多機能レーザ溶接ヘッドの開発(第3報)-レーザ超音波法による表面検査技術の開発-

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カテゴリ: 第5回
1.緒言
- 国内の原子力運転プラントは、運転開始後 30年に達 するものが増えてきており、高稼働率での安全で安定 な運転を行うためには炉内構造物の応力腐食割れ (SCC: Stress Corrosion Cracking)への対策が重要とな ってくる。東芝は、SCC に対する補修工法として水中 レーザ溶接技術[1]、予防保全工法としてレーザピーニ ング[2]、並びに検査工法としてレーザ超音波探傷技術 [3]をそれぞれ開発し、実用化を進めてきた[4]。このう ち、水中レーザ溶接を炉内構造物に対して適用する場 合、溶接面の前処理、溶接、溶接後検査、応力改善処 理の一連のプロセスが必要となるが、開発したプロセ スがすべてレーザ光を用いていることに着目し、一つ の施工ヘッドで検査・溶接補修・予防保全を可能とす る多機能レーザ溶接ヘッドを開発した。 上述した3機能のうちの1つである溶接後検査技術に関しては、一般的に浸透探傷試験(PT: Liquid Penetrant Testing)が広く用いられている。しかし、PT は浸透液や現像液などの液体を使用するため、水中で の適用には部分気中を設けるなどの措置が必要である。 一方、水中での適用が可能な従来の超音波や電磁気的 な手法を用いた検査では、凹凸のある溶接金属部の微 小開口欠陥をPTのように高い空間分解能で2次元的に 可視化することは、センサの空間分解能の観点から困 難である。そこで、空間分解能が高いレーザ超音波探 傷法(LUT: Laser-Ultrasonic Testing) [5]をベースに、検 査対象表面の形状や状態に対してロバストで、かつ、 溶接金属による超音波の散乱・減衰の影響を受けにく い新たな検査手法としてレーザ励起漏洩波探傷法 (LLWT: Laser-induced Leaky Waves Testing) OBUWX1T っている[6]。本報では、本技術を多機能レーザ溶接へ ッドに組み込み、検査表面を2次元的に可視化できる ことを確認したので報告する。
2.原理2.1 計測手法水中環境下でパルス幅数 ns のレーザ光を金属材料面 に照射すると、表面の数原子層がプラズマ化する。こ のプラズマの反力により、検査対象表面に弾性表面波 (SAW: Surface Acoustic Wave)が発生すると共に、水 中に衝撃波(SW: Shock Wave)が発生する (Fig.1)。発 生した SAW は、検査対象表面を照射点から同心円状に 伝播していく。この SAW により、検査対象と水中のそ れぞれの音速から算出される臨界角により水中へ漏洩 していく漏洩表面波(LSAW: Leaky Surface Acoustic Wave)も発生する。ここで、SAW の伝播経路上に欠陥 が存在した場合、SAW によって欠陥部を音源とする漏 波波(LW: Leaky Wave)が発生し、水中に漏洩・伝播 していく。このLW は、レーザ光を反射板(Reflector) に照射しておくことで、照射点を通過する際の超音波 による疎密変化を干渉計測することが可能である[7]。 そのため、表面状態に対してロバストな欠陥検出を行 うことが可能である。 1. 本技術において、SAW を発生させるためのレーザ光 はレーザピーニングで用いるものを使用することが出 来る。そのため、LW を検出するための検査機構部を 開発し、多機能ヘッドに搭載することで、予防保全と 検査の両機能が容易に適用可能になる。Leaky Wave (LW)from crack Generation laser: Leaky Saw! A Detection laser Shock Wave, (SW)14:00 ] Reflectorwater SAWSmall CrackmetalFig.1 Principle and proposed detection method2.2 可視化手法上記手法を用い、送受信点を検査領域内で走査させ ることで、表面開口欠陥の有無を検査することが可能 である。ここで、検出した信号を PT のように目視で観 察した状態と同等の結果に可視化することが出来れば、 検査員の欠陥有無の判断が容易になる。そこで、得られた LW 信号を検査表面に対応した2次元可視化画像 にするため、2 次元開口合成処理を適用している[8]。 開口合成処理は近年、超音波による非破壊検査へ適用 されているが、多くの場合は体積検査である 3 次元空 間へ適用されている。しかし、本開発で対象となる表 面検査のように、2 音速下の条件で 2 次元平面への開 口合成処理を行っている例は見受けられない。そのた め、表面状態を可視化するための信号処理を開発する ことで、Fig.2 に示すレーザ溶接金属上に生じた溶接割 れ指示 A から C(最小で約40.15mm の欠陥寸法)や、 母材部の SCC を検出し、2次元的に可視化できること を確認している(Fig.3) [9]。Indication of SCCBase metal (with SCC)Indication Ae IndicatLaser seal welding(Y308L)andication:C10mmBase metal - (Type304 Stainless Steel)Fig.2 Result of liquid penetrant testingIndication of SCCBase metals (with SCC) 2Laser seal weldingindicationsBase metal3X-axis (mm)Fig.3 Visualized result of surface inspection3. 多機能レーザ溶接ヘッドの開発多機能レーザ溶接ヘッドは、原子炉内の狭あい部へ の適用も想定しているため、ヘッドの寸法に制約が生108laser peening / laser welding unitwater inspection unitsinletTALcoverLWcrackgeneration laser SAWdetection laserFig.4 Schematic of laser-induced leaky waves testing with multifunction laser welding headじる。そのため、本ヘッドへ搭載する検査機構部の寸 法や搭載箇所も制限される。そこで、外径が約10mm、 長さ約 30mm となるよう検査機構部の小型化を行った。 また、超音波が欠陥へ入射する角度によっては欠陥の 検出性が低下する可能性を考慮し、検査機構部を多目 的レーザ溶接ヘッド内の送信レーザ光照射点から 90 度の角度となるような2箇所に設置する構成とした。 1. 本結果より、試作した多機能レーザ溶接ヘッドの概 念図を Fig.4 に示す。レーザピーニング用のレーザ光照 射機構を利用して SAW を励起させるための送信レー ザ光を検査体表面へ照射する。この SAW が欠陥に達す ることで生じる LW を検査機構部にて検出する。 - ここで、レーザ溶接時には水中環境下で溶接箇所を シールドガスで充填する必要があることから、多機能 レーザ溶接ヘッド内部は体積空間が小さい構成となっ ている。更に、検査・溶接補修・予防保全の3 つの機 能を満たすため、多くの部品がこの空間内に設置され ている。そのため、検出すべき信号がこの空間内で反 射・散乱される可能性があり、欠陥の検出・可視化が 困難になる恐れがある。そこで、開発した多機能レーザ溶接ヘッドにおいて 欠陥検出性能に問題が無いか確認試験を行った。detection LaserFabry-Perot interferometeroptical fibergeneration Laser.XY stagestage controll data acquisition(PC)water!pump unitMultifunction Laser Welding headInspection unitsInletspecimenFig.5 Experimental setup4. 試験方法」1 試験体系概念図を Fig.5、試験状況を Fi.6 に示す。 送 信レーザ光源(Nd:YAG レーザ:波長 532nm)を光フ ァイバに入射し、レーザピーニング機構を介して検査 体表面にパルスレーザ光を照射する。照射エネルギー は約 45mJ、照射スポット径は約の0.7mm である。一方、 受信レーザ光源(Nd:YAG レーザ:波長 1064nm)を光 ファイバに入射し、検査機構部を介して検査機構部に 設置した表面を鏡面研磨した反射板にスポット径約 0.4mm で照射する。送信及び検査ヘッドは走査ステー ジにより検査体表面を2次元的に走査可能な機構とし ている。レーザ溶接上に付与された欠陥に対して、x、 yそれぞれの方向に 0.2mm ピッチで40mm 角の領域を 走査させ、データ収録 PC にてデータを収録した。得 られたデータは前章で述べた開口合成処理を行い、2 次元的な可視化を行った。optical fiber laser peening- laser welding unitcoverspecimenoptical fit :inspection unitsinletFig.6 Laser-induced leaky waves testing experiment with multifunction laser welding head 5. 試験結果設計・開発した多目的レーザ溶接ヘッドを用い、レ ーザ溶接時に発生した溶接欠陥の検出性および可視化 性能の確認を行った。使用した試験片を Fig.7 に示す。 本試験片は SUS316L 上にインコネル 82M によりレー ザ溶接した試験片である。SCC の封止を模擬するため、 EDM スリット上にレーザ溶接を施工しているが、施工 条件を本来の溶接条件ではなく、欠陥が発生する条件 下で意図的にレーザ溶接を行い、約p1mm の溶接欠陥 付きレーザ溶接試験片を作製した。Fig.7上を多機能レーザ溶接ヘッドにて検査し、開口 合成処理を行った。ここで、多機能溶接ヘッドに設置109base metal (Type316L stainless steel) 7welusteachlaser seal welding(Inconel82M)base metalinspection area(40x40mm) Fig. 7 Inspection surface with weld defectした 2 つのセンサそれぞれに対して開口合成処理を実 施し、両結果の位置補正を実施した後、加算平均処理 を行った。その結果を Fig.8 に示す。本結果より、y方 向約 5-35mm の領域にレーザ溶接により生じたビード 形状が確認できる。また、本溶接は x 方向約 5-10mm の領域に母材からの高さが約 1mm の溶接重ね合わせ 部、28-32mm の領域に母材部とほぼ同じ高さのバッチ 境界が存在する。得られた結果において、(x,y)=(25mm, 18mm)近傍に溶接欠陥による指示が確認できる。この 指示は x、y方向のそれぞれにおける断面波形からも指 示が確認できる。 1. 本結果から、開発した検査機構部を多機能レーザ溶 接ヘッドに搭載し、溶接欠陥の検出、および検査表面 の2次元的な可視化が可能であることを確認できた。amplitude (a.u.)Base metalLaser seal weldingy-axis (mm)Base metalamplitude (a.u.)x-axis (mm)Fig.8 Visualized result of surface inspection with multifunction laser welding head6.結言- 水中レーザ溶接を炉内構造物に対して適用する際に、 一つの施工ヘッドで検査・溶接補修・予防保全を可能 とする多機能レーザ溶接ヘッドを開発した。表面波が 欠陥において水中へ漏洩することを利用したレーザ励 起漏洩波探傷法を多機能レーザ溶接ヘッドの1機能と するため、検出原理を装置化した上で多機能レーザ溶 接ヘッドへ搭載した。本ヘッドにおける検査性能を確認するために、レー ザ溶接時に生じた約の1mm の溶接欠陥の検出、および 可視化を行った結果、表面状態を2次元的に可視化可 能であることを確認した。 - 今後、様々な溶接条件における欠陥検出性能を把握 するための検証試験を実施すると共に、遠隔作業ロボ ットへの融合を進め、様々な形状で構成されている炉 内構造物を対象として、検査から補修・保全まで対応 可能なシステム開発を進めていく。参考文献[1] M. Tamura, et al., Development of Underwater LaserCladding and Underwater Laser Seal Welding Techniques for Reactor Components, Proceedings of 13th International Conference on Nuclear Engineering,ICONE13-50141 [2] Y. Sano, et al., Residual Stress Improvement in MetalSurface by Underwater Laser Irradiation, Nucl. Instr.and Meth. in Phys. Res. B, Vol.121, p.432 (1997) [3] M. Ochiai, et al., Laser-ultrasonic study of micro cracksizing and its application to nuclear reactor internals, tot全学誌, 4(4), pp.41 (2006) [4] 佐伯綾 一他, レーザを応用した炉内保全技術とそのPWR への適用,日本保全学会第2回学術講演会要旨集,p.191 | [5] Scruby, C. et al., Laser-ultrasonics: Techniques andApplications, Adam Hilger, Bristol, UK (1990) [6] 三浦崇広他: レーザ励起漏洩波探傷法による微小き裂の可視化技術, JSNDI 平成19年度春季大会講演概要集, p.167 [7] G. W. Willard, Criteria for Normal and AbnormalUltrasonic Light Diffraction Effects, J. Acoust. Soc. Am.Vol. 21, No.2, p.101 (1949) [8] 三浦崇広他:レーザ超音波法による水中環境下における溶接欠陥の表面可視化技術,第15回超音波による非破壊評価シンポジウム講演論文集, p.59 [9] 三浦崇広他:レーザ励起漏洩波探傷法による溶接欠陥の可視化技術, JSNDI 平成 20 年度春季大会講演 概要集,p.17with110“ “多機能レーザ溶接ヘッドの開発 (第3報) レーザ超音波法による表面検査技術の開発 -“ “三浦 崇広,Takahiro MIURA,河野 渉,Wataru KONO,千田 格,Itaru CHIDA,吉田 昌弘,Masahiro YOSHIDA,山本 智,Satoshi YAMAMOTO,依田 正樹,Masaki YODA,落合 誠,Makoto OCHIAI
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