多機能レーザ溶接ヘッドの開発(第2報)-レーザピーニングによる応力改善性評価-

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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
* 国内の原子力運転プラントは、運転開始後 30 年に達 するものが増えてきており、高稼働率での安全で安定 な運転を行うためには炉内構造物の応力腐食割れ (SCC: Stress Corrosion Cracking)への対策が重要となっ てくる。東芝は、SCC に対する補修工法として水中レ ーザ溶接技術、予防保全工法としてレーザピーニング、 並びに検査工法としてレーザ超音波探傷技術をそれぞ れ開発し、実用化を進めてきた。水中レーザ溶接を炉 内構造物に対して適用する場合、溶接面の前処理、溶 接、溶接後検査、応力改善処理の一連のプロセスが必 要となるが、これらは基本的にすべて別々の装置とな らざるを得ない。そこで、開発したプロセスがすべて レーザ光を用いていることに着目し、一つの施工ヘッ ドで検査・溶接補修・予防保全を可能とする多機能レ ーザ溶接ヘッドを開発した。本稿では、予防保全技術 として開発したレーザピーニング技術について、基本 的なプロセスの原理と特徴、ならびに開発したレーザ 溶接ヘッドを用いた応力改善結果ついて紹介する。
2. レーザピーニングの原理と特徴SCCは、材料感受性、腐食水質環境及び引張残留応 力の 3 要因が重畳したときに発生する。レーザピーニング は、材料表面層の応力改善を行ってSCCの要因となる応 力因子を取り除く技術である。レーザピーニングの原理を Fig.1 に示す。レーザのパルス時間幅を数nsまで短パルス 化し、数GW/cm2という高い出力で材料に照射すると、材 料の表層がプラズマ化して表面に高圧のプラズマが発生 する。水中では、水の慣性でプラズマの膨張が妨げられて 狭い領域にレーザのエネルギーが集中するため、プラズ マの圧力は空気中の 10~100 倍となり瞬間的に数GPaに 達する。この圧力により衝撃波が発生し、材料表面で衝撃 波による動的な応力によって塑性変形が生じ、周囲の未そこには、Laser pulse, 22 | =532mm | |WaterFig.1 Schematic of laser peening process103変形部から拘束を受けることによって材料の表層に高い 圧縮残留応力が形成される。レーザピーニングの光源に は、水に吸収されにくいNd:YAGレーザの第 2 高調波(波 長 532nm)のパルスレーザを用いることで、水中の構造物 への適用も可能とした。典型的な施工条件では、ステンレ ス鋼、Ni基合金などの材料によらず深さ 1mm程度まで圧 縮応力を形成することが可能である。レーザピーニングは、ショットピーニングやウォータジェ ットピーニング等の他のピーニング技術に比べ、高圧の気 体や液体の噴流を伴わないために、装置先端の小型化が 容易で光ファイバによるレーザ伝送と組み合わせることで 狭隘部への施工性に優れている。また、レーザ光は時間 的、空間的な制御性に優れるため、施工範囲すべての応 力改善を確実に行うことが可能であり、施工対象部以外の 周囲の構造物に対して影響を与えることがない。これまで に、SCC予防保全のためにレーザピーニング技術を 1999 年から国内の8プラントのBWRに適用し、また2004年から は国内のPWRに対しても適用を開始し、これまでに2プラ ントで3回の応力改善工事を実施した12]3141。3. 多機能レーザ溶接ヘッドの開発3.1 概念 - 東芝が開発した水中レーザ溶接法は、Fig.2 に示すよ うにシールドガスを溶接施工部に供給することで局所 的な空洞を形成し、その空洞中でレーザ光を照射しな がらワイヤ状の溶加材を供給することでクラッド層を 形成する溶接技術である5。水中レーザ溶接とレーザ ピーニングの施工条件をTable 1 に示す。いずれも水中 で施工を行うことが可能なプロセスであるが、水中レ ーザ溶接は溶接ヘッド内にシールドガスが充満した状 態で施工するため、レーザ光はレンズ先端から材料表 面まで水中ではなく気中(シールガス中)を伝搬して 照射される。そのため、水中においても気中施工の場 合と同等のビード形成が可能である。 - 多機能レーザ溶接ヘッドでは、同じ光路からそれぞ れのプロセスで異なる波長のレーザ光を照射する必要 がある。そこで、レーザ光を集光するレンズについて、 同じ照射距離において各プロセスで異なるスポット径 のビームが得られるようにレンズ設計を行った。 - 水中レーザ溶接では、Table 1 に示すように溶接ワイ ヤ供給に必要な溶融池の大きさを確保する必要がある ため、Fig.3(a)に示すように波長 1060nm のレーザ光がShield gas i AriLaser beamEdler wire1000Cladding layerMolten poolSpecimenFig.2 Schematic of underwater laser weldingTable 1 Conditions of underwater laser welding and laserpeeningUnderwater Laser weldingLaser peeningLaser sourceFiber laserNd: YAG laserWave length1060nm532nmBeam modeContinuous wavePulseLaser power0.9~3.0kW)2.0KW60~100ml/pulseSpot size02.0~6.0mm<中1.0mmPulse width<10nsShielding gasOptical pathconditionWaterOptical path of laser beam(Wave length: 532 nm)Optical path of laser beam (Wave length: 1060nm)Optical headLensFocusFocusとにかくIrradiating positionIrradiating position (a) Underwater laser welding(b) Laser peening Fig.3 Schematics of optical path on multifunction laser welding head104大気中で照射された場合にデフォーカスビームの状態 で試験片に照射されるようにした。一方レーザピーニ ングの場合は、Table 1に示すように高いエネルギー密 度で照射するため、できるだけスポット径が小さくな るような設計が必要となる。そこで、波長 532nm のレ ーザ光が水中で照射された場合に屈折率 n=1.33 で焦点 距離が変わることを利用して、Fig.3(b)に示すようにレ ーザ溶接と同じ照射距離で焦点位置となるようにした。 * 以上のようなコンセプトをもとに、設計した多機能 レーザ溶接ヘッドの概念図を Fig.4 に示す。水中レーザ 溶接用に時には、シールドガスを注入口からレーザ照 射部に供給することにより局所的な空洞を形成し、レ ーザピーニング施工時には Fig.4 に示すように水を供 給することでレーザ照射部を水中に保つことができる。 また、レーザ溶接ヘッドでのレーザ光の伝送ロスを最 小限にするために、使用するレンズには波長 1060nm と 532nm のレーザ光の端面でのロスを少なくするコー ティングを施した。さらに、このレーザ溶接ヘッドに は検査装置としてレーザ超音波探傷用のヘッドを具備 しており、1 つのヘッドで3つの異なるプロセスでの 施工が可能である。Water.LensInspection unitましたSpecimen Laser beam Filler wire tip Fig.4 Schematic of laser peening with multifunctionlaser welding head3.2 機能検証試験開発した多機能レーザ溶接ヘッドを用いて、レーザピー ニングによる応力改善試験を実施した。レーザピーニング 施工条件を Table 2 に示す。供試材としてステンレス鋼 (Type304 stainless steel、20%冷間加工材)とニッケル基合 金(Alloy600)を選定し、機械加工により平板形状 (30×60×t10mm)とした試験片を使用した。試験装置概念 図と試験状況を Fig.5,6にそれぞれ示す。レーザ発振器か ら照射されたレーザ光は、光ファイバを介して多機能レーTable 2 Conditions of laser peeningMaterialType304 Stainless steelAlloy 600Spot diameter0.7mm0.7mmPulse energy70ml70mJPulse numberdensity7000 pulse/cm24500 pluse/cm2Optical fiberNd:YAG Laser oscillatorはりイイやNC machineIrradiation spotMultifunction laserwelding headBeam tracking patternスラッジSpecimenFixtureWater PIAFig.5 Experimental setup for laser peeningザ溶接ヘッドまで伝送される。レーザピーニングは、Fig.5 に示すようにNC加工機を用いて多機能レーザ溶接ヘッド を移動させながらパルスレーザを照射した。レーザピーニング施工を行った試験片の外観観察結果 の一例をFig.7 に示す。施工部表面は、レーザ照射により 厚さ 1um程度の酸化皮膜が形成され、プラズマ生成によ るわずかな減肉が発生する。しかし、金属組織に熱影響 が認められないことが確認されている「31141。レーザピーニン グ施工部表面について、X線回折による残留応力測定結 果をFig.8 に示す。いずれの試験片についても、レーザピ ーニング施工により高い応力改善効果が得られていること が確認された。105SpecimenOptical fiberMultifunction laser welding head4.結言SpecimenOptical fiber原子炉内構造物向けの SCC 対策の一環として、1つ のヘッドで検査・補修及び予防保全を実現する多機能 溶接ヘッドを開発し、予防保全の工法としてレーザピ ーニングによる応力改善について試験結果の一例を紹 介した。今後は、遠隔作業ロボットなどとの融合を進 め、様々な形状で構成されている炉内構造物などを対 象として、検査から補修・保全までの対応が可能な高 度化システムの開発を進めていく。Multifunction laser welding headFig.6 Laser peening with multifunction laser welding ・- 参考文献 head「11上原拓也 他 「炉内保全用レーザピーニングシステPeened area10mm心音メーカーソム」,本研力子店 誌,42,567(2000)「41 佐野雄二 他, 「レーザを使用した原子炉の水中メインテナンス技術」,溶接技術,Vol.53,No.5(2005)Peened area10mm[5] 金澤寧 他, 「水中レーザ溶接技術」、東芝レビュー,Vol.60, No.10(2005)Fig. 7 Appearance of laser peened specimen(Type304 stainless steel)Residual stress (MPa)HOUnpeenedLaser peened-1000Type 304 Stainless steelAlloy 600Fig. 8 Results of residual stress measurement 原子炉内構造物向けの SCC 対策の一環として、1つ コヘッドで検査・補修及び予防保全を実現する多機能 接ヘッドを開発し、予防保全の工法としてレーザピ -ニングによる応力改善について試験結果の一例を紹 介した。今後は、遠隔作業ロボットなどとの融合を進 め、様々な形状で構成されている炉内構造物などを対 象として、検査から補修・保全までの対応が可能な高 度化システムの開発を進めていく。 [1]上原拓也 他, 「炉内保全用レーザピーニングシステムの高度化(第2報),日本保全学会 第4回学術講 * 演会要旨集 ,S10-04(2007)Metal Nucl.[2]Y. Sano et al, “Residual Stress Improvement inSurface by Underwater Laser Irradiation”,Instrum. Methods Phys. Res. B 121, 432(1997) [3]佐野雄二 他, 「レーザの水中照射による金属材料の応力改善メカニズム」, 日本原子力学会誌,42,567(2000) 佐野雄二 他, 「レーザを使用した原子炉の水中メ インテナンス技術」,溶接技術,Vol.53,No.5(2005) - 106 -
“ “多機能レーザ溶接ヘッドの開発(第2報) -レーザピーニングによる応力改善性評価-“ “千田 格,Itaru CHIDA,河野 渉,Wataru KONO,三浦 崇広,Takahiro MIURA,向井 成彦,Naruhiko MUKAI,依田 正樹,Masaki YODA
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