レーザ外面照射応力改善法による残留応力低減法
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カテゴリ: 第5回
1. 序論
加圧器管台 (スプレイ用 安全弁・逃がし弁用)加圧器管 (サージ用)原子力プラントや火力プラントの配管溶接部では、 応力腐食割れ(SCC)が損傷モードとして考えられる。応 力腐食割れは、材料、環境(水質,温度など)、及び引 張応力が重畳する部位で発生する。運転中のプラント で使用中の配管に対しては、材料と環境を改善するこ とが難しいので、引張残留応力を改善する方法が対策 として用いられている。引張残留応力を改善する方法として、ショットピー ニングに代表される各種のピーニングがある。一方、 配管溶接部へピーニングを施工するためには、内面へ 直接アクセスし、施工する必要があるが、内面へのア クセスが困難な場合が多い。そこで,配管の外面から レーザ光を照射して、管内面の残留応力を改善する「レセーフエンド、 (ステンレス)溶接金属 (ニッケルクロム鉄合金)管台 (低合金鋼)サーマルスリーブ - (ステンレス)異材溶接部例配管溶接部へピーニングを施工するためには、内面へ 直接アクセスし、施工する必要があるが、内面へのア クセスが困難な場合が多い。そこで,配管の外面が レーザ光を照射して, 管内面の残留応力を改善する2.原理配管溶接部配管 (ステンレス)レール博多溶接金属 (ステンレス】配管溶接部図1 L-SIP の適用対象想定部位- レーザ光を配管外面に照射すると,図2に示すよう に外面の温度が上昇する。移動させながらレーザを照 射することにより、内面の温度上昇を抑制することが できるため、内外面に温度差が生じる。この時、内外 面の熱膨張差により、外面には圧縮応力、内面には引 連絡先:上田剛史、〒652-8585 神戸市兵庫区和田崎 町 1-1-1、三菱重工業(株)神戸造船所 原子力保全技 “レーサビを配官面に油HG 572,^円とに小 9 に外面の温度が上昇する。移動させながらレーザを照 射することにより、内面の温度上昇を抑制することが できるため、内外面に温度差が生じる。この時、内外 面の熱膨張差により、外面には圧縮応力、内面には引 連絡先:上田剛史、〒652-8585 神戸市兵庫区和田崎 町 1-1-1、三菱重工業(株)神戸造船所 原子力保全技 術部技術課、電話 : 078-672-3541 、e-mail; takeshi_ueda@mhi.co.jp - 219 -張応力が発生することで、材料の内外面で塑性変形が 発生する。その後、レーザ照射が完了し、冷却され、 内外面の温度差が無くなった時点で,加熱時に引張の 塑性変形を受けた内面側には圧縮応力が生じ,残留応 力を改善できる。本工法は,鋼管の周上をレーザ光照 射領域することにより,全周の残留応力を改善する工 法である。尚、L-SIP 施工にあたっての外表面加熱温度は、材料 健全性の影響を考慮し、表1の通りに制約を設けてい る。材料に対しては、熱影響を与えないことを前提と して技術開発を実施した。また、内外面の温度差を適 正に確保する観点から、外面の昇温速度にも制約が設 けられている。 1. 本技術は、出力密度の高いレーザを加熱に用いるた め、原理的には管内面の水冷の有無に関わらず、残留 応力の改善が可能である。
レーザ発振器外面温度内面溶接部図 2(a) レーザ外面照射応力改善法の模式図面応力分布温度分布レーザ照射 外面外面降伏レザ射 |照時降伏 内面 | 圧縮応力引張応力面 | 面温度外面冷後内面内面 温度圧縮応力 引張応力 図 2(6) レーザ照射時及び冷却後の板厚内温度分布と応力分布の模式図表1 L-SIP 温度条件材質L-SIP 温度条件備考低合金鋼500°C以上 595°C未満」低合金鋼の変態点温度約 700°C以下ステンレス鋼550°C以上 650°C未満」再結晶温度 (900~950°C) 以下ニッケルクロム 鉄合金鋼」550°C以上 650°C未満再結晶温度(927~966°C) 以下3. 実機への適用L-SIP は日本原子力発電株式会社敦賀発電所 2 号機 の加圧器サージ管台(外径 390mm)の異材継手におい て初めて適用された[3]。異材継手は低合金鋼製の管台 とステンレス鋼製のセーフェンドをニッケルクロム鉄 合金(600 系合金)の溶接金属で溶接している。本施 工においては、管台が比較的大きいことから、内面を 水冷(溜め水)する施工法を採用した。 - 発電所における L-SIP 装置は以下の図3に示す構成 となっている。屋外にレーザ発振器を搭載したコンテ ナを設置し、300m のファイバで対象箇所のサージ管台 までレーザを供給する。サージ管台には駆動装置を取 り付け、光学ヘッドを搭載して管台周囲を回転できる 構造となっており、約 40 分かけて管台を1周して照射 を行う。 - サージ管台はレーザの吸収率を良くし均一化させる ため黒体を塗布し、温度監視用の熱電対を設置してい る。きアイサージ管台制御盤発電所レーザ発信器光学ヘッドと駆 動軸- 300m ファイバ図3 L-SIP 装置の構成L-SIP の適用においては、以下の作業を実施した。 1) 条件出し試験 - 事前に工場においてサージ管台モックアップで照 射試験を実施し、照射条件(出力、距離、光学ヘッ ド配列等)を検討した。(図4参照) 2) 施工前検査サージ管台外面より、実証試験による検出性の確 認されている超音波探傷試験[4]を、図5に示されて いる探傷ツールを用いて実施し、対象溶接部内面に 有意な指示が無いことを確認した。2204.結言3) ハーフ加熱実機管台に装置を設置後、レーザ出力を本加熱の 約 1/3~1/2 としてレーザ照射を施工し、モックアッ プと実機管台の温度挙動が同等であることを確認し た。 ハーフ加熱の結果を基に本加熱を実施した。本力 は1周目の照射の始端部の効果を確保するため、1)配管や管として、 した。3) ハーフ加熱4.結言 実機管台に装置を設置後、レーザ出力を本加熱の 約 1/3~1/2 としてレーザ照射を施工し、モックアッド1) 配管や管台内面の溶接部の引張残留応力低減方法 プと実機管台の温度挙動が同等であることを確認し として、レーザ外面照射応力改善法(L-SIP)を開発 た。した。 4) 本加熱2) 原子力発電所の加圧器サージ管台に適用し、求め ハーフ加熱の結果を基に本加熱を実施した。本加 られる施工条件(最高到達温度、昇温速度)を満 熱は1周目の照射の始端部の効果を確保するため、 たして施工を完了した。 開始位置を 180 度移動した2周目も施工される。両 施工共に、求められる最高到達温度・昇温速度を満謝辞 たしたため、施工を完了した。敦賀発電所2号機での実機適用にあたり、多大なる ご協力を頂いた日本原子力発電株式会社殿に感謝の意 を表します。参考文献[1] 太田高裕 ほか:レーザ照射応力緩和法の開発,第-BLhn#Aと生1000-18ne図4 モックアップ照射試験状況(上)制御盤 (左)案内装置1配管や管台内面の溶接部の引張残留応力低減方法 として、レーザ外面照射応力改善法(L-SIP)を開発 [1] 太田高裕 ほか:レーザ照射応力緩和法の開発,第65回レーザ加工学会講演論文集(2005,12), P117 [2] N. Sugimoto et al : Development of Outer Surface LaserIrradiated Stress Improvement Process (L-SIP),ICONE14-89375, 2006 [3] T. Ueda et al : Application of outer surface irradiatedlaser stress improvement process (L-SIP) to pressurizer as residual stress improvement method for alloy 600PWSCC mitigation, ICONE16-48379, 2008 [4]笹原利彦、直本保:PWR 加圧器管台異種金属溶接部
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“ “レーザ外面照射応力改善法による残留応力低減法“ “上田 剛史,Takeshi UEDA,村上 平八朗,Heihachiro MURAKAMI
加圧器管台 (スプレイ用 安全弁・逃がし弁用)加圧器管 (サージ用)原子力プラントや火力プラントの配管溶接部では、 応力腐食割れ(SCC)が損傷モードとして考えられる。応 力腐食割れは、材料、環境(水質,温度など)、及び引 張応力が重畳する部位で発生する。運転中のプラント で使用中の配管に対しては、材料と環境を改善するこ とが難しいので、引張残留応力を改善する方法が対策 として用いられている。引張残留応力を改善する方法として、ショットピー ニングに代表される各種のピーニングがある。一方、 配管溶接部へピーニングを施工するためには、内面へ 直接アクセスし、施工する必要があるが、内面へのア クセスが困難な場合が多い。そこで,配管の外面から レーザ光を照射して、管内面の残留応力を改善する「レセーフエンド、 (ステンレス)溶接金属 (ニッケルクロム鉄合金)管台 (低合金鋼)サーマルスリーブ - (ステンレス)異材溶接部例配管溶接部へピーニングを施工するためには、内面へ 直接アクセスし、施工する必要があるが、内面へのア クセスが困難な場合が多い。そこで,配管の外面が レーザ光を照射して, 管内面の残留応力を改善する2.原理配管溶接部配管 (ステンレス)レール博多溶接金属 (ステンレス】配管溶接部図1 L-SIP の適用対象想定部位- レーザ光を配管外面に照射すると,図2に示すよう に外面の温度が上昇する。移動させながらレーザを照 射することにより、内面の温度上昇を抑制することが できるため、内外面に温度差が生じる。この時、内外 面の熱膨張差により、外面には圧縮応力、内面には引 連絡先:上田剛史、〒652-8585 神戸市兵庫区和田崎 町 1-1-1、三菱重工業(株)神戸造船所 原子力保全技 “レーサビを配官面に油HG 572,^円とに小 9 に外面の温度が上昇する。移動させながらレーザを照 射することにより、内面の温度上昇を抑制することが できるため、内外面に温度差が生じる。この時、内外 面の熱膨張差により、外面には圧縮応力、内面には引 連絡先:上田剛史、〒652-8585 神戸市兵庫区和田崎 町 1-1-1、三菱重工業(株)神戸造船所 原子力保全技 術部技術課、電話 : 078-672-3541 、e-mail; takeshi_ueda@mhi.co.jp - 219 -張応力が発生することで、材料の内外面で塑性変形が 発生する。その後、レーザ照射が完了し、冷却され、 内外面の温度差が無くなった時点で,加熱時に引張の 塑性変形を受けた内面側には圧縮応力が生じ,残留応 力を改善できる。本工法は,鋼管の周上をレーザ光照 射領域することにより,全周の残留応力を改善する工 法である。尚、L-SIP 施工にあたっての外表面加熱温度は、材料 健全性の影響を考慮し、表1の通りに制約を設けてい る。材料に対しては、熱影響を与えないことを前提と して技術開発を実施した。また、内外面の温度差を適 正に確保する観点から、外面の昇温速度にも制約が設 けられている。 1. 本技術は、出力密度の高いレーザを加熱に用いるた め、原理的には管内面の水冷の有無に関わらず、残留 応力の改善が可能である。
レーザ発振器外面温度内面溶接部図 2(a) レーザ外面照射応力改善法の模式図面応力分布温度分布レーザ照射 外面外面降伏レザ射 |照時降伏 内面 | 圧縮応力引張応力面 | 面温度外面冷後内面内面 温度圧縮応力 引張応力 図 2(6) レーザ照射時及び冷却後の板厚内温度分布と応力分布の模式図表1 L-SIP 温度条件材質L-SIP 温度条件備考低合金鋼500°C以上 595°C未満」低合金鋼の変態点温度約 700°C以下ステンレス鋼550°C以上 650°C未満」再結晶温度 (900~950°C) 以下ニッケルクロム 鉄合金鋼」550°C以上 650°C未満再結晶温度(927~966°C) 以下3. 実機への適用L-SIP は日本原子力発電株式会社敦賀発電所 2 号機 の加圧器サージ管台(外径 390mm)の異材継手におい て初めて適用された[3]。異材継手は低合金鋼製の管台 とステンレス鋼製のセーフェンドをニッケルクロム鉄 合金(600 系合金)の溶接金属で溶接している。本施 工においては、管台が比較的大きいことから、内面を 水冷(溜め水)する施工法を採用した。 - 発電所における L-SIP 装置は以下の図3に示す構成 となっている。屋外にレーザ発振器を搭載したコンテ ナを設置し、300m のファイバで対象箇所のサージ管台 までレーザを供給する。サージ管台には駆動装置を取 り付け、光学ヘッドを搭載して管台周囲を回転できる 構造となっており、約 40 分かけて管台を1周して照射 を行う。 - サージ管台はレーザの吸収率を良くし均一化させる ため黒体を塗布し、温度監視用の熱電対を設置してい る。きアイサージ管台制御盤発電所レーザ発信器光学ヘッドと駆 動軸- 300m ファイバ図3 L-SIP 装置の構成L-SIP の適用においては、以下の作業を実施した。 1) 条件出し試験 - 事前に工場においてサージ管台モックアップで照 射試験を実施し、照射条件(出力、距離、光学ヘッ ド配列等)を検討した。(図4参照) 2) 施工前検査サージ管台外面より、実証試験による検出性の確 認されている超音波探傷試験[4]を、図5に示されて いる探傷ツールを用いて実施し、対象溶接部内面に 有意な指示が無いことを確認した。2204.結言3) ハーフ加熱実機管台に装置を設置後、レーザ出力を本加熱の 約 1/3~1/2 としてレーザ照射を施工し、モックアッ プと実機管台の温度挙動が同等であることを確認し た。 ハーフ加熱の結果を基に本加熱を実施した。本力 は1周目の照射の始端部の効果を確保するため、1)配管や管として、 した。3) ハーフ加熱4.結言 実機管台に装置を設置後、レーザ出力を本加熱の 約 1/3~1/2 としてレーザ照射を施工し、モックアッド1) 配管や管台内面の溶接部の引張残留応力低減方法 プと実機管台の温度挙動が同等であることを確認し として、レーザ外面照射応力改善法(L-SIP)を開発 た。した。 4) 本加熱2) 原子力発電所の加圧器サージ管台に適用し、求め ハーフ加熱の結果を基に本加熱を実施した。本加 られる施工条件(最高到達温度、昇温速度)を満 熱は1周目の照射の始端部の効果を確保するため、 たして施工を完了した。 開始位置を 180 度移動した2周目も施工される。両 施工共に、求められる最高到達温度・昇温速度を満謝辞 たしたため、施工を完了した。敦賀発電所2号機での実機適用にあたり、多大なる ご協力を頂いた日本原子力発電株式会社殿に感謝の意 を表します。参考文献[1] 太田高裕 ほか:レーザ照射応力緩和法の開発,第-BLhn#Aと生1000-18ne図4 モックアップ照射試験状況(上)制御盤 (左)案内装置1配管や管台内面の溶接部の引張残留応力低減方法 として、レーザ外面照射応力改善法(L-SIP)を開発 [1] 太田高裕 ほか:レーザ照射応力緩和法の開発,第65回レーザ加工学会講演論文集(2005,12), P117 [2] N. Sugimoto et al : Development of Outer Surface LaserIrradiated Stress Improvement Process (L-SIP),ICONE14-89375, 2006 [3] T. Ueda et al : Application of outer surface irradiatedlaser stress improvement process (L-SIP) to pressurizer as residual stress improvement method for alloy 600PWSCC mitigation, ICONE16-48379, 2008 [4]笹原利彦、直本保:PWR 加圧器管台異種金属溶接部
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“ “レーザ外面照射応力改善法による残留応力低減法“ “上田 剛史,Takeshi UEDA,村上 平八朗,Heihachiro MURAKAMI