中性子照射によって延性が著しく低下する場合の延性破壊条件と構造健全性確保の概念
公開日:
カテゴリ: 第5回
1. はじめに
2. 照射による引張特性の変化- 高経年化した軽水炉(PWR 等)では、燃料集合体や炉 2.1 照射後の荷重変位曲線 内支持構造物等の炉心部の機器が受ける中性子の照射 ここでは、主に高クロム鋼(焼き戻しマルテンサイト 量が増加し、この結果、例えば、引張試験の伸び値が 鋼)の例として、原子力機構と JFE が共同で開発した核 小さくなる等の材料の強度特性変化が生じる。このよ。 融合炉用の低放射化フェライト鋼である F82H を取り うな特性変化は、高速炉や核融合炉のような先進的な 上げる。この鋼は、概略、0.0C-8Cr-0.2V-0.05 Ta-2W(残 炉システムでは、炉心部の中性子線束が高いことから、 部鉄)の化学組成をもつ焼き入れ焼き戻し鋼(1100°Cか さらに大きくなり得る。このため、例えば、核融合炉ら焼き入れ、750°Cで 2 時間の焼き戻し)である[1]。ま の真空容器内の機器については、破壊までの余裕の低 た、照射は ORNL の HEIR にて 300°Cで(照射量は、弾 下の可能性に対応するために、設計手法に関する大幅き出し損傷量にして 5-20dpa; dpa は、displacement per な工夫を要するとの懸念がしばしば指摘されてきた。 atom の略号)、また JMTR にて 250°Cで(3-4dpa)、照射 このような照射損傷による材料特性変化に関わる問題 後試験の多くは室温で行った。 の重要性は、高経年化した軽水炉の維持等を含め、今 図1に照射後の引張試験で得られた荷重-変位曲線を、 後、益々高まると考えられる。照射前の結果とともに示す。この場合の照射温度が このような「高照射を受けて材料特性が大きく変化 300°Cであるが、照射によって硬化すると共に、伸びが した機器」に、大きな負荷が加わる場合における「破 低下することがわかる。特に、降伏(塑性変形開始)直後 壊までの余裕等の定量化」、及びより小さい変形が加わに荷重が低下することから、このような荷重-変位曲線 る「疲労破壊へ照射効果評価」場合のための技術基盤を示す材料は構造材料としての利用に懸念が示されて 形成に資するため、照射した高クロム鋼引張試験片のいた。例えば、図2 の有限要素方解析に示すように、 変形挙動等を解析し、実験的に照射後の構成式を求め、 加工軟化すると考えられた結果、擬脆性的に破壊を生 加えて構成式における照射効果の取り扱い方法を検討 じるとの懸念が示された[2]。 し、この結果及びオーステナイト鋼について知見に基 2.2 真応力-真歪み曲線の評価法 づき、単一の荷重負荷、繰り返し荷重下での破損条件降伏後の荷重低下に伴って、引張試験片の試験部に 等について、さらにこのように材料特性が変化した構 くびれ(拡散くびれ)が生じた。このような挙動を示す材 造物における健全性確保の考え方等について指摘する。 料の延性や破壊までの余裕を把握するために、くびれ部の変形(くびれ部の最小断面)を測定し、真応力-真歪 み関係を得、これから構成式を評価してみた。真応力真歪み関係を得るために行ったくびれ部の測定方法を
示す。図3に示すように、試験中に複数の方向からデ ジタルカメラで試験片の画像を記録し、試験後、くび れ部の寸法と荷重-変位曲線から真応力-真歪み関係を 得た。結果の例を、図4に示す。この図での真応力-真 歪み関係における真応力は、単純に荷重を最小断面の 面積で割って定めたもので、特に、くびれの形状によ る応力集中等の補正を行っていない。但し、後述の冷 間加工材の試験結果から、このような補正の影響は少 なかった。1200照射後1000800荷重600前600(MPa)400200s_10152025図1 照射前後の F82H の荷重-変位曲線胃加工材の試験結果から、このような補正の影響は少 なかった。Op = A(co+ Ep)““-11200照射後1000800式(1)では、照射による硬化による硬化分に対応する う toを定めることができ(このとき Ep0)、この結 照射量によらず(真)応力-(真)歪み関係は同一の曲線 示すことになる(延性破断条件含む)。照射温度が 400 よりも低い範囲では、照射による硬化量と転位密度 関係は多くの場合一定の関係に従うことが知られて荷重 (MPa)600前 /4000““2510_ _ 10_ 15_ 20_ 図1 照射前後の F82H の荷重-変位曲線図2 弾完全塑性体を仮定した場合の変形図3 くびれ部の変形記録用カメラ2.3 真応力-真歪み関係への照射効果図4に示す真応力-真歪み曲線は、明らかに照射量が 高くなると降伏応力が増加し、伸びが減少した。また、 互いに類似の曲線部分を持つように見える。実際、図 5 のように横軸(真歪み)に沿って平行移動すると重ねることができ、かつ破断点も互いに近い。即ち、少な くとも弾き出し損傷量にして 20dpa 程度までは、真応 力-真歪み曲線は、次の(1)式でよく近似できるようであ る[3,41。ここで、O。 は塑性流動応力、A は強度係数 (一定)、coは硬化(降伏応力に対応する等価予歪み)、 Ep は塑性歪み、n は加工硬化指数で、0.2-0.5 程度。式(1)では、照射による硬化による硬化分に対応するよ うEoを定めることができ(このとき -0)、この結果、 照射量によらず(真)応力-(真)歪み関係は同一の曲線を 示すことになる(延性破断条件含む)。照射温度が 400°C よりも低い範囲では、照射による硬化量と転位密度の 関係は多くの場合一定の関係に従うことが知られてい る。これは、大略 「照射によって導入された転位量に 対応する分だけ照射硬化が生じる」ことを示唆してい るが、電子顕微鏡による多くの微細組織観察の結果は、 これに従っている[5]。 さらに、もっと簡単には、照射 硬化は加工硬化と同様に、この場合には、転位密度に 支配され、また、残留延性にも同様の関係が当てはま ることになる。これは、少なくとも単一の負荷下での ・ 挙動に関しては、照射硬化した材料の弾塑性挙動の多 くが冷間加工材で模擬できることを示唆している。 さらに、残留延性の大きさ(破断までの真歪み)は、 20dpa 照射材でも非照射材の半分程度を確保しており、 照射後の延性は 20dpa でも低くはないことがわかる。1500True stress (MPa)? IEA-F82H OdpaEA-F82H 5dpa o 2%Ni doped F82H Odpa ● 2%Ni doped F82H 5dpa |1.50.5 True strain (natural strain)図4 20dpa まで照射した F82H の真応力-真歪み曲線126◎1000真応力(MPa)15001000True Stess (MPa)3500CHEA-F82H 4年 01EA0F824543 LEAF82H 2018True Staininatura tain)図5 歪み軸に沿って移動させた真応力-真歪み曲線o = A ?““(do/dt)““.1000真応力 (MPa)照射後500傾きが<号で延性破壊E60.51 真歪み (in natural strain)図6 真応力-真歪み曲線と破壊条件の概念図2.4 オーステナイト鋼の照射後構成式と破 壊条件オーステナイト鋼(例えば、316鋼や類似鋼)の場合に も、式(1)が概ね成立するようである。さらに、式(1)を 模式的に図6に示すが、オーステナイト鋼の場合には、 照射の有無にかかわらず、to+ EDが 2n-1 のときに 延性破壊を発生するようであり、比較的高い正確さで、 照射材の延性破壊条件(或は、残留延性)を推定すること ができる。さらに、延性破壊の応力状態依存性につい ても図7のように推定できるようである。即ち、引張 荷重下での帯板や薄肉の管材については余裕が少ない が、棒の引張、板材の 2 軸引張り、曲げ等の変形モー ドでは、余裕が大きいと言うものである[6,7]。ところ で、オーステナイトの破断延性は、帯板等の引張荷重 下ではco+ EDが 2n1 の時に生じるように見えるが、 高クロム鋼等の体心立方型の鉄合金の場合には、もっ図6と高い指数(残留延性)まで、延性破壊を生じないようで ある。この点については、主に非照射の試験片等を用 いた検討による確認が必要である。(Hill'sCriterion)y (e2)A20A..After Irradiation Hardeninga(el)21図7 延性破壊条件の応力状態依存性3.照射による疲労特性の変化3.1 塑性歪み振幅-破断繰り返し数関係図8に F82H の疲労寿命への照射効果(JMTR で 250°C、 約 4dpa)を示す。このように、照射の影響は、歪み振幅 が小さい時を除いて明瞭でない。なお、図では縦軸を 塑性歪み振幅としているが、これを用いる方が照射の 効果は明瞭になる。ところで、歪み振幅が小さい時に違いが見られるが、 この場合に疲労破面に変化が生じていた。チャンネル 破壊の破面が見られたことから、疲労機構が非照射の 場合と共通の機構から、照射した場合に特徴的なこの 機構に変化したものと考えられる[8]。Test Temperature (C)250300Unirradiated IrradiatedA trend curve before irradiation for at 20 to 300CIrradiation |25003.8dpaPlastic Strain Range (%)Mechanism change townChannel Fracture0.01LLL 1E+2 1E+ 3 1E+4 1E+5 111E+6 Number of Cycles to Failure, Nf図8照射前後の疲労寿命 3.2 照射材の繰り返し軟化 1 : 疲労寿命への照射の効果は著しいものではない。し かし、図9に示すように、繰り返し負荷中の疲労試験 片は、大きな疲労軟化を示した。軟化、即ち、塑性変 形が発生する応力の低下は繰り返し変形に従って生じ るものであるため、使用条件下では、何らかのきっか けで疲労損傷が集中して生じることになろう。この課 題についても、冷間加工材はシミュレーション材料と して限定的ではあるが(チャネル破壊が再現できない)、127利用できると推定できる。Irrad., ±0.5%→0.004Peak tensile stress (MPa)Unirrad., ±0.5%10010103 1 00 100 Number of cycle100100図9 照射した疲労試験片の繰り替えし軟化挙動4.照射による特性変化と健全性確保4.1 破損モードと限界特性 照射量依存性これまで見て来たように、照射硬化して伸びが低下 (見掛上の加工軟化を示す)した材料であっても、破壊の 発生までにある程度の余裕が明瞭にあることがわかる。 特に、曲げ変形等の場合に、例えば、機器の機能を喪 失させるような大きな変形は、破壊を伴わずに生じ得 ると考えられる。従って、「破損モード」を、「破壊モ ード」と「機能喪失(過大な変形、座屈等による不安定 な変形、亀裂等の欠陥の発生)」に分ける場合、塑性変 形の発生を考慮した(「機能喪失を引き起こす塑性変形 の発生」を許容した)取り扱いにすることが合理的と考 えられる。なお、引張荷重による破壊については、照 射硬化の結果、降伏開始と同時にくびれを生じるよう な場合でも、真応力-真歪み関係では依然として加工硬 化を示すことを考慮しつつ挙動に対処できるよう、図 10 に示すように、「制御可能な特性」に注目して限界 特性(強さ)を定めることが対処法と考えられる。このよ うな取り扱い法により、参考文献[2]で代表されるよう な過度に厳しい考え方に比べ、広い利用可能範囲を明 確に示すことができると考えられる。 ところで、照射による硬化は、照射量に対して飽和傾 向を示す。概ね、10dpa 以上での変化は少なくなる。 従って、上記の扱い方は、さらに高い照射量の領域ま で成立し得る。 4.2 冷間加工材を用いたシミュレーション 単一負荷下での損傷に関しては、冷間加工で硬化し た場合と照射で硬化した場合には似ている。このため、 前項で指摘したように、かなり高い照射損傷量の領域 にまで、シミュレーション材料として冷間加工材等を 用いることができると考えられる。もちろん、変形や破壊の機構等についてさらなる検討を要すると考えら れるが、構成式と計算による評価に加えて、より実証 的な評価を要する場合に、有力な手段として冷間加工 材等の利用が考えられよう。例えば、炉内機器の補修 において溶接やボルト締め等を用いた場合の挙動や妥 当性評価、同じく、地震動等が炉心部に与える力学的 な影響を検討する場合に有力な手段となり得よう。最界特性(強さ)の提案安定不安定破損に登る 変形の安定性 (制御可能性)農界特性(強さ) ■破損特性(強さ)限界特性(強さ)御可絶な最大特性(強さ) 例:引張荷重の場合、引張強さ図10 限界強さについての案 4.3 手法の適用限界について 14.1 及び 4.2 で指摘したように、照射硬化は照射量に対して飽和傾向を示すので、例えば、今後重要な課題 となると考えられる高経年化した軽水炉の炉内機器の 挙動予測に利用できると考えられる。しかし、最近、 核破砕中性子源における材料損傷の研究で、材料中に 核変換で生成されるヘリウム原子の濃度が極めて高く なる場合には、これによる硬化や延性の低下が加わる との結果が示されるようになって来た[9]。影響が生じ 始めるヘリウム量は、高クロム鋼については、 1000appm 以上、オーステナイト鋼については、 10000appm 以上と考えられる。従って、核融合炉であ っても問題が生じる領域までは、ある程度の余裕があ ろうが、材質(例えば、溶接部)によっては感受性が高く なる場合が考えられるため一定の考慮が必要であろう。参考文献[1]S.Jitsukawa, et al., J Nucl. Mater..307-311(2002)176-186 [2]G.E.Lucas, MRS vol.439, 1996, pp.485 [3]T. Taguchi, et al.,J Nucl. Mater.335(2004)457-461 [4]鈴木一彦他、機講論 M&M 2007, No.344 [5]M.Ando, et al., J Nucl. Mater..307-311(2002)260-265 [6]S.Jitsukawa,et al. J Nucl. Mater..271&272(1999)167-172 [7]鈴木一彦他、機講論 M&M 2007, No.345 [8]S.Jitsukawa, et al., J Nucl. Mater..329-333(2004)33-46 [9]例えば、J.Henry, et al., J Nucl. Mater.377(2008)80-93128
“ “中性子照射によって延性が著しく低下する場合の延性破壊条件と構造健全性確保の概念“ “實川 資朗,Shiro JITSUKAWA,鈴木 一彦,Kazuhiko SUZUKI,大久保 成彰,Nariaki OKUBO,芝 清之,Kiyoyuki SHIBA,高田 文樹,Fumiki TAKADA,近江 正男,Masao OHMI,中川 哲也,Tetsuya NAKAGAWA
2. 照射による引張特性の変化- 高経年化した軽水炉(PWR 等)では、燃料集合体や炉 2.1 照射後の荷重変位曲線 内支持構造物等の炉心部の機器が受ける中性子の照射 ここでは、主に高クロム鋼(焼き戻しマルテンサイト 量が増加し、この結果、例えば、引張試験の伸び値が 鋼)の例として、原子力機構と JFE が共同で開発した核 小さくなる等の材料の強度特性変化が生じる。このよ。 融合炉用の低放射化フェライト鋼である F82H を取り うな特性変化は、高速炉や核融合炉のような先進的な 上げる。この鋼は、概略、0.0C-8Cr-0.2V-0.05 Ta-2W(残 炉システムでは、炉心部の中性子線束が高いことから、 部鉄)の化学組成をもつ焼き入れ焼き戻し鋼(1100°Cか さらに大きくなり得る。このため、例えば、核融合炉ら焼き入れ、750°Cで 2 時間の焼き戻し)である[1]。ま の真空容器内の機器については、破壊までの余裕の低 た、照射は ORNL の HEIR にて 300°Cで(照射量は、弾 下の可能性に対応するために、設計手法に関する大幅き出し損傷量にして 5-20dpa; dpa は、displacement per な工夫を要するとの懸念がしばしば指摘されてきた。 atom の略号)、また JMTR にて 250°Cで(3-4dpa)、照射 このような照射損傷による材料特性変化に関わる問題 後試験の多くは室温で行った。 の重要性は、高経年化した軽水炉の維持等を含め、今 図1に照射後の引張試験で得られた荷重-変位曲線を、 後、益々高まると考えられる。照射前の結果とともに示す。この場合の照射温度が このような「高照射を受けて材料特性が大きく変化 300°Cであるが、照射によって硬化すると共に、伸びが した機器」に、大きな負荷が加わる場合における「破 低下することがわかる。特に、降伏(塑性変形開始)直後 壊までの余裕等の定量化」、及びより小さい変形が加わに荷重が低下することから、このような荷重-変位曲線 る「疲労破壊へ照射効果評価」場合のための技術基盤を示す材料は構造材料としての利用に懸念が示されて 形成に資するため、照射した高クロム鋼引張試験片のいた。例えば、図2 の有限要素方解析に示すように、 変形挙動等を解析し、実験的に照射後の構成式を求め、 加工軟化すると考えられた結果、擬脆性的に破壊を生 加えて構成式における照射効果の取り扱い方法を検討 じるとの懸念が示された[2]。 し、この結果及びオーステナイト鋼について知見に基 2.2 真応力-真歪み曲線の評価法 づき、単一の荷重負荷、繰り返し荷重下での破損条件降伏後の荷重低下に伴って、引張試験片の試験部に 等について、さらにこのように材料特性が変化した構 くびれ(拡散くびれ)が生じた。このような挙動を示す材 造物における健全性確保の考え方等について指摘する。 料の延性や破壊までの余裕を把握するために、くびれ部の変形(くびれ部の最小断面)を測定し、真応力-真歪 み関係を得、これから構成式を評価してみた。真応力真歪み関係を得るために行ったくびれ部の測定方法を
示す。図3に示すように、試験中に複数の方向からデ ジタルカメラで試験片の画像を記録し、試験後、くび れ部の寸法と荷重-変位曲線から真応力-真歪み関係を 得た。結果の例を、図4に示す。この図での真応力-真 歪み関係における真応力は、単純に荷重を最小断面の 面積で割って定めたもので、特に、くびれの形状によ る応力集中等の補正を行っていない。但し、後述の冷 間加工材の試験結果から、このような補正の影響は少 なかった。1200照射後1000800荷重600前600(MPa)400200s_10152025図1 照射前後の F82H の荷重-変位曲線胃加工材の試験結果から、このような補正の影響は少 なかった。Op = A(co+ Ep)““-11200照射後1000800式(1)では、照射による硬化による硬化分に対応する う toを定めることができ(このとき Ep0)、この結 照射量によらず(真)応力-(真)歪み関係は同一の曲線 示すことになる(延性破断条件含む)。照射温度が 400 よりも低い範囲では、照射による硬化量と転位密度 関係は多くの場合一定の関係に従うことが知られて荷重 (MPa)600前 /4000““2510_ _ 10_ 15_ 20_ 図1 照射前後の F82H の荷重-変位曲線図2 弾完全塑性体を仮定した場合の変形図3 くびれ部の変形記録用カメラ2.3 真応力-真歪み関係への照射効果図4に示す真応力-真歪み曲線は、明らかに照射量が 高くなると降伏応力が増加し、伸びが減少した。また、 互いに類似の曲線部分を持つように見える。実際、図 5 のように横軸(真歪み)に沿って平行移動すると重ねることができ、かつ破断点も互いに近い。即ち、少な くとも弾き出し損傷量にして 20dpa 程度までは、真応 力-真歪み曲線は、次の(1)式でよく近似できるようであ る[3,41。ここで、O。 は塑性流動応力、A は強度係数 (一定)、coは硬化(降伏応力に対応する等価予歪み)、 Ep は塑性歪み、n は加工硬化指数で、0.2-0.5 程度。式(1)では、照射による硬化による硬化分に対応するよ うEoを定めることができ(このとき -0)、この結果、 照射量によらず(真)応力-(真)歪み関係は同一の曲線を 示すことになる(延性破断条件含む)。照射温度が 400°C よりも低い範囲では、照射による硬化量と転位密度の 関係は多くの場合一定の関係に従うことが知られてい る。これは、大略 「照射によって導入された転位量に 対応する分だけ照射硬化が生じる」ことを示唆してい るが、電子顕微鏡による多くの微細組織観察の結果は、 これに従っている[5]。 さらに、もっと簡単には、照射 硬化は加工硬化と同様に、この場合には、転位密度に 支配され、また、残留延性にも同様の関係が当てはま ることになる。これは、少なくとも単一の負荷下での ・ 挙動に関しては、照射硬化した材料の弾塑性挙動の多 くが冷間加工材で模擬できることを示唆している。 さらに、残留延性の大きさ(破断までの真歪み)は、 20dpa 照射材でも非照射材の半分程度を確保しており、 照射後の延性は 20dpa でも低くはないことがわかる。1500True stress (MPa)? IEA-F82H OdpaEA-F82H 5dpa o 2%Ni doped F82H Odpa ● 2%Ni doped F82H 5dpa |1.50.5 True strain (natural strain)図4 20dpa まで照射した F82H の真応力-真歪み曲線126◎1000真応力(MPa)15001000True Stess (MPa)3500CHEA-F82H 4年 01EA0F824543 LEAF82H 2018True Staininatura tain)図5 歪み軸に沿って移動させた真応力-真歪み曲線o = A ?““(do/dt)““.1000真応力 (MPa)照射後500傾きが<号で延性破壊E60.51 真歪み (in natural strain)図6 真応力-真歪み曲線と破壊条件の概念図2.4 オーステナイト鋼の照射後構成式と破 壊条件オーステナイト鋼(例えば、316鋼や類似鋼)の場合に も、式(1)が概ね成立するようである。さらに、式(1)を 模式的に図6に示すが、オーステナイト鋼の場合には、 照射の有無にかかわらず、to+ EDが 2n-1 のときに 延性破壊を発生するようであり、比較的高い正確さで、 照射材の延性破壊条件(或は、残留延性)を推定すること ができる。さらに、延性破壊の応力状態依存性につい ても図7のように推定できるようである。即ち、引張 荷重下での帯板や薄肉の管材については余裕が少ない が、棒の引張、板材の 2 軸引張り、曲げ等の変形モー ドでは、余裕が大きいと言うものである[6,7]。ところ で、オーステナイトの破断延性は、帯板等の引張荷重 下ではco+ EDが 2n1 の時に生じるように見えるが、 高クロム鋼等の体心立方型の鉄合金の場合には、もっ図6と高い指数(残留延性)まで、延性破壊を生じないようで ある。この点については、主に非照射の試験片等を用 いた検討による確認が必要である。(Hill'sCriterion)y (e2)A20A..After Irradiation Hardeninga(el)21図7 延性破壊条件の応力状態依存性3.照射による疲労特性の変化3.1 塑性歪み振幅-破断繰り返し数関係図8に F82H の疲労寿命への照射効果(JMTR で 250°C、 約 4dpa)を示す。このように、照射の影響は、歪み振幅 が小さい時を除いて明瞭でない。なお、図では縦軸を 塑性歪み振幅としているが、これを用いる方が照射の 効果は明瞭になる。ところで、歪み振幅が小さい時に違いが見られるが、 この場合に疲労破面に変化が生じていた。チャンネル 破壊の破面が見られたことから、疲労機構が非照射の 場合と共通の機構から、照射した場合に特徴的なこの 機構に変化したものと考えられる[8]。Test Temperature (C)250300Unirradiated IrradiatedA trend curve before irradiation for at 20 to 300CIrradiation |25003.8dpaPlastic Strain Range (%)Mechanism change townChannel Fracture0.01LLL 1E+2 1E+ 3 1E+4 1E+5 111E+6 Number of Cycles to Failure, Nf図8照射前後の疲労寿命 3.2 照射材の繰り返し軟化 1 : 疲労寿命への照射の効果は著しいものではない。し かし、図9に示すように、繰り返し負荷中の疲労試験 片は、大きな疲労軟化を示した。軟化、即ち、塑性変 形が発生する応力の低下は繰り返し変形に従って生じ るものであるため、使用条件下では、何らかのきっか けで疲労損傷が集中して生じることになろう。この課 題についても、冷間加工材はシミュレーション材料と して限定的ではあるが(チャネル破壊が再現できない)、127利用できると推定できる。Irrad., ±0.5%→0.004Peak tensile stress (MPa)Unirrad., ±0.5%10010103 1 00 100 Number of cycle100100図9 照射した疲労試験片の繰り替えし軟化挙動4.照射による特性変化と健全性確保4.1 破損モードと限界特性 照射量依存性これまで見て来たように、照射硬化して伸びが低下 (見掛上の加工軟化を示す)した材料であっても、破壊の 発生までにある程度の余裕が明瞭にあることがわかる。 特に、曲げ変形等の場合に、例えば、機器の機能を喪 失させるような大きな変形は、破壊を伴わずに生じ得 ると考えられる。従って、「破損モード」を、「破壊モ ード」と「機能喪失(過大な変形、座屈等による不安定 な変形、亀裂等の欠陥の発生)」に分ける場合、塑性変 形の発生を考慮した(「機能喪失を引き起こす塑性変形 の発生」を許容した)取り扱いにすることが合理的と考 えられる。なお、引張荷重による破壊については、照 射硬化の結果、降伏開始と同時にくびれを生じるよう な場合でも、真応力-真歪み関係では依然として加工硬 化を示すことを考慮しつつ挙動に対処できるよう、図 10 に示すように、「制御可能な特性」に注目して限界 特性(強さ)を定めることが対処法と考えられる。このよ うな取り扱い法により、参考文献[2]で代表されるよう な過度に厳しい考え方に比べ、広い利用可能範囲を明 確に示すことができると考えられる。 ところで、照射による硬化は、照射量に対して飽和傾 向を示す。概ね、10dpa 以上での変化は少なくなる。 従って、上記の扱い方は、さらに高い照射量の領域ま で成立し得る。 4.2 冷間加工材を用いたシミュレーション 単一負荷下での損傷に関しては、冷間加工で硬化し た場合と照射で硬化した場合には似ている。このため、 前項で指摘したように、かなり高い照射損傷量の領域 にまで、シミュレーション材料として冷間加工材等を 用いることができると考えられる。もちろん、変形や破壊の機構等についてさらなる検討を要すると考えら れるが、構成式と計算による評価に加えて、より実証 的な評価を要する場合に、有力な手段として冷間加工 材等の利用が考えられよう。例えば、炉内機器の補修 において溶接やボルト締め等を用いた場合の挙動や妥 当性評価、同じく、地震動等が炉心部に与える力学的 な影響を検討する場合に有力な手段となり得よう。最界特性(強さ)の提案安定不安定破損に登る 変形の安定性 (制御可能性)農界特性(強さ) ■破損特性(強さ)限界特性(強さ)御可絶な最大特性(強さ) 例:引張荷重の場合、引張強さ図10 限界強さについての案 4.3 手法の適用限界について 14.1 及び 4.2 で指摘したように、照射硬化は照射量に対して飽和傾向を示すので、例えば、今後重要な課題 となると考えられる高経年化した軽水炉の炉内機器の 挙動予測に利用できると考えられる。しかし、最近、 核破砕中性子源における材料損傷の研究で、材料中に 核変換で生成されるヘリウム原子の濃度が極めて高く なる場合には、これによる硬化や延性の低下が加わる との結果が示されるようになって来た[9]。影響が生じ 始めるヘリウム量は、高クロム鋼については、 1000appm 以上、オーステナイト鋼については、 10000appm 以上と考えられる。従って、核融合炉であ っても問題が生じる領域までは、ある程度の余裕があ ろうが、材質(例えば、溶接部)によっては感受性が高く なる場合が考えられるため一定の考慮が必要であろう。参考文献[1]S.Jitsukawa, et al., J Nucl. Mater..307-311(2002)176-186 [2]G.E.Lucas, MRS vol.439, 1996, pp.485 [3]T. Taguchi, et al.,J Nucl. Mater.335(2004)457-461 [4]鈴木一彦他、機講論 M&M 2007, No.344 [5]M.Ando, et al., J Nucl. Mater..307-311(2002)260-265 [6]S.Jitsukawa,et al. J Nucl. Mater..271&272(1999)167-172 [7]鈴木一彦他、機講論 M&M 2007, No.345 [8]S.Jitsukawa, et al., J Nucl. Mater..329-333(2004)33-46 [9]例えば、J.Henry, et al., J Nucl. Mater.377(2008)80-93128
“ “中性子照射によって延性が著しく低下する場合の延性破壊条件と構造健全性確保の概念“ “實川 資朗,Shiro JITSUKAWA,鈴木 一彦,Kazuhiko SUZUKI,大久保 成彰,Nariaki OKUBO,芝 清之,Kiyoyuki SHIBA,高田 文樹,Fumiki TAKADA,近江 正男,Masao OHMI,中川 哲也,Tetsuya NAKAGAWA