電流制御型リモートフィールド渦電流探傷法の検討
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
リモートフィールド渦電流探傷法は通常管材の 壁面探傷に用いられる電磁非破壊検査技術であり、 通常の渦電流探傷法と同じく、交流磁場によって 管壁に渦電流を誘導し、きずの存在による渦電流 の乱れを検出することを基本的な原理としている。 特徴的であるのは、管外部を伝播する磁束が支配 的となる、ある程度励磁源より離れた領域にて信 号を検出することであり、これにより管の内壁面、 外壁面に発生したきずをほぼ同感度で検出するこ とが可能となる[1]。非破壊検査技術という観点からは、きずの検出 のみならず、得られた探傷信号からのきずの評価 が行えることが望ましいのだが、通常の渦電流探 傷に関する数多いきず評価技術研究報告[2][3]と 比較し、リモートフィールド渦電流探傷法におけ るきず評価技術に関する研究報告の数は非常に少 ない。その理由として、得られる信号が微弱であ ること、また低周波が用いられるためきずの評価 において特に重要となる位相情報が得られづらい ということが挙げられる[4]。また、数値解析技術 の援用に関しても特に3次元的なきずに対しては 十分な解析精度が得られないという問題がある[3]。近年、著者らは通常の渦電流探傷法において、 導体内部に誘導される渦電流の分布を制御しつつ 試験を行うことで、探傷信号に含まれる情報を飛 躍的に増大される新たな技術を開発した[5][6]。こ の技術は従来の検査装置がそのまま適用できる、 明瞭な信号変化を確認できる、また表皮深さの制 約が小さいなどの特徴を備えており、現在応力腐 食割れや疲労割れなどの実きずに対する検証試験 が進められている。本技術の原理自体は交流電流 を利用するあらゆる非破壊検査技術に適用可能な ものであり、よってリモートフィールド渦電流探 傷法に対して本技術を適用することで、リモート フィールド渦電流探傷法のきず評価能を向上させ ることが可能となるものと期待される。本稿においては、この電流制御技術のリモート フィールド渦電流探傷法に対して適用を検討した 結果について報告する。検討は軸対象2次元有限 要素法コードを用いた数値シミュレーションによ って実施し、従来の信号振幅を用いたきず評価法 に対する有効性を評価する。
2. 電流制御型リモートフィールド渦電流
探傷法 電流制御型渦電流探傷法とは、同一周波数かつ 深さ方向の浸透の度合いが異なる渦電流分布を重 ね合わせることにより、表層部と深部とで流れる 渦電流の位相が180度異なっており、かつ深さ 方向の減衰の様子が指数関数的とはならない渦電 流分布を形成することをその基本原理としている。 さらに、電流の重ね合わせの比を変化させること で、電流の位相が急変する深さを制御することが 可能となるため、信号重ね合わせ比と探傷信号の 位相角との関係から、明瞭な信号変化をもってき ず深さを評価することが可能となるというもので ある[5][6]。本研究においてはこのような電流制御 技術のリモートフィールド渦電流探傷法に対する 適用について、数値解析により検証を行うこととする。解析体系を Fig. 1に示す。壁面厚さ約3.3mm の磁性配管をリモートフィールド渦電流探傷法を 用いて探傷したことを想定しており、配管の電磁 気的特性は、導電率が3.5MS/m、比透磁率は1 10と設定した。プローブは1体の励磁コイルと、 3mm間隔で配置された2体の検出コイルからな るものであり[7]、励磁周波数は250Hz、検査対 象としては前周一様減肉を考慮し、その軸方向長 さは10mm、深さは10-70%管壁厚みとし た。 - 従来型のリモートフィールド渦電流探傷法にお いては、検出コイル1および検出コイル2の出力 信号をそれぞれ VI、V2とした場合、両者の差分値 である VT-V2 を傷信号として出力する。本電流制176御型リモートフィールド渦電流探傷法においては、 V」 と V2 を a:1- a の比で逆相に重ね合わせたVnew- a Vi-(1- a)V2 (1) を新たに計算し、aの値と Vnew の位相角変化の 様子よりきず深さ評価を行うことの可能性を評価する。
detector1 exciterdetector2 Fig. 1 Configuration of numerical simulations得られた解析結果を Fig. 2, 3 に示す。Fig. 2 は管 内壁面のきず、Fig.3 は外壁面のきずであるが、い ずれの場合も信号の重ね合わせ比の変化とともに 位相角の急変が確認でき、また位相角が急変する a の値をきず深さの間には有意な相関があること が確認できる。また、きずが管壁内面側、外面側 にあるかは信号の様子に大きな影響を与えていな いことも確認できる。3. 結言 - 対象物の内部に流れる電流分布を制御しつつ探 傷を行う電流制御型リモートフィールド渦電流探 傷法に関する検討を数値解析により実施した。解 析の結果、電流制御型渦電流探傷法と同じく、き ず深さに対応した位相角の急変が[5][6]得られる ことが確認された。今後きず長さなどの他のパラ メータの影響、および検証試験を実施する予定で ある。参考文献 [1] T.R. Schmidt, ““Remote field eddy current inspectiontechnique““. Materials Evaluation, Vol. 42, 1984, pp.225-230. [2] B.A. Auld and J.C. Moulder. ““Review of advancesin quantitative eddy current nondestructive evaluation““, Journal of Nondestructive Evaluation.Vol. 18, 1999, pp.3-36. [3] N. Yusa, ““Development of computational inversiontechniques to size cracks from eddy current signals““,Nondestructive Testing and Evaluation (to appear) [4] H. Fukutomi, T. Takagi, and M. Nishikawa. ““Remotefield eddy current technique applied to non-magnetic steam generator tubes““. NDT&Einternational, Vol. 34, 2001, pp. 17-23. [5] L. Janousek, N. Yusa, and K. Miya. ““Utilization oftwo-directional AC current distribution forenhancing sizing ability of electromagnetic nondestructive testing methods““. NDT&E international, Vol. 39, 2006, pp.542-546. 遊佐訓孝、Ladislav Janousek、宮健三、““導体内 部交流電流分布制御によるきず深さ定量的評価 の試み--実験的検証““, 非破壊検査、Vol. 55, 2006, pp.531-535. 0. Mihalache, T. Yamaguchi, M. Ueda, and T. Yamashita. ““Experimental confirmation of 3D numerical simulations of remote field signal from defects in magnetic steam generator tubes““. Review of Quantitative Nondestructive Evaluation, Vol. 25, pp. 391-398.こんなにあるかphase rotation (deg.)ID10%30% 50% 70%010.3 0.4 05_06_07 ratio of superpositioning0.89Fig. 2 Signals due to inner surface defects180160......phase rotation (deg.)一ID10%30% 50% 70%0 0. 1020304 0. 50.6 0.7 -0.8 0.910 ratio of superpositioning Fig. 3 Signals due to outer surface defects177
“ “電流制御型リモートフィールド渦電流探傷法の検討“ “遊佐 訓孝,Noritaka YUSA,宮 健三,Kenzo MIYA
リモートフィールド渦電流探傷法は通常管材の 壁面探傷に用いられる電磁非破壊検査技術であり、 通常の渦電流探傷法と同じく、交流磁場によって 管壁に渦電流を誘導し、きずの存在による渦電流 の乱れを検出することを基本的な原理としている。 特徴的であるのは、管外部を伝播する磁束が支配 的となる、ある程度励磁源より離れた領域にて信 号を検出することであり、これにより管の内壁面、 外壁面に発生したきずをほぼ同感度で検出するこ とが可能となる[1]。非破壊検査技術という観点からは、きずの検出 のみならず、得られた探傷信号からのきずの評価 が行えることが望ましいのだが、通常の渦電流探 傷に関する数多いきず評価技術研究報告[2][3]と 比較し、リモートフィールド渦電流探傷法におけ るきず評価技術に関する研究報告の数は非常に少 ない。その理由として、得られる信号が微弱であ ること、また低周波が用いられるためきずの評価 において特に重要となる位相情報が得られづらい ということが挙げられる[4]。また、数値解析技術 の援用に関しても特に3次元的なきずに対しては 十分な解析精度が得られないという問題がある[3]。近年、著者らは通常の渦電流探傷法において、 導体内部に誘導される渦電流の分布を制御しつつ 試験を行うことで、探傷信号に含まれる情報を飛 躍的に増大される新たな技術を開発した[5][6]。こ の技術は従来の検査装置がそのまま適用できる、 明瞭な信号変化を確認できる、また表皮深さの制 約が小さいなどの特徴を備えており、現在応力腐 食割れや疲労割れなどの実きずに対する検証試験 が進められている。本技術の原理自体は交流電流 を利用するあらゆる非破壊検査技術に適用可能な ものであり、よってリモートフィールド渦電流探 傷法に対して本技術を適用することで、リモート フィールド渦電流探傷法のきず評価能を向上させ ることが可能となるものと期待される。本稿においては、この電流制御技術のリモート フィールド渦電流探傷法に対して適用を検討した 結果について報告する。検討は軸対象2次元有限 要素法コードを用いた数値シミュレーションによ って実施し、従来の信号振幅を用いたきず評価法 に対する有効性を評価する。
2. 電流制御型リモートフィールド渦電流
探傷法 電流制御型渦電流探傷法とは、同一周波数かつ 深さ方向の浸透の度合いが異なる渦電流分布を重 ね合わせることにより、表層部と深部とで流れる 渦電流の位相が180度異なっており、かつ深さ 方向の減衰の様子が指数関数的とはならない渦電 流分布を形成することをその基本原理としている。 さらに、電流の重ね合わせの比を変化させること で、電流の位相が急変する深さを制御することが 可能となるため、信号重ね合わせ比と探傷信号の 位相角との関係から、明瞭な信号変化をもってき ず深さを評価することが可能となるというもので ある[5][6]。本研究においてはこのような電流制御 技術のリモートフィールド渦電流探傷法に対する 適用について、数値解析により検証を行うこととする。解析体系を Fig. 1に示す。壁面厚さ約3.3mm の磁性配管をリモートフィールド渦電流探傷法を 用いて探傷したことを想定しており、配管の電磁 気的特性は、導電率が3.5MS/m、比透磁率は1 10と設定した。プローブは1体の励磁コイルと、 3mm間隔で配置された2体の検出コイルからな るものであり[7]、励磁周波数は250Hz、検査対 象としては前周一様減肉を考慮し、その軸方向長 さは10mm、深さは10-70%管壁厚みとし た。 - 従来型のリモートフィールド渦電流探傷法にお いては、検出コイル1および検出コイル2の出力 信号をそれぞれ VI、V2とした場合、両者の差分値 である VT-V2 を傷信号として出力する。本電流制176御型リモートフィールド渦電流探傷法においては、 V」 と V2 を a:1- a の比で逆相に重ね合わせたVnew- a Vi-(1- a)V2 (1) を新たに計算し、aの値と Vnew の位相角変化の 様子よりきず深さ評価を行うことの可能性を評価する。
detector1 exciterdetector2 Fig. 1 Configuration of numerical simulations得られた解析結果を Fig. 2, 3 に示す。Fig. 2 は管 内壁面のきず、Fig.3 は外壁面のきずであるが、い ずれの場合も信号の重ね合わせ比の変化とともに 位相角の急変が確認でき、また位相角が急変する a の値をきず深さの間には有意な相関があること が確認できる。また、きずが管壁内面側、外面側 にあるかは信号の様子に大きな影響を与えていな いことも確認できる。3. 結言 - 対象物の内部に流れる電流分布を制御しつつ探 傷を行う電流制御型リモートフィールド渦電流探 傷法に関する検討を数値解析により実施した。解 析の結果、電流制御型渦電流探傷法と同じく、き ず深さに対応した位相角の急変が[5][6]得られる ことが確認された。今後きず長さなどの他のパラ メータの影響、および検証試験を実施する予定で ある。参考文献 [1] T.R. Schmidt, ““Remote field eddy current inspectiontechnique““. Materials Evaluation, Vol. 42, 1984, pp.225-230. [2] B.A. Auld and J.C. Moulder. ““Review of advancesin quantitative eddy current nondestructive evaluation““, Journal of Nondestructive Evaluation.Vol. 18, 1999, pp.3-36. [3] N. Yusa, ““Development of computational inversiontechniques to size cracks from eddy current signals““,Nondestructive Testing and Evaluation (to appear) [4] H. Fukutomi, T. Takagi, and M. Nishikawa. ““Remotefield eddy current technique applied to non-magnetic steam generator tubes““. NDT&Einternational, Vol. 34, 2001, pp. 17-23. [5] L. Janousek, N. Yusa, and K. Miya. ““Utilization oftwo-directional AC current distribution forenhancing sizing ability of electromagnetic nondestructive testing methods““. NDT&E international, Vol. 39, 2006, pp.542-546. 遊佐訓孝、Ladislav Janousek、宮健三、““導体内 部交流電流分布制御によるきず深さ定量的評価 の試み--実験的検証““, 非破壊検査、Vol. 55, 2006, pp.531-535. 0. Mihalache, T. Yamaguchi, M. Ueda, and T. Yamashita. ““Experimental confirmation of 3D numerical simulations of remote field signal from defects in magnetic steam generator tubes““. Review of Quantitative Nondestructive Evaluation, Vol. 25, pp. 391-398.こんなにあるかphase rotation (deg.)ID10%30% 50% 70%010.3 0.4 05_06_07 ratio of superpositioning0.89Fig. 2 Signals due to inner surface defects180160......phase rotation (deg.)一ID10%30% 50% 70%0 0. 1020304 0. 50.6 0.7 -0.8 0.910 ratio of superpositioning Fig. 3 Signals due to outer surface defects177
“ “電流制御型リモートフィールド渦電流探傷法の検討“ “遊佐 訓孝,Noritaka YUSA,宮 健三,Kenzo MIYA