ガイド波による配管減肉検査システム
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
1. 火力・原子力発電プラント、石油精製・化学プラン - 水力・原子力発電プラント、石油精製・化学プラン トでは、高経年化プラントが増加している。それに伴い、 プラントに多数存在する配管の劣化状態、特に減肉の 状態を効率良く把握する技術の必要性が高まりつつあ る。しかしながら、非破壊で配管の減肉を検出する試験 方法として一般的に知られている放射線透過試験、超 音波試験、過電流試験では、一度に検査できる範囲が 狭く、時間的・金銭的コストが無視できない。また、 高所に設置された配管に対しては足場の設置・解体が 必要であり、放射線透過試験以外では、測定箇所毎に 保温材の撤去・復旧が必要となる。 ・ この問題を解決する技術の一つとして、管体のガイ ド波を用いた長距離検査方法が提案されており、一部は実用ベースにある[1]。超音波厚さ計が、局所領域の 減肉深さを高精度に測定する技術であるのに対して、 ガイド波検査は、数十メートルの距離を伝搬する特徴 を活かして広範囲の減肉をスクリーニングする技術で ある。 1. 本稿では、低周波数に適した構造の簡型探触子を用 いたガイド波の送受信方法と、その方法を搭載した検 査システムの概要、および試験体を用いた測定例を紹 介する。また、大口径の配管に対して、部分的に配置 する新たなタイプのセンサを使って、減肉の周方向位 置を特定する技術を開発中であるので、その概要を紹 介する。 早さ計か、同所限り) る止力回()へのコ吸収の世11月 (りて、 市であるのに対して、 負方向(左方向)への合成波動の進行波 A (,t)は、波 の距離を伝搬する特徴動の重ねあわせとして、各々式(1)と式(2)で与えられる。 リーニングする技術で
ここでxは配管軸方向座標、A, と A, は各々位置1と位 討して、部分的に配置置2 に与える送信信号の振幅、のは角周波数、t は時 って、減肉の周方向位間、kは波数、T(= 2m/o)は周期、21= 2m/k) はガイ るので、その概要を紹ド波の波長、は虚数単位である。式(1) (2)において、A, = A, とすれば、正方向への進行波の振幅は倍増し、 73 茨城県日立市幸町負方向への進行波は相殺されることになる。 ・エナジー(株)、電話:実際に検査に用いる送信信号は、一定時間持続する aira.vf@hitachi.comバースト波なので、位置1に与える送信信号に対して、 位置2に同一の送信信号を4分の1周期遅延させて与連絡先:小平小治郎、〒317-0073 茨城県日立市幸町 3-1-1、日立 GE ニュークリア・エナジー(株)、電話: 0294-55-5950, e-mail: kojiro.kodaira.vf@hitachi.com・ ガイド波を用いた配管検査の概要をFig.1に示す。 配管にリング状のセンサを設置し、配管に沿って軸方 向に伝搬するガイド波を発生させる。減肉位置で反射 したガイド波の反射信号の検出時間と振幅から、減肉 の位置と大きさ(配管断面積に対する比率)を測定す配管の軸に沿った一方向にガイド波を励起するため に、軸方向に離散的に一対の送信源を配列した櫛型セ ンサを用いる。配管の軸方向に4分の1波長離れた二 箇所の位置に、4分の1周期の時間遅延を与えた同相 もしくは逆相の信号を送信して、後方へ進行するガイ ド波を能動的に抑制する原理を用いる。この原理によ る正方向(右方向)への合成波動の進行波 A* (x,t)と、 負方向(左方向)への合成波動の進行波 A- (x, t)は、波 動の重ねあわせとして、各々式(1)と式(2)で与えられる。
ここでxは配管軸方向座標、A, と A, は各々位置1と位 置2に与える送信信号の振幅、のは角周波数、t は時 間、kは波数、T(=2n/a)は周期、2(= 2m/k)はガイ ド波の波長、j は虚数単位である。式(1) (2)において、 A, = A, とすれば、正方向への進行波の振幅は倍増し、 負方向への進行波は相殺されることになる。 - 実際に検査に用いる送信信号は、一定時間持続する バースト波なので、位置1に与える送信信号に対して、 位置2に同一の送信信号を4分の1周期遅延させて与 - 305 -える方法と、Fig. 2 に示すように、位置1に与える送 信信号に対して、位置2に極性が反対の信号を4分の 1周期早く与える方法に分けることができる。前者の 方法は、正方向への進行波を完全に二倍化することが できるが、負方向への進行波を完全に打ち消すことは できない。一方で、後者の方法は、正方向への進行波 を完全に二倍化することはできないが、負方向への進 行波を理論的には完全に打ち消すことができる。 1 検査においては、減肉からの反射信号とそれ以外の 信号(ノイズ)を区別するためにはSN比の向上が重 要であるので、センサ後方への送信信号を低減してノ イズを抑制できる後者に示す送信方式が有効である。 なお、ガイド波の受信時においても、図示はしないが、 送信時と逆の過程で単一方向からの信号のみを抽出す る二通りの処理方法があるが、送信と同じ理由で後者 の方法に相当する信号処理を施して受信信号とする。Heat insulatorSeveral dozen metersDiscontinuityGuided wavePipeSensorGuided wave inspectionsystemFig. 1 Overview of pipe inspection using guided wavesPosition 1 SuppressionPosition 2SuperpositionPipeTransmitting signal (Position 1)Transmitting signal (Position 2)AmplitudeAmplitudeTimeTimeFig. 2Unidirectional transmission by inter-digital sensors3. システム構成ガイド波配管減肉検査システムとガイド波センサ (配管外径 50A、100A、300A、500A 用)の概観を Fig. 3 に示す。波形発生器、パワーアンプ、A/D変換器 等を内蔵する装置本体とコンピュータで構成される。 ガイド波センサは、50A 配管用では 16個(8個×2 列) の櫛型探触子を有する。各探触子は、すべり振動の超 音波振動子を有し、水を包含する配管でもほとんど減 衰がない非分散性のねじり振動 T(, ) モードのガイ ド波を送受信する。Guided wave inspection systemMEUSfor 100A pipeFig. 3 Guided wave inspection system and sensors4. 実験結果試験に用いた配管は、炭素鋼管(STPG370) の 50A スケジュール 80 (公称外径 60.5mm、公称肉厚 5.5mm) で、いずれも全長が 5.5m である。模擬減肉は、配管の 断面積比が 1%の楕円形状であり、肉厚方向深さと軸 方向長さの比を、1:8、1:16、1 : 32 の3種類とした。 試験体の概要と減肉の形状を Fig. 4 に示す。配管内外 面の減肉の検出性は殆ど変化がないため、外面から減 肉を付与した。試験結果を Fig. 5に示す。各試験体の 模擬減肉 A、B、Cともに、明瞭に検出できている。Guided wave sensor
Experimental results5. 大口径配管での減肉位置の特定 * Fig. 3 に示したガイド波センサは、配管の全周に探 触子を配置する必要があるため、配管の口径が大きく なるに伴ってセンサのサイズが大きくなる問題がある。 この課題を解決するために、主に大口径配管に対して、 センサから比較的短距離の間を点検する目的で、Fig.6 に示す部分設置型ガイド波センサを開発中である。使 用する櫛型探触子は Fig. 3 と同じで、配管内に水を内 包しても、殆ど減衰が生じない剪断振動モードを送受 信する。性能確認に用いた試験体の一例を Fig.7に示す。口 径 500A、厚さ 9.5mm の配管で、内面にポリエチレン ライニングを施工してあり、配管の断面積に対する比 率で 3%の減肉 b を 180°の位置に、5%の減肉 cを 270°の位置に付与してある。部分設置型センサを左端から 1500mm の位置で 0° から300°まで 60°ピッチで設置し、周方向6箇所測 定した結果を Fig. 8に示す。減肉b、減肉cの正面に 部分設置型ガイド波センサを配置したときに、反射波 の振幅が概して大きくなる。近距離においては、減肉 の周方向位置を特定できる可能性があると言える。
結言
Distance from sensor (m) * 配管全体の減肉を一括して検査できるガイド波検査 システムを開発した。結論は、以下の通りである。 (1) 配管の全周に探触子を配置するリング型ガイド波センサにより、配管断面積比率の 1%の減肉を検 出できる。 配管周囲の一部に設置する部分設置型ガイド波 センサを開発中である。近距離において、配管の 周方向の減肉位置を特定できる可能性がある。 P. J. Mudge, “Field application of the Teletest long-range ultrasonic testing technique““, Insight, Vol.43, No.2, 2001, pp.74-77 - 307 -
“ “ガイド波による配管減肉検査システム“ “小平 小治郎,Kojirou KODAIRA,永島 良昭,Yoshiaki NAGASHIMA,三木 将裕,Masahiro MIKI,遠藤 正男,Masao ENDOU
1. 火力・原子力発電プラント、石油精製・化学プラン - 水力・原子力発電プラント、石油精製・化学プラン トでは、高経年化プラントが増加している。それに伴い、 プラントに多数存在する配管の劣化状態、特に減肉の 状態を効率良く把握する技術の必要性が高まりつつあ る。しかしながら、非破壊で配管の減肉を検出する試験 方法として一般的に知られている放射線透過試験、超 音波試験、過電流試験では、一度に検査できる範囲が 狭く、時間的・金銭的コストが無視できない。また、 高所に設置された配管に対しては足場の設置・解体が 必要であり、放射線透過試験以外では、測定箇所毎に 保温材の撤去・復旧が必要となる。 ・ この問題を解決する技術の一つとして、管体のガイ ド波を用いた長距離検査方法が提案されており、一部は実用ベースにある[1]。超音波厚さ計が、局所領域の 減肉深さを高精度に測定する技術であるのに対して、 ガイド波検査は、数十メートルの距離を伝搬する特徴 を活かして広範囲の減肉をスクリーニングする技術で ある。 1. 本稿では、低周波数に適した構造の簡型探触子を用 いたガイド波の送受信方法と、その方法を搭載した検 査システムの概要、および試験体を用いた測定例を紹 介する。また、大口径の配管に対して、部分的に配置 する新たなタイプのセンサを使って、減肉の周方向位 置を特定する技術を開発中であるので、その概要を紹 介する。 早さ計か、同所限り) る止力回()へのコ吸収の世11月 (りて、 市であるのに対して、 負方向(左方向)への合成波動の進行波 A (,t)は、波 の距離を伝搬する特徴動の重ねあわせとして、各々式(1)と式(2)で与えられる。 リーニングする技術で
ここでxは配管軸方向座標、A, と A, は各々位置1と位 討して、部分的に配置置2 に与える送信信号の振幅、のは角周波数、t は時 って、減肉の周方向位間、kは波数、T(= 2m/o)は周期、21= 2m/k) はガイ るので、その概要を紹ド波の波長、は虚数単位である。式(1) (2)において、A, = A, とすれば、正方向への進行波の振幅は倍増し、 73 茨城県日立市幸町負方向への進行波は相殺されることになる。 ・エナジー(株)、電話:実際に検査に用いる送信信号は、一定時間持続する aira.vf@hitachi.comバースト波なので、位置1に与える送信信号に対して、 位置2に同一の送信信号を4分の1周期遅延させて与連絡先:小平小治郎、〒317-0073 茨城県日立市幸町 3-1-1、日立 GE ニュークリア・エナジー(株)、電話: 0294-55-5950, e-mail: kojiro.kodaira.vf@hitachi.com・ ガイド波を用いた配管検査の概要をFig.1に示す。 配管にリング状のセンサを設置し、配管に沿って軸方 向に伝搬するガイド波を発生させる。減肉位置で反射 したガイド波の反射信号の検出時間と振幅から、減肉 の位置と大きさ(配管断面積に対する比率)を測定す配管の軸に沿った一方向にガイド波を励起するため に、軸方向に離散的に一対の送信源を配列した櫛型セ ンサを用いる。配管の軸方向に4分の1波長離れた二 箇所の位置に、4分の1周期の時間遅延を与えた同相 もしくは逆相の信号を送信して、後方へ進行するガイ ド波を能動的に抑制する原理を用いる。この原理によ る正方向(右方向)への合成波動の進行波 A* (x,t)と、 負方向(左方向)への合成波動の進行波 A- (x, t)は、波 動の重ねあわせとして、各々式(1)と式(2)で与えられる。
ここでxは配管軸方向座標、A, と A, は各々位置1と位 置2に与える送信信号の振幅、のは角周波数、t は時 間、kは波数、T(=2n/a)は周期、2(= 2m/k)はガイ ド波の波長、j は虚数単位である。式(1) (2)において、 A, = A, とすれば、正方向への進行波の振幅は倍増し、 負方向への進行波は相殺されることになる。 - 実際に検査に用いる送信信号は、一定時間持続する バースト波なので、位置1に与える送信信号に対して、 位置2に同一の送信信号を4分の1周期遅延させて与 - 305 -える方法と、Fig. 2 に示すように、位置1に与える送 信信号に対して、位置2に極性が反対の信号を4分の 1周期早く与える方法に分けることができる。前者の 方法は、正方向への進行波を完全に二倍化することが できるが、負方向への進行波を完全に打ち消すことは できない。一方で、後者の方法は、正方向への進行波 を完全に二倍化することはできないが、負方向への進 行波を理論的には完全に打ち消すことができる。 1 検査においては、減肉からの反射信号とそれ以外の 信号(ノイズ)を区別するためにはSN比の向上が重 要であるので、センサ後方への送信信号を低減してノ イズを抑制できる後者に示す送信方式が有効である。 なお、ガイド波の受信時においても、図示はしないが、 送信時と逆の過程で単一方向からの信号のみを抽出す る二通りの処理方法があるが、送信と同じ理由で後者 の方法に相当する信号処理を施して受信信号とする。Heat insulatorSeveral dozen metersDiscontinuityGuided wavePipeSensorGuided wave inspectionsystemFig. 1 Overview of pipe inspection using guided wavesPosition 1 SuppressionPosition 2SuperpositionPipeTransmitting signal (Position 1)Transmitting signal (Position 2)AmplitudeAmplitudeTimeTimeFig. 2Unidirectional transmission by inter-digital sensors3. システム構成ガイド波配管減肉検査システムとガイド波センサ (配管外径 50A、100A、300A、500A 用)の概観を Fig. 3 に示す。波形発生器、パワーアンプ、A/D変換器 等を内蔵する装置本体とコンピュータで構成される。 ガイド波センサは、50A 配管用では 16個(8個×2 列) の櫛型探触子を有する。各探触子は、すべり振動の超 音波振動子を有し、水を包含する配管でもほとんど減 衰がない非分散性のねじり振動 T(, ) モードのガイ ド波を送受信する。Guided wave inspection systemMEUSfor 100A pipeFig. 3 Guided wave inspection system and sensors4. 実験結果試験に用いた配管は、炭素鋼管(STPG370) の 50A スケジュール 80 (公称外径 60.5mm、公称肉厚 5.5mm) で、いずれも全長が 5.5m である。模擬減肉は、配管の 断面積比が 1%の楕円形状であり、肉厚方向深さと軸 方向長さの比を、1:8、1:16、1 : 32 の3種類とした。 試験体の概要と減肉の形状を Fig. 4 に示す。配管内外 面の減肉の検出性は殆ど変化がないため、外面から減 肉を付与した。試験結果を Fig. 5に示す。各試験体の 模擬減肉 A、B、Cともに、明瞭に検出できている。Guided wave sensor
Experimental results5. 大口径配管での減肉位置の特定 * Fig. 3 に示したガイド波センサは、配管の全周に探 触子を配置する必要があるため、配管の口径が大きく なるに伴ってセンサのサイズが大きくなる問題がある。 この課題を解決するために、主に大口径配管に対して、 センサから比較的短距離の間を点検する目的で、Fig.6 に示す部分設置型ガイド波センサを開発中である。使 用する櫛型探触子は Fig. 3 と同じで、配管内に水を内 包しても、殆ど減衰が生じない剪断振動モードを送受 信する。性能確認に用いた試験体の一例を Fig.7に示す。口 径 500A、厚さ 9.5mm の配管で、内面にポリエチレン ライニングを施工してあり、配管の断面積に対する比 率で 3%の減肉 b を 180°の位置に、5%の減肉 cを 270°の位置に付与してある。部分設置型センサを左端から 1500mm の位置で 0° から300°まで 60°ピッチで設置し、周方向6箇所測 定した結果を Fig. 8に示す。減肉b、減肉cの正面に 部分設置型ガイド波センサを配置したときに、反射波 の振幅が概して大きくなる。近距離においては、減肉 の周方向位置を特定できる可能性があると言える。
結言
Distance from sensor (m) * 配管全体の減肉を一括して検査できるガイド波検査 システムを開発した。結論は、以下の通りである。 (1) 配管の全周に探触子を配置するリング型ガイド波センサにより、配管断面積比率の 1%の減肉を検 出できる。 配管周囲の一部に設置する部分設置型ガイド波 センサを開発中である。近距離において、配管の 周方向の減肉位置を特定できる可能性がある。 P. J. Mudge, “Field application of the Teletest long-range ultrasonic testing technique““, Insight, Vol.43, No.2, 2001, pp.74-77 - 307 -
“ “ガイド波による配管減肉検査システム“ “小平 小治郎,Kojirou KODAIRA,永島 良昭,Yoshiaki NAGASHIMA,三木 将裕,Masahiro MIKI,遠藤 正男,Masao ENDOU