伝熱管内壁検査補修技術開発の概要

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カテゴリ: 第5回
1.背景と目的
- 超短パルスレーザー加工は透明材料の内部加工にお いて有効な手法である。このため、光導波路などの光 電子デバイス開発への応用が積極的に展開されている。 一方、原子力エネルギー分野での利用としては、2002 年に国内の BWR で生じたシュラウド応力腐食割れ問 題を契機として、超短パルスレーザーによる加工硬化 層の蒸発除去を新たな応力腐食割れ対策技術として発 案した[1]。その後も原子力材料への適用拡大に傾注し た結果、超短パルスレーザー蒸発をミクロからマクロ にかけてスケールの異なる新たな応用が可能となった。マクロ応用例としてはシュラウドを対象とした超短 パルスレーザー蒸発の大面積化を実施した。2005年に は1cm2の応力除去に成功、続いて2006年には1x10 cm2 の応力除去に成功した。これにより、新たな応用分野 としてFBRの熱交換器伝熱管の補修技術の開発が可能 となった。Photo.1 にもんじゅ熱交換器伝熱管を示す。 現在のFBR原型炉であるもんじゅの熱交換器は蒸発器 と過熱器を組み合わせた構造であり、蒸発器の伝熱管 内には高温水と蒸気が混相流として流れ、外側を液体 ナトリウムが流れる。これまでは渦電流探傷(ECT)によ る検査により伝熱管に欠陥が発見された場合、伝熱管 を施栓により塞ぐのが対処の基本である。しかしながら施栓の割合が高くなると有効伝熱面積 の減少となり、結局は熱交換器の寿命を縮めることと なる。現在、ECT の検出性能の向上とともに伝熱管内 壁の微細な欠陥の発見が可能となりつつあり、発見し た微細な欠陥を補修することで施栓を回避することが 望まれる。本プロジェクトでは、伝熱管を検査だけで なく欠陥の発見に併せてその場での補修を試みる新型 プローブを開発する。これに必要な経験が ITER 核融 合ブランケットの枝管をレーザー溶接・切断するロボ ット装置として、1999 年に複合光ファイバを用いたレ ーザー熱加工による補修である。 ITER プロジェクトで の開発終了後、この複合光ファイバは光ファイバ内視 鏡とレーザーメスの融合技術として積極的な医療応用が進められている[2]。 - 本報告では、平成 19年度から3年間をかけて開発を 開始した次世代FBR熱交換器伝熱管の内壁面の検査補 修のための要素技術について報告する[3]。
2. システムの概要と要素技術
2.1 概要開発するシステムは、全長 100m のヘリカル型伝熱 管を検査補修する技術開発として、ECT 検査技術、複 合型光ファイバ技術、レーザー熱加工および超短パル スレーザー加工技術を統合させ、従来の検査機能に補 修・保全機能を備えている。根合型光ファイバビーキャンプ。シボ入はこ20ECT +システムメフトウエア+ ECTしたいいますFig. 1Block Diagram of the New Probing SystemレFig.1 に新プローブの概要を示す。昨年度、主要技術 の整備は順調に進展し、実機製作に向けての問題点を 明確に出来た。開発のコアとなる技術は、伝熱管内壁 の映像を伝送する画像用光ファイバと欠陥部位のレー ザー熱加工溶接による補修のためのエネルギー伝送用 光ファイバを同軸構造に組み合わせた複合型光ファイ バである。レーザーとしては CO, レーザーや YAG レ ーザーに加えて小型高性能化が著しいイッテルビウム ファイバレーザーガ有力である。複合型光ファイバの 周りには照明用のライトガイドも設けられている。こ のファイバの先端には伝熱管の内壁の撮影と加工補修 のためのレーザー加工ヘッドが接続する。レーザー加 工ヘッド内には伝熱管内壁を 360 度スキャンし、レー ザー照射位置を微調整するための小型ステッピングモ ーターが内蔵される。また、複合型光ファイバの反対 側の端面では、画像とレーザー光の分離装置を設ける。さらにレーザー加工ヘッド直近には複合型光ファイバ を抱え込む形でECT用マルチコイルセンサが取り付け られる。2.2 複合型光ファイバスコープ - 複合型光ファイバスコープは、熱加工用のための 1kW レーザー光が伝送される。レーザー光を伝送する 中心部分のコア直径は 200μm、クラッド直径は 220 um である。レーザー伝送部コア材質は純粋石英ガ ラスである。このレーザー光伝送部の周囲に画像伝送 用ファイバが同軸上に取り囲む構造となっている。画 素数は20,000画素とし、画像伝送部径が0.8mm とした。 この画像伝送部コア材質は Ge ドープ石英ガラスであ る。複合型光ファイバスコープの一端には石英ガラス 製対物レンズを設けた。レンズ表面にはレーザー光の 波長である 1070nm の AR コートを施した。 - 先端のレンズ周囲には照明用ファイバを一層配列し た結果、外径約 7mm となった。Photo.2 は複合型光フ ァイバスコープの先端のステンレス製スコープ部分で ある。スコープの先端からの光りは照明用ファイバか らのものである。スコープの柔軟部分の可撓性は、最 小曲げ半径 45mm であり、挿入する熱交換器の伝熱管 の屈曲部分にも充分対応できる。Photo. 2 Hybrid Optical Fiber Scope2.3 ECT センサヘッド - 渦電流探傷により微小な内壁欠陥を発見するのが ECT センサヘッドの役割である。マルチ型の検出コイ ルと2個の励磁コイルとを組み合わせた ECT 中空セ ンサユニットを設計した。Fig.2 にそれぞれのコイル の配置を示す。長さ約 50mm、外径約 20mm のマルチ 型検出コイルの両側に励磁コイルを配し、励磁コイル が伝熱管に誘導する過電流により生じる磁場をマル チ型検出コイルで検出する。伝熱管内壁に欠陥がある 場合、深さと形状を可視化できる。ECT センサの中心140軸には複合型光ファイバが通り、新プローブ組み立て 時には複合型光ファイバと一体化させる。マチコFig. 2Eddy Current Testing Sensor Unit今回製作した ECT センサヘッドの基本性能を示す。 伝熱管に全周にわたり 50%の減肉(-1.9mm)が生じた場 合、10個の検出コイルそれぞれからの時間波形を示し たものである。0.75V から 0.88V の範囲でバラツキは あるものの充分な強度の信号を得た。今後、各コイル 間の抵抗値の補正とコイルと伝熱管壁との距離の偏差 を校正することで精度の良い画像化が可能となる。ch10振幅0.5(V)時間軸(S)/Fig. 3Test Signals from Multi-Coil Sensorこれまでの試験により検出部にマルチ型コイルを用 いることで内面局部減肉 5%t(L5mm、W10mm)及び 内面周方向ノッチ 20%t(L10mm、W0.3mm)を検出で きる見通しを得ている。今後、ECT 制御用ソフトウェ アの開発を行い伝熱管内壁の微小欠陥を迅速且つ高精 度で立体表示を行うこと、また、複合型光ファイバス コープと中空センサユニットとの組み合わせ及びケー ブル類の複合化が重要となること等、開発課題を抽出した。2.4 レーザー加工ヘッド - 複合型光ファイバスコープと組み合わせが可能な レーザー加工ヘッドを製作し、基本性能を確認した。 レーザー加工ヘッドは、複合型光ファイバスコープの 先端に接続し、1インチ程度の伝熱管内に挿入された 状態で、周方向回転と軸方向移動への基本動作を行えるものとし、伝熱管内壁をレーザー光で集光照射でき る構造とした。Photo.3 にレーザー加工ヘッド示す。 内径1インチの透明アクリルパイプにレーザー加工 ヘッドを挿入し、動作確認を行った。レーザー加工へ ッドの可動スリーブ部分は軸方向に 5mm、周方向に 左右 185 度の動作が可能である。Photo.3Photo. 3Laser Processing Head in 1-inch Acryl Pipe* 伝熱管内壁の撮影映像の評価準備のため、複合型光 ファイバスコープをレーザー加工ヘッドに挿入し、複 合型光ファイバスコープのカップリング装置接続側に ビデオカメラを接続し連続画像の撮影を試みた。アク リルパイプ内の文字撮影の結果、製作したレーザー加 工ヘッドは動作状態において、複合型光ファイバスコ ープに連続画像を伝送できることを確認した。Photo.4Photo.4Laser Processing Head (LED Illumination)Photo.4 はパイプ内に挿入したレーザー加工ヘッド の LED 照明を点灯させた状態である。この LED は複 合型光ファイバスコープの外周に設けたライトガイド の補助として用いる。今後、レーザー加工ヘッドの専 用制御用ソフトウェアの開発、溶接熟練者による手動141制御とその記録動作の実施、また、高トルクな超音波 モータの搭載等、開発課題を抽出した。2.5 カップリング装置設計 ・レーザー光と画像の分離・統合を行うためのカップ リング装置の詳細設計を行い、その妥当性を確認した。 カップリング装置は、最大出力 1kW のレーザー光の 使用を設計条件とし、内蔵するダイクロイックミラー により、複合型光ファイバスコープからの映像と伝 するレーザー光の統合・分離が行える構造とした。レ ーザーは市販のイッテルビウムファイバレーザーを 想定した。ダイクロイックミラーは反射率 99%@ 1075nm、平均透過率 90%@450~800nm である。2.6 模擬伝熱管補修試験準備 - 新プローブシステムを完成させる平成 21 年度には 模擬伝熱管の補修試験を実施する。本年度は既設のレ ーザー装置を使用して、カップリング装置にレーザー 光を安全に導入するための予備試験を実施した。Fig.4 にレーザー加工の応用分野の分類を示す。既設のレー ザーは Fig.4 の右下部分である熱加工領域に属するフ ラッシュランプ励起によるフリーランニングレーザー であり、半導体レーザーの大規模スタックドアレイを 模擬することが出来る[4]。集光部分の直径はファイバ コア径と同じ 200 um とした。このレーザー照射条件 は 2.3×107W/cm2であり、クロム鋼等の伝熱管材料に照 射した場合、その表面は容易に溶融・蒸発する。実験 の結果、合成石英窓板には損傷が見られないことを顕 微鏡観察により確認した。レーザーパルス長さと集光強度による利用分野の違い104金曜の ・加工フェムト秒領域の時間幅の光では 残留応力除去が可能|ガラス、セラミッ加工Laser Intensity (Wiem?)ナノ秒Nd:YAGレーザーイッテルビウム ファイバレーザーCO2レーザー 構成し半導体レーザー 産業利用が広範囲に進む レーザー熱加工領域世絵・101011 10 10* 10* 10 1941Laser Pulse DurationsFig.4 Laser Processing Application Map平成 21 年度の模擬伝熱管補修試験において、仮に最て、仮に最大出力 1kW の市販イッテルビウムファイバレーザー を 0.2mm 直径に集光すると、集光強度は 0.32×10' W/cm2 となる。試験では 2.3×107W/cm2まで集光強度を 上げても合成石英窓板には損傷が発生しなかったこと から、充分な安全尤度が得られている。従って、ダス ト等が抑制された環境下において、予定とするレーザ ー出力では複合型光ファイバスコープの端面やカップ リング装置に損傷は発生しない。3.結言* Fig.1 に示した新プローブ完成に必要な各要素技術 および模擬伝熱管補修試験についての概要について述 べた。複合型光ファイバスコープは、10m の長尺と 20,000 画素数の試作に成功した。複合型光ファイバス コープとレーザー加工ヘッドは仮接続を行い、以降の 実施内容の準備を開始した。ECT 探傷については、実 機であるもんじゅの3系統の熱交換器伝熱管検査の知 見を反映し、従来型よりも高性能なマルチコイルセン サを採用した。平成 20 年度は、カップリング装置の製 作、ECT 探傷器及びレーザー加工ヘッドの制御ソフト ウェア及び各要素技術の統合と平成 21 年度に行う模 擬伝熱管補修試験に向けての準備を進める。謝辞本報告は、平成19年度に文部科学省から委託された 原子力システム研究開発事業「基盤研究開発分野」の 革新技術創出型研究開発(革新的原子炉技術)におけ る「レーザー加工技術の組み合わせによる FBR 熱交換 器伝熱管検査補修技術の高度化に関する技術開発」の 概要である。関連各位に厚く御礼申し上げます。参考文献 [1] 西村昭彦、峰原英介、塚田隆、“ステンレス鋼表面の超短パルスレーザー光を用いた応力除去法”、特開 2005-131704. 「21 岡潔、エネルギーレビュー、7月号, 2007, pp.7-10. [3] 科学技術振興機構報第394号, 平成19年4月19日,(http://www.jst.go.jp/pr/info/info394/index.html) [4] A. Nishimura, et. al, “High energy flashlamp pumpedTi-sapphire laser for Yb:glass CPA”, SPIE - Proceedings, Vol.3265, 1998, pp. 234-241142
“ “伝熱管内壁検査補修技術開発の概要“ “西村 昭彦,Akihiko NISHIMURA,岡 潔,Kiyoshi OKA,山口 智彦,Toshihiko YAMAGUCHI,山下 卓哉,Takuya YAMASHITA,田川 明広,Akihiro TAGAWA,ミハラケ オビデウ,Ovidiu MIHALACHE,島田 幸洋,Ukihiro SHIMADA
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