原子力発電所基礎ボルトの超音波による健全性評価
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カテゴリ: 第5回
.緒言
原子力発電プラントにおける基礎ボルトの健全性評 価方法として、超音波による手法について報告する。 基礎ボルトは、片側または両側の先端部を除いて、ほ とんどの部分がコンクリート等に埋設されているため 建全性を評価するための体積検査手法として超音波検 査が適用されており、その中でも、縦波垂直探傷法が 広く用いられている。一方、原子炉再循環系配管や炉内機器の検査におい てフェーズドアレイ法とよばれる新しい手法の適用が 進んでいる。フェーズドアレイ法とは、複数個の素子 から構成されるアレイ探触子に対して、各素子で送信 または受信するタイミングを電気的に制御することで 1つの探触子で複数方向に伝播する集束超音波を利用 することが可能な技術であり、高速・高精度な検査手 去として期待されている。本報告では、従来の縦波垂直探傷法及びフェーズド アレイ法1123(セクタ走査)に加えて、フェーズドアレ イ法を3次元に拡張した3次元超音波探傷法(3Dフ ェーズドアレイ法)により、原子力発電用基礎ボルト の健全性評価試験を行った結果について報告する。
2. 試験体及び試験方法 2.1 基礎ボルト模擬試験体本試験で用いた基礎ボルト試験体の外観を図1に示 す。試験体として、直径24mm、48mm、54mm の3種 類を準備した。材質はいずれも炭素鋼(SS400)である。 模擬欠陥の付与位置として、応力が集中するネジ部谷 側を想定し、放電加工(EDM) スリットを付与した。 EDM スリットの深さは、JEAG4207-2004 を参考に、 3.2mm、1.6mm とした。試験体に付与したスリットの 例を図2に示す。500mm(a) Photographs of Test Bolts100mm(b) Enlarged View (M56, M48, M24)Fig. 1 Test anchor bolts152Notches (Depth:1.6mm)Fig.2 Test bolts with EDM notch2.2 試験方法超音波探触子を基礎ボルトの頭部に設置し、探傷を 行うものとする。探傷範囲は、図 3 (a) に示すように、 探触子設置位置に対して手前側と反対側のネジ部の両 方とし、EDM スリットからの反射信号の有無に注目し て、基礎ボルトの健全性を評価する。超音波探触子の設置位置及び走査方法の模式図を図 3 (6) 及び図 3 (c) に示す。縦波垂直探傷法では垂直探触 子を走査させて探傷を行い、フェーズドアレイ法では、 アレイ探触子の位置を固定して超音波の送受信方向を 電子的に走査(セクタ走査)させることで広範囲の探 傷を一度に行う。この電子的走査により、探傷結果を 2次元画像として得ることが可能となる。さらに3Dフェーズドアレイ法では、セクタ走査と 回転走査を組み合わせることで、探傷範囲全体を高速 に探傷することが可能となる(図4参照)。 なお、今回の試験では、ボルトの底面(探触子設置面 と反対側の面)からのエコーが表示器 80%になる感度 を基準感度とし、それを増幅して探傷感度とした。た だし、フェーズドアレイ法については当該部位の探傷 に関する規格がないため、EDM スリットからのエコー が得られるように探傷感度を設定した。EDM NotchUltrasonic ProbeEDM NotchInspection Region (2)Inspection Region (1)(a) Inspection RegionNormal ProbeArray ProbeScan16Scan(b) Longitudinal Normal Beam(c) Phased Array (2D and 3D)Fig.3 Inspection region and beam scanningRotational Scan Matrix Array ProbeSectorial ScanFig.4 3D phased array method3.試験結果- 3.1 波垂直探傷法全ての基礎ボルト試験体に対して、深さ1.6mm及び 3.2mmのEDMスリットを検出することができた。 1探傷例として、5MHzの縦波垂直探触子によるM24の 基礎ボルトの探傷波形(Aスキャン)を図5に示す。M24の基礎ボルト試験体は、図5(a)に示すように、位 置A側に深さ1.6mm、位置B側に深さ3.2mmのEDMスリ ットがそれぞれ付与されている。図5(b)は、探触子を位置Aに設置した場合の波形であ る。探傷感度を基準感度+0dBに設定し、探触子に近い 位置のEDMスリット(i)(深さ1.6mm)を表示器25%で 検出することができた。また、図5(c)は位置Bに探触子を設置したときの探傷結果である。探傷感度を基準感 一度+12dBに設定し、探触子と反対側に位置するEDMス リット(i)を表示器12%で検出することができた。なお、探触子設置面と反対側のスリットからのエコ ーの後方にいくつかの信号が観察される。これらの多 重信号は、ボルト側面での反射によって生じたモード 変換に起因する遅れエコーと考えられる。EDM Notch (i) (Depth: 1.6mm)EDM Notch (ii) (Depth: 3.2mm)Position APosition B(a) Position and Depth of Notches8*Bottom Echo150Bottom Echo (1)50Allhouturn 100. 10.03000al AAAAAlharunne 60. 0 00.0 750.01200400008001000円(b) Signal at Position A(c) Signal at Position BFig.5 Results of longitudinal normal beam (M24 bolt)1533.2 フェーズドアレイ法(セクタ走査)縦波垂直探傷法と同様に、全ての基礎ボルト試験体 に対して、深さ1.6mm及び3.2mmのEDMスリットを検 出することができた。探傷結果例として、図6に、周波数5MHzのアレイ探 触子を用いてM24の基礎ボルト(EDMスリット(i) : 深 さ1.6mm)を探傷した結果を示す。健全部の場合と比 較すると、EDMスリットのエコーを明瞭に検出してい ることが分かる。また、波形のみの結果(Aスキャン)と比較して、セ クタ走査による探傷画像では、ネジ部の形状が映像化 され、EDMスリットの有無及び位置の識別が容易であ ることが分かる。CHNOCH-33A-1400““V-1(a) Results of Bolt with Notch (i)[%]CHNO CH-30 SEA 1-1400(b) Results of Bolt without NotchesFig.6 Results of phased array method (M24 bolt)3.3 3Dフェーズドアレイ法 - 全ての基礎ボルト試験体に対して、深さ1.6mm及び 3.2mmのEDMスリットを検出することができた。3次元超音波探傷の例として、図7に、256素子マトリ クスアレイ(5MHz)を用いてM24の基礎ボルト (EDM スリット(ii) : 深さ3.2mm)を探傷した結果を示す。3次元画像により、探傷範囲全体にわたって、健全 部とスリット部を識別できるため、迅速な健全性評価 が可能である。また、3次元画像から切り出した断面 図(Cスキャン)により、EDMスリットの周方向の位 置を判定することが可能である。3D ViewScrewCross Sectional ViewA-A (No Notches)B -B(Notch (ii))NotchFig. 7 Results of 3D phased array method (M24 bolt)4.結言寸法の異なる3種類の基礎ボルト試験体(M24, M48, M56)に対して、深さ 1.6mm 及び 3.2mm の EDM スリットを付与して、超音波探傷法によりボルトの健 全性を評価した。 ・縦波垂直探傷法、フェーズドアレイ法(セクタ走 査)、3Dフェーズドアレイ法のいずれの手法に おいても、全ての EDM スリットを検出できた。 ・フェーズドアレイ法による探傷法では、探傷結果 が画像化されるため、ネジ部(健全部)とスリッ ト部の識別や、スリットの付与位置の判断が容易 である。 ・3Dフェーズドアレイ法では、広範囲を一度に映 像化するため、探傷範囲全体を迅速に評価するこ とができる。参考文献[1] 木村康司,“締付けボルト超音波フェイズドアレ イ探傷について”,日本非破壊検査協会 超音波分科会,NDI 資料 No. 21787, pp. 1-4, Nov. 2007 [2] 城下悟, “超音波探傷試験による基礎ボルトの腐 食検査に関する検討”, 日本非破壊検査協会 平成20年春季大会講演概要集, pp. 163-164, May 2008 [3] 電気技術指針原子力編「輕水型原子力発電所用機 器の供用期間中検査における超音波探傷試験指針」 JEAG4207-2004 (社) 日本電気協会 原子力専門部会154
“ “原子力発電所基礎ボルトの超音波による健全性評価“ “河野 尚幸,Naoyuki KONO,馬場 淳史,Atsushi BABA,篠原 悟史,Satoshi SHINOHARA,小平 小治郎,Kojirou KODAIRA,黒崎 裕一,Yuuichi KUROSAKI
原子力発電プラントにおける基礎ボルトの健全性評 価方法として、超音波による手法について報告する。 基礎ボルトは、片側または両側の先端部を除いて、ほ とんどの部分がコンクリート等に埋設されているため 建全性を評価するための体積検査手法として超音波検 査が適用されており、その中でも、縦波垂直探傷法が 広く用いられている。一方、原子炉再循環系配管や炉内機器の検査におい てフェーズドアレイ法とよばれる新しい手法の適用が 進んでいる。フェーズドアレイ法とは、複数個の素子 から構成されるアレイ探触子に対して、各素子で送信 または受信するタイミングを電気的に制御することで 1つの探触子で複数方向に伝播する集束超音波を利用 することが可能な技術であり、高速・高精度な検査手 去として期待されている。本報告では、従来の縦波垂直探傷法及びフェーズド アレイ法1123(セクタ走査)に加えて、フェーズドアレ イ法を3次元に拡張した3次元超音波探傷法(3Dフ ェーズドアレイ法)により、原子力発電用基礎ボルト の健全性評価試験を行った結果について報告する。
2. 試験体及び試験方法 2.1 基礎ボルト模擬試験体本試験で用いた基礎ボルト試験体の外観を図1に示 す。試験体として、直径24mm、48mm、54mm の3種 類を準備した。材質はいずれも炭素鋼(SS400)である。 模擬欠陥の付与位置として、応力が集中するネジ部谷 側を想定し、放電加工(EDM) スリットを付与した。 EDM スリットの深さは、JEAG4207-2004 を参考に、 3.2mm、1.6mm とした。試験体に付与したスリットの 例を図2に示す。500mm(a) Photographs of Test Bolts100mm(b) Enlarged View (M56, M48, M24)Fig. 1 Test anchor bolts152Notches (Depth:1.6mm)Fig.2 Test bolts with EDM notch2.2 試験方法超音波探触子を基礎ボルトの頭部に設置し、探傷を 行うものとする。探傷範囲は、図 3 (a) に示すように、 探触子設置位置に対して手前側と反対側のネジ部の両 方とし、EDM スリットからの反射信号の有無に注目し て、基礎ボルトの健全性を評価する。超音波探触子の設置位置及び走査方法の模式図を図 3 (6) 及び図 3 (c) に示す。縦波垂直探傷法では垂直探触 子を走査させて探傷を行い、フェーズドアレイ法では、 アレイ探触子の位置を固定して超音波の送受信方向を 電子的に走査(セクタ走査)させることで広範囲の探 傷を一度に行う。この電子的走査により、探傷結果を 2次元画像として得ることが可能となる。さらに3Dフェーズドアレイ法では、セクタ走査と 回転走査を組み合わせることで、探傷範囲全体を高速 に探傷することが可能となる(図4参照)。 なお、今回の試験では、ボルトの底面(探触子設置面 と反対側の面)からのエコーが表示器 80%になる感度 を基準感度とし、それを増幅して探傷感度とした。た だし、フェーズドアレイ法については当該部位の探傷 に関する規格がないため、EDM スリットからのエコー が得られるように探傷感度を設定した。EDM NotchUltrasonic ProbeEDM NotchInspection Region (2)Inspection Region (1)(a) Inspection RegionNormal ProbeArray ProbeScan16Scan(b) Longitudinal Normal Beam(c) Phased Array (2D and 3D)Fig.3 Inspection region and beam scanningRotational Scan Matrix Array ProbeSectorial ScanFig.4 3D phased array method3.試験結果- 3.1 波垂直探傷法全ての基礎ボルト試験体に対して、深さ1.6mm及び 3.2mmのEDMスリットを検出することができた。 1探傷例として、5MHzの縦波垂直探触子によるM24の 基礎ボルトの探傷波形(Aスキャン)を図5に示す。M24の基礎ボルト試験体は、図5(a)に示すように、位 置A側に深さ1.6mm、位置B側に深さ3.2mmのEDMスリ ットがそれぞれ付与されている。図5(b)は、探触子を位置Aに設置した場合の波形であ る。探傷感度を基準感度+0dBに設定し、探触子に近い 位置のEDMスリット(i)(深さ1.6mm)を表示器25%で 検出することができた。また、図5(c)は位置Bに探触子を設置したときの探傷結果である。探傷感度を基準感 一度+12dBに設定し、探触子と反対側に位置するEDMス リット(i)を表示器12%で検出することができた。なお、探触子設置面と反対側のスリットからのエコ ーの後方にいくつかの信号が観察される。これらの多 重信号は、ボルト側面での反射によって生じたモード 変換に起因する遅れエコーと考えられる。EDM Notch (i) (Depth: 1.6mm)EDM Notch (ii) (Depth: 3.2mm)Position APosition B(a) Position and Depth of Notches8*Bottom Echo150Bottom Echo (1)50Allhouturn 100. 10.03000al AAAAAlharunne 60. 0 00.0 750.01200400008001000円(b) Signal at Position A(c) Signal at Position BFig.5 Results of longitudinal normal beam (M24 bolt)1533.2 フェーズドアレイ法(セクタ走査)縦波垂直探傷法と同様に、全ての基礎ボルト試験体 に対して、深さ1.6mm及び3.2mmのEDMスリットを検 出することができた。探傷結果例として、図6に、周波数5MHzのアレイ探 触子を用いてM24の基礎ボルト(EDMスリット(i) : 深 さ1.6mm)を探傷した結果を示す。健全部の場合と比 較すると、EDMスリットのエコーを明瞭に検出してい ることが分かる。また、波形のみの結果(Aスキャン)と比較して、セ クタ走査による探傷画像では、ネジ部の形状が映像化 され、EDMスリットの有無及び位置の識別が容易であ ることが分かる。CHNOCH-33A-1400““V-1(a) Results of Bolt with Notch (i)[%]CHNO CH-30 SEA 1-1400(b) Results of Bolt without NotchesFig.6 Results of phased array method (M24 bolt)3.3 3Dフェーズドアレイ法 - 全ての基礎ボルト試験体に対して、深さ1.6mm及び 3.2mmのEDMスリットを検出することができた。3次元超音波探傷の例として、図7に、256素子マトリ クスアレイ(5MHz)を用いてM24の基礎ボルト (EDM スリット(ii) : 深さ3.2mm)を探傷した結果を示す。3次元画像により、探傷範囲全体にわたって、健全 部とスリット部を識別できるため、迅速な健全性評価 が可能である。また、3次元画像から切り出した断面 図(Cスキャン)により、EDMスリットの周方向の位 置を判定することが可能である。3D ViewScrewCross Sectional ViewA-A (No Notches)B -B(Notch (ii))NotchFig. 7 Results of 3D phased array method (M24 bolt)4.結言寸法の異なる3種類の基礎ボルト試験体(M24, M48, M56)に対して、深さ 1.6mm 及び 3.2mm の EDM スリットを付与して、超音波探傷法によりボルトの健 全性を評価した。 ・縦波垂直探傷法、フェーズドアレイ法(セクタ走 査)、3Dフェーズドアレイ法のいずれの手法に おいても、全ての EDM スリットを検出できた。 ・フェーズドアレイ法による探傷法では、探傷結果 が画像化されるため、ネジ部(健全部)とスリッ ト部の識別や、スリットの付与位置の判断が容易 である。 ・3Dフェーズドアレイ法では、広範囲を一度に映 像化するため、探傷範囲全体を迅速に評価するこ とができる。参考文献[1] 木村康司,“締付けボルト超音波フェイズドアレ イ探傷について”,日本非破壊検査協会 超音波分科会,NDI 資料 No. 21787, pp. 1-4, Nov. 2007 [2] 城下悟, “超音波探傷試験による基礎ボルトの腐 食検査に関する検討”, 日本非破壊検査協会 平成20年春季大会講演概要集, pp. 163-164, May 2008 [3] 電気技術指針原子力編「輕水型原子力発電所用機 器の供用期間中検査における超音波探傷試験指針」 JEAG4207-2004 (社) 日本電気協会 原子力専門部会154
“ “原子力発電所基礎ボルトの超音波による健全性評価“ “河野 尚幸,Naoyuki KONO,馬場 淳史,Atsushi BABA,篠原 悟史,Satoshi SHINOHARA,小平 小治郎,Kojirou KODAIRA,黒崎 裕一,Yuuichi KUROSAKI