海塩粒子腐食に及ぼす環境因子の影響(2)

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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
海浜地区では、開放暴露環境下、空気取り入れ口にフィルターを有する遮へい暴露環境下及び空気取り入 1 日本海沿岸地域における施設で用いられる主要構造れ口にフィルターを有しない遮へい暴露環境下での 3 部材を対象に、あわら市海岸(海浜地区)及び福井市種類の暴露試験を実施し、準沿岸地域では、開放暴露 内(準沿岸地区)に大気暴露試験装置を設置し、海浜 環境下での暴露試験を実施した。また、海浜地区には、 地区(海岸線より 300m 以内)と準沿岸地域(海岸線 気象観測装置を設置し、風向、風速、気温、雨量など より 20km 以内)における環境因子と構造物腐食の関の気象因子を 10 分毎に測定記録すると共に、JIS に準 係評価を目的として本研究を実施した。じたドライガーゼ法により、環境汚染因子である海塩 福井県には、現在 15 基の原子力発電所が立地され、 粒子の飛来量を1ヶ月毎の平均値として測定している。 そのすべてが湾岸に面しているが、新たな原子力施設2. 試験方法 は、日本海沿岸に立地される可能性が強い。原子力発 電所構造物の経年劣化を考える場合、海塩粒子による JIS Z 2381 (2001)に準じて製作・設置された大気暴露 腐食が重大な因子の一つであり、多くの研究者により試験装置をあわら海岸(海浜地区)に設置している。 構造物腐食が研究されているが、構造物腐食は環境 本装置には、開口部にフィルターを有しない遮へい暴 因子に強く影響を受けるため、ある特定の環境下での 露装置と、フィルターを有する遮へい暴露装置がある。 腐食試験が必要となる。この観点から、日本海南区分、 開口部は海岸線と平行に2箇所(前面と後面)に設け 海浜地区に属する福井県あわら海岸 (海岸線から 200m ている。フィルターは新菱冷熱「平型フィルター」) 程度)と準沿岸地区(海岸線から 15Km 程度)に属す を用いた。準沿岸地区(福井工業大学 3 号館屋上) る福井市街(福井工業大学屋上)に大気暴露試験装置 にも、大気暴露試験装置を設置した。 (以下暴露装置という)を設置し、開放及び遮へい大 試験片は JIS Z 2383 (1998)に準じて製作し、10cm × 気環境下での暴露試験を実施している。10cm の大きさとした。規定の暴露期間を経過した試験片については、JIS-Z2383 に準じて腐食性生物を除去し、その後の重量を測定し、試験開始前との差を腐食減量とした。また、腐食度は、JIS に準じて (g/m2/y) と規格化したものを算出した。
3.試験結果および結果の評価 3.1 海塩粒子飛来量Fig.1 に、2006年及び 2007年の海塩粒子飛来量の季 節変動を示す。同図に見られるように、海浜地区にお ける海塩粒子飛来量は冬季に多く、夏季に少ないとい う傾向を示す。また、台風が日本海沿岸を通過した時 期に、海塩粒子飛来量が増加するという傾向も示している。2007 --2006Nacl mg/m2/day1123495 6 7 8 Season(Month)10 11 12Fig. 1 Seasonable Variation of Sea Salt AerosolsFig.2 に海塩粒子飛来量について、福井市街(準沿岸 地区)とあわら海岸((海浜地区) フィルター無との比 較を示す。同図及び Fig.1 に見られるように海浜地区で は、海塩粒子の飛来量の季節変動は大きく、準沿岸地 区の数十倍に達する場合もある。Sea Coast w 'o Fitter2-Inland w/o Filter -NaCl mg/m2/day5 6 7 8 9 10 11 12Season (Month) Fig.2 Comparison between Sea Coast and Inland(1)他方、Fig.3 に示す海塩粒子飛来量の準沿岸地区と海 浜地区フィルター有の比較では、海塩粒子の飛来量の 差は小さく、ほぼ同一オーダーであり、その季節変動 の絶対値も小さい。これは、試験したフィルターが十 分な性能を発揮していることを示している。1.5Sea Coast WriterNaCl- 5 6 7 8 9 10 11 12Season (Month) Fig.3 Comparison between Sea Coast and Inland(2)Fig.4 に海浜地区における海塩粒子飛来量と風速の 関係を示す。同図の実線は測定値の近似曲線を示し、 破線は、ある風速範囲の海塩粒子量の平均値の近似曲 線を示している。これらにより、風速が増加すると、 海塩粒子飛来量が増加することが判明した。Sea Salt Aerosol- Average200Naci mg/m211.5 22.533.5 Wind Speed m/s Fig.4 Sea Salt Aerosols vs. Wind Speed既に報告 11,2)しているように、海塩粒子飛来量と降雨 量の関係では、降雨量 3~5mm/h のところで、海塩粒 子飛来量が極大値を示す。これは、降雨量が小さい時 には、雨が海面をたたき、海水が空気中に飛散し、海 塩粒子となって飛来するので、降雨量の増加と共に、 海塩粒子飛来量が増大するが、降雨量がある値を超え ると、飛散した海水が、雨と共に海面に戻り始め、降 雨量の増加と共に、海塩粒子飛来量が減少し始めるか らだと考えている。海塩粒子飛来量と日照時間は負の相関、即ち、日照 時間が増加すると、海塩粒子飛来量が減少することが 確認できた。これは日照時間の短い冬季に風の影響で 海塩粒子飛来量が多く、日照時間の長い夏季に少ない ことに起因していると考えている。また、窒素酸化物はあわら海岸より福井市街の方が 多いが、これは、車の通行量の相違によるものである。 イオウ酸化物はあわら海岸の方が、福井市街より多い が、これは、大陸からの飛来ではなく、海水中に含ま れているイオウ酸化物であることを確認している。1163.2 構造物腐食 - Fig.5に海浜地区における 2006年開始の開放。 露試験と 2007 年開始の開放暴露試験結果を示す。 いずれの場合も、腐食減量は暴露期間と共に単調 に増加している。開放暴露試験による腐食は、環 境因子、即ち、環境汚染因子(海塩粒子、NOX、 SOXなど)及び気象因子により変動するが、2006 年と 2007 年の結果は、ほぼ同一の傾向を示して●2007 Opened ■2006 Opened |Weight Lass()10_ 200400 600 800Exposure Time (d) Fig.5 Weight Loss vs. Exposure Time (1)? OpenedSheltered w F A Sheltered w/o FInlandWeight Lossle)10_ 50 100 150 200Exposure Time (d) Fig.6 Weight Loss vs. Exposure Time (2)- Fig.6 にあわら海岸(海浜地区)の開放暴露試験、 フィルター付き遮へい暴露試験、フィルター無し遮へ い暴露試験及び福井市街(準沿岸地区)の開放暴露試 験結果を示す。同図にみられるように、海浜地区の開 放暴露試験の腐食速度が最も大きく、次いで、海浜地 区のフィルター無し遮へい暴露試験となる。海浜地区 のフィルター有遮へい暴露試験と準沿岸地区の開放 暴露試験の腐食速度は、ほぼ同一であり、使用してい るフィルターは、その効果を十分発揮していると考え られる。また、同図によると、海浜地区暴露試験(開放及びフィルター無遮へい)の腐食速度は、ある時期 を境に増加している。これは、腐食進行に伴い、腐食 皮膜が破壊されて、腐食速度が増加したと考えている。●2007 Opened ■2006 OpenedCorrosivity (g/m2/y)80010_ 200400 600Exposure Time (d) Fig. 7 Corrsivity vs. Exposure TimeFig7 に腐食度(腐食減量を単位面積・年で規格 化)の経過日数による変化を示す。同図から明ら かのように、2006年及び 2007 年の両方の試験結 果に共通しているのは、腐食度は経過日数と共に 増加している。これは Fig.5 に示す腐食減量と同 様結果である。但し、Fig.5 と Fig.7 は、グラフの 縦軸の定義を変更している。Opened A Sheltered w'OFSheltered WF Inland20Wai Tht Los1.522.5Wind [m/s] Fig.8 Wind vs. Weight LossFig.8 に風速と腐食減量との関係を示す。同図か ら明らかなように腐食減量は、風速と直線関係に あり、風速が強い程、腐食減量が大きくなる。Fig.4 に見られるように、風速が強いと海塩粒子飛来量 が増加し、この海塩粒子飛来量の増加が、腐食を 促進している。海塩粒子飛来量と腐食減量の関係 は Fig.9 に示している。1174.決言暴露装置を設置したあわら市波松区海岸の腐 食度は、宮古島のそれと比較しても数倍大きいこ とを報告 1-した。腐食度は、試料の前処理方法な どにも強く依存するが、それらを考慮しても、暴 露装置を設置した海浜地区の腐食度は大きいの で、本暴露装置を使用しての腐食試験は、十分意 味のあるものと考えている。日本海南区域、海浜 地区に属する福井県あわら市波松区海岸および 準沿岸地区に属する福井市街(福井工業大学3号 館屋上)に暴露試験装置を設置し、日本海特有の 環境条件下で直接暴露試験および遮へい暴露試 験を実施し、次のことが判明した。 1海塩粒子飛来量は季節により変動する。 2海塩粒子飛来量は風速に対し、近似的に正の直 線関係が成立する。 3海塩粒子と降水量の関係には極大値が存在す る。降雨量が増加すると、海塩粒子飛来量が増え、 ある程度の量を超えると海塩粒子飛来量は減少 する。 4フィルターを設置することで海浜の海塩粒子 量は準沿岸と同程度に抑えられる。 5海浜でのイオウ酸化物量は飛来海塩粒子量に 比例する。 6準沿岸では窒素酸化物の影響を考慮する必要 がある。 1直接暴露試験は環境因子の影響を直接うける ので、遮蔽暴露試験より腐食減量が大きい。 8海浜地区のほうが準沿岸地区より腐食減量が 大きい。これは、海浜地区のほうが準沿岸地区よ り海塩粒子飛来量が多いためである。 9フィルターの使用により、海浜地区での腐食を 準沿岸地区並みに抑えられる。 1腐食減量は経過日数と共に増加し、ある時間経 過後に、腐食速度が大きくなる。 12006 年と 2007 年の腐食は、ほぼ同一の傾向を 示し、その差は環境汚染因子(海塩粒子)及び気 象因子の差によるものである。 2Fig.9 に示すように腐食減量と海塩粒子飛来量 との間に、ある関係が存在する。従って、腐食減 量を測定すれば、海塩粒子飛来量が推定可能であ り、海塩粒子飛来量が推定できれば、他の金属の腐食量が推定可能である。このように、本試験で 使用している炭素鋼は、「腐食指標金属」となり 得る可能性がある。■Sheltered W FASheltered w 'c F ●InlandWeight Loss [g] O-NW A ono v1000 20003000 Sea Salt aerosols (mg/m2]Fig. 9 Sea Salt aerosols vs. Weight Loss 参考文献 1) 中安文男:原子力リスク低減研究一海塩粒子 による日本海沿岸地域構造物の腐食一、福井工業 大学研究紀要第 37 号(第一部) p379-386、2007 年5月 2) 中安 文男他:海塩粒子腐食に及ぼす環境因子 の影響、日本保全学会第4回学術講演会要旨集 P457-458、2007年7月 3) 中安 文男他:The Effect of Sea Salt Aerosols in the Japan Sea Coast Facilities, ENC 2007 Transactions p188-191、2007年9月 4) 岸川結香、小島知子 : 大気エアロゾロ粒子のキ ャラクタライゼーション、九大H17-040、平成175) 日本化学会編:大気の化学、学会出版センター、 1990年9月 6) 三浦和彦:海洋起源エアロゾルの放出と変質、 SOLAS WORKSHOP IN NAGOYA 2002.8 7) 森芳徳他:飛来塩分量全国調査 (1)、土木 研究所資料、No.2203,1985118
“ “海塩粒子腐食に及ぼす環境因子の影響(2)“ “梅原 敏宏,Toshihiro UMEHARA,加藤 晃敏,Akitoshi KATO,谷口 彰英,Akihide TANIGUCHI
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