ベイズ推定による渦電流探傷法の欠陥寸法計測に関する一手法

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カテゴリ: 第5回
| 緒言
1.緒言原子炉の高経年化に伴い、構造物に対する安全性・ 信頼性の要請が高まり、原子力発電プラントにおける 欠陥の定量的評価の必要性が高まってきている。渦電 流探傷法(Eddy Current Testing: ECT)を用いた非破壊検 査は、交流電流を流し交流磁場を発生させた励磁コイ ルを材料に近づけ、材料表面に発生する渦電流の変化 を受信コイルの誘起電圧の変化として検出することで、 試験体の欠陥の特徴を得る非破壊検査法である。 - これまで欠陥の定量的評価は、まず欠陥の形状を仮 定してECT 検査のモデル化を行い、そのモデルによる シミュレーションの結果と測定データとのパターンマ ッチングにより行われてきた。この診断には熟練した 技術者が必要とされていたが、検査対象範囲の増加に より診断の自動化が要求されている。自動化実現のた めには、科学的根拠に裏付けられた方法による診断の 信頼性向上が重要である。本研究ではベイズ推定による事後分布の確率密度関 数(probability density function, pdf)を用いて、パターン マッチングの探索領域をき裂パラメータの事後 pdf の 信頼区間とする方法を提案する。そしてECT における 測定条件を変更することにより、欠陥寸法計測の信頼 性の向上を図る。
ベイズ推定で用いられるベイズの定理は、連続型確 率変数を y 、未知量である母数をqとしてpay) - Pola)p(g)(1) ply) と表される[1]。p(g)はデータを得る前の4について の事前 pdf、p(y\g)はデータ発生モデル分布を示し、 p(gly)はデータ入手後の q の事後 pdf を示している。 p(y\g)はデータを入手した後々の関数とみなす事に より女の尤度関数となり、lgly) と表される。観測 データy を既知とし、事後 pdf においてパラメータ9 に関係しない項を除くと、 plgly)oc llgly)p(q)-2すなわち、“事後 pdfoc尤度×事前 pdf となる。これが、 ベイズ推定の本質的な部分となる。2.2 ECT への適用本研究では、Fig.1 に示すように、励磁コイルと受信 コイルからなる受発信型プローブを用い、試験体表面 においてプローブを一定の間隔(測定ピッチ)で x1 向へ 移動させ、各測定点ごとに励磁・信号受信を行う形式 のECT 検査を想定する。このような検査では、検査箇 所にき裂が存在した場合、Fig.2 のようなき裂付近に2.2263Reci ver coil (start position)/PitchCrackend positionTra namitt or coil (start position)x3x2Fig. 1conduct or Illustration of ECTer coil osition)PitchCrackまず深さq、だが、当然深さは目に見えないのでその 大きさは完全に未知である。き裂の深さは最大でも試 験材料の板厚までであるので、深さg, の事前 pdf p(qi)は区間(0[mm],板厚)の一様分布で与えるとすiond positionTra narritt or coil (start position)る。次に長さqのだが、ECT 検査を行うと Fig.3 のような2次元の磁気イメージを得ることが出来る。この磁気| conduct orイメージを利用すれば、長さは完全な未知ではなく、 Fig. 1 Illustration of ECTある程度は予測ができる。そこで長さg, の事前 pdf p(gr)は、区間を O[m]~板厚よりも常識的範囲に絞り込んだ一様分布を与える。 ピークが現れる複素数の検出信号を得ることが出来る。 Fig. 2 におけるプロット点は、各測定点での検出信号を絞り込んだ一様分布を与える。gmaineROMEcurrent-5Fig.2 Measurement data in the experimentsFig. 3 Surface of crack and the magnetic image ピークが現れる複素数の検出信号を得ることが出来る。 Fig. 2 におけるプロット点は、各測定点での検出信号を2.3 尤度関数の導入 表している。ベイズ推定を ECT 検査へ適用するには、式(2)におけ実機での ECT 検査では、得られる各測定点の信号に る連続型確率変数y を、想定した ECT 検査により得た は観測ノイズが含まれる。この観測ノイズを 観測信号のベクトル_= {E}\(K:全測定点数)とする。すると、サイズパ __y = {v}', (K:全測定点数) (3)ラメータ que = {q175,927““ } のき裂上での ECT 検査信号 yrime は、ECT 検査の数値モデルの結果にノイズ6 を用いて置き換え、パラメータ qを、き裂のサイズを を加えたものとして表現できる。つまり、検査モデル 表すパラメータベクトルとすることになる。本研究で の結果を、き裂サイズパラメータムの関数 はパラメータマをuq)={u()}% (K:全測定点数) (0 * q = {41,92} (9:深さ、 92:長さ) (4)とすると、ECT 検査信号 y le は以下のように表すこと と置き換える。また、き裂の深さg、と長さq, が互いができる。 に独立であると仮定し、事前pdf を以下のように表す。yrlue = u(q )+ p(g) = p(g)p(92)これより、観測ノイズeは 2.2 事前分布の設定_=y““le -u( )この観測ノイズEを、標準偏差o の無相関のガウス型 ベイズ推定には、事前知識を元にして、推定パラメー 白色雑音と仮定すると、式(8)より、ある測定データ ータの事前 pdf を主観的な判断で決定できるという特 * y = {y}のもとで、あるパラメータ9の尤もらしさ 徴がある。本研究では、パラメータであるき裂の深さを表す尤度関数は 9、長さ92の事前 pdf を一様分布で与える。 ・ ベイズ推定には、事前知識を元にして、推定パラメ ータの事前 pdf を主観的な判断で決定できるという特 徴がある。本研究では、パラメータであるき裂の深さ 9、長さ92の事前 pdf を一様分布で与える。まず深さq,だが、当然深さは目に見えないのでその 大きさは完全に未知である。き裂の深さは最大でも試 験材料の板厚までであるので、深さg, の事前 pdf p(q)は区間(0[mm],板厚)の一様分布で与えるとす る。 は観測ノイズが含まれる。この観測ノイ) x = {E}K (K:全測定点数)とする。すると、サイ ラメータ que = {qfre, qf7““ } のき裂上での ECT | 信号 yrue は、ECT 検査の数値モデルの結果にノイ を加えたものとして表現できる。つまり、検査モ の結果を、き裂サイズパラメータムの関数 - 264 -1 y - 1,qo202imlv211と表すことができる。本研究では式(9)を尤度関数とし て導入する。2.4 探索領域の決定法以上より、事後 pdf は以下のようになる。 Haralva?, 1_1|y?4(4,98?),-AA))(10)本研究では式(10)より、事後 pdf を求め、その信頼領 域をパターンマッチングの探索領域とすることを提案 する。 . 事後 pdf は、検査モデル (q)= fur() に基づい て開発された計算機シミュレータを用いて求める。こ の計算機シミュレータは、マクスウェルの電磁方程式 から、A-法によって電磁界の支配方程式を導出し、 有限要素・境界要素併用法によって定式化した数値モ デルに基づいており、試験体のサイズ(縦・横・高さ)・ き裂の位置とサイズ(深さ・長さ・幅)・コイルの位置 と検査範囲等の検査条件を入力することで、検査信号 を出力することができる[2]。観測データ yと、あるき 裂サイズ {q'}““ = {{q{}““,{95}{-} を式(10)に代 入していき、m×n 個の標本を得て、最後に正規化す ることで事後 pdf を求める。{q}““{95}」はそれぞ れ事前 pdfの区間内の大きさとなる。本研究では、深さq」を事前 pdf の区間で 20 分割、長 さq を 7 分割する。つまり m =21、n=8 となり、計 168 個の標本から事後 pdf を得る。3..3.13. シミュレーション実験 3.1 実験環境事後 pdf は ECT 検査により得られる観測データを利し て求めることになるが、今回は擬似的観測データを利 用する。擬似的観測データは、Fig.4 に示すような、縦 22.0[mm] ・ 横 24.3[mm] ・ 高さ 12.0 [mm] の導体中央部 の、長さ(縦方向)14.0[mm]・幅(横方向)0.1[mm] ・ 深さ(高 さ方向)6.0[mm]のき裂に対してECT 検査を行った際の 観測データを想定したものとする。24.3mm0.1mm4. Omm22.0mm14mm4.0mm6. Omm12.0mmFig. 4 Size of conductor and crack導体の透磁率 μ。と導電率 0 、き裂内部の導電率o。は それぞれ次の公称値を用いる。 Ho = 4T ×10'[H]m] = 1.39×10'[S/m](11) 100 = [S/m]使用するプローブのコイルの直径は 1.7[mm]、リフト オフは 0.5[mm)、コイルの巻き数は 470[turn]とする。 励磁コイルには 1.0[A],周波数 f100.00kHz]の交流電流 を印加すると仮定する。検査はき裂を中心として 18[mm]の範囲で行うとする。この擬似的観測データを、ECT 検査の数値シミュレ ーションによる擬似的検査の出力を利用して生成する。 つまり、上の条件を設定した上で行った検査シミュレ ーションの出力に標準偏差 0.01 の無相関のガウス型白 色雑音を加えることで擬似的観測データとし、き裂サ イズパラメータの事後 pdf を求める。また、き裂サイズパラメータの事前pdfに関しては、 深さq、は区間(0.0[mm],12.0[mm])の一様分布とし、長さ qのは、想定しているき裂の長さ 14.0[mm]の周辺に範囲 を絞った、区間(10.0[mm], 19.0[mm])の一様分布とする。3.2 測定ピッチ変更による診断の信頼性向上3.2ECT 検査における測定ピッチを変更することで欠陥 寸法計測の信頼性向上を図る。測定ピッチとは ECT 検 査における検査間隔、つまりある観測点と次の観測点 の間の長さである(Fig.5)。数値シミュレーションによ る擬似的 ECT 検査を、試験体・き裂・コイル・検査範 囲等の条件は一定にしたままで、測定ピッチだけを変265化させて行っていく。測定ピッチは 1.0[mm]、0.8[mm]、 0.5[mm]、0.4[mm]、0.2[mm]、0.1[mm]の6つとし、こ れにより6つの擬似的観測データを得ることとなる。 この6つ擬似的観測データをもとに、それぞれデータ を用いた場合の、き裂サイズパラメータの事後 pdf を 求める。 1. 事後 pdf は、深さq ・長さq, による2変量の分布と なる。この事後 pdf の信頼領域は面となり、この面積 が小さくなるほど分布はより尖った形状になっていく。 つまり、事後 pdf の信頼領域を欠陥寸法計測のための パターンマッチングの探索領域とする場合、信頼領域 の面積が小さいほど、より診断の信頼性が高いという ことになる。そこで、6つの擬似的観測データをもと にした6つの事後 pdf のそれぞれの 90%の信頼領域を 比較し、測定ピッチの変更による信頼性向上を示す。PitchFig. 5 Pich of eddy current testing3.3 実験結果と考察検4Fig.6は、擬似検査の測定ピッチが 1.0[mm]、0.8[mm]、Fig. 6 は、擬似検査の測定ピッチが 1.0[mm]、0.8[mm]、 0.5[mm]、0.4(mm)、0.2[mm]、0.1[mm]の場合の擬似的 観測データを用いた事後 pdf の、90%の信頼領域を示 している。Fig. 6 より、測定ピッチを細かくするほどに 信頼領域は小さくなり、診断の信頼性が向上していく ことが分かる。測定ピッチが細かくなれば、検査範囲が一定ならば 測定回数は増えることになる。Fig. 7は測定ピッチごと の信頼領域面積と測定回数を示すグラフである。Fig.7 より、測定回数が増えれば診断の信頼性は向上するが、 一方で検査に要するコストも増加すると言える。信頼 性が十分に満たされていれば、不必要にピッチを細か くしてコストを増やしたくはないだろう。そこで測定 ピッチの観点から見ると、ピッチ 0.2[mm]のときが、 冗長なコスト(測定回数)を抑えた最適なピッチである と言える。0.0190.018 0.017 0.0160.0150.014 0.0130.1mm 0.2mm0.4mm consorrow0.5mm0.8mm 1,0mm0.0120_0.0110.01 0.0020.004 0.006 0.008 0.01 0.0120.014Fig. 6 Comparison of confidence regionmeasuremont number of tim essize of 90% confidenca regionmeasurement number of tim os size of 90% confidence region0. 10.20. 40.5 10.81.0 pitch [mm]Fig. 7 Size of confidence region and measurementnumber of times同様にピッチ以外の検査条件を変更・比較すれば、 信頼性を十分満たし、冗長なコストを抑えるという、 検査の最適化を行うことも期待できる。4 結言本稿では、ベイズ推定によるき裂パラメータの事後 pdf の信頼領域を、パターンマッチングの探索領域をと する方法を提案した。さらに、検査における測定ピッ チを変更することで、診断の信頼性を向上させ、シミ ュレーション実験の結果として示し、検査の最適化の 一例を示した。参考文献[1] 繁桝算男、“ベイズ統計入門”、東京大学、2005、pp.42-43. [2]小島史男、河合信弘、“境界要素・有限要素併用法を 用いた渦電流探傷法による自然き裂の同定手法”、日 本計算数理工学会境界要素法論文集第 21 巻、2004、 pp.13-18266
“ “?ベイズ推定による渦電流探傷法の欠陥寸法計測に関する一手法“ “小島 史男,Fumio KOJIMA,菊池 光洋,Mitsuhiro KIKUCHI
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