鋼トラス橋の補修・補強、予防保全およびリダンダンシーに関する検討

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カテゴリ: 第5回
1.はじめに
木曽川大橋トラス斜材の破断事故[1]や米国ミネアポ リスの橋梁倒壊事故[2]等を契機として、損傷・劣化し た鋼橋の備えが急務であるとの観点から、全国的に緊 急点検と並行して損傷・破断部への補修・補強[3]が実 施され、予防保全に対する検討が進められている。鋼トラス橋斜材の破断部に対する補修・補強法とし て、現状では、応急的な工法[4]が適用され施工されて いるが、鋼橋の延命化・長寿命化の観点から、より合 理的・恒久的な工法の開発が望まれている。また、同 時に、このような事故を未然に防ぐための要素技術の 開発が不可欠であると考えられている。本研究では、以上の背景を受け、鋼トラス橋斜材の 補修・補強・予防保全に関し、現行の工法を分析して その問題点を明らかにし、補修・補強の新工法を提案 し、予防保全に対する新たな対策を提示するとともに、 構造系の安全性を保証する上でリダンダンシーが重要 な要素となることを改めて示すものである。
2. 鋼トラス橋の補修・補強と予防保全
2.1 斜材破断部の補修・補強 (1) 従来の鋼板当て板補強法鋼トラス橋の斜材が床版を貫通する構造では、舗装 上下面において、斜材が著しく腐食する。Fig.1 に示す 下路式鋼ワレントラス橋の斜材では、H 型断面の部材
が、雨水等により腐食損傷し、同時に繰返し引張荷重 を受けたため、き裂が進展して最終的には脆性破断し た[3] (Fig.2 参照)。斜材が破断すると、それまで負担 していた荷重が隣接する斜材や下弦材等に加わるため 破断部周辺の部材や床版が大きく変形し、倒壊の危険 性が増大する。そのため、通常、橋の安全性を確保す る観点から、変形を押さえ、補修・補強の足場を設置 するための仮受ベントが設けられ、鋼板当て板補強が 実施される[4]。以下にその手順を示す(Fig.3 参照)。1Step-1 : 破断部の整形(Fig.3 : 図面省略) 2Step-2 : 斜材のケレン(接合面周辺の素地調整) 3Step-3 : 斜材接合端部の位置調整従来法では、引き続き、以下の作業が実施される が、Fig.3 の Step-4~Step-6 とは異なる。 @Step4 : 鋼材の孔明け 3Step-5 : 当て板の施工 以上、従来法では、破断部周辺格点部のキャンバー 調整が主体となるため、斜材に適正な張力が導入され ているか判断できず、張力管理が不十分となる。 (2) 改良型鋼板当て板補強法提案する補修・補強法(改良法)は、Step-3 までは 従来法と同じであるが、Step-4 以降、斜材張力の調整 作業が含まれる(Fig.3 参照)。@Step4 : 調整装置設置 3Step-5: PC 鋼材の緊張と斜材の孔明け予め、調整プレート厚の最適板厚を算出する。ま た、斜材の所定の位置に孔を穿孔する。更に PC 鋼材を緊張し、所要の調整プレートを挿入する。 cStep-6 : 当て板の施工と調整装置の撤去 以上、改良法は、予め調整量を把握でき、キャンバ1900/04/20Upper chord memberBreak partsDlagonal memberDeckPlerLower chord memberBent for temporary supportAbutmentFig. 1 Damage of diagonal member in Warren truss bridge and its temporary protection.Fig.2 Defect of diagonal memberin steel truss bridge.Step-4 Setting of tendon devicaStep-S Tendoning of high-strength teeb and drag of dlagons maaberStep-6 Spudng of plate sad removal of teadon deviceCater-holo type jackStep-2 Cleanlager dagd memberStep-3 Podcalag ofdiagonal memberAM/Anthe 1Prostreding sted byCha blockoloCleabagTeadonlogAnchorJack upFig.3 A new retrofit and strengthening method with adjusting axial force of diagonal member.ー調整と張力管理を併せて実施できるので、より合理 修・補強を行うと、当該部位以外に影響を及ぼす可能 的かつ恒久的な補修・補強法であると言える。性があり、十分注意する必要がある。本改良法では、 2.2 損傷部の補修・補強と予防保全予め各部材の変化に伴う影響を解析しているので、こ 改良法は、破断した部位の補修・補強法としてのみれらの影響を加味した調整が実施できる利点がある。 ならず、損傷部に対しても、また、腐食損傷や疲労損 傷の発生・進展が懸念される部位の予防保全の工法と して活用できる。即ち、予め板厚測定装置等を用いて3. おわりに 残存耐荷力評価の指標となる有効板厚[S]を算定し、評 鋼トラス橋斜材の損傷や破断に対して、損傷・破断 価式により耐荷力を求め、要求性能を満足するか照査前に近い状態にリニューアルし、性能の回復・向上を し、満足しない場合、以下の手順に沿って補強を行う。 図る、斜材軸力調整法を併用した新しい補修・補強法まず、Step-1 では、損傷部を跨ぐ部位に定着装置を及び予防保全法の提案を行った。 実施事例がないため、 設置し、前述の(2) と同様に、斜材を緊張する。これは、 その有効性を確認・検証するまでには至らないが、工 補修・補強を行う前に斜材が破断するのを防止するた法の選択肢を広げる意味では、有益であると思われる。 めである。つぎに、Step-2 では、素地調整された面が また、鋼トラス橋の安全性を確保する上で、Redundancy 摩擦接合としての性能を確保できるように損傷部周辺の評価が不可欠になると考えられる。 のケレンを行う。Step-3 では、孔明け作業を行い、当 て板補強を実施し、Step4 で調整装置を撤去して作業参考文献 を完了する。予防保全の場合も基本的には同じである。 2.3 リダンダンシー(構造系の冗長性)[1] http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/06/061023_2_.html. ある部材が破断すると、引き続き隣接部材が破断し[2] http://en.wikipedia.org/ て全体の崩壊に繋がる場合、その部材をFracture Criticalwiki/I-35W_Mississippi_River_bridge[3] http://www.cbr.mlit.go.jp/mie/topnews_kisogawa/index.html. Member (FCM)と呼び、構造系の安全性の指標として用 [4] 国交省三重河川国道事務所計画課、“国道 23 号木曽 いられている[6]。ミネアポリスの橋梁の事故調査委員 1 川大橋(上り線)の鋼材が破断”、道路、No.9、2007、 会では、FCM に基づく Redundancy 解析を実施し、構pp.43-46. 造系の安全性を照査・検証している。[S] 土木学会鋼構造委員会、“腐食した鋼構造物の残存 前述の木曽川大橋の斜材に対して、この解析を行う耐荷性能評価および性能回復技術”、1-221、2007.[6] Transportation research board 、 “Inspection and と、破断した部位の斜材は FCM となる危険性が高い。Management of Bridges with Fracture Critical Details”, したがって、適切な対策が望まれるが、その部位の補 NCHRP synthesis 354、2005、pp.11-12.“ “鋼トラス橋の補修・補強、予防保全およびリダンダンシーに関する検討“ “林 健治,Kenji HAYASHI
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