鉄損と赤外線映像装置を利用した鉄鋼材料の表面欠陥の可視化

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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
近年構造物の維持管理の重要性が強調され,非破 壊的に構造部材の欠陥を検出あるいはサイジングす ることが重要な課題となっている. 構造物の欠陥の 非破壊検査法として,超音波や電磁場を用いる方法 が研究・応用されている.これらの方法は,何らか のプローブを対象物に接触あるいは近づけて走査す ることが必要である.一方構造部材に欠陥や異物, 不均質等が存在すると内部の熱伝導や外部との熱伝 達が均一ではなくなるので,加熱・冷却中の材料表 面には欠陥等の影響による温度分布が生じる. この ような温度分布を温度計測の分解能や精度・速度が 向上した高精度な赤外線サーモグラフィによって計 測し,欠陥および損傷を非破壊的に検査する赤外線 サーモグラフィ法[1]に注目が集まっている.. - 赤外線サーモグラフィ法の長所としては次のよ うなものが挙げられる. 1. 大がかりな設備を必要とせず,赤外線サーモグラフィと加熱装置のみで計測が可能 1. 非破壊・非接触での測定が可能 . 欠陥の位置と形状が温度分布から推測可能短時間に広範囲を遠隔測定することが可能 ? 測定データの処理が不要赤外線サーモグラフィ法では,欠陥部の放熱・断 熱性の不均質により被測定物に生じた熱の拡散が変 化すること,あるいは欠陥部に熱源が発生すること による表面温度変化を測定する.そこで,被測定物 を加熱するためには,被測定物に人為的に熱負荷を 加える方法と,被測定物に生じる熱源や熱散逸によ る温度上昇を利用する方法などがある。前者の加熱 方法としては次のような研究が行われてきた.阪上 「21はジュール熱による瞬時加熱温度場の計測に基 づくき裂同定に成功した. Reynolds ら[3]は、光照射 により物体表面を加熱した際の温度分布を用いて欠 陥の検出を行った. 伊藤ら[4]は、ランプ加熱による セラミックス被膜材の界面欠陥検出に関して、数値 解析的および実験的解析を行った.一方,後者の方 法としては,白鳥ら[5]が高周波磁場やレーザーによ る加熱に加えて,繰り返し負荷中の塑性変形による 発熱を利用して欠陥の可視化を行った.本研究では後者の加熱方法として低周波磁場によ って被測定物(強磁性材料)に生じる鉄損による内 部発熱を利用した方法を提唱する. この方法では上 で述べた第一の方法に比べて材料内部で均一に発熱 が行われるので表面欠陥だけでなく内部や背面の欠 陥も表面の温度変化によって可視化できる可能性が ある.また,磁気回路を構成する部材を簡便な磁化 装置により広範囲に均一に加熱することも容易にで きるという利点もある.
1. 本論文では,低周波磁場下における鉄鋼材料の鉄 損による発熱を利用して表面あるいは背面に存在す る欠陥を赤外線サーモグラフィ法によって可視化す ることを試みる.2.欠陥を有する材料の非定常伝熱解析2.1 表面欠陥と周囲の温度分布との関係 * 本論文において提案する手法において、ヒステリ シス加熱された材料表面の温度分布が欠陥の存在や 形状によってどのように変化するのか検証する. そ のために,次節と同じ形状の試験片に浅い欠陥と深 い欠陥が存在する場合の伝熱解析を行う. * 材料表面に浅い欠陥が存在すると, Fig.1 のように 表面積が増加し放熱が多くなる.そのため,材料の 熱散逸を用いて加熱をした場合材料全体で熱が発生 しているので欠陥開口部において表面積の増加する ことによりその部分の温度が周囲に比べて低くなる と考えられる. この局所的低温領域は,表面欠陥の 形状を反映したものになるので、温度分布を測定す ることにより欠陥の同定が可能となる.また同様に 欠陥が存在する面の反対側も外界との熱伝達の違い により表面温度が周囲に比べて低い領域が形成され ると考えられる.したがって,背面からであっても この局所的低温領域を検出することにより欠陥の同 定ができると考えられる.一方, Fig.2 のように材料表面に深い欠陥が存在す ると,表面積が増加して放熱が多くなるのに比較し て欠陥内部に存在する空気による断熱性が増加する ことが考えられる.さらに,温度が高い材料内部に 欠陥が達していることにより欠陥の深部の温度は材 料表面よりも高くなる(Fig.2). このような場合にも 高温領域によって欠陥の存在や形状が推定できると 期待される。Fig.1Simulated temperature distribution in cross section around narrow defectFig.2Similated temperature distribution in cross section around deep defect2.2 加熱・冷却中の鉄鋼材料の非定常伝熱解析深さの異なる表面欠陥を持つ鉄鋼材料を加熱・冷 却した時の温度分布を求めるために,汎用有限要素 解析ソフト ANSYS を用いて2種類の非定常伝熱解 析を行った. 試験片の初期温度を60°Cに保ち初期雰 囲気温度を 20°Cとして冷却過程をシミュレーショ ンして,100秒後の温度分布を求めた.実験では Fig.3 のような幅 30mm, 長さ 300mm, 厚さ 5mm の鉄鋼材料を使用した.片面に等間隔に 幅 4mm, 長さ 15mm の欠陥が入っている.欠陥の深 さは左から 3.0mm, 1.0mm,0.2mm となっている. シミュレーションでは簡単のために,これらのうち のひとつの欠陥だけが存在するとして,温度分布を 求める.30010100 _ * 50 * 50 *Fig.3 Scale of specimen100まず,Fig.3 の深さ 0.2mm の欠陥だけが存在する として,温度分布を求めた. Fig.4 は欠陥が存在する 面の欠陥付近の温度分布を表す.前節で予想した通 り浅い欠陥底部の温度が周囲よりも低くなっており, 欠陥の位置および形状が温度分布から同定できる. Fig.5 は深さ 0.2mm の場合の同じ解析結果の欠陥背 面の温度分布を表す.この場合には,欠陥に起因す るであろう温度分布は現れているが,欠陥の位置お よび形状を推定することは難しいと考えられる. 1. 次に,Fig.3 の深さ 3.0mm の欠陥だけが存在する として,温度分布を求めた. Fig.6は欠陥が存在する 面の欠陥付近の温度分布を表す.前節で予想した通 り比較的深い欠陥底部の温度が周囲よりも高くなっ ており,欠陥の位置および開口部の形状が温度分布 から同定できる. Fig.7 は深さ 3.0mm の欠陥の場合 の同じ解析結果の欠陥背面の温度分布を表す.この 場合にも欠陥付近の温度が高く,背面の欠陥の存在232は推定できるが,その形状は明確にはわからない49.559 49.60649.644 49.681 49.718 49.756 49.793 99.8349.86819.905Fig.4Temperature distribution on the surface around defect with 0.2mm depth49.55949.606 49.04349.67949.71649.752 49.79 49020649.55 49.9Fig.5Temperature distribution on the surface around defect with 0.2mm depth45.7445.785 45.6345.876 45.92145,356 46.011 45.057 46.10246.147 |Fig.6Temperature distribution on the surface around defect with 3.0mm depth|45.75 45.79145.632 45.87345.914 45.956 45.997 45.026 46.079 46.12 |Fig. 7Temperature distribution on the back surface around defect with 3.0mm depth2.3 ヒステリシス損失を利用した加熱 磁化されていない強磁性体を消磁状態から一定 振幅 HSの磁場で磁化すると, Fig.8 のように曲線 OA に沿って磁束密度 B が増加して B。に達する.次に H を-H, まで減少させ、再び HKまで増加させると, Bは先の曲線 OA をたどらないで曲線 ABCDEFA の 経路を辿る. - 強磁性体の B-H 曲線は,このように H が増加し た場合と減少した場合とで違った曲線をたどるヒス テリシスが存在する.よって周期的な磁場を加える とこのヒステリシスにより磁場が材料に対して仕事 を行いそれが材料中の熱源となって散逸する. この ような磁場の1サイクルによって磁場が行う仕事は 単位体積あたり次式で与えられる. Wh = f HUB [J/m2] |(1) 上の積分は一周期の時間変化に対する積分で図にお いてヒステリシスループ ABCDEFA が囲む面積に等 しい. このエネルギーは熱として散逸し(鉄損),材 料を加熱する. 磁場および磁束密度が場所によって 異なると式(1)の熱量も異なる値をとる.一般に磁気 | 回路を形成するような一定断面の強磁性材料を磁化 する場合,広い範囲にわたって磁場および磁束密度 がほぼ一様となることが知られている.したがって 周期的磁場による鉄損を用いた加熱では材料の広い 範囲にわたって一様な熱を発生させることが可能と233なる.- もし、1秒間に サイクルの磁場を印加すると P= fu, 「W/m2]だけの熱が材料の磁化領域の単位 体積・単位時間あたりに発生することになる。-HHHH-BFig.8Sketch of hysteretic B-H curve3.実験装置3.1 試験片試験片は2章の解析と同様 Fig.3 のようなスケー ルの鉄鋼材料 SS400 を使用した, 幅 30mm,長さ 300mm,厚さ 5mm となっており,等間隔に片面に 等間隔に幅 4mm,長さ 15mm の欠陥を設けている. 欠陥は深さの順に並んでおり,それぞれ深さは 3.0mm, 1.0mm, 0.2mm である.3.2 赤外線サーモグラフィ - 実験に使用した赤外線サーモグラフィは NEC 三 栄株式会社製 TH3101MR で, 測定物からの赤外線放 射エネルギーを検出器 (HgCdTe) により電気信号に 変換し,光学走査する事により,カラーまたは白黒 の熱画像として表示する. 以下に TH3101MR の性能 を示す.Table.1 Specification of infrared thermography 「測定温度範囲 || -50°C~250°C 測定波長8~13 [um] 焦点距離20cm~00 温度分解能0.1°C 測定視野±0.5% 走査線数239本 「水平解像度344 本以上 フレーム時間0.8s/フレーム、 検出器HdCdTe | 検出器冷却液体窒素冷却3.3 加熱に用いる磁化器 1 本手法は鉄鋼材料の鉄損による加熱を利用する. そこで鉄鋼材料 SS400に栄進化学株式会社製の携帯 型磁粉探傷装置を磁化器として用いて周期的な磁場 を印加する. 携帯型磁粉探傷装置[6]は励磁コイルが 巻回され、かつ先端部が検査対象物の表面にセット される一対の磁極ヘッドとして形成されたコアを備 えている. 携帯型磁粉探傷装置の性能は次に示す.Table2. 「定格電源 定格電流 全磁束 リフティングパワー 磁極間隔 ??抵抗Specification of magnetizer AC-100V 周波数 60Hz3.3A 0.68mWb 7kg 以上140 mm 100M2以上4.鉄損と赤外線サーモグラフィを用いた欠 1陥の可視化4.1 実験方法 - 実験装置は Fig.9 のように設置し,はり状の試験 片を万力で横方向に振動するように固定し赤外線サ ーモグラフィによって熱画像を取り込んだ磁化器 に交流電流を流し図のように磁極を試験片に接触さ せて磁場を印加した. 15 秒間通電した後に磁化器を 放し熱画像を保存する.実験は欠陥表面と欠陥背面 の両方について行い,共に欠陥の同定を目指した.234Fig. 9Experimental setup4.2 実験結果 * 最初に,試験片の欠陥が存在する面の熱画像によ ってその検出を試みる. Fig.10 では赤外線サーモグ ラフィで映した深さ 3.0mm と 1.0mm の欠陥の像が 見えている.3.0mm の深さのものははっきりと欠陥 底部で温度が他よりも高くなっていることがみてと れる.欠陥側面では急激な温度変化があり、欠陥の 開口部の形状をよく表している.欠陥底部で温度が 高い理由は欠陥内の空気が断熱効果を及ぼし,外界 への熱伝達が妨げられることが考えられる.ーーーーーーーーですがなにか?ス』(200.0028.6 27.628.825.32-1.323.522.6.21.620.6が、できれい(50.0) Infrared image of specimen surface around defects with 3.0mm and1.0mm depthsFig10.* Fig.11 は深さ1.0mm と 0.2mm の欠陥の像が見えて いる. 深さ 1.0mm のものは欠陥底部で表面の他の部 分よりも温度が高くなっていることがみてとれ,欠陥の形状を同定することができる.一方深さ 0.2mm の欠陥の底部は周囲よりも低い温度となっておりこ の場合にも欠陥の形状を同定することができる.(200029.628.627.620.32524.623.622.621.6 (-50.0)Fig.11Infrared image of specimen surface around defects with 1.0mm and 0.2mm depths-20027.4 26.728.0.欠陥3mm欠陥1mm23.923.222.521.8 (-50, 0)Fig12.Infrared image of back surface around defects with 3.0mm and 1.0mm depths次に試験片の欠陥が存在する面の背面の熱画像 によってその検出を試みる.2章で示したように, 欠陥の深いものは周りよりも温度が高いことにより 背面にも高温の領域が現れ,欠陥の検出ができると 期待される. 浅い欠陥は欠陥の存在する面の温度分 布も小さいので背面からの同定は難しいと考えられ る. Fig.12 は 3.0mm と 1.0mm の熱画像を表したもの である.二つの欠陥は検出できるが深さ 3.0mm の欠 陥の像の方が 1.0mm の深さの欠陥よりも明瞭であ235る. 深さ 0.2mm の欠陥については温度低下が明瞭に は見られず、欠陥位置の推定を行うことはできなか った。また,実際にはリアルタイムで熱画像を測定して おり,加熱時に試験片の温度が上昇している場合に はより明瞭に欠陥像が見られるがここでは省略する.以上の熱画像では一旦保存した温度分布のデー タを、中心温度と温度範囲を指定してより明瞭な欠 陥増が得られるように調整してある.5.結言磁化器によって,鉄鋼材料 SS400 を磁化すること によって起こる鉄損による加熱と赤外線サーモグラ フィによって欠陥の位置や形状を同定する手法を提 案した.表面欠陥および浅い欠陥を除く背面欠陥の 検出および形状の同定に成功した. 磁粉探傷装置や 試験片に巻いた励磁コイル等の簡便な磁化方法によ り鉄鋼材料を比較的広範囲均一に加熱することがで き,熱画像は広範囲を一度に検査できるので,実機 への応用が期待できる.浅い背面欠陥やより小さい欠陥の同定およびき 裂やはく離などの他の欠陥への応用はこれからの課題である.またより複雑な形状の欠陥の場合や試験 材料が他の磁性材料にも応用できるのかを今後の課 題としたい.参考文献[1] 阪上隆英,“赤外線サーモグラフィによる構造物の非破壊検査”,溶接学会誌, Vol.74, No.4, 2003,pp.251-255. [2] 阪上隆英, 小倉敬二,“ジュール熱による瞬時加熱温度場のサーモグラフィ計測に基づく非破壊欠陥 計測”, 日本機械学会論文集(A 編), Vol.58, No.555,1992, pp.214-221. [3] W N Reynolds and G M Wells, “Video-CompatibleThermography. (Retroactive Coverage)““, British Journal of Non-Destructive Testing, Vol. 26, No.1,1984, pp. 40-44. [4] 伊藤義康, 斉藤正弘, 柏谷英夫, 大石誠之, 金子正,
1358-1364. [5] 白鳥正樹, 三好俊郎, 野田哲司, 中西孝,“赤外線映像装置によるき裂の検知““, 日本機械学会論文集(A 編), Vol.55, No.511, 1989, pp.538-542. [6] 日本非破壊検査協会, “磁粉探傷試験I““ , 2007.236
“ “?鉄損と赤外線映像装置を利用した鉄鋼材料の表面欠陥の可視化“ “山田 真也,Shinya YAMADA,松本 英治,Eiji_ MATSUMOTO,琵琶 志朗,Shiro BIWA
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