マルテンサイト系ステンレス鋼のクリープ損傷に伴う磁気ヒステリシス特性の変化

公開日:
カテゴリ: 第5回
1. 緒言
高温高圧下で使用される発電プラントの高温機器の多 くは、1960~1970 年代に建設され、経年劣化(主として腐 食、疲労、クリープ)が進行しているにもかかわらず、当初 計画寿命を延長し運転されている。クリープは高温機器の 健全性を左右する最も重要な経年劣化因子の一つである。 クリープ損傷とは、高温、一定荷重(応力) 下において、 熱活性により材料がゆっくりと連続的に変形し、最終的に は亀裂発生、破壊に至るという現象である。この変形は微 細組織の変化と歪みの累積の相互作用により関連付けら れ、歪みの累積は転位運動や微細組織に支配される。従来、クリープ損傷評価はレプリカ法によって評価され ている。 [1] しかし、レプリカ法は現場の熟練者の経験的 な判断で行われる場合が多く、膨大な時間と労力を要す る。また、限られた範囲の検査にしか適応できないという 問題点がある。クリープ損傷は構成材料全体に広がり、必 ずしも表面から損傷していくとは限らないため、材料内部 の損傷を評価できる技術が必要である。本研究では材料 内部の組織変化に敏感である磁気ヒステリシスループ(特 にマイナーループ)を用いて、タービン翼や蒸気配管材 などの高温高圧プラント材料として広く用いられている SUS403 鋼のクリープ損傷とヒステリシス特性の相関を調 べたので報告する。
2. 実験方法2.1 測定試料と測定条件SUS403 鋼の化学組成を表1に示す。クリープ試験は、 大気中120MPaの引張応力下、873Kの高温下で行い、ク リープ時間(クリープ歪み)が異なる多数の試験片を用意し た(中断試験法)。クリープ歪みは必ずしもクリープ時間と 良い相関を持たないため、クリープ時間は余寿命評価に は不適切である。そのため、クリープ歪みと時間の関係に 基づき、修正月法と破断パラメータ Paから破断寿命を推 定し、試験終了時の余寿命消費率t/trを求めた。[2-4] 余 寿命消費率はクリープ進行度を示す良いパラメータである。 図1に余寿命消費率とクリープ歪みの関係を示す。ここで ステージ I, II, III はそれぞれ遷移クリープ、定常クリープ、 加速クリープ領域に対応する。本研究では、磁気ヒステリ シス特性と余寿命消費率の関係を調べた。また、磁気特 性と機械特性の相関を調べるため、試験片の表裏 5点ず つ、荷重 300g、10 秒の条件で硬度試験を行った。Table 1 Chemical compositions of SUS403. (wt.%)cl si | Mn | P | s | Ni | cr | Fe0.120 | 0.3000.40.033|0.0180,20011.67] Bal273|TTTTTTTTTTTTVickers hardness (HV)0.81. I S II . II 10_0.10. 20. 30.40.5 0.6 0.7 0.8」1200L251873 K, 120MPa O: Crept samples ●: Ruptured sampleTITUTTIKIStrain [%]? ???????????????????????IIIII/00.20.8104 0 .6 Life fraction, UTFig. 1 Creep strain as a function of estimated life fraction in the interrupted test, taken at 120 MPa and 873K. [2]2.2 磁気マイナー・ヒステリシスループ測定磁気測定用に 2.1mm×2.1mm×14mm の角棒型に試 験片を切り出し後、検出コイル 40 回を巻きつけ、磁気ヨー ク(励磁コイル 80 回巻)を用いて磁気測定を行った。 磁場 振幅 H が異なるマイナー・ヒステリシスループ群を 0.05Hz の励磁周波数、約 13kA/m までの磁場範囲で測定した。 比較のため Ha=20kA/m の磁場振幅でメジャーループを 測定した。最近、我々はFe単結晶・多結晶、Ni 単結晶、低炭素鋼 におけるマイナー・ヒステリシスループ解析[5-7)から、マイ ナーループ変数間に以下の関係があることを明らかにし た。DF-1ここで、WE*はマイナーループヒステリシス損失、M*は マイナーループ飽和磁化、Mは飽和磁化である。マイナ ーループ係数 WE は格子欠陥(転位、結晶粒界、析出物 など)に敏感な物理量である。べき指数nsは約1.5 であり、 塑性変形の度合い、温度、格子欠陥の種類に依存しない。 マイナーループ係数は格子欠陥に対しメジャーループの 保磁力 HCと同様の振る舞いを示すが、H。に比べ格子欠 陥に敏感であると共に、測定磁場が Hのそれに比べ約 1/5 程度で済むというメリットある。3. 実験結果 3.1 ビッカース硬さ試験- -- T-- -------------10_0. 10.2 0.3040.5 0.6 0.7 0.8Life fraction t/tr 2 Vickers hardness as a function of life fractionFig. 2図 2 にビッカース硬さの余寿命消費率依存性を示す。遷 移クリープではクリープ損傷と共に硬度は急激に減少し、 定常クリープで一時減少が止まった後、加速クリープで再 び緩やかな減少に転ずる振る舞いが見つかった。3.2 磁気ヒステリシスループ測定図 3 に t/tr=0, 0.7 におけるメジャーループを示す。クリ ープ損傷に伴いループ幅(保磁力)が増加する傾向が見 つかった。同様なループ幅の増加はマイナーループでも 観測された。(LowH*け/tr=0. t/t=0.7LowH_--20-15-10-5 0_ 5_H (KA/m)101520Fig.3 Major loop, taken at t/t, = 0 and 0.7.マイナーループ係数の余寿命消費率依存性を調べる ため、マイナーループ群からマイナーループ変数(図4挿 入図)を決定し、WE* と M.*の関係を調べた。図4に、Wi*と MA*の関係の両対数プロットを示す。第2ステージ(マイナ ーループ磁化 M *が磁場振幅 H.に対し急激に増加する 磁場領域であり、非可逆的磁壁移動が磁化に寄与する領274 二線になり、その傾きは、4. 結言 土 0.02 であった。この今回の実験結果から、マイナーループ係数・保磁力がク 域)において、We*と M.*の関係は直線になり、その傾 クリープ損傷度に依存せず nr=1.53 土 0.02 であった。 値は過去の実験結果[5-7]と一致する。1.53±0.02 des| ttr=0* /tr=0.36 3 | o t/tr=0.710000-0000-90concacinterancerolog(W)HHHH-1.5 1 1 -0.5 0 0.5log(a, M.*) Fig. 4 Relation between Wr* and M.*. The data for thed 0.36 and 0.7 are shown for typical examples.参考文献THHH\6484 2010-04002440 Loo00a[1] B. Raj, V. Moorthy, T. Jayakumar, R.K. Bhanu Sankara, Int. Mater. Rev.48 (2003) 273.[2]T.Ohtani, J.Soc.Mater.Sci.Jpn.56 (2007) 114. 12 -1.5 1 -0. 5 0 _ 0.5[3] K. Maruyama, C. Harada, H. Oikawa, J. Soc. Mater. log( MM *)Sci. Jpn. 34 (1985) 1289. g. 4 Relation between Wi* and M*. The data for t/t, = 0, [4] K. Maruyama, H. Oikawa, Trans. ASME J. Pressure 36 and 0.7 are shown for typical examples.Vessel Tech. 109 (1987) 142.[5] S. Takahashi and L. Zhang, J. Phys. Soc. Jpn. 73 図5に図4の直線部分を式(1)で最小二乗フィットして (2004) 1567.inte 11 1 : ............... Talebachi 図5に図4の直線部分を式(1)で最小二乗フィットして 得られたマイナーループ係数 WE 及び保磁力 H。の余寿 命消費率依存性を示す。遷移クリープ(IDにおいて、両者 が急激に増加する振る舞いが観測された。更にクリープが 進行すると、定常クリープ領域(II)で WE と H。はほぼ一定 となった後、t/tr=0.5 以降の加速クリープ領域(III)で再び 増加に転ずる。両磁気特性の振る舞いは、ビッカース硬さ 進行すると、定常クリープ となった後、t/tr-0.5 以降 増加に転ずる。両磁気特 と逆の振る舞いを示した。Fig. 5 Minor-loop coefficient W. and coercive force H. as a function of life fraction.今回の実験結果から、マイナーループ係数・保磁力がク リープ損傷に伴い敏感に反応し、増加する事がわかった。 これは磁気ヒステリシス法がクリープ材の損傷評価、余寿 命予測に有効であることを示す。また、本研究で用いた磁 気マイナーループ法は 4kA/m 程度の低磁場で測定でき、 高磁場を必要としないためクリープ損傷評価の装置開発 の点で有利である。マイナーループ係数・保磁力がク に反応し、増加する事がわかった。 法がクリープ材の損傷評価、余寿 を示す。また、本研究で用いた磁 4kA/m 程度の低磁場で測定でき、 ためクリープ損傷評価の装置開発T. Jayakumar, R.K. Bhanu Sankara, 03) 273. er.Sci.Jpn.56 (2007) 114. Harada, H. Oikawa, J. Soc. Mater. 9. Wilrouro Trans ASME I Pressure [1] B. Raj, V. Moorthy, T. Jayakumar, R.K. Bhanu Sankara, Int. Mater. Rev.48 (2003) 273. [2]T.Ohtani, J.Soc.Mater.Sci.Jpn. 56 (2007) 114. [3] K. Maruyama, C. Harada, H. Oikawa, J. Soc. Mater. Sci. Jpn. 34 (1985) 1289. [4] K. Maruyama, H. Oikawa, Trans. ASME J. Pressure Vessel Tech. 109 (1987) 142. [5] S. Takahashi and L. Zhang, J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 1567. [6] S. Kobayashi, T. Fujiwara, M. Tsunoda, S. Takahashi, H. Kikuchi, Y. Kamada, K. Ara, and T. Shishido, J. Mag. Mag. Mater. 310 (2007) 2638. [7] S. Takahashi, S. Kobayashi, H. Kikuchi, Y. Kamada, J. Appl. Phys. 100 (2006) 113908. H. Kikuchi, Y. Kamada, J. - 275 -
“ “マルテンサイト系ステンレス鋼のクリープ損傷に伴う磁気ヒステリシス特性の変化 “ “木村 敬,Takashi KIMURA,小林 悟,Satoru KOBAYASHI,鎌田 康寬,Yasuhiro KAMADA,菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,大谷 俊博,Toshihiro OHTANI
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)