能力の発達にのみ依存してきたマルチスケー ルモデルとは異なり、照射欠陥と転位の長距離相互作 用を計算する上で線形弾性論を適用し、近距離相互作 用を計算する分子動力学法(MD 法 : Molecular Dynamics) と組みあわせる手法を用いる。これにより、 現段階の計算機能力でも可能で、更に照射硬化の予測 に必要な遠距離相互作用も取り入れたモデルを構築す ることが大きな独創性である。また、これまで行われ てきた世界中の照射データを可能な限り集積すること、 更に集積したデータから1つのパラメータで整理する
1 (1)材料挙動予測モデルの構築 |
取り纏め:沖田泰良モデルの検証、高度化 沖田泰良他関村直人他 照射硬化モデルの開発スエリングモデルの開発........モデル高度化のための ... 相互データ提供 |照射劣化評価 |手法の確立 研究とりまとめ管理者沖田泰良| スエリング評価技術向上の | ための相互データ提供 」(2) 照射データモデルの構築」取り纏め:沖田泰良データモデルの検討 [再委託:原子燃料工業][請負契約: PNNL | 儀部仁博他| F. A. Garner オーステナイト系ステン * フェライト系ステンレス レス鋼の照射データの集積 || 鋼の照射データの集積(3) スエリング非破壊検査技術の開発 取り纏め:沖田泰良 スエリング非破壊検査技術の構築 「再委託:原子燃料工業 ] 薩部仁博他 非破壊検査センサーの開発 中性子照射体を用いた試験技術高度化のため のデータ提供図1 本研究開発の研究体制従来型のデータベースを構築するのではなく、データ を材料劣化予測モデルの観点から多次元的に見直し、 データモデルを構築することに独創性がある。加えて、 スエリングの非破壊検査技術は、未だ確立されておら ず、革新性のある技術である。このように、モデル・データ・検査技術の 3 つの技術 を材料劣化予測の観点から相互補完し、融合すること による評価手法は、保全学の概念に基づいたものであ り、これにより構造材料の健全性をより高い信頼性で 評価する手法が確立できる。2. 研究体制1本研究では、フェライト系ステンレス鋼とオーステ ナイト系ステンレス鋼を対象とする。フェライト系 ステンレス鋼は、BCC 金属であり、照射硬化に伴 う脆化が炉内構造材料の健全性を評価する上で最も重 要な因子である。フェライト系ステンレス鋼の照射硬 化を評価するため、材料挙動予測モデルと照射データ モデルの構築を行い、2 つの技術を融合し、評価手法80の高度化を行う。また、オーステナイト系ステンレス 鋼においては、軽水炉炉内構造材料としても使用実績 があるが、革新炉においては軽水炉より高温での使用 が考えられるため、軽水炉照射条件では問題とならな かったスエリングによる体積膨張が寿命決定因子とな りうる。オーステナイト系ステンレス鋼のスエリング を評価するため、材料挙動予測モデル、照射データモ デル、非破壊検査の3つの技術構築、開発を行い、更 にこれらを融合し、評価手法の高度化を行う。 - 魅力的な革新炉実現のために、各々の評価技術の構 築、高度化のみならず、これらを融合させることで、 様々な照射条件下で構造材料の健全性評価に適用でき ることが期待される。 * 本研究開発の研究体制を図1に示す。3.研究の全体計画3.1 材料挙動予測モデルの構築 3.1.1 フェライト系ステンレス鋼の照射硬化モデトールの開発 フェライト系ステンレス鋼を対象として、照射デー タモデルからミクロ組織に関する情報の入力を受けて、 線形弾性論と分子動力学法を用い、ミクロな観点から 転位と照射欠陥の相互作用を評価する。これに基づい て、マクロ特性変化である照射硬化の予測モデルを構 築する。更に、材料挙動予測モデルと照射データモデ ルとの比較により、材料挙動予測モデルの高度化を行 う。 3.1.2 オーステナイト系ステンレス鋼のスエリングモデルの開発 - オーステナイト系ステンレス鋼を対象として、ミク ロな観点からボイド形成、成長、転位組織発達モデル 等を構築し、照射データモデルとの比較により、モデ ルを高度化する。これに基づいて、マクロ特性変化で あるスエリングの予測モデルを構築し、照射データモ デル、スエリング非破壊検査技術との比較によりスエ リング予測技術を高度化する。 3.2 照射データモデルの構築 3.2.1 フェライト系ステンレス鋼の照射硬化に関するデータモデルの構築 フェライト系ステンレス鋼のミクロ組織データベー ス、照射硬化データベースを構築し、それらを材料挙 動予測モデル化の観点から整理する。3.2.2 オーステナイト系ステンレス鋼のスエリングモデルの開発 ・オーステナイト系ステンレス鋼のミクロ組織データ ベース、スエリングデータベースを構築し、それらを 材料挙動予測モデル化の観点から整理する。 3.3 スエリング非破壊検査技術の開発オーステナイト系ステンレス鋼を対象として、スエ リング非破壊検査を行うための計測技術を構築する。 非破壊検査試験で得られる材料物性変化は、ボイドの 形成、成長の他、転位組織等にも依存する。そのため、 材料挙動予測モデルに基づいて材料物性変化を解析し、 様々な条件下で使用可能な検査技術に発展させ、スエ リング予測モデル、照射データモデルとの比較により、 高度化する。「謝辞本研究は、電源開発促進対策特別会計法に基づく文 部科学省からの受託事業として、国立大学法人東京大 学が実施した平成 17 年度「モデル・データ・検査融合に 基づく炉内材料劣化に関する研究開発」の成果です。参考文献[1] 関村直人、森下和功、蔵元英一、曽根田直樹、沖田泰良、平谷正人、“講座:核融合材料の照射下挙動 に関するマルチスケールモデリング, 1.照射損傷 過程の材料モデリング”, Journal of Plasma andFusion Research, Vol.80, 2004, pp.228-235. [2] 曽根田直樹、沖田泰良、森下和功、蔵元英一、平谷正人、関村直人、“講座:核融合材料の照射下挙動 に関するマルチスケールモデリング, 2. 時間スケ ールの壁をいかに克服するか”, Journal of Plasmaand Fusion Research, Vol.81, 2004, pp.318-324. [3] 蔵元英一、平谷正人、沖田泰良、森下和功、関村直人、曽根田直樹、“講座:核融合材料の照射下挙動 に関するマルチスケールモデリング, 3.空間的な 大きさのスケールの壁をいかに克服するか”, Journal of Plasma and Fusion Research, Vol.83, 2004,pp.492-499. [4] T. Okita, W.G. Wolfer, N. Sekimura, to be submitted81“ “モデル・データ・検査技術融合に基づく炉内材料劣化に関する研究開発“ “沖田 泰良,Taira OKITA,関村 直人,Naoto SEKIMURA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
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