Sonic-IR法による平板SCCの検出性評価
公開日:
カテゴリ: 第5回
1. 緒言
アクティブ赤外線サーモグラフィ法の1つに、試験 対象物を超音波で加振させた場合の発熱検知に基づく 手法があり、Sonic-IR などと呼ばれている[1]-[4]。手法 の提案は 1970年代まで遡るが、近年の赤外線サーモグ ラフィの高精度化により、微小な温度上昇が検知でき るようになり、最近再び注目を集めている。Sonic-IR 法の特長の1つとして、閉じたき裂を高感度に検出で きる可能性があることが挙げられる。これまでの研究 では、閉じたき裂を形成するため、他の非破壊検査で は検出困難な場合が生じる、応力腐食割れ(SCC)に 対す適用性の基礎的検討を行い、大型の冷却型赤外線 サーモグラフィを用いて、平板試験片に付与した SCC が検出可能であることを確認している[5]。本研究では、 小型でハンディタイプの非冷却型赤外線サーモグラフ ィを用いて、Sonic-IR 法による SCC の検出性について 評価を行なった。
2. Sonic-IR法
Sonic-IR 法の原理を図1に示す。超音波加振器で発 生した超音波は、試験体に接触させたホーンを介して 試験体に入射され、試験体内を伝播する。き裂面では、面同士を振動させるため、き裂面が接触していれば、 その部分で摩擦熱が発生する。赤外線サーモグラフィ により試験体表面温度を測定することで、摩擦熱の発 生を検知できるため、き裂の検知が可能である。き裂 が表面に到達していれば、摩擦熱の発生による顕著な 温度変化を検知できるため、高感度に検出することが できる。また、摩擦熱の発生が表面下に埋没している 場合にも、熱伝導により表面に温度変化が現れれば、 き裂の検出はある程度可能であると考えられる。超音波ホーン赤外線 サーモグラフィ図1 Sonic-IR の原理3. 実験装置1. 本実験では、現場で作業者がハンドヘルドで試験す ることを想定し、超音波発振器として、比較的低出力 のハンディタイプ(超音波工業 USWP-200Z28S-U、周 波数 28kHz、出力 200W)を選定した。また、ハンドヘ ルドによる加振時の接触性を考慮し、先端形状を246R30mm の球面形状とした超音波ホーンを製作した。 - 赤外線サーモグラフィとしては、検出波長帯 8~14 m の2次元アレイセンサを搭載したハンディタイプの 非冷却型赤外線サーモグラフィ(NEC/Avio 赤外線テ クノロジー TH9260)を用いた。図 2 には、測定試験 の状況を示す。サーモグラフィ発振器ホーン試驗片図2 測定試験状況表1 Sonic-IR 法による SCC 検出結果試験片 A 7:SCC付与位置8:加振位置|試験片B 7:SCC 付与位置8:加振位置10mm10mmbc外觀写真赤外線画像検出結果 |a: 06: 0 ic: 0 lat 0 tb0 ic0 |PT 写真| ooo| 検出結果 a ^ib x 3co (注) ○:検出、△:微小指示により検出、×:未検出4. 測定試験結果SCC を付与した平板試験片2体(A, B)に対して試 験を実施した。試験片は、ステンレス平板に Alloy 600 系溶材の肉盛溶接を施した試験片を、曲げによる引張 応力を負荷した状態で腐食液に浸漬し、SCC を付与し たものである。各試験片には3個の SCC が付与されて いる。各試験片の写真、加振時の赤外線画像、PT 探傷 結果の写真を表1に示す。試験片 A, B共に、3箇所の SCC 付与位置において、 超音波加振時には発熱を確認でき、SCC の検出が可能 であることがわかる。また、PT では検出困難であった ケース(試験片 A の中央の SCC)に対しても、検出可 能であった。2475. 破壊観察- SCC の性状を確認するため、測定した SCC に対して 破壊観察を行なった。SCC の長さ方向の中心で、直交 方向に SCC を切断し、切断面を両側へ 0.5mm 間隔で すり込みを実施しながら、最大深さを測定した。各SCC の深さ分布と、赤外線サーモグラフィによる 温度分布を比較した結果、深さと発熱量の間には、一 一定の比例関係があることが確認された。6. まとめ平板に付与された SCC に対して、ハンディタイプの 赤外線サーモグラフィを用いた Sonic-IR 法を適用し、 SCC が検出可能であることを確認した。さらに、SCC の破壊観察を行なった結果、深さと発熱量に一定の比 例関係があることが確認された。 - き裂によって発熱状態が異なっており、この原因に ついては、詳細な検討が必要であるが、き裂の閉口度 や試験片内での超音波挙動の違いが発熱に影響してい るものと推測される。今後、以下について、検討する予定である。 ・ き裂の検出限界寸法及び定量評価性 ・ き裂の閉口状態に対する検出感度 ・ 内部き裂検出への適用可能性 ・ シミュレーションによる超音波挙動の解析参考文献[1] L.D. Favro et.al., “Sonic IR Imaging of Cracks andDelaminations”, Analytical Sciences, Vol.17, April 2001,pp.s451-s453.. 14 [2] M.W. Burke and W.O. Miller, “Status of VibroIR attLawrence Livermore National Laboratory”, Proc. ofSPIE, Vol.5405, 2004, pp.313-321. [3] D. Mayton and F. Spencer, “A Design of ExperimentsApproach to Characterizing the Effects of Sonic IRVariables”, Proc. of SPIE, Vol.5405, 2004, pp.322-331. [4] S.M. Shepard, T. Ahmed and J.R. Lhota, “ExperimentalConsiderations in Vibrothermography”, Proc. of SPIE,Vol.5405, 2004, pp.332-335. [5] 松本善博、阪上隆英他、“Sonic-IR 法による応力腐食割れ検出技術”、日本保全学会第 4 回学術講演要 旨集、2007、pp.305-306248
“ “Sonic-IR 法による平板 SCC の検出性評価“ “勝又 陵介,Ryosuke KATSUMATA,松本 善博,Yoshihiro MATSUMOTO,原田 豊,Yutaka HARADA,阪上 隆英,Takahide SAKAGAMI,久保 司郎,Shiro KUBO
アクティブ赤外線サーモグラフィ法の1つに、試験 対象物を超音波で加振させた場合の発熱検知に基づく 手法があり、Sonic-IR などと呼ばれている[1]-[4]。手法 の提案は 1970年代まで遡るが、近年の赤外線サーモグ ラフィの高精度化により、微小な温度上昇が検知でき るようになり、最近再び注目を集めている。Sonic-IR 法の特長の1つとして、閉じたき裂を高感度に検出で きる可能性があることが挙げられる。これまでの研究 では、閉じたき裂を形成するため、他の非破壊検査で は検出困難な場合が生じる、応力腐食割れ(SCC)に 対す適用性の基礎的検討を行い、大型の冷却型赤外線 サーモグラフィを用いて、平板試験片に付与した SCC が検出可能であることを確認している[5]。本研究では、 小型でハンディタイプの非冷却型赤外線サーモグラフ ィを用いて、Sonic-IR 法による SCC の検出性について 評価を行なった。
2. Sonic-IR法
Sonic-IR 法の原理を図1に示す。超音波加振器で発 生した超音波は、試験体に接触させたホーンを介して 試験体に入射され、試験体内を伝播する。き裂面では、面同士を振動させるため、き裂面が接触していれば、 その部分で摩擦熱が発生する。赤外線サーモグラフィ により試験体表面温度を測定することで、摩擦熱の発 生を検知できるため、き裂の検知が可能である。き裂 が表面に到達していれば、摩擦熱の発生による顕著な 温度変化を検知できるため、高感度に検出することが できる。また、摩擦熱の発生が表面下に埋没している 場合にも、熱伝導により表面に温度変化が現れれば、 き裂の検出はある程度可能であると考えられる。超音波ホーン赤外線 サーモグラフィ図1 Sonic-IR の原理3. 実験装置1. 本実験では、現場で作業者がハンドヘルドで試験す ることを想定し、超音波発振器として、比較的低出力 のハンディタイプ(超音波工業 USWP-200Z28S-U、周 波数 28kHz、出力 200W)を選定した。また、ハンドヘ ルドによる加振時の接触性を考慮し、先端形状を246R30mm の球面形状とした超音波ホーンを製作した。 - 赤外線サーモグラフィとしては、検出波長帯 8~14 m の2次元アレイセンサを搭載したハンディタイプの 非冷却型赤外線サーモグラフィ(NEC/Avio 赤外線テ クノロジー TH9260)を用いた。図 2 には、測定試験 の状況を示す。サーモグラフィ発振器ホーン試驗片図2 測定試験状況表1 Sonic-IR 法による SCC 検出結果試験片 A 7:SCC付与位置8:加振位置|試験片B 7:SCC 付与位置8:加振位置10mm10mmbc外觀写真赤外線画像検出結果 |a: 06: 0 ic: 0 lat 0 tb0 ic0 |PT 写真| ooo| 検出結果 a ^ib x 3co (注) ○:検出、△:微小指示により検出、×:未検出4. 測定試験結果SCC を付与した平板試験片2体(A, B)に対して試 験を実施した。試験片は、ステンレス平板に Alloy 600 系溶材の肉盛溶接を施した試験片を、曲げによる引張 応力を負荷した状態で腐食液に浸漬し、SCC を付与し たものである。各試験片には3個の SCC が付与されて いる。各試験片の写真、加振時の赤外線画像、PT 探傷 結果の写真を表1に示す。試験片 A, B共に、3箇所の SCC 付与位置において、 超音波加振時には発熱を確認でき、SCC の検出が可能 であることがわかる。また、PT では検出困難であった ケース(試験片 A の中央の SCC)に対しても、検出可 能であった。2475. 破壊観察- SCC の性状を確認するため、測定した SCC に対して 破壊観察を行なった。SCC の長さ方向の中心で、直交 方向に SCC を切断し、切断面を両側へ 0.5mm 間隔で すり込みを実施しながら、最大深さを測定した。各SCC の深さ分布と、赤外線サーモグラフィによる 温度分布を比較した結果、深さと発熱量の間には、一 一定の比例関係があることが確認された。6. まとめ平板に付与された SCC に対して、ハンディタイプの 赤外線サーモグラフィを用いた Sonic-IR 法を適用し、 SCC が検出可能であることを確認した。さらに、SCC の破壊観察を行なった結果、深さと発熱量に一定の比 例関係があることが確認された。 - き裂によって発熱状態が異なっており、この原因に ついては、詳細な検討が必要であるが、き裂の閉口度 や試験片内での超音波挙動の違いが発熱に影響してい るものと推測される。今後、以下について、検討する予定である。 ・ き裂の検出限界寸法及び定量評価性 ・ き裂の閉口状態に対する検出感度 ・ 内部き裂検出への適用可能性 ・ シミュレーションによる超音波挙動の解析参考文献[1] L.D. Favro et.al., “Sonic IR Imaging of Cracks andDelaminations”, Analytical Sciences, Vol.17, April 2001,pp.s451-s453.. 14 [2] M.W. Burke and W.O. Miller, “Status of VibroIR attLawrence Livermore National Laboratory”, Proc. ofSPIE, Vol.5405, 2004, pp.313-321. [3] D. Mayton and F. Spencer, “A Design of ExperimentsApproach to Characterizing the Effects of Sonic IRVariables”, Proc. of SPIE, Vol.5405, 2004, pp.322-331. [4] S.M. Shepard, T. Ahmed and J.R. Lhota, “ExperimentalConsiderations in Vibrothermography”, Proc. of SPIE,Vol.5405, 2004, pp.332-335. [5] 松本善博、阪上隆英他、“Sonic-IR 法による応力腐食割れ検出技術”、日本保全学会第 4 回学術講演要 旨集、2007、pp.305-306248
“ “Sonic-IR 法による平板 SCC の検出性評価“ “勝又 陵介,Ryosuke KATSUMATA,松本 善博,Yoshihiro MATSUMOTO,原田 豊,Yutaka HARADA,阪上 隆英,Takahide SAKAGAMI,久保 司郎,Shiro KUBO