PWR蒸気発生器入口管台における割れ事例と点検規定について

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カテゴリ: 第5回
1.緒言
2007年9月、関西電力(株)美浜発電所2号機にお いて、A一蒸気発生器(SG) 入口管台溶接部に、また日 本原子力発電(株)敦賀発電所2号機において、A, B 及びC-SG入口管台溶接部に、渦流探傷試験(ECT)で 有意な信号指示が認められた。これらの事象はい ずれも、当該管台異材継手部内面にPWR一次系水中の 応力腐食割れ (PWSCC)に対する予防保全対策として ショットピーニング工事を行う予定であったところ、 事前の管台溶接部内面状態確認のためのECTで有意 な指示が認められたものであり、原因調査の結果、 PWSCCであると推定されている。関西電力(株)高浜発電所2号機、3号機3及び 北海道電力(株) 泊 2号機)においても、同様な事象 が報告されている(平成 20年5月までにトラブルと して報告された事象を挙げた)。それぞれの事象における原因分析、対策の詳細は 末尾の参考文献に引用したとおり原子力安全委員会 の会合において公開されており、本報では個々の事 象の詳細には立ち入らず、代表例として敦賀2号機 における事象のあらましと、他プラントにおける事 象のまとめを述べた上で、現行の検査規定との関係において今回の一連の事象における問題点について 述べる。そこから現行の検査規定の課題を抽出・整 理する。さらに、課題に対するひとつの可能なアプ ローチについて考察する。
2. 蒸気発生器管台における割れ事象
2.1 背景 PWR 一次系機器にはニッケル合金母材及び溶接材 料が広く使用されている。母材としては SG 伝熱管が 主なものであり、溶接材料としては、炭素鋼または 低合金鋼のフェライト鋼で製作された容器と、オー ステナイト系ステンレス鋼で製作された配管を接合 する異材継手に適用されている。SG 管台異材継手部 の模式図を Fig. 1に示す。DMW partInlet Nozzle Configuration~950mm ss1~800mm 1~75mm OverlaySS OverlayButtering)Nozzle Ni-base CS or LAS alloyWeld Nibase alloy Safe end SSWeld SS Primary PipingNozzle Safe endCarbon SUSF316Steel or Low Alloy!4 Steel Circumferential Weld Ni-base alloyButtering WeldNi-base alloy Pipe sideSG sidePrimary Coolant FlowFig. 1 SG Nozzle Inlet Configuration比較的新しい時期に SG 取替を実施したプラント においては、当該異材継手部のニッケル合金溶接材 料には 690 系が使用されているが、それ以前に SG 取替を実施したか、SG 取替を実施していないプラン トにおいては 600 系が使用されている。このため、 600 系を使用しているプラントでは、PWSCC 発生可能 性を考慮し、当該部の溶接残留応力を改善するため の予防保全対策としてショットピーニングの適用が 計画されてきた。ショットピーニングの適用に当た っては、工事実施前に当該溶接部内面の状態を確認 することを目的として ECT を実施することとしてお り、今回の一連の事象においては、このような計画 に沿って ECT を行った結果、有意な指示が見られた ものである。 2.2 敦賀2号機における事象敦賀2号機においては、ECT の結果、A-SG で1箇 所、B-SG で5箇所、C-SG で 23 箇所の指示が見られ た。その後、超音波探傷試験 (UT)により欠陥のサ イジングを行ったところ、最大欠陥深さは B-SG で約 12mm、C-SG で約 13mm であった。A-SG の欠陥は UT サイジングができなかった。原因調査として、A-SG 及び B-SG の欠陥に対する SUMP 観察(フィルムによるレプリカ)、及び C-SG の 欠陥に対するボートサンプル調査を行った。Fig.2 に A-SG に対する SUMP 観察結果を示す。図中右のス ケッチに示すとおり、ECT の指示があった箇所に肌 荒れ(微細なきず)が見られ、それらの中心付近に手 直し溶接の跡が認められた。手直し溶接は、図中左 の写真に示すとおり、バタリング溶接部と周方向溶 接部の境界に残っていた。同様な手直し溶接と肌荒 れ(微細なきず)は B-SG に対する SUMP 観察でも認め られたが、一方で、手直し溶接跡がなくても欠陥が 見られた箇所もあった。Region with rough Macro Etchingsurface finishing ObservationSS eOverlayeSRegion with rough surface(small cracks)oosided found by SUMP 9 00 side Buttering WeldでTouch-up WeidCircumferential Welde endRegion with finesurface finishing Fig. 2 Cause Analyses of A-SG (SUMP)C-SG に対するボートサンプル調査における破面の SEM 観察結果を Fig. 3 に示す。PWSCC に特徴的なデ ンドライト境界に沿った破面が認められた。Safe end SideInner surfaceNozzle sideCrack No. 3 Crack No. 4 Buttering Weld CircumferentialWeld Safe endObservation directionFig. 3 SEM Observation of Crack No.3 of C-SG 前述のとおり、手直し溶接後に再度グラインダ加 工を行ってバフ仕上げをしていない場合があること のみが PWSCC 発生に至った高引張応力の発生要因で はないことがわかったため、種々の表面加工状態を 模擬した試験体の応力測定を実施した結果、強い種 類のグラインダ加工(例:高周波グラインダ)後にバ フ仕上げを行ったものの部分的にグラインダ加工の 影響が残った場合にも、表面に高い引張応力が残留 する可能性があることがわかった。模擬試験体の応 カ測定結果とその考察についての詳細は、参考文献 [1]を参照されたい。 2.3 他プラントにおける事象の概要敦賀2号機以外のプラントにおいても、個々に報 告されているとおり、グラインダ加工か機械加工か の違いはあるものの、当該異材継手の溶接後に表面 加工を行っており、これらの表面加工による高い引 張応力が残留して PWSCC が発生したとの推定原因は 共通している。Table 1 に今回の一連の事象で見られた欠陥の数、 長さ及び深さの最大値をまとめて示す。最大深さは 最も深いデータが得られたケースで約 15mm であり、 個々のプラントにおいては徐々に進展したと考えら れるが、プラント運転時間(SG 取替を実施した場合 は SG 取替以降の運転時間) と欠陥最大深さとの間に 特に一貫した明確な関係は見られず、ばらつきがあ るものと理解される。Table 1 Summary of Similar Events in JapanNPPMihima-2Tsuruga-2Approx. ECT results JUT sizing(mm) Operating (No.of cracks) (L:Max. length time(hr)D:Max. depth 92,000A-SG:13L:17, D:13 (since SGR) 149,000A-SG:1Under sizing limit B-SG:5L:21, D:12 IC-SG:23 L:14, D:13 99,000A-SG:3Under sizing limit (since SGR) B-SG:2L:7, D:6 IC-SG:4L:14, D:8 172,000A-SG:7L:28, D:9 B-SG:16 L:38, D:15 IC-SG:9L:14, D:9 131,000A-SG:3L:13, D:7 B-SG:10L:10, D:5Takahama-2Takahama-3|Tomari-23.検査規定との関係3.1 現行規格の規定 今回の一連の事象においては、予防保全対策工事 を実施する前の当該異材継手溶接部内面の状態確認 を目的とした ECT によって指示が認められたことで 欠陥が検出されている。このことと、現行の当該部 の検査プログラムとの関係について考えるため、ま ずは現行の維持規格において、当該部に対する検査 要求がどうなっているかを整理する。また、PWSCC の事例を踏まえ、規制当局が特別に検査要求を示し た文書(以下、「NISA 文書」という)における要求 内容についても述べる。 3.1.1 現行維持規格の規定(社)日本機械学会 発電用設備規格 維持規格 (JSME N NA1-2004) によれば、SG 管台異材溶接継手 は B-F カテゴリに分類され、呼び径 100A 以上の管台 部にあっては、Fig.4に示す範囲 A-B-C-D に対する 体積試験(具体的な運用としては外表面からの UT) に加え、表面試験(同じく外表面の PT) が要求されている。Volumetric ExaminationRange A-B-C-D10mm10mmCladdingButteringInner surfaceCategory B-F: Dissimilar Metal Weld of Vessel Nozzle to Safe EndFig. 4 Inspection Range of Volumetric Examination for Category B-F in JSME FFS Code今回欠陥が検出された部位に対しては、上記の維持規格に基づく検査が行われてきているが、これま で特に外表面からの UT で欠陥を検出した事例はな かった。これは、敦賀 2 号機の場合を例に Fig.5 に示すとおり、当該異材継手部においては管台部と 溶接部との距離が短く、管台側の幾何学的形状によ り UT 探触子が十分にアクセスできない領域がある ためである。UT SensorVolumetric Examination Range Fig. 5 Inaccessible Range of UT Sensor for SGNozzles of Tsuruga-2 現行の維持規格では、IA項(検査の一般事項)にお いて次のような「IA-2360 接近性」の規定がある 5(下線は著者による)。1A-2360 接近性 (1)コンクリートに埋設または囲まれた機器,ガードパイプ内の支持構造物,取外し困難な補強材, 遮へい材,保護部材等で囲まれている機器ある いは幾何学的形状等のため構造上接近または 検査が困難な機器の当該箇所は検査を免除し てもよい。ただし,このような機器の当該箇所 を記録しておかなければならない。(後略)これまでこの規定に基づき、接近できないために 探傷できない範囲(以下「探傷不可範囲」という)に 対する検査が免除されるとともに、記録が行われて きた(以下、この規定を「免除規定」という)。 3.1.2 NISA 文書による要求平成 15年9月、敦賀2号機加圧器管台の異材継手 部においてホウ酸の析出が認められ、調査の結果、 管軸方向に進展したPWSCCが溶接金属部を貫通した ことが判明した事象があった。この事象と、海外の類似事象とを踏まえ、原子力 安全・保安院は、平成 15 年 12月にPWR事業者に対し てNISA文書”により指示を出した。このNISA文書は PWR一次系バウンダリに対する検査要求を示してお り、呼び径 100A以上のSG管台異材継手に対しては、維持規格のUT及びPTに加えて、保温材をはがして地 金にホウ酸の付着の有無を目視確認するベアメタル 検査(Bare Metal Visual Examination: BMV)を要求 している。 3.2 今回の事象を踏まえた課題 3.2.1 探傷不可範囲について今回の事象では、3.1.1 で述べたとおり、外面か らの UT における探傷不可範囲に欠陥が検出されて いる。従って、今後当該異材継手部の内面の確認を どのようにして行うかが課題となる。また、当該異材継手部以外にも維持規格の免除規 定により検査を免除されてきた検査対象部位に対し て、検査規定として新たな対処が必要か、また必要 と考えられる場合にはその対処方法も検討すべき課 題であると考えられる。 3.2.2 個別検査と標準検査についてJSME 維持規格における当該異材継手に対する検 査規定は 3.1.1 で述べたとおりであるが、この規定 は維持規格における標準検査として位置づけられて いる。Fig. 6 に維持規格の成り立ちを示すように、 維持規格における標準検査は ASME Boiler and Pressure Vessel Code Section XI : In-service Inspection (ISI) の規定を参考に策定されたものである。一方、維持規格には標準検査の他に個別検査があ る。これは(社)火力原子力発電技術協会(火原協)の炉 内構造物等点検評価ガイドライン(現在は(社)日本原 子力技術協会(原技協)に引き継がれている。以下「ガ イドライン」という)において主として炉心シュラウ ド等特定の炉内構造物に対して SCC 等特定の損傷 モードを考慮した点検規定として策定されたものを 維持規格に取り込んだものである。Reference ASME B&PV Code Section XI ISI Flaw EvaluationThermal & Nuclear Power Engineering Society (TENPES) TENPES Guidelines (JANTI Guidelines since Apr. 2007)Japan Electric Association ・JEAC4205 (ISI)JAPEIC ?Plant Operation and Maintenance Standards Plan (POMS Plan)JSME FFS CodeInspection ?General Req.General Insp. ?Specific Insp.?Flaw EvaluationGeneral Req. ?General Eva. ?Specific Eva.Repair Replacement(Contents of JSME FFS Code 2004)Fig.6 Overall Scheme of JSME FFS Code 2004ガイドラインにおいては、上述の個別点検を補足 する意味で一般点検を策定しているが、維持規格における標準検査はガイドラインの一般点検とは成り 立ちが異なり、従って意味、内容とも異なるもので ある。維持規格における個別検査、標準検査は一応、 次のように理解される。個別検査:特定の経年変化事象に対して、当該事 象の進展評価に基づき、機能維持の観点からその後 の検査計画を合理的に設定し炉内構造物とクラス 1 機器の一部を対象に実施する検査。標準検査:経年変化事象を限定せずに行う検査で、 基本的に全ての対象構造物の代表部位について実施 する検査。JSME 維持規格 2004年版では、Fig.7に示すように、 炉内構造物等の標準検査の内容を調整し、両者が重 複しないようにしている。 Class 1 Components(BWR) . ICM Housing ・CRD HousingCovered by specific inspectionFlaw evaluation rules are same as the other class 1 componentsCore Internals (BWR) ・Shroud Support ・Core Shroud ? Top Grid ? Jet Pump ・ Core Spray Piping and SpargerCovered by specific inspection and specific flaw evaluation(PWR) . Baffle Former Bolt ? Barrel Former Bolt . Core Barrel ・ Control Rod Cluster Guide TubeFig. 7 Components covered by specific inspection今回の事象は、SG 管台異材継手部に PWSCC という 特定の損傷モードが生じ、維持規格標準検査の規定 に基づく外面からの UT では探傷不可範囲があるこ とはわかっていたため、予防保全対策工事施工前の 内面状態確認として ECT を実施したところ欠陥が検 出されたものである。従って、今回の事象を踏まえ て当該異材継手部に対する検査規定を検討する場合、 特定部位に生じる特定の損傷モードに対する検査規 定を考えることになるため、当該部に対する新たな 個別検査規定を考えていくとの整理が可能である。しかしながら、今後クラス 1 機器等についてさら に個別検査を追加しようとする場合、当該部位に対 して最適な検査プログラムを実現するためには、標 準検査との重複回避が重要な課題になってくると考 えられる。 3.3課題に対する検討方針の考察ここでは、3.2で述べた検査規定上の課題に対し どのように検討すべきかについて、ひとつの可能な寺規格上の要求として位置づけるとすると、明らか こ特定部位の特定損傷モードに対する検査であるか ら、維持規格の考え方からは個別検査に位置づけら」 てるものと考えられる。考え方を述べてみる。維持規格としてどのように対[1] 第7回原子力安全委員会臨時会議 配布資料 (2) さすべきかについては、今後、JSME 発電用設備規格 及 び(3), 平成20年2月7日 委員会等、公開、公平、中立な規格検討の場におい [2] 第8回原子力安全委員会臨時会議 配布資料 (3), て議論を尽くし制定すべきものである。- 平成20年2月12日 今回の事象によって、当該異材継手内面の状態を [3] 第7回原子力安全委員会臨時会議 配布資料 (1), 確認するために ECT が有効であることが示されたと平成20年2月7日 考えられるが、今後仮に当該部位に対して ECT を維 [4]第 24 回原子力安全委員会臨時会議 配布資料(1), 寺規格上の要求として位置づけるとすると、明らか 平成20年4月10日 こ特定部位の特定損傷モードに対する検査であるか [5](社)日本機械学会 発電用設備規格 維持規格 ら、維持規格の考え方からは個別検査に位置づけら - 2004 年版(JSME N NA1-2004) てるものと考えられる。[6] H. Kobayashi et al, PWSCC Experience of 標準検査の要求である体積検査として実施してきた。 Pressurizer Dissimilar Metal Welds at 元外面からの UT に探傷不可範囲があることから、そ Tsuruga Unit-2, ICONE-12, Apr. 2004 の代替として位置づけるとの考え方もあるように思 [7] 原子力安全・保安院,加圧水型軽水炉の一時冷 っれるが、SG 管台のように厚肉の部位に対しては 却材圧力バウンダリにおける Ni 基合金使用部位 CCT を体積検査要求の代替と位置づけることには議 に係る検査等について,NISA-163a-03-1, 平成 論が必要であり簡単ではないと考えられる。15年12月12日 従って、ECT の規格上での導入及びその位置づけ こついては、規格策定の場で十分に議論する必要が あると考えられる。一方、当該部位及び過去の加圧器管台等 PWR 一次 系容器管台の異材継手部で認められた欠陥はいずれ も軸方向欠陥であり、仮に欠陥が検出されずに進 展・貫通したとしても極めて小規模の漏えいを生じ て発見され、安全上の問題となる大規模な漏えいや 皮壊に至る前に原子炉を停止し補修を行う等の対処 が可能と考えられる。このことが NISA 文書において これらの部位に対して要求している BMV の有効性の 裏づけになっているものと考えられる。BMV の維持 現格への取り込み、及び取り込む場合の位置づけに ついても、規格策定の場で十分に議論する必要があ ると考えられる。 っると考えられる。 一方、当該部位及び過去の加圧器管台等 PWR 一次 容器管台の異材継手部で認められた欠陥はいずれ っ軸方向欠陥であり、仮に欠陥が検出されずに進 是・貫通したとしても極めて小規模の漏えいを生じ 最近わが国の PWR において SG 管台異材継手部に WSCC と見られる欠陥を検出した事象について、現 〒の検査規定との関係における課題を抽出・整理し、 とつの可能なアプローチについて考察した。今後、
“ “?PWR蒸気発生器入口管台における割れ事例と点検規定について“ “堂﨑 浩二,Koji DOZAKI,中間 昌平,Shohei NAKAMA
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