コールドスプレー法による構造物のき裂・損傷部に対する補修技術に関する基礎的研究
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カテゴリ: 第5回
1.はじめに
化学プラントや発電プラント等においては,経年的 な劣化が否めず,構成材料にはき裂の発生やエロージ ョン・コロージョン等の損傷の発生が危惧されている. 特に,化学反応が生じる部位に関しては腐食が顕著と なり,減肉による劣化の発生が懸念されている.以上 のような劣化・損傷部位には,溶接による補修やオー バーレイ(溶接肉盛)が施されている場合も見受けられ る[11. しかし,溶接による補修やオーバーレイは,施 工時間が長いことや特殊技能を必要とすることから, より簡便で施工速度の速い補修技術の確立が重要とな っている.近年,金属粒子を溶融させることなく,高 速のガス流に金属粉末を乗せ,基材へ衝突させること で皮膜を形成する新しいコーティング技術としてコー ルドスプレー法が注目されている. コールドスプレー 法[2-[6]は、装置自体がシンプルで(Fig.1 参照),熱影響 部や初期金属粒子の相変態を生じさせることなく,ち 密で高品質な皮膜を mm オーダーで形成することが可 能な技術である1. Powder Hopperしかし,コールドスプレーは衝突時の大きな塑性変 形に伴い粒子を付着させるため,高炭素鋼等の硬い鉄 系材料はコールドスプレー法による付着が困難である. また,コールドスプレー法がこれまでに耐酸化あるい は耐摩耗コーティングの施工方法として応用されてき たために鉄系の材料を用いた補修に関する過去の検討 例が少ない.そこで本研究では,化学プラントや発電 プラント等において多く用いられている鋼構造部材の 補修に対するコールドスプレー法の適用を目的とし, 高炭素鋼材料の厚膜施工を試みた.得られた皮膜の断 面微細組織観察および断面硬さ等の機械的特性を評価 し,補修あるいはオーバーレイ技術としての可能性を 検討した.
2. 実験方法 2.1 供試材および作動ガス 1. 本研究では,供試粉末材としてガスアトマイズ法に より作製した平均粒径25 mm の炭素量 0.70%の高炭素 鋼を用いた. 化学組成および機械的特性を Table 1 およ び2にそれぞれ示す. * 基材には粉末同様の高炭素鋼と SUS304 平板の2種 類を用い,高圧型コールドスプレー装置(プラズマ技 研工業(株)製 PCS-103-3)により施工した.本研究においては,粒子衝突速度に大きな影響を及 ぼすノズル出口のガス流速を作動ガス種により変化さ せ,施工を行った.作動ガスには,窒素およびヘリウ ムガスを用いた.ノズル出口のガス流速は(1)式から算 出した. 成膜条件およびガス流速を Table 3 にまとめる. 入 は比熱比, R はガス定数, T; はノズル入口温度,P;算出した2.2 断面組織観察試験 ー コールドスプレー法による皮膜と基材の付着状 態を評価するため,走査型電子顕微鏡(SEM)((株) 日立ハイテクノロジー製 S-4700)を用いて皮膜断面 の微細組織を観察した.また,画像処理ソフト Image-J を用いて皮膜断面の気孔率を測定した.2.3 Vickers 硬さ計測 - 基材および皮膜の硬さの差異を評価するため, N700S, He600S,および He600HC(Table 3 参照) および基材の Vickers 硬さを微小硬さ試験機 (Fischer Instruments 社製 H100)を用い計測を行った.2.4 皮膜強度評価試験 - 皮膜の付着強度を評価するため,四点曲げ試験を 行った.試験片寸法は,長さ 35 mm, 幅 5 mm,基 材厚さを 2 mm,皮膜厚さを 0.2 mm とした. 試験は, 材料試験機(MTS 製 810 Material Test System)を用 い, 外側および内側支点間距離をそれぞれ 30 mm および 15 mm,変位速度を 0.01 mm/s とした. Fig.2 に 示すように,皮膜に圧縮および引張荷重が作用する ように配置し,試験時の荷重および変位を計測した. また,アコースティックエミッション(Acoustic Emission, AE)法により,累積 AE 信号が急速に増加 する点を皮膜のはく離と仮定し,そのときの応力お よび変位を計測した.なお, He600HC 材に関しては, 基材の強度が他の試料と異なるため、本試験の対象 から外した,荷重から応力への換算は下記の式から 求めた.荷重から応力への換算は下記の式からop=3P(L-1/2wt'-2っは表面応力, P ははく離時の荷重,L れぞれ外側および内側の支店間距離, w . およびt は試験片の厚さを示す.strateここで, 0 は表面応力, P ははく離時の荷重,L およびIはそれぞれ外側および内側の支店間距離, w は試験片の幅,およびtは試験片の厚さを示す.SubstrateDepositCompressive loadingDepositSubstrate Tensile loading Fig.2 Loading modes for four-point bending tests.3.結果および考察3.1 断面組織観察結果 ・どの施工条件においても付着は成功し、 2 パスの 施工によって,N700S は約 400 um, He600S は約 1100 um, および He600HC は約 320um の付着層を得るこ とができた.これら付着層の断面 SEM 観察像をFig. 3 に示す.また,このときの気孔率および付着効率 を Table 4にまとめる. He600S は気孔率 1.8 %であ り,極めて緻密で厚い付着層を得ることに成功した. ガス流速が約1/2 である N700S は, He600S に比べ, 付着層厚さが約 1/3,気孔率は約 4 倍,さらに付着 効率は 1/4 という結果になった.これは粒子の付着 に関し,粒子速度が大きく関係していることを示唆 している。3.3皮膜強度評価試験結果 of cold sprayed depositions.四点曲げ試験による荷重-変位曲線およびれ 出の1本ムのはた115 Table 4 Results of cold spraying. Specimens Thickness Porosity ratio | Deposition(um) | (%) * | efficiency (%) N700S 400 7.815.0 He600S 11001.860.1 He600HC 3208.4また,コールドスプレー条件が同様で基材の鋼種 のみが異なる He600S と He600HC においても, 付着 厚さ,気孔率が大きく変化することが明らかとなっ た.これは,後述するように高炭素鋼の硬さが SUS るように高炭素鋼の硬さが SUS理・後処理等により改善する必要があろう.鋼に比べて硬く,基材の塑性変形が十分に生じてい ないことが原因と考えられる.しかし,その詳細に 関しては、まだ判っておらず,更なる検討が必要と 考える 3.2 Vickers 硬さ計測結果 1界面からの距離と皮膜断面硬さの分布を Fig. 4 に 示す.各試料は付着層の厚さが異なるため,単純な 比較はできないが, コールドスプレー皮膜の硬さは いずれの試験片においても基材の硬さに比べ,硬化 する傾向を示した.付着層硬化の要因は、粒子が高 速で基材と衝突したことによる加工硬化の可能性が 考えられる.また N700S や He600HC の硬さが He600S と比べ低い値を示している要因としては,前 述の高い気孔率の影響が考えられる.さらに N700S や He600HC においては,付着層内部でばらつきが 大きくなる傾向を示した.この原因に関しても気孔 率が影響しているものと考えられる. Substrate - CoatingSurface of He 600HC Surface of N700S Surface of He 600SHigh carbon steel bulkSUS304 bluk N700SHe600S ●He600HC:-400 10400 8001 1200 Distance from the interfaceum)3.3皮膜強度評価試験結果四点曲げ試験による荷重-変位曲線およびはく離 時の荷重と変位の値を,Fig. 5 に示す.引張荷重負 荷時においては, 2 つの試験片ともに皮膜のはく離 が生じた. He600S は N700S と比べ,高い荷重では く離していることから,接合強度は高いものと判断 できる.また, He600S における強度の急激な低下位 置は付着層に縦割れが入ったことによるものであり, この位置はほぼ塑性変形が開始する点と一致する. 一般の構造物は,塑性変形を生じる応力下で使用さ れることはないことから,弾性変形領域で強度の高 いコールドスプレー付着層は十分に使用可能なレベ ルであると考える.ただし,応力の急激な低下は, 信頼性の観点から思わしくない.この点に関しては、 スプレー条件の最適化や付着層あるいは粒子の前処 理・後処理等により改善する必要があろう. - 30 -一方,圧縮荷重負荷時においては、N700S および He600S ともにはく離や破断は生じず, 曲線はほぼ同 様の傾向を示した. 圧縮応力が負荷される部位に関 しては、極めて有効であることが明らかとなった. 圧縮荷重(応力)が作用する部材においては,窒素ガ スを用いた付着層であっても十分な強度を得ること が可能である.Displacement(mm)Fig.5 Results of four-point bending tests.4. まとめ(1) 皮膜断面微細組織観察の結果から,作動ガスにHe を使用することで気孔率 1.8%と,極めて緻密な皮膜を得ることができた. (2) 硬さ試験の結果から, コールドスプレーにより施工した付着層の硬さは,バルク材のそれより も高くなる傾向を示し,高速衝突による加工硬化の影響が示唆された. (3) 四点曲げ試験の結果から,引張荷重負荷下においては,付着層にき裂が生じ、急激な荷重低下 を示すことがわかった.しかし, He600S ではき 裂が生じるまでの応力は高く,一般の構造物が 塑性変形を生じる応力下では使用されないこと を考慮すれば,コールドスプレー付着層の強度 は十分であると考える.また圧縮荷重に関して は, N700S および He600S ともにはく離や破断は 生じず,圧縮応力が負荷される部位に関しては、極めて有効であることが明らかとなった. (4) 以上の結果から,コールドスプレー法による炭素鋼補修の可能性が示唆された.謝辞本研究の一部は、文部科学省特別教育研究経費 連携融合事業 「エネルギー安全科学国際共同研究 プロジェクト(平成17-21年度)」の一環として 実施されたものである.ここに謝意を表する.参考文献[1] 能勢太郎,山田雅人,深田利昭, 酒井忠迪,高野正義,後藤明伸: “リアクタ世界一への挑戦とリアク タにかかわる最近の動向”, 神戸製鋼技報, 50(2000), pp. 95-98. [2] A. P. Alkhimov, V. F. Kosarev, A. N. Papyrin: “A Methodof Cold Gas-Dynamic Deposition,” Sov. Phys. Dokl.,35 (1990), pp. 1047-1049. [3] A.P. Alkimov, V.F. Kosarev, N.I. Nesterovich,A.N.Papyrin: “Method of Applying Coatings,” RussianPatent No.1618778, 8 Sept 1990. [4] A.P. Alkhimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I.Nesterovich, M.M. Shushpanov: Gas-dynamic spray method for applying a coating. U.S. Patent No.5,302,414; April 12, 1994. [5] A.P. Alkhimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I.Nesterovich, M.M. Shushpanov: Method and device for coating. European Patent No. 0 484 533 B1;January 25, 1995. [6] A.P. Alkimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I.Nesterovich, et al.: “Gas Dynamic Spraying Method for Applying a Coating,” U.S. Patent No. 5,302,414;April 12, 1994, Re-examination Certificate, Feb. 25. [7] + 和彦:“コールドスプレーの概要と研究・開発の動向”, 溶接学会誌 Vol.75 No.8 (2006)
“ “?コールドスプレー法による構造物のき裂・損傷部に対する補修技術に関する基礎的研究 “ “小川 和洋,Kazuhiro OGAWA,天尾 聡,Satoshi AMAO,市川 裕士,Yuji ICHIKAWA,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI
化学プラントや発電プラント等においては,経年的 な劣化が否めず,構成材料にはき裂の発生やエロージ ョン・コロージョン等の損傷の発生が危惧されている. 特に,化学反応が生じる部位に関しては腐食が顕著と なり,減肉による劣化の発生が懸念されている.以上 のような劣化・損傷部位には,溶接による補修やオー バーレイ(溶接肉盛)が施されている場合も見受けられ る[11. しかし,溶接による補修やオーバーレイは,施 工時間が長いことや特殊技能を必要とすることから, より簡便で施工速度の速い補修技術の確立が重要とな っている.近年,金属粒子を溶融させることなく,高 速のガス流に金属粉末を乗せ,基材へ衝突させること で皮膜を形成する新しいコーティング技術としてコー ルドスプレー法が注目されている. コールドスプレー 法[2-[6]は、装置自体がシンプルで(Fig.1 参照),熱影響 部や初期金属粒子の相変態を生じさせることなく,ち 密で高品質な皮膜を mm オーダーで形成することが可 能な技術である1. Powder Hopperしかし,コールドスプレーは衝突時の大きな塑性変 形に伴い粒子を付着させるため,高炭素鋼等の硬い鉄 系材料はコールドスプレー法による付着が困難である. また,コールドスプレー法がこれまでに耐酸化あるい は耐摩耗コーティングの施工方法として応用されてき たために鉄系の材料を用いた補修に関する過去の検討 例が少ない.そこで本研究では,化学プラントや発電 プラント等において多く用いられている鋼構造部材の 補修に対するコールドスプレー法の適用を目的とし, 高炭素鋼材料の厚膜施工を試みた.得られた皮膜の断 面微細組織観察および断面硬さ等の機械的特性を評価 し,補修あるいはオーバーレイ技術としての可能性を 検討した.
2. 実験方法 2.1 供試材および作動ガス 1. 本研究では,供試粉末材としてガスアトマイズ法に より作製した平均粒径25 mm の炭素量 0.70%の高炭素 鋼を用いた. 化学組成および機械的特性を Table 1 およ び2にそれぞれ示す. * 基材には粉末同様の高炭素鋼と SUS304 平板の2種 類を用い,高圧型コールドスプレー装置(プラズマ技 研工業(株)製 PCS-103-3)により施工した.本研究においては,粒子衝突速度に大きな影響を及 ぼすノズル出口のガス流速を作動ガス種により変化さ せ,施工を行った.作動ガスには,窒素およびヘリウ ムガスを用いた.ノズル出口のガス流速は(1)式から算 出した. 成膜条件およびガス流速を Table 3 にまとめる. 入 は比熱比, R はガス定数, T; はノズル入口温度,P;算出した2.2 断面組織観察試験 ー コールドスプレー法による皮膜と基材の付着状 態を評価するため,走査型電子顕微鏡(SEM)((株) 日立ハイテクノロジー製 S-4700)を用いて皮膜断面 の微細組織を観察した.また,画像処理ソフト Image-J を用いて皮膜断面の気孔率を測定した.2.3 Vickers 硬さ計測 - 基材および皮膜の硬さの差異を評価するため, N700S, He600S,および He600HC(Table 3 参照) および基材の Vickers 硬さを微小硬さ試験機 (Fischer Instruments 社製 H100)を用い計測を行った.2.4 皮膜強度評価試験 - 皮膜の付着強度を評価するため,四点曲げ試験を 行った.試験片寸法は,長さ 35 mm, 幅 5 mm,基 材厚さを 2 mm,皮膜厚さを 0.2 mm とした. 試験は, 材料試験機(MTS 製 810 Material Test System)を用 い, 外側および内側支点間距離をそれぞれ 30 mm および 15 mm,変位速度を 0.01 mm/s とした. Fig.2 に 示すように,皮膜に圧縮および引張荷重が作用する ように配置し,試験時の荷重および変位を計測した. また,アコースティックエミッション(Acoustic Emission, AE)法により,累積 AE 信号が急速に増加 する点を皮膜のはく離と仮定し,そのときの応力お よび変位を計測した.なお, He600HC 材に関しては, 基材の強度が他の試料と異なるため、本試験の対象 から外した,荷重から応力への換算は下記の式から 求めた.荷重から応力への換算は下記の式からop=3P(L-1/2wt'-2っは表面応力, P ははく離時の荷重,L れぞれ外側および内側の支店間距離, w . およびt は試験片の厚さを示す.strateここで, 0 は表面応力, P ははく離時の荷重,L およびIはそれぞれ外側および内側の支店間距離, w は試験片の幅,およびtは試験片の厚さを示す.SubstrateDepositCompressive loadingDepositSubstrate Tensile loading Fig.2 Loading modes for four-point bending tests.3.結果および考察3.1 断面組織観察結果 ・どの施工条件においても付着は成功し、 2 パスの 施工によって,N700S は約 400 um, He600S は約 1100 um, および He600HC は約 320um の付着層を得るこ とができた.これら付着層の断面 SEM 観察像をFig. 3 に示す.また,このときの気孔率および付着効率 を Table 4にまとめる. He600S は気孔率 1.8 %であ り,極めて緻密で厚い付着層を得ることに成功した. ガス流速が約1/2 である N700S は, He600S に比べ, 付着層厚さが約 1/3,気孔率は約 4 倍,さらに付着 効率は 1/4 という結果になった.これは粒子の付着 に関し,粒子速度が大きく関係していることを示唆 している。3.3皮膜強度評価試験結果 of cold sprayed depositions.四点曲げ試験による荷重-変位曲線およびれ 出の1本ムのはた115 Table 4 Results of cold spraying. Specimens Thickness Porosity ratio | Deposition(um) | (%) * | efficiency (%) N700S 400 7.815.0 He600S 11001.860.1 He600HC 3208.4また,コールドスプレー条件が同様で基材の鋼種 のみが異なる He600S と He600HC においても, 付着 厚さ,気孔率が大きく変化することが明らかとなっ た.これは,後述するように高炭素鋼の硬さが SUS るように高炭素鋼の硬さが SUS理・後処理等により改善する必要があろう.鋼に比べて硬く,基材の塑性変形が十分に生じてい ないことが原因と考えられる.しかし,その詳細に 関しては、まだ判っておらず,更なる検討が必要と 考える 3.2 Vickers 硬さ計測結果 1界面からの距離と皮膜断面硬さの分布を Fig. 4 に 示す.各試料は付着層の厚さが異なるため,単純な 比較はできないが, コールドスプレー皮膜の硬さは いずれの試験片においても基材の硬さに比べ,硬化 する傾向を示した.付着層硬化の要因は、粒子が高 速で基材と衝突したことによる加工硬化の可能性が 考えられる.また N700S や He600HC の硬さが He600S と比べ低い値を示している要因としては,前 述の高い気孔率の影響が考えられる.さらに N700S や He600HC においては,付着層内部でばらつきが 大きくなる傾向を示した.この原因に関しても気孔 率が影響しているものと考えられる. Substrate - CoatingSurface of He 600HC Surface of N700S Surface of He 600SHigh carbon steel bulkSUS304 bluk N700SHe600S ●He600HC:-400 10400 8001 1200 Distance from the interfaceum)3.3皮膜強度評価試験結果四点曲げ試験による荷重-変位曲線およびはく離 時の荷重と変位の値を,Fig. 5 に示す.引張荷重負 荷時においては, 2 つの試験片ともに皮膜のはく離 が生じた. He600S は N700S と比べ,高い荷重では く離していることから,接合強度は高いものと判断 できる.また, He600S における強度の急激な低下位 置は付着層に縦割れが入ったことによるものであり, この位置はほぼ塑性変形が開始する点と一致する. 一般の構造物は,塑性変形を生じる応力下で使用さ れることはないことから,弾性変形領域で強度の高 いコールドスプレー付着層は十分に使用可能なレベ ルであると考える.ただし,応力の急激な低下は, 信頼性の観点から思わしくない.この点に関しては、 スプレー条件の最適化や付着層あるいは粒子の前処 理・後処理等により改善する必要があろう. - 30 -一方,圧縮荷重負荷時においては、N700S および He600S ともにはく離や破断は生じず, 曲線はほぼ同 様の傾向を示した. 圧縮応力が負荷される部位に関 しては、極めて有効であることが明らかとなった. 圧縮荷重(応力)が作用する部材においては,窒素ガ スを用いた付着層であっても十分な強度を得ること が可能である.Displacement(mm)Fig.5 Results of four-point bending tests.4. まとめ(1) 皮膜断面微細組織観察の結果から,作動ガスにHe を使用することで気孔率 1.8%と,極めて緻密な皮膜を得ることができた. (2) 硬さ試験の結果から, コールドスプレーにより施工した付着層の硬さは,バルク材のそれより も高くなる傾向を示し,高速衝突による加工硬化の影響が示唆された. (3) 四点曲げ試験の結果から,引張荷重負荷下においては,付着層にき裂が生じ、急激な荷重低下 を示すことがわかった.しかし, He600S ではき 裂が生じるまでの応力は高く,一般の構造物が 塑性変形を生じる応力下では使用されないこと を考慮すれば,コールドスプレー付着層の強度 は十分であると考える.また圧縮荷重に関して は, N700S および He600S ともにはく離や破断は 生じず,圧縮応力が負荷される部位に関しては、極めて有効であることが明らかとなった. (4) 以上の結果から,コールドスプレー法による炭素鋼補修の可能性が示唆された.謝辞本研究の一部は、文部科学省特別教育研究経費 連携融合事業 「エネルギー安全科学国際共同研究 プロジェクト(平成17-21年度)」の一環として 実施されたものである.ここに謝意を表する.参考文献[1] 能勢太郎,山田雅人,深田利昭, 酒井忠迪,高野正義,後藤明伸: “リアクタ世界一への挑戦とリアク タにかかわる最近の動向”, 神戸製鋼技報, 50(2000), pp. 95-98. [2] A. P. Alkhimov, V. F. Kosarev, A. N. Papyrin: “A Methodof Cold Gas-Dynamic Deposition,” Sov. Phys. Dokl.,35 (1990), pp. 1047-1049. [3] A.P. Alkimov, V.F. Kosarev, N.I. Nesterovich,A.N.Papyrin: “Method of Applying Coatings,” RussianPatent No.1618778, 8 Sept 1990. [4] A.P. Alkhimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I.Nesterovich, M.M. Shushpanov: Gas-dynamic spray method for applying a coating. U.S. Patent No.5,302,414; April 12, 1994. [5] A.P. Alkhimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I.Nesterovich, M.M. Shushpanov: Method and device for coating. European Patent No. 0 484 533 B1;January 25, 1995. [6] A.P. Alkimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I.Nesterovich, et al.: “Gas Dynamic Spraying Method for Applying a Coating,” U.S. Patent No. 5,302,414;April 12, 1994, Re-examination Certificate, Feb. 25. [7] + 和彦:“コールドスプレーの概要と研究・開発の動向”, 溶接学会誌 Vol.75 No.8 (2006)
“ “?コールドスプレー法による構造物のき裂・損傷部に対する補修技術に関する基礎的研究 “ “小川 和洋,Kazuhiro OGAWA,天尾 聡,Satoshi AMAO,市川 裕士,Yuji ICHIKAWA,庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI