リモートフィールド渦電流探傷法による配管外面欠陥検出の高感度化

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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
新型高速炉の蒸気発生器として、信頼性向上の観点 から組網線入り二重伝熱管構造が検討されている。本 構造の伝熱管は内管と外管から構成されており、両管 の間隙部には組網線が配置されている。組網線入り二 重伝熱管構造実用化ポイントのひとつは検査技術の確 立であり、特に外管外面の微小欠陥検出の感度向上が 課題となっている。外管の欠陥検査にはリモートフィ ールド渦電流探傷法(RF-ECT: Remote Field Eddy Current Testing)の適用が有力候補であり、更なる高感度 化が検討されている[1]。本開発では高感度化手法とし て、配管内表面における励磁コイル近傍の磁束密度を 高めることに着目し、励磁コイルに磁性体を配置する ことで、発生する磁場の方向を制御して磁束密度を高 めるプローブを考案した。ここでは、磁場解析による 磁性体形状設計と本手法の感度向上に対する効果を基 礎試験により検証したので報告する。
2. 高磁束密度化手法
Schmidt の報告[2]によると、Fig.1 に示すように、 RF-ECT での間接磁場形成には励磁コイル近傍で配管 周方向に誘起される渦電流が寄与する。また、安西ら のモデル[3]によると間接磁場は式(1)で表される。
Indirect fieldCircumferential eddy currentDirect fieldExciter coilDetector coil Fig. 1 Principle of RF-ECTHach = c(1 + c)““ H ここで、nは配管軸方向の領域分割数、Hicnは領域 nに おいて直接磁場が誘起する渦電流による間接磁場、c は領域nにおいて直接磁場から間接磁場が生じる比率、 Hoは励磁コイルが存在する領域 0 における直接磁場で ある。式(1)から、高感度化として間接磁場強度を高め るためには比率cと励磁コイル近傍の直接磁場強度H。 を大きくすれば良いことがわかる。本開発では、まず Hを高めることとした。励磁電流を大きくすることは コイルサイズを大型化するため、他の手法を検討した。 考案した手法を Fig.2 に示す。励磁コイルの両底面に円 形の磁性体を配置し、励磁コイルが発生する磁束を強 制的に制御する磁路(FG: Flux Guide)を形成する。励磁 コイルを構成する有限長ソレノイドは長岡係数に比例 して内部の磁束密度が低下するので、FG の適用により、 この低下分を抑制し、磁束密度を高めることができる。188Enhanced magnetic field ?Exciter coil -Magnetic material(Flux guide)Magnetic field linesNormalized magnetic flux density (-)Method for high magnetic field intensityFig. 23. 磁場解析による設計* まず、FG 有無の条件で高磁束密度化に対する効果の 確認を行った。FG の材質は炭素鋼とした。また、厚さ に関しては、試験時に磁気飽和することを避け、飽和 磁束密度の 35%で動作する条件である 0.2mm とした。 解析での励磁周波数は 100Hz とした。以上の条件を Casel とする。励磁コイル近傍の磁場分布解析結果を Fig.3 に示す。 FG の適用により、励磁コイル軸方向(同図中のx軸: 左右方向)への磁場の広がりが抑制されるとともに、 励磁コイル内部および側面(同図中の励磁コイルの上 下側)の磁場が強められていることが確認できる。(mm)L 90 9| Flux guideExciter coil(a) Without flux guide(b) With flux guide Fig.3 Calculated magnetic field distribution* 励磁コイル近傍の磁束密度増加分を定量評価するた めに、Fig.3(a)に図示する励磁コイル側面から 3mm 離 れた位置でのx軸方向磁束密度分布を Fig.4 に示す。こ こで、x=0 は励磁コイル中央の位置とした。FG の適用 により、磁束密度分布はx軸に対してフラットトップ 形状となるとともに、その最大強度は 51%増加する結」 果が得られた。以上の結果から、FG の適用が高磁束密 度化に効果的であること予測した。-Without FG... Without FGWith FG-505 1 -10 -51 10Distance x (mm) ig.4 Calculated magnetic field density distributionFig.4次に、FG 適用による高磁束密度化の効果を高めるた めに、FG 形状の最適化を行った。Fig.3(b)によると、 励磁コイル両底面への FG の適用は励磁コイル内部の 磁場分布を一様にする。すなわち、励磁コイル中心部 分まで磁場が広がり、中心部分の強度が高くなる。励 磁コイル近傍の磁束密度を高めるためには、励磁コイ ル中心部分への磁場の広がりを抑制し、励磁コイル近 傍において閉じた磁場を形成することが好ましいと考 える。したがって、FG 形状最適化のために励磁コイル 内部に FG を配置することとした。また、励磁コイル 軸方向への磁場の広がりを更に抑制するために、励磁 コイル両底面に配置した FG の厚さを変化させること とした。解析モデルを Fig.5 に示す。励磁コイル内部の FG は 内部全体に配置した。励磁コイル両底面の FG は、励 磁コイルと FG とのギャップ長を一定とし、励磁コイ ル軸方向外面側に向かって厚さを 0.2mm、1mm、3mm、 6mm と変化させた。解析での励磁周波数は Casel と同 様に 100Hz とした。以上の条件を Case2 とする。3 とのギャップ長を一定とし、励磁コイ 側に向かって厚さを 0.2mm、1mm、3mm、 せた。解析での励磁周波数は Casel と同 した。以上の条件を Case2 とする。6mm3mm|Flux guideExciter coil0.2, 1, 3, 6mm平木Fig.5Analytical model-189本解析では、Fig.5 に図示する励磁コイル側面から 3mm および6mm 離れた軸上の最大磁束密度を調べた。 励磁コイル両底面に配置した FG の厚さに対する最大 磁束密度変化の解析結果を Fig.6 に示す。励磁コイル側 面から 3mm 離れた軸上に着目すると、励磁コイル内部 に FG を配置することで、最大磁束密度は、FG 無しの 場合と比較して約 170%増加することを確認し、その効 果の大きいことがわかった。また、励磁コイル両底面 の FG を厚くすると、最大磁束密度は飽和をともなう 増加傾向を示すことを確認した。FG の厚さ変化による 最大磁束密度の増加量は、例えば厚さを 3mm とした場 合、FG 無しの場合と比較して約 250%増加する結果が 得られた。検査対象となる配管の肉厚が厚くなった場 合を考慮して、励磁コイル側面から6mm 離れた軸上に も着目したが、その最大磁束密度の変化は 3mm 離れた 軸上の場合と同様の傾向を示した。・・・・・6mmNormalized magnetic flux density (-)10246Thickness of flux guide (mm) Fig.6 Calculated magnetic flux density for structural shape optimization of flux guide4. 試験方法磁場解析にて設計・予測を行った FG による高磁束 密度化の効果と高磁束密度化が RF-ECT の配管外面欠 陥検出の高感度化に対する効果を検証するために試験 を行った。試験は前述の Casel の条件で行うこととし、 試験項目としては、以下に記す3種類を FG 有無の条 件で実施した。まず、配管外部にて励磁コイル軸方向中央部で励磁 コイル側面から 3mm 離れた位置での磁束密度を測定 した。次に、励磁・検出コイルを欠陥の無い配管試験体 (Table 1)内に挿入し、励磁コイル電流を一定とした条件 で励磁・検出コイル間距離を 12mm から 100mm まで 5mm 刻みで変化させながら検出コイルに誘導される 電圧を測定した。最後に、励磁・検出コイル間距離を一定としたプロ ーブを、旋盤加工にて作成した人工欠陥(Table 1)付きの 配管試験体内に挿入し、一定速度で走査させながら欠 陥検出信号を測定した。 - 以上の3種類の試験は全て励磁周波数を 100Hz とし て行った。TubeTablelSpecification of specimenTubeMaterial Outer diameter Inner diameter Thickness Length Width DepthCarbon steel 30 mm 25 mm 2.5mm600mmArtificial defect1 mm 20% of tube thickness 27 rad of tube circumferenceLength5. 試験結果FGの適用により励磁コイル側面の磁束密度が 1.45 × 10-2Tから 2.3× 10-5Tに 59%増加した。この試験結果は 磁場解析による予測結果と良く一致しており、本磁場 解析の妥当性とFGの適用が高磁束密度化に効果的で あることが確認できた。配管内部軸方向磁場分布の測定結果をFig.7 に示す。 励磁コイルから離れた位置(励磁・検出コイル間距離 が 12mmから 45mm程度の間)での直接磁場成分はFG の適用により低下した。これはFGがシールド板として 作用したためであると考える[4][5][6]。安西らのモデル [3]をベースに考察すると、この直接磁場成分の低下は 間接磁場成分を同図中規格化振幅で約 1.4×10まで低 下させることになる。しかし、実測値は約4×104であ った。これは、励磁コイル近傍で強められた直接磁場 に起因する間接磁場成分が、間接磁場全体の低下分を 補足しているためであると考える。この結果から、励 磁コイル近傍で強められた直接磁場が間接磁場の形成 に効果的に作用しているものと考える。1901ローカロ・・・・・ロー...0.1..... Measured line (Without flux guide)Measured line (With flux guide)Estimated line (Without flux guide)-------- Estimated line (With flux guide) 9 Decrease of direct field..0.010.00110Increase of indirect field 3by enhanced magnetic field 1.E-04 1204060180100 Distance between exciter and detector coils (mm) * 欠陥検出試験で得た検出信号を Fig.8 に示す。FC 適用により明確な欠陥検出信号を確認した。これ り、励磁コイル側面近傍の高磁束密度化が RF-EC1 ローブの高感度化に効果的であることを検証した。 長 18-03Increase of indirect fieldby enhanced magnetic field 1.E-04 120406080Distance between exciter and detector coils (mm)NormFig. 7Measured magnetic field distribution inside tube欠陥検出試験で得た検出信号を Fig.8 に示す。FG の 適用により明確な欠陥検出信号を確認した。これによ り、励磁コイル側面近傍の高磁束密度化が RF-ECTプ ローブの高感度化に効果的であることを検証した。参考文献 [1] O. Mihalache, Y. Imai, M. Ueda and T. Yamashita,“Finite element simulations of the remote field eddy current signal in steam generator tubes of Monju fast breeder reactor”, 2004 ASME/JSME Pressure Vessels and Piping Conference, July 25-29, San Diego,California, Vol. PVP-484, 2004, pp. 199-205. 1 [2] T. R. Schmidt, “The remote field eddy currentinspection technique” , Materials Evaluation, Vol. 42,No. 2, 1984, pp. 225-230.. [3] 安西道生, 大塚祐介,西川雅弘,“リモートフィー [3]ルド領域における磁場のモデル化と欠陥検出のメ カニズム”, 日本 AEM学会誌, Vol. 13, No. 2, 2005,pp. 163-171. [4] D. L. Atherton, W. Czura and T. R. Schmidt,“Finite-element calculations for shields in remote-field eddy current tools” , Materials Evaluation, Vol. 47, No.9, 1989, pp. 1084-1088. [5] 小山潔, 星川洋,藤井徹,“リモートフィールド渦流試験における磁気シールドを用いた探傷プロー ブの検討”,非破壊検査, Vol. 45, No. 1, 1996, pp.52-60. [6] 安西道生, 安岡創, 磯部倫郎, 西川雅弘, “シールド型リモートフィールド探傷プローブの検討”, 日本 AEM学会誌, Vol. 9, No.3, 2001, pp. 336-342.. Without flux guide ------- With flux guideVoltage (V)50200100 1 150Distance (mm) Measured defect detection signalFig.8Without flux guide ------ With flux guide50100150200に、励磁コイルに FG を適用することで磁場方向を制 御して励磁コイル側面近傍の磁束密度を高める手法を 考案した。磁場解析による FG の最適化設計を実施し た結果、励磁コイル内部にフラックスガイドを配置し、 励磁コイル両底面に配置したフラックスガイドの厚さ。 を適切に選定することが重要であることを確認した。 FG による高磁束密度化の効果と高磁束密度化による RF-ECT の配管外面欠陥検出の高感度化に対する効果 を検証するために試験を行った結果、励磁コイル両底 面へのフラックスガイドの適用により、励磁コイル側面近傍の磁束密度が磁場解析での予測通り向上するこ とを確認した。また、励磁コイル側面近傍の磁束密度 向上が間接磁場の形成に効果的に作用し、RF-ECT プ 面近傍の磁束密度が磁場解析での予測通り向上するこ とを確認した。また、励磁コイル側面近傍の磁束密度 向上が間接磁場の形成に効果的に作用し、RF-ECT プ ローブの高感度化に有効であることを検証した。今後は探傷性能向上に向けた詳細試験を実施する。 0. Mihalache, Y. Imai, M. Ueda and T. Yamashita, “Finite element simulations of the remote field eddy current signal in steam generator tubes of Monju fast breeder reactor”, 2004 ASME/JSME Pressure Vessels and Piping Conference, July 25-29, San Diego, California, Vol. PVP-484, 2004, pp. 199-205. T. R. Schmidt, “The remote field eddy current inspection technique” , Materials Evaluation, Vol. 42, No. 2, 1984, pp. 225-230. . 安西道生, 大塚祐介,西川雅弘,“リモートフィー ルド領域における磁場のモデル化と欠陥検出のメ カニズム”, 日本 AEM 学会誌, Vol. 13, No. 2, 2005, pp. 163-171. D. L. Atherton, W. Czura and T. R. Schmidt, “Finite-element calculations for shields in remote-field eddy current tools” , Materials Evaluation, Vol. 47, No. 9, 1989, pp. 1084-1088. . 小山潔, 星川洋,藤井徹,“リモートフィールド渦流試験における磁気シールドを用いた探傷プロー ブの検討”, 非破壊検査, Vol. 45, No. 1, 1996, pp. 52-60. 1 安西道生, 安岡創,磯部倫郎,西川雅弘,“シールド型リモートフィールド探傷プローブの検討”, 日本 AEM 学会誌, Vol. 9, No.3, 2001, pp.336-342.面近傍の磁束密度が磁場解析での予測通り向上するこ とを確認した。また、励磁コイル側面近傍の磁束密度 向上が間接磁場の形成に効果的に作用し、RF-ECT プ ローブの高感度化に有効であることを検証した。 今後は探傷性能向上に向けた詳細試験を実施する。参考文献[1] O. Mihalache, Y. Imai, M. Ueda and T. Yamashita,“Finite element simulations of the remote field eddy current signal in steam generator tubes of Monju fast breeder reactor““, 2004 ASME/JSME Pressure Vessels and Piping Conference, July 25-29, San Diego,California, Vol. PVP-484, 2004, pp. 199-205. [2] T. R. Schmidt, “The remote field eddy currentinspection technique” , Materials Evaluation, Vol. 42,No. 2, 1984, pp. 225-230. [3] 安西道生, 大塚祐介,西川雅弘,“リモートフィールド領域における磁場のモデル化と欠陥検出のメ カニズム”, 日本 AEM 学会誌, Vol. 13, No. 2, 2005,pp. 163-171. [4] D. L. Atherton, W. Czura and T. R. Schmidt,““Finite-element calculations for shields in remote-field eddy current tools” , Materials Evaluation, Vol. 47, No.9, 1989, pp. 1084-1088. [5] 小山潔,星川洋,藤井徹,“リモートフィールド渦流試験における磁気シールドを用いた探傷プロー ブの検討”,非破壊検査, Vol. 45, No. 1, 1996, pp.52-60. [6] 安西道生, 安岡創, 磯部倫郎, 西川雅弘, “シールド型リモートフィールド探傷プローブの検討”, 日本 AEM学会誌, Vol. 9, No. 3, 2001, pp. 336-342.- 191 -
“ “?リモートフィールド渦電流探傷法による配管外面欠陥検出の高感度化“ “小林 徳康,Noriyasu KOBAYASHI,長井 敏,Satoshi NAGAI,落合 誠,Makoto OCHIAI,神保 昇,Noboru JIMBO,小舞 正文,Masafumi KOMAI
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