保全方程式に基づく最適保全計画策定法の開発

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カテゴリ: 第5回
1. はじめに
・保全を物理現象と同様であると仮定すると、物理に 物理現象が存在する以上、保全にも保全法則なるもの が存在するはずである。それを保全3法則と呼ぶこと にする: 第1法則:「保全は社会のニーズを満足しなければならない」 第2法則:「保全は与えられた条件下で信頼性を最大にすることを指向する」 第3法則:「保全は与えられた条件下でコストを最小にすることを指向する」 この3つの法則を一言でいえば、「国民が必要とする 電力を、できるだけ信頼性が高くかつ出来るだけ安 価に供給すること」を意味している。 - このうち第1法則はそれ自体が社会的に満足され るべき問題であって、他の2つと相反するものでは ない。一方、第2、第3法則は、信頼性とコストと いうしばしば相反する効果をもたらす。すなわち、 最大の信頼性を得るためにはコストを度外視して極 限まで信頼性を追求する他なく、またコストをどん どん下げていけば、信頼性は徐々に低下し最大には ならない。このような問題は最適解を導く問題に似 ている。従って、この相反する2法則を同時に成り 立たせるような保全計画は、「最適保全計画」と呼ん でもいい。その最適保全計画の導出には以下の3つ のケースが考えられた。リ 1 コストを一定にして、信頼性を最大にする保全計画を立てる。 2 信頼性を一定にして、コストを最小にする保全
を定義し、1を最大とする保全計画を立てる。 以下に、上記1~3のケースについて最適保全計画を 得るための数値的解析手法を提案する。2. 最適な保全計画の策定プロセス121(1)保全計画の数値化 1 まず、保全重要度の高い全ての機器(i=1~Max)に対 して(2)式のような保全計画{X}を設定することが、すな わち保全計画の策定であると考える。[ {x}] 保全計画={x}={x,}ここで、{X}はi番目機器の保全計画を表す保全ベク トル(L 行×1列)である。{X}の各成分 x (1j=Dは[0 or 1]の整数値であり、各成分はi番目機器の各保全計 画項目に何を選択するかを表す。たとえば、{X}の第 1~第4成分がi番目機器の4つの保全方式(TBM, CBM, BDM, その他)のうちのどれを選択するかを表 すとすると、(3)式のようになる。323(x) ( 0 0 0)' R(前回)C Rimin-133 信頼性 RとコストCに関する制約条件なし。(6) 保全方程式の解法 - 上述の(11)~(13)式を解いて各々の最適保全計画{X} を算出せねばならない。そのためには、すべての {X} の組み合わせについて R, C, In I, I を計算して比較す る方法もあるが、とてつもない計算時間を要するため に現実的ではない。またニュートン法のような直接解 法は局所解に陥ることがあるため推奨できない。ここ では、広域的な探索問題に優れている遺伝的アルゴリ ズム(GA: Genetic Algorithm)の適用を提案する。GA は 生物の進化のメカニズムを真似てデータ構造を変形・ 合成・選択することで、最適値を正確に、早く見つけ ることを目標とする最適化手法の1つである。GA は 従来の最適化手法と異なる以下のような特徴を持って いる。・ 設計変数を直接操作せず, コーディングしたものを用いる。 多点探索である。 関数評価値のみを用いたブラインドサーチで ある。 決定論的規則ではなく、確率的オペレ ータを用いた探索である。GA の長所としては、適応できる問題の範囲が広い こと、広域な検索ができることなどがある。一方、GA の問題点として最も大きなものは初期収束である。こ れは、最初の方の世代において他の個体より適応度が 圧倒的に高い個体が生まれたとき、その個体の遺伝子 が集団中に爆発的に増えて局所解に陥り、探索がかな り早い段階で収束してしまう現象である。こうなると 最適な解を得ることができない。これを解決する方法 としては、ルーレット選択を適切な設定にして用いる こと、突然変異を増やすこと、集団の数を増やすこと などが挙げられる。3.最適保全計画のシミュレーション結果今回のシミュレーションでは、実際の原子力プラン トの保全データを用いるのではなく、仮想的に設定し た初期値をもって計算を開始し、保全回数の増加とと もに信頼性 RとコストCがどのように変化するかをみ ることを目的とした。具体的には、A、B、{rs, fc, {X} の初期値を乱数によって決定し、その後は上述の計算 手順によって保全計画を求めた。 機器の数は 50個とし、 保全の回数は 36 回とした。また、実際の信頼性 R,Irre とコスト Cre はすべての機器に共通で、それぞれ R,re = Rumin/50機器=3.8 、 Cre = Cimin/50 機器 = 0.8 で 固定とした。図1は、ケース1を用いた場合の、50 個の機器の a、 B の変化を示したものである。コストの和の最大値は Crimin = Crex50機器=40 とした。重みa、Bは、保全回 数の初期のころは大きく変動しているが、回数を重ね るごとに平衡値になっていくことがわかる。これは、 導出される保全計画が、徐々に最適保全計画に近づい ていることを示す。1900/11/211.8 1.6 1.41.0 0. 8L151015 202530保全回数1900/01/02 12:00:00..2.52:241.5351.0 E 10_5_ 10 1520 25 30保全回数 図1 仮想的なモデルにおける各機器における 重みa (上)とB(下)の変化(ケース1)51015 20 保全回数2530また図2は、50 個の機器の信頼性とコストの和、R とCの変化を示したものである。横軸は保全回数であ る。Rは増加し続け、Cも初期値から増加しつつも、 制限値 =C/rre x50 =40= Crumir に収束している。R 1800............... 170... 1600.... 150 140.0....... 1300mm0 51900/01/0915 20 保全回数1900/01/24301900/02/03400 39 38......37136*... 35% 34 .5mm0510_1520253035保全回数、図2 仮想的なモデルにおける信頼性 R(上) と コスト C(下)の変化(ケースの)3035図3は、ケース2を用いた場合の、50 個の機器のa、 Bの変化を示したものである。信頼性の和の最小値は Rimin = R.,““× 50 機器=190 とした。ケース1に比べ、B に急激な変化の特徴が見られる。a 1.60 1.45ました。1.060.80.6E 10510253015 20 保全回数-1.5wouleroerrenteremenerverrenews0.54175_10 15 - 20 - 25 30 35保全回数 図3 仮想的なモデルにおける各機器における 重みa (上)とB(下)の変化(ケース2)図4は、ケース2における 50 個の機器の信頼性とコス トの和、R と C の変化を示したものである。Rは増加 し続けながら収束値=R,““le x50 =190= Rhimitに漸近し ている。一方コストCは、ケース1の値よりも低いC = 30 に収束している。このことは、本手法を用いること により、より低いコストで同じ信頼性を達成する保全 計画を策定できることの可能性を示唆している。RI180170160 1500140151015 20. 保全回数2530351 5_ 10 1520 25 30 35保全回数、 図4 仮想的なモデルにおける信頼性 R(上)とコストC(トの変化(ケース2)図5は、ケース3を用いた場合の、50 個の機器の a、 Bの変化を示したものである。ケース1,2に比べ、a の変化には比較的早い段階での収束がみられる。3271.8.01. 1.6 1.4倍 1. 27 1.000.8031520 保全回数」0.225 303035°4.0- --- 3.5 3.01.........2.5.5L 2.04. 1.5日5_ 10 152 0 25' 30 35保全回数、 図5 仮想的なモデルにおける各機器における 重みa (上)とB(下)の変化(ケース3)図6は、ケース3における 50 個の機器の信頼性とコ ストの和、RとCの変化を示したものである。Rは実 際の信頼性 R, Inte x 50 機器=190、Cは実際のコスト Crex50機器=40 に収束している。また R の収束はケ ース1、2よりも早い保全回数の段階で達成されている。200190 180 170 160-1.... 1504140130...1900/04/1930152025 保全回数““0_ 5_ 10 15 20 25 - 30 - 35保全回数、 図 6 仮想的なモデルにおける信頼性 R(上) とコスト C(下)の変化(ケース3)以上、最適保全計画を3つのケースの制約条件を用 いて計算により求めた。いずれのケースにおいても、 制約条件に合う形で収束解が得られており、この手法 により最適保全計画を導出できることの可能性が見出」 せたと考えられる。 なお、ケース1~3のいずれにおいても信頼性 Rにても信頼性Rにこスついてはほぼ等しい収束値が得られているが、コスト の収束値についてはケース2のみが他の2つのケース よりも小さくなった。このことは、本手法を用いるこ とにより、より低いコストで同じ信頼性を達成する保 全計画を策定できることの可能性を示唆している。また、図1,3,5のように事業者の経営方針であ る重み[1, Bの変化を表示することは、その事業者の取 り組みの状況を効果的に表示する方法として有効であ ると考えられる。4.今後の課題今回提案した保全計画の数値化と策定手法の検証の ためには、実際のプラントにおける保全計画との整合 性を取ることが必要である。また、本手法に実際のプ ラントの保全計画のデータを適用して得られた最適保 全計画を、実際に行われた保全計画と比較することに より、その本手法の有効性を検証していきたい。5. 謝辞本論文は、日本保全学会への(独)原子力安全基盤 機構からの委託調査「原子力発電所の保全プログラム に基づく保全活動の検査手法に係る調査検討」の内 容の一部をまとめたものである。なお、本論文を纏めるに当たって原子力安全基盤機 構の松岡氏には何度も議論を重ねて頂きました。ここ に厚く感謝します。参考文献[1] 宮健法論」 [2] 「原」私の 宮健三、「保全学の構築(1) 構築の枠組みと方 法論」、保全学 Vol. 7, No. 1, pp.10-17 (2008). 「原子力発電所の保全プログラムに基づく保全活 動の検査手法に係る調査・検討」(平成 20 年度日 本保全学会報告書) 伊庭斉志 「遺伝的アルゴリズム」(医学出版)「原子力発電所の保守管理規程」(JEAC4209-2007 年版)、(社)日本電気協会[3][4]328
“ “?保全方程式に基づく最適保全計画策定法の開発“ “出町 和之,Kazuyuki DEMACHI,宮 健三,Kenzo MIYA
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