「原子炉構造材の監視試験法」JEAC4201改定の概要
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カテゴリ: 第5回
緒言
(社)日本電気協会の電気技術規程「原子炉構造材の監 視試験方法(JEAC 4201)」 (1) は発電用軽水型原子炉圧 力容器鋼材の中性子照射による機械的特性の変化(主 として脆化)を調査し評価するための監視試験方法を 規定している。JEAC 4201 は、昨年 12月(社)日本電気協会原子力 規格委員会において改定案が承認され、JEAC 4201-2007 として改定された。ここでは、JEAC 4201 の概要および今回の規程の改 定のポイントについて紹介する。
2. JEAC 4201 の概要と主要な改定
2.1 JEAC 4201 の概要 1 原子炉圧力容器鋼では、運転中の中性子照射により、 破壊様式が延性から脆性に変化する温度域(遷移温度) が高温側にシフトし、上部棚吸収エネルギーが減少す る。この現象は中性子照射脆化と呼ばれ、原子炉圧力 容器の構造健全性を確保する上で照射脆化の程度を精 度よく把握することが重要となっている。 - 照射脆化の把握のために、原子炉圧力容器には原子 炉圧力容器鋼と同一の材料で製作された監視試験片を 原子炉内に装荷し、これを定期的に取り出して脆化量 を測定している。
監視試験に関しては、通商産業省令第 62 号「発電用 原子力設備に関する技術基準を定める省令」で照射の 影響を確認できるよう監視試験片の設置を要求してお り、民間規格では日本機械学会「発電用原子力設備規 格 設計・建設規格」(JSME S NC1-2005)に監視試験 片の種類・数等が規定されているが、JEAC 4201 は監 視試験のより具体的な方法が規定されている。 -- 監視試験の対象部位は、相当運転期間末期の最大中 性子照射量が容器内面で1× 104““ n/cm2(E>1 MeV)を 超えると予測される原子炉圧力容器の炉心領域である。 監視試験は、照射前試験と照射後試験とに大別し、そ れぞれ監視を必要とする代表部材(母材、溶接金属、 溶接熱影響部)について引張試験(溶接熱影響部は除 く)及び衝撃試験を実施する。監視試験により得られたデータを用いた運転条件の 設定方法及び健全性評価方法は「原子力発電所用機器 に対する破壊靭性の確認試験方法(JEAC 4206)」によ る。具体的には、1 次冷却材圧力ー温度制限曲線、耐 圧・漏洩試験温度、PTS 評価等である。 JEAC 4201-2007 の全体構成を以下に示す。血悦弘(本文) SA-1000 総則 SA-20 SA-3000 監視試験方法 SA-4000 監視試験結果の記録 (付録) 附属書 A 既設プラントの原子炉構造材の監視試験319に関する規定 附属書 B 中性子照射による関連温度移行量及び上部棚吸収エネルギー減少率の予測 附属書 C 監視試験片の再生方法 (解説)JEAC 4201 は、ASTM E185-66を参考として 1970 年に初版が発行され、その後関連する米国連邦規則 10CFR50 Appendix GX U Appendix H(4f. ASTM E185 の改定等を参考に種々の改定が行われている。ま た、脆化予測式等、国のプロジェクトや民間研究等、 日本独自の研究成果・動向も随時反映されている。 JEAC 4201 改定の主な変遷を以下に示す。1970版1980版1970版: 米国の ASTM E 185-66 を参考に初版発行(試験計画、試験方法を規定) 1980 版: 米国の NRC 10CFR50 App. G H の制定を参考に改定(試験計画、試験方法を改訂)、脆化予測式(NRC R.G1.99 Rev.1)を記載 1986 版: 脆化予測式(Guthrie PTS 式)を追加記載 1991 版: 加圧熱衝撃事象(PTS)に関する研究成果により国内材に適した国内脆化予測式に変更 2000版: 日米の関連規格の改定動向等を参考に見直し(カプセル取り出し時期の見直し) 2004 版 : 国のプロジェクトで開発した上部棚吸収エネルギーの低下予測式、国内 USE 予測式に変更 2007 版:国内プラントの高経年化に対応するため、脆化予測法、監視試験片再生及び監視試 験計画の規定を見直し2.2 JEAC 4201 の主要な改定今回の 2007年版では3つの大きな改定がなされてい る。一つ目は、1991年の国内脆化予測式制定以降に得 られた監視試験結果ならびに国内最新の研究成果に基 づき、関連温度移行量に関して予測精度の向上を図っ た脆化予測法の改定である。二つ目は、監視試験片再 生に関する(独)原子力安全基盤機構(以下、JNES) の研究成果に基づき、監視試験片の再生に関する新た な規定である附属書の追加である。そして三つ目が、 プラントの高経年化に対して計画的、継続的な監視試 験用カプセルの取り出しに資するべく、監視試験片取り出し計画について、現行計画に対応する標準監視試 験計画に加え、長期監視試験計画を新たに導入するこ とを定めた改定である。以下に、各改定内容について 述べる。(1)脆化予測法 - 国内原子炉圧力容器のための脆化予測式は、1991 年 に発行された JEAC 4201-1991 に初めて定められた。そ の後、国内プラントの高経年化に対応するため、脆化 予測精度の一層の向上が必要とされる中、10数年の運 転の蓄積により監視試験データが着実に蓄積されると ともに、照射脆化の機構に関する理解が大幅に進み、 また、米国では照射脆化機構に基づく新たな脆化予測 式開発が進められるなど状況が大きく進展してきた。 このような背景から、国内電力会社と(財)電力中央 研究所は、最新の脆化機構に関する理解に基づく新し い脆化予測法の開発を進め、その成果が JEAC 4201-2007 に反映された。この脆化予測法では、銅及びニッケルの含有量(%)、 照射量、中性子束及び温度から関連温度の移行量が計 算できる。また、監視試験データが 2 点以上ある場合 には、それらのデータを用いて脆化予測を補正するこ とができる(図1参照)。予測法によるARTyp計算値 +20補正後のARTvor計算値+10IV...ーーARTNDTtil E LARTNDT 899 leiLETT10 | 20予測法によるARTyp計算値Mc =(S,+Sa+Si)/3照射量f図1 監視試験データによる脆化予測の補正のイメージ図1(2) 監視試験片の再生 - 監視試験片の再生とは文字通り、既に原子炉圧力容 器から取り出され破壊試験を終えた監視試験片の残材 を利用して、新たな試験片として再利用を図るという ものであり、今回の改定で新たに追加されたものである。320その技術的妥当性を示すものとして JNES による PLIM プロジェクトの成果(2006年4月に発行された JNES-SS-0601 「原子炉圧力容器監視試験片の再生に 関する調査報告書」)がベースとなっており、試験部 の照射脆化の回復につながる再生接合時の熱影響を考 慮し、インサート材の仕様寸法(塑性域幅、熱回復幅 等)等を明確に規定している。また再生加工後の試験 片寸法は、タブ材の部分を除くシャルピー衝撃試験片 は JIS Z 2242、破壊靭性試験片は JEAC 4206 の要求を 満足するものであり、これは当初から装荷されている 監視試験片とほぼ同一である。また代表的な接合方法 としては、表面活性化接合法、YAG レーザ溶接法があ る。具体的な再生イメージを図2に示す。シャルピー衝撃試験片 CT試験片監視試驗片試驗後残片 (継続照射)インサート材加工タブ材接合・切林NONクリート材 (再生監視試驗片図2 監視試験片の再生技術(3) 監視試験片の取り出し計画従前の規程では、原子力プラントの相当運転期間を 32EFPY(EFPY:定格負荷相当年数)として必要なカ プセル数とその取り出し時期が設定され、32EFPY を 超える相当運転期間を想定する場合には、その相当運 転期間と 32EFPY の比に乗じて、取り出し時期を変更 してもよいとしてきた。 - 今回の改定においては、プラントの高経年化ならび にそれに伴う原子炉圧力容器の照射脆化監視への関心 の高まりから、従来の初期に装荷された監視試験片の 運用だけでなく、継続的かつ計画的な監視の必要性を 勘案して、32EFPY を超えてプラントを運転する場合 のそれ以降の取り出し時期として、新たに長期監視試 験計画を設定し、これまでの標準監視試験計画との連続性と今後の高経年化にあたっての継続的な試験計画 の実施について明確化した。 1 監視試験片の数量は、プラント建設時における原子 炉圧力容器内面の関連温度移行量の予測程度の見込み にしたがって、3~5個のカプセル数が要求されており、 プラントによっては予備数を数個備えるものもあるが、 長期監視試験計画を設定するにあたっては、監視試験 片の再生方法が確立されたことが大きく貢献している。 標準監視試験計画の概要は表1に示すように、基本的 に従来のものと同等であるが、その最終回時のカプセ ルは時期を変更(延長)することなく、相当運転期間 (32EFPY)で取り出すこととし、その回時より長期監 視試験計画を開始するというものである。さらに長期 監視試験計画に移行した場合には、標準監視試験計画 の最終回時のカプセルとその一つ前のカプセルの中性 子照射量の差、あるいはそれ以下に相当する EFPY と なる時期に取り出すことと設定しており、同等の間隔 で取り出しが行われていくことになる。ただし,原子 炉圧力容器内表面での照射量が取り出したカプセルの 照射量を下回っている間は,次のカプセルの取り出し を計画する必要はない。表1 JEAC 4201-2007 の標準監視試験計画における最少カプセル数及び取り出し時期121.5原子炉圧力容器内面の関連温度移行量の予測値(ARTNer 予測値) (°C) ARTNpr| 281 MeV) が 5×108n/cm2 (E>1 MeV)を超える「取 り 出 し 時期 M的1900/01/05321視試験片のA RTNorが28°Cと予測される時期の うち、いずれか早い方。 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量(E >1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が 内面で受ける中性子照射量 (E>1 MeV) に到達 する時期のうち、いずれか早い方。 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量 (E >1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が (1/4)t の位置で受ける中性子照射量 (E>1 MeV) に到達する時期のうち、いずれか早い方。 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量(E >1MeV)が第1カプセル及び第3カプセルの中 >1MeV)が第1カプセル及び第3カプセルの中 性子照射量 (E>1 MeV) の中間となる時期。 監視試験片の中性子照射量 (E>1 MeV) が、相 当運転期間に原子炉圧力容器が内面で受ける中 時期のうち、いずれか早い方。参考文献 (注 2) 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量 (E>1 MeV) が5×108n/cm2 (E>1 MeV) を超え [1] (社)日本電気協会 電気技術規定 JEAC 4201 る時期あるいは最大のリードファクタを示す監 1 -2007,“原子炉構造材の監視試験方法” 視試験片のARTvor が 28°Cと予測される時期の [2] ASTM E 185-66, “Recommended Practice for うち、いずれか早い方。Surveillance Tests on Structural Materials in Nuclear (注 3) 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量 (E_ Reactors““>1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が [3] 10CFR50 App. G “Fracture Toughness Requirements““ 内面で受ける中性子照射量 (E>1 MeV) に到達 [4] 10CFR50 App. H “Reactor Vessel Material する時期のうち、いずれか早い方。Surveillance Program Requirements” (注4) 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量 (E__ 「51 曽根田、土肥、野本、西田、石野“軽水炉圧力容器>1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が 鋼材の照射脆化予測式の式化に関する研究-照射 (1/4)t の位置で受ける中性子照射量(E>1 MeV) 脆化予測法の開発-““、電力中央研究所報告 Q06019, に到達する時期のうち、いずれか早い方。(財)電力中央研究所、平成19年4月 (注 5) 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量(E [6] (独)原子力安全基盤機構“原子炉圧力容器監視試験片の再生に関する調査報告書”、JNES-SS>1MeV)が第1カプセル及び第3カプセルの中0601、2006年4月 性子照射量 (E>1 MeV) の中間となる時期。 (注6) 監視試験片の中性子照射量 (E>1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が内面で受ける中 性子照射量 (E>1 MeV) の1倍以上2倍以下で あること。ただし、先行試験結果に基づき変更してもよい。 (注 7) 本表の取出し時期の数値は、定格負荷相当年数(EFPY)であり、試験用カプセル取出しは、こ れらの値に近いプラント停止時期に合わせて行 う。3. 結言1) (社)日本電気協会の電気技術規程「原子炉構造材の 監試験方法 (JEAC 4201)」の概要および今回の規程の改定のポイントについて紹介した。 2) 米国の規格を参考にし、1970 年に発行した JEAC 4201 は、国内プラントへの適用性を考慮し、国のプ ロジェクトや民間研究等日本独自の研究成果を反映して、随時改定が行われている。 3) JEAC 4201-2007 等これらの規格に基づいて、高経年化に対応した国内プラントの信頼性向上が図られている。 してもよい。 本表の取出し時期の数値は、定格負荷相当年数| (EFPY)であり、試験用カプセル取出しは、こ れらの値に近いプラント停止時期に合わせて行 (社)日本電気協会の電気技術規程「原子炉構造材の 監試験方法(JEAC 4201)」の概要および今回の規程 の改定のポイントについて紹介した。 曽根田、土肥、野本、西田、石野“軽水炉圧力容器 鋼材の照射脆化予測式の式化に関する研究-照射 脆化予測法の開発-”、電力中央研究所報告 Q06019, (財)電力中央研究所、平成19年4月 (独)原子力安全基盤機構“原子炉圧力容器監視 試験片の再生に関する調査報告書”、JNES-SS0601、2006年4月 - 322 -
“ “?「原子炉構造材の監視試験方法」JEAC4201 改定の概要“ “小山 幸司,Koji KOYAMA,廣田 貴俊,Takatoshi HIROTA
(社)日本電気協会の電気技術規程「原子炉構造材の監 視試験方法(JEAC 4201)」 (1) は発電用軽水型原子炉圧 力容器鋼材の中性子照射による機械的特性の変化(主 として脆化)を調査し評価するための監視試験方法を 規定している。JEAC 4201 は、昨年 12月(社)日本電気協会原子力 規格委員会において改定案が承認され、JEAC 4201-2007 として改定された。ここでは、JEAC 4201 の概要および今回の規程の改 定のポイントについて紹介する。
2. JEAC 4201 の概要と主要な改定
2.1 JEAC 4201 の概要 1 原子炉圧力容器鋼では、運転中の中性子照射により、 破壊様式が延性から脆性に変化する温度域(遷移温度) が高温側にシフトし、上部棚吸収エネルギーが減少す る。この現象は中性子照射脆化と呼ばれ、原子炉圧力 容器の構造健全性を確保する上で照射脆化の程度を精 度よく把握することが重要となっている。 - 照射脆化の把握のために、原子炉圧力容器には原子 炉圧力容器鋼と同一の材料で製作された監視試験片を 原子炉内に装荷し、これを定期的に取り出して脆化量 を測定している。
監視試験に関しては、通商産業省令第 62 号「発電用 原子力設備に関する技術基準を定める省令」で照射の 影響を確認できるよう監視試験片の設置を要求してお り、民間規格では日本機械学会「発電用原子力設備規 格 設計・建設規格」(JSME S NC1-2005)に監視試験 片の種類・数等が規定されているが、JEAC 4201 は監 視試験のより具体的な方法が規定されている。 -- 監視試験の対象部位は、相当運転期間末期の最大中 性子照射量が容器内面で1× 104““ n/cm2(E>1 MeV)を 超えると予測される原子炉圧力容器の炉心領域である。 監視試験は、照射前試験と照射後試験とに大別し、そ れぞれ監視を必要とする代表部材(母材、溶接金属、 溶接熱影響部)について引張試験(溶接熱影響部は除 く)及び衝撃試験を実施する。監視試験により得られたデータを用いた運転条件の 設定方法及び健全性評価方法は「原子力発電所用機器 に対する破壊靭性の確認試験方法(JEAC 4206)」によ る。具体的には、1 次冷却材圧力ー温度制限曲線、耐 圧・漏洩試験温度、PTS 評価等である。 JEAC 4201-2007 の全体構成を以下に示す。血悦弘(本文) SA-1000 総則 SA-20 SA-3000 監視試験方法 SA-4000 監視試験結果の記録 (付録) 附属書 A 既設プラントの原子炉構造材の監視試験319に関する規定 附属書 B 中性子照射による関連温度移行量及び上部棚吸収エネルギー減少率の予測 附属書 C 監視試験片の再生方法 (解説)JEAC 4201 は、ASTM E185-66を参考として 1970 年に初版が発行され、その後関連する米国連邦規則 10CFR50 Appendix GX U Appendix H(4f. ASTM E185 の改定等を参考に種々の改定が行われている。ま た、脆化予測式等、国のプロジェクトや民間研究等、 日本独自の研究成果・動向も随時反映されている。 JEAC 4201 改定の主な変遷を以下に示す。1970版1980版1970版: 米国の ASTM E 185-66 を参考に初版発行(試験計画、試験方法を規定) 1980 版: 米国の NRC 10CFR50 App. G H の制定を参考に改定(試験計画、試験方法を改訂)、脆化予測式(NRC R.G1.99 Rev.1)を記載 1986 版: 脆化予測式(Guthrie PTS 式)を追加記載 1991 版: 加圧熱衝撃事象(PTS)に関する研究成果により国内材に適した国内脆化予測式に変更 2000版: 日米の関連規格の改定動向等を参考に見直し(カプセル取り出し時期の見直し) 2004 版 : 国のプロジェクトで開発した上部棚吸収エネルギーの低下予測式、国内 USE 予測式に変更 2007 版:国内プラントの高経年化に対応するため、脆化予測法、監視試験片再生及び監視試 験計画の規定を見直し2.2 JEAC 4201 の主要な改定今回の 2007年版では3つの大きな改定がなされてい る。一つ目は、1991年の国内脆化予測式制定以降に得 られた監視試験結果ならびに国内最新の研究成果に基 づき、関連温度移行量に関して予測精度の向上を図っ た脆化予測法の改定である。二つ目は、監視試験片再 生に関する(独)原子力安全基盤機構(以下、JNES) の研究成果に基づき、監視試験片の再生に関する新た な規定である附属書の追加である。そして三つ目が、 プラントの高経年化に対して計画的、継続的な監視試 験用カプセルの取り出しに資するべく、監視試験片取り出し計画について、現行計画に対応する標準監視試 験計画に加え、長期監視試験計画を新たに導入するこ とを定めた改定である。以下に、各改定内容について 述べる。(1)脆化予測法 - 国内原子炉圧力容器のための脆化予測式は、1991 年 に発行された JEAC 4201-1991 に初めて定められた。そ の後、国内プラントの高経年化に対応するため、脆化 予測精度の一層の向上が必要とされる中、10数年の運 転の蓄積により監視試験データが着実に蓄積されると ともに、照射脆化の機構に関する理解が大幅に進み、 また、米国では照射脆化機構に基づく新たな脆化予測 式開発が進められるなど状況が大きく進展してきた。 このような背景から、国内電力会社と(財)電力中央 研究所は、最新の脆化機構に関する理解に基づく新し い脆化予測法の開発を進め、その成果が JEAC 4201-2007 に反映された。この脆化予測法では、銅及びニッケルの含有量(%)、 照射量、中性子束及び温度から関連温度の移行量が計 算できる。また、監視試験データが 2 点以上ある場合 には、それらのデータを用いて脆化予測を補正するこ とができる(図1参照)。予測法によるARTyp計算値 +20補正後のARTvor計算値+10IV...ーーARTNDTtil E LARTNDT 899 leiLETT10 | 20予測法によるARTyp計算値Mc =(S,+Sa+Si)/3照射量f図1 監視試験データによる脆化予測の補正のイメージ図1(2) 監視試験片の再生 - 監視試験片の再生とは文字通り、既に原子炉圧力容 器から取り出され破壊試験を終えた監視試験片の残材 を利用して、新たな試験片として再利用を図るという ものであり、今回の改定で新たに追加されたものである。320その技術的妥当性を示すものとして JNES による PLIM プロジェクトの成果(2006年4月に発行された JNES-SS-0601 「原子炉圧力容器監視試験片の再生に 関する調査報告書」)がベースとなっており、試験部 の照射脆化の回復につながる再生接合時の熱影響を考 慮し、インサート材の仕様寸法(塑性域幅、熱回復幅 等)等を明確に規定している。また再生加工後の試験 片寸法は、タブ材の部分を除くシャルピー衝撃試験片 は JIS Z 2242、破壊靭性試験片は JEAC 4206 の要求を 満足するものであり、これは当初から装荷されている 監視試験片とほぼ同一である。また代表的な接合方法 としては、表面活性化接合法、YAG レーザ溶接法があ る。具体的な再生イメージを図2に示す。シャルピー衝撃試験片 CT試験片監視試驗片試驗後残片 (継続照射)インサート材加工タブ材接合・切林NONクリート材 (再生監視試驗片図2 監視試験片の再生技術(3) 監視試験片の取り出し計画従前の規程では、原子力プラントの相当運転期間を 32EFPY(EFPY:定格負荷相当年数)として必要なカ プセル数とその取り出し時期が設定され、32EFPY を 超える相当運転期間を想定する場合には、その相当運 転期間と 32EFPY の比に乗じて、取り出し時期を変更 してもよいとしてきた。 - 今回の改定においては、プラントの高経年化ならび にそれに伴う原子炉圧力容器の照射脆化監視への関心 の高まりから、従来の初期に装荷された監視試験片の 運用だけでなく、継続的かつ計画的な監視の必要性を 勘案して、32EFPY を超えてプラントを運転する場合 のそれ以降の取り出し時期として、新たに長期監視試 験計画を設定し、これまでの標準監視試験計画との連続性と今後の高経年化にあたっての継続的な試験計画 の実施について明確化した。 1 監視試験片の数量は、プラント建設時における原子 炉圧力容器内面の関連温度移行量の予測程度の見込み にしたがって、3~5個のカプセル数が要求されており、 プラントによっては予備数を数個備えるものもあるが、 長期監視試験計画を設定するにあたっては、監視試験 片の再生方法が確立されたことが大きく貢献している。 標準監視試験計画の概要は表1に示すように、基本的 に従来のものと同等であるが、その最終回時のカプセ ルは時期を変更(延長)することなく、相当運転期間 (32EFPY)で取り出すこととし、その回時より長期監 視試験計画を開始するというものである。さらに長期 監視試験計画に移行した場合には、標準監視試験計画 の最終回時のカプセルとその一つ前のカプセルの中性 子照射量の差、あるいはそれ以下に相当する EFPY と なる時期に取り出すことと設定しており、同等の間隔 で取り出しが行われていくことになる。ただし,原子 炉圧力容器内表面での照射量が取り出したカプセルの 照射量を下回っている間は,次のカプセルの取り出し を計画する必要はない。表1 JEAC 4201-2007 の標準監視試験計画における最少カプセル数及び取り出し時期121.5原子炉圧力容器内面の関連温度移行量の予測値(ARTNer 予測値) (°C) ARTNpr| 281 MeV) が 5×108n/cm2 (E>1 MeV)を超える「取 り 出 し 時期 M的1900/01/05321視試験片のA RTNorが28°Cと予測される時期の うち、いずれか早い方。 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量(E >1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が 内面で受ける中性子照射量 (E>1 MeV) に到達 する時期のうち、いずれか早い方。 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量 (E >1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が (1/4)t の位置で受ける中性子照射量 (E>1 MeV) に到達する時期のうち、いずれか早い方。 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量(E >1MeV)が第1カプセル及び第3カプセルの中 >1MeV)が第1カプセル及び第3カプセルの中 性子照射量 (E>1 MeV) の中間となる時期。 監視試験片の中性子照射量 (E>1 MeV) が、相 当運転期間に原子炉圧力容器が内面で受ける中 時期のうち、いずれか早い方。参考文献 (注 2) 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量 (E>1 MeV) が5×108n/cm2 (E>1 MeV) を超え [1] (社)日本電気協会 電気技術規定 JEAC 4201 る時期あるいは最大のリードファクタを示す監 1 -2007,“原子炉構造材の監視試験方法” 視試験片のARTvor が 28°Cと予測される時期の [2] ASTM E 185-66, “Recommended Practice for うち、いずれか早い方。Surveillance Tests on Structural Materials in Nuclear (注 3) 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量 (E_ Reactors““>1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が [3] 10CFR50 App. G “Fracture Toughness Requirements““ 内面で受ける中性子照射量 (E>1 MeV) に到達 [4] 10CFR50 App. H “Reactor Vessel Material する時期のうち、いずれか早い方。Surveillance Program Requirements” (注4) 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量 (E__ 「51 曽根田、土肥、野本、西田、石野“軽水炉圧力容器>1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が 鋼材の照射脆化予測式の式化に関する研究-照射 (1/4)t の位置で受ける中性子照射量(E>1 MeV) 脆化予測法の開発-““、電力中央研究所報告 Q06019, に到達する時期のうち、いずれか早い方。(財)電力中央研究所、平成19年4月 (注 5) 本表の時期、又は監視試験片の中性子照射量(E [6] (独)原子力安全基盤機構“原子炉圧力容器監視試験片の再生に関する調査報告書”、JNES-SS>1MeV)が第1カプセル及び第3カプセルの中0601、2006年4月 性子照射量 (E>1 MeV) の中間となる時期。 (注6) 監視試験片の中性子照射量 (E>1 MeV) が、相当運転期間に原子炉圧力容器が内面で受ける中 性子照射量 (E>1 MeV) の1倍以上2倍以下で あること。ただし、先行試験結果に基づき変更してもよい。 (注 7) 本表の取出し時期の数値は、定格負荷相当年数(EFPY)であり、試験用カプセル取出しは、こ れらの値に近いプラント停止時期に合わせて行 う。3. 結言1) (社)日本電気協会の電気技術規程「原子炉構造材の 監試験方法 (JEAC 4201)」の概要および今回の規程の改定のポイントについて紹介した。 2) 米国の規格を参考にし、1970 年に発行した JEAC 4201 は、国内プラントへの適用性を考慮し、国のプ ロジェクトや民間研究等日本独自の研究成果を反映して、随時改定が行われている。 3) JEAC 4201-2007 等これらの規格に基づいて、高経年化に対応した国内プラントの信頼性向上が図られている。 してもよい。 本表の取出し時期の数値は、定格負荷相当年数| (EFPY)であり、試験用カプセル取出しは、こ れらの値に近いプラント停止時期に合わせて行 (社)日本電気協会の電気技術規程「原子炉構造材の 監試験方法(JEAC 4201)」の概要および今回の規程 の改定のポイントについて紹介した。 曽根田、土肥、野本、西田、石野“軽水炉圧力容器 鋼材の照射脆化予測式の式化に関する研究-照射 脆化予測法の開発-”、電力中央研究所報告 Q06019, (財)電力中央研究所、平成19年4月 (独)原子力安全基盤機構“原子炉圧力容器監視 試験片の再生に関する調査報告書”、JNES-SS0601、2006年4月 - 322 -
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