電磁気的手法を用いたレール鋼の非破壊損傷評価
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
鉄道等レールを有する輸送機器の信頼性、健全性を 保する上で、レールの保守、検査技術の確立は大き a課題である。 鉄道用レール鋼にはパーライトからなる高炭素鋼が 用いられているが、車輪の転動接触による摩擦熱によ ●発熱と冷却を繰り返し、マルテンサイトを主成分と ーる白色層という硬化層が生成される。この白色層が はく離等を生じ疲労き裂等の起点となる場合が多く、 早期にまた定量的に検出することが急務となってきて いる。[1-2]ところで、これまで我々のグループでは、オーステ 一イト系ステンレス鋼を対象として塑性変形や疲労変により生じるマルテンサイトが漏洩磁束法やECT法 ●の電磁気的な手法により測定できることを明らかに してきた。[3-5] そこで、本研究ではこれらの電磁気的な手法を用い レール鋼の相変化の検出が可能であるか試みた。ま 、漏洩磁束法によりレーザー焼入れにより作成した 真擬白色層近傍の漏洩磁束密度変化の測定を行い、そ○幅、深さと漏洩磁束密度との関係を明らかにした。た、ECT 法により、模擬白色層と母材との位相差を 則定し、さらに印加周波数と模擬白色層の出力信号と関係を求めた。これらの結果から、電磁気的な手法 こよる白色層の定量的な検出・評価の可能性について 検討を行った。
2. 試験片及び実験方法2.1 試験片試験片は鉄道用レールに使用される高炭素鋼(E1101 50kgNレール)であり、その化学成分をTable 1に示す。 母材はパーライトで強磁性体である。また、実機の使用 過程中に生じる白色層を模擬するため、試験片表面にレ ーザー焼入れにより模擬白色層を生成させた。その硬さ は900HVであり、実機の白色層の硬さ(800HV)とほぼ 司等の値を示している。[2]試験片は一辺が120X120X8.9mmの正方形状の板材の 中央部に水平方向に幅4.4mm、深さ1mmおよび100μmの 莫擬白色層を有するものを用いた。そのマクロ写真を Fig.1に示す。また、Fig.2のレーザー顕微鏡写真により、 莫擬白色層ではマルテンサイト状の組織が生成してい ることを確認することができる。Fig. 3 Non-destructive damage evaluation system magnetic flux leakage.2.2 Hall センサによる漏洩磁束密度測定漏洩磁束密度の測定は Fig.3 のような非破壊評価シ ステムにより行った。Hall センサ、X-Y ステージ、コ ントローラ、コンピュータ等から構成される。試験片 にはネオジム磁石(0.38T)により帯磁を行いながら、 模擬白色層に対し垂直方向に走査を行った。Hall セン サのリフトオフは 2mm である。2.3 ECT 測定ECT 測定には、中央に励磁コイル、両側に検出コイ ルを配置した三連コイルを用いた。[6] そのリフトオ フは1mm である。測定は Fig.1 で示すように、A、B、 C のように模擬白色層に対し垂直方向に走査を行うと ともに、D のように母材のみの領域においても同様に 行った。3.測定結果および考察3. 1Hall センサによる漏洩磁束密度測定 - 模擬白色層深さ 1mm 及び 100um の長手方向及び鉛 直方向の漏洩磁束密度B, と B,の分布を、それぞれFig.4 に示す。模擬白色層深さ 1mm 及び 100um の試験片測 定において、ともに B, と B, の分布にて、模擬白色層 に対応した磁束密度分布を検出することができた。ま た、この分布は、磁性体に欠陥が存在するときの漏洩 磁束密度の分布と同様なものである。交流透磁率を測 定して得られた模擬白色層の比透磁率は母材と比較し て低く[7]、欠陥と同様の漏洩磁束密度分布を生じたと 考えられる。また、Fig.4 (a) の模擬白色層深さ 1mm の B,分布と Fig.4(6) の模擬白色層深さ 100um の B,分布ともその極 値は模擬白色層の端部とほぼ一致しており、漏洩磁束 密度B,の測定により模擬白色相の幅の同定が可能であ ることがわかる。さらに、Fig.4(a) の模擬白色層深さ 1mm と Fig.4(0) の模擬白色層深さ 100um の極値間の差AB,を比較する と、模擬白色層深さ 1mm の場合は 0.93 x 102T である のに対し、模擬白色層深さ 100um 場合は 0.39 x 10““ T であり、著しい差が認められた。したがって、さらに 様々な深さの白色層の深さのデータを取得することに より、その深さも同様に推測できる可能性を有する。3.2 ECT 測定4. 結言 模擬白色層深さ 1mm 及び 100um の試験片での領域 A~DをECT センサで測定し、その位相差で表示した結電磁気的手法を用いて、模擬白色層を有するレール 果を Fig.5(a)、(b)に示す。模擬白色層を含む A~C に関 - 鋼の非破壊損傷評価を行った結果、以下の結論を得た。 する結果では模擬白色層近傍で位相差が増加する傾向 が確認された。一方、模擬白色層の影響が無い母材の (1) Hall センサを用いて漏洩磁束を測定することによ みを走査したDでは、いずれも一定の値を示し本セン り、模擬白色層の深さが 1mm、100um の場合とも、 サの有効性を示した。これは模擬白色層では 3.1 で述 検出することができた。また、漏洩磁束密度分布 べたように母材と比較して非透磁率が減少することに B, の極値から模擬白色層の幅を同定することがで 加えて、電気抵抗率も母材では 0.24u2m に対し、模擬 きた。 白色層では 0.34uQm[7]と変化するためである。(2) 3連コイルを有する ECT センサを用いて、その位 また、Fig.5(b)には模擬白色層 100um の試験片を用い 相差を測定したところ、模擬白色層と母材では明 「ECT センサの印加周波数を変化させた場合の結果を示 確な差異が認められた。す。渦電流が表面近傍に集中する 100kHz の方が 50kHz (3) 漏洩磁束法やECT 法を用いることにより、模擬白 と比較して模擬白色層近傍での変化が現れていること 色層の検出は十分に可能であった。また、さらに がわかる。さらに様々な周波数で試験を行うことによ データを取得していくことによりその深さ等も推 り、白色層の深さとの関係も得ることができると考え 定することができる可能性を有する。られる。104[1] 加藤孝憲 他接触下におけ2007. [2] 宮崎佳樹 岩による鉄道用 連のダイナミ2008. [3] 鈴木隆之,寺びECTセンサ の疲労損傷評pp.141-143, 20 [4] 寺本徳郎, 土よるオーステVol.42, No.5, [S] 寺本徳郎, EC鋼の高精度損pp.87-93, 2005 [6] 山田興治, 高法による構造
“ “電磁気的手法を用いたレール鋼の非破壊損傷評価“ “鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI,寺崎 亮実,Akimitsu TERASAKI,寺本 徳郎,Tokuo TERAMOTO,宮崎 佳樹,Yoshiki MIYAZAKI,岩松 勝,Masaru IWAMATSU
鉄道等レールを有する輸送機器の信頼性、健全性を 保する上で、レールの保守、検査技術の確立は大き a課題である。 鉄道用レール鋼にはパーライトからなる高炭素鋼が 用いられているが、車輪の転動接触による摩擦熱によ ●発熱と冷却を繰り返し、マルテンサイトを主成分と ーる白色層という硬化層が生成される。この白色層が はく離等を生じ疲労き裂等の起点となる場合が多く、 早期にまた定量的に検出することが急務となってきて いる。[1-2]ところで、これまで我々のグループでは、オーステ 一イト系ステンレス鋼を対象として塑性変形や疲労変により生じるマルテンサイトが漏洩磁束法やECT法 ●の電磁気的な手法により測定できることを明らかに してきた。[3-5] そこで、本研究ではこれらの電磁気的な手法を用い レール鋼の相変化の検出が可能であるか試みた。ま 、漏洩磁束法によりレーザー焼入れにより作成した 真擬白色層近傍の漏洩磁束密度変化の測定を行い、そ○幅、深さと漏洩磁束密度との関係を明らかにした。た、ECT 法により、模擬白色層と母材との位相差を 則定し、さらに印加周波数と模擬白色層の出力信号と関係を求めた。これらの結果から、電磁気的な手法 こよる白色層の定量的な検出・評価の可能性について 検討を行った。
2. 試験片及び実験方法2.1 試験片試験片は鉄道用レールに使用される高炭素鋼(E1101 50kgNレール)であり、その化学成分をTable 1に示す。 母材はパーライトで強磁性体である。また、実機の使用 過程中に生じる白色層を模擬するため、試験片表面にレ ーザー焼入れにより模擬白色層を生成させた。その硬さ は900HVであり、実機の白色層の硬さ(800HV)とほぼ 司等の値を示している。[2]試験片は一辺が120X120X8.9mmの正方形状の板材の 中央部に水平方向に幅4.4mm、深さ1mmおよび100μmの 莫擬白色層を有するものを用いた。そのマクロ写真を Fig.1に示す。また、Fig.2のレーザー顕微鏡写真により、 莫擬白色層ではマルテンサイト状の組織が生成してい ることを確認することができる。Fig. 3 Non-destructive damage evaluation system magnetic flux leakage.2.2 Hall センサによる漏洩磁束密度測定漏洩磁束密度の測定は Fig.3 のような非破壊評価シ ステムにより行った。Hall センサ、X-Y ステージ、コ ントローラ、コンピュータ等から構成される。試験片 にはネオジム磁石(0.38T)により帯磁を行いながら、 模擬白色層に対し垂直方向に走査を行った。Hall セン サのリフトオフは 2mm である。2.3 ECT 測定ECT 測定には、中央に励磁コイル、両側に検出コイ ルを配置した三連コイルを用いた。[6] そのリフトオ フは1mm である。測定は Fig.1 で示すように、A、B、 C のように模擬白色層に対し垂直方向に走査を行うと ともに、D のように母材のみの領域においても同様に 行った。3.測定結果および考察3. 1Hall センサによる漏洩磁束密度測定 - 模擬白色層深さ 1mm 及び 100um の長手方向及び鉛 直方向の漏洩磁束密度B, と B,の分布を、それぞれFig.4 に示す。模擬白色層深さ 1mm 及び 100um の試験片測 定において、ともに B, と B, の分布にて、模擬白色層 に対応した磁束密度分布を検出することができた。ま た、この分布は、磁性体に欠陥が存在するときの漏洩 磁束密度の分布と同様なものである。交流透磁率を測 定して得られた模擬白色層の比透磁率は母材と比較し て低く[7]、欠陥と同様の漏洩磁束密度分布を生じたと 考えられる。また、Fig.4 (a) の模擬白色層深さ 1mm の B,分布と Fig.4(6) の模擬白色層深さ 100um の B,分布ともその極 値は模擬白色層の端部とほぼ一致しており、漏洩磁束 密度B,の測定により模擬白色相の幅の同定が可能であ ることがわかる。さらに、Fig.4(a) の模擬白色層深さ 1mm と Fig.4(0) の模擬白色層深さ 100um の極値間の差AB,を比較する と、模擬白色層深さ 1mm の場合は 0.93 x 102T である のに対し、模擬白色層深さ 100um 場合は 0.39 x 10““ T であり、著しい差が認められた。したがって、さらに 様々な深さの白色層の深さのデータを取得することに より、その深さも同様に推測できる可能性を有する。3.2 ECT 測定4. 結言 模擬白色層深さ 1mm 及び 100um の試験片での領域 A~DをECT センサで測定し、その位相差で表示した結電磁気的手法を用いて、模擬白色層を有するレール 果を Fig.5(a)、(b)に示す。模擬白色層を含む A~C に関 - 鋼の非破壊損傷評価を行った結果、以下の結論を得た。 する結果では模擬白色層近傍で位相差が増加する傾向 が確認された。一方、模擬白色層の影響が無い母材の (1) Hall センサを用いて漏洩磁束を測定することによ みを走査したDでは、いずれも一定の値を示し本セン り、模擬白色層の深さが 1mm、100um の場合とも、 サの有効性を示した。これは模擬白色層では 3.1 で述 検出することができた。また、漏洩磁束密度分布 べたように母材と比較して非透磁率が減少することに B, の極値から模擬白色層の幅を同定することがで 加えて、電気抵抗率も母材では 0.24u2m に対し、模擬 きた。 白色層では 0.34uQm[7]と変化するためである。(2) 3連コイルを有する ECT センサを用いて、その位 また、Fig.5(b)には模擬白色層 100um の試験片を用い 相差を測定したところ、模擬白色層と母材では明 「ECT センサの印加周波数を変化させた場合の結果を示 確な差異が認められた。す。渦電流が表面近傍に集中する 100kHz の方が 50kHz (3) 漏洩磁束法やECT 法を用いることにより、模擬白 と比較して模擬白色層近傍での変化が現れていること 色層の検出は十分に可能であった。また、さらに がわかる。さらに様々な周波数で試験を行うことによ データを取得していくことによりその深さ等も推 り、白色層の深さとの関係も得ることができると考え 定することができる可能性を有する。られる。104[1] 加藤孝憲 他接触下におけ2007. [2] 宮崎佳樹 岩による鉄道用 連のダイナミ2008. [3] 鈴木隆之,寺びECTセンサ の疲労損傷評pp.141-143, 20 [4] 寺本徳郎, 土よるオーステVol.42, No.5, [S] 寺本徳郎, EC鋼の高精度損pp.87-93, 2005 [6] 山田興治, 高法による構造
“ “電磁気的手法を用いたレール鋼の非破壊損傷評価“ “鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI,寺崎 亮実,Akimitsu TERASAKI,寺本 徳郎,Tokuo TERAMOTO,宮崎 佳樹,Yoshiki MIYAZAKI,岩松 勝,Masaru IWAMATSU