JRR-3における保守点検の実績評価
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カテゴリ: 第5回
1.緒言
2.保守点検の実績評価国内の多くの原子炉施設は運転開始から 30 年以上 経過しており、経年変化を念頭においた保全活動を実 施していくことが重要となってきている。このような 状況において、原子炉施設の安全性を維持し、向上さ せていくためには、事業者による保安活動全般につい ての確認と見直しが有効な一つの方法であるとされて いる。実際、国内の発電用原子炉施設では、既に定期 的な評価が法律の要求のもと実施されている。試験研 究炉においては、発電用原子炉施設に比べて設備規模、 設計思想の違いなどから、これまで特に実施されてい なかったが、平成 16年2月2日に試験研究の用に供す る原子炉等の設置、運転等に関する規則(以下、試験 炉規則)が改正されて、定期的な評価が実施されるこ ととなった。 - 以上のような背景により、今般、日本原子力研究開 発機構(以下、原子力機構)は、定期的な評価を平成 16年度に実施した。その中で、研究炉 JRR-3 において は 30年を超えない期間までに実施する評価として、1 「保守点検の実績評価」2「設備機器の経年変化に関 する評価」を実施した。本報では、これらの評価のうち1で行った調査及び 評価結果について報告する。2保守点検の実績評価は、設備機器の機能維持のため に行ってきた保守、点検、交換等の保全活動の実績調 査を行うとともに、経年変化の事象について調査し、 これまでの保全活動内容が適切であったかどうか評価 検討した。評価対象の設備機器は、安全上重要な設備 機器(重要度分類のクラス 1~3)に加え、美浜の事故 を鑑みて比較的重要度の高い設備機器も対象とした。 まず、これらの設備機器の保全活動(点検実績、補修・ 交換の有無など)の実績を調査した。次に、これらの 設備機器の機能・役割に着目して代表的な経年変化事 象を選定した。そして、それに対して適切に保全活動 及び点検・交換が行われてきたかについて設備機器の 現在の状態を調査した。こうして得られた保全活動の 実績及び設備機器の状況から、経年変化事象の進展の 可能性を客観的かつ簡単に把握できるよう「ポイント 制」を用いて評価した。さらに、今後の保全活動に対 して改善が必要かどうかについて検討した。 3. 評価方法JRR-3 における安全上重要な設備機器に対して、以 下のように調査・検討した。 1過去の保全活動内容と補修・交換の有無昭和 59年から平成2年にかけて、JRR-3 原子炉施設 改造工事に伴いほぼ全ての設備について新設している ため、平成3年以降の保全活動内容を調査した。なお、原子炉建家及び排気筒については継続して使用してい るので、それ以前(昭和 59年から)の保全活動も調査した。2経年変化事象の評価(事象の選択、進展の可能性)評価においては、設備機器の機能・役割に着目し、 ある経年変化事象が進展することにより、設備機器が 本来持っている機能・役割が損なわれる可能性のある 事象を選択する。また、経年変化事象の進展の可能性 を「ポイント制」で評価した。
3現在における設備機器の状態 現在の設備機器の状態を調査した。@保全活動内容の妥当性 * 上記125での調査結果から、経年変化に対する保 全活動の内容が適切であったか評価した。5保全内容の改善の必要性 * 上記1234の評価結果を基に、保全内容に改善の 必要があるか評価した。4.ポイント制の概要* 経年変化事象の進展の可能性を評価する為、経年変 化事象及び保全活動の実績を数値化し、客観的かつ簡 単に把握するという目的のもと、「ポイント制」を考案 した。ポイント制は、Table.1 に示すように、設備機器の寿 命をベースに考案し、寿命に近づけば必ず調査対応を 必要としている。この評価方法では Fig.1 に示すように、 材料、中性子照射場、高(低)温高圧、水質・空調管理、 振動、補修・交換等の6つの調査パラメータ及びこれ までの保全活動の実績から採点し、その合計値によっ て経年変化事象の進展の可能性を評価する。Table.2 に は各経年変化事象に対するポイントの付け方の基準を 示す。これにより、各設備機器を採点する。Table.3 に 経年変化事象の進展の可能性の判断基準を示す。また、ポイント制による評価結果の例を Table.4 に示 す。1ライニング 1. 材料がステンレス、使用環境は炉心から遠く高(低) 温高圧以外にあり、水質管理がされており、振動や外 内部からの応力を伴わないため、これらのすべての事 象についてポイント 0 となる。ただし、交換等につい ては、設置後 10 年以上 20 年未満の時間の経過で、交 換は実施されていない為、ポイント1 となり、合計ポ イントは1である。これを判定基準と比較すると、進 展の可能性は「低」となり、今後の保全活動は現状維 持となる。2原子炉建家材料、水空調、交換等でそれぞれ 1、0.5、2 ポイン トとなり、合計 3.5 ポイント。進展の可能性は「中」 となり、保全計画を検討が必要となる。31次系冷却系主ポンプ材料、振動、交換等でそれぞれ 1、1、0.5 ポイン となり、合計 2.5 ポイント。進展の可能性は「低」」 なり、今後の保全活動は現状維持となる。Table.1 ポイント制の方針 中性子照射、腐食等による脆化は、最適材料であり、最適環境下にあり、 補修等無しの場合でも寿命を40 年と仮定し、40年を超えれば調査検討または交換を要するものとする。疲労破壊、磨耗は材料に関係なく起こりうるものとする。疲労破壊、磨耗は最適環境化にあり、補修無しの場合でも寿命を40年と仮定し、40年を超えれば調査検討または交換を要するものとする。コンクリートの劣化は、最適環境下にあり、補修無しの場合でも 50 年)を経過すれば、調査検討または補修等を必要とするものとする。中性子照射、高(低)温高圧、管理、振動に関する経年変化事象に対するリ スクは、時間とともに増加するものとする。交換すればこれまでの蓄積ポイントは 0 となる。補修等をすればポイントをある基準で減らす。分析事項ポイント材料Table.2 ポイントの付け方分析内容 経年変化事象に腐食を含み、かつ代表材 料がアルミニウム合金・ステンレスの場合 上記以外すべて341中性子照射場使用環境が炉心から遠く中性子の影響受 けない 使用環境が炉心に近く中性子の影響を受 ける場合は設備機器の交換後の経過年数 (N)に応じたポイントとするNS10年0.510“ “?JRR-3 における保守点検の実績評価“ “小林 哲也,Tetsuya KOBAYASHI,市村 俊幸,Toshiyuki ICHIMURA,佐藤 正幸,Masayuki SATO
2.保守点検の実績評価国内の多くの原子炉施設は運転開始から 30 年以上 経過しており、経年変化を念頭においた保全活動を実 施していくことが重要となってきている。このような 状況において、原子炉施設の安全性を維持し、向上さ せていくためには、事業者による保安活動全般につい ての確認と見直しが有効な一つの方法であるとされて いる。実際、国内の発電用原子炉施設では、既に定期 的な評価が法律の要求のもと実施されている。試験研 究炉においては、発電用原子炉施設に比べて設備規模、 設計思想の違いなどから、これまで特に実施されてい なかったが、平成 16年2月2日に試験研究の用に供す る原子炉等の設置、運転等に関する規則(以下、試験 炉規則)が改正されて、定期的な評価が実施されるこ ととなった。 - 以上のような背景により、今般、日本原子力研究開 発機構(以下、原子力機構)は、定期的な評価を平成 16年度に実施した。その中で、研究炉 JRR-3 において は 30年を超えない期間までに実施する評価として、1 「保守点検の実績評価」2「設備機器の経年変化に関 する評価」を実施した。本報では、これらの評価のうち1で行った調査及び 評価結果について報告する。2保守点検の実績評価は、設備機器の機能維持のため に行ってきた保守、点検、交換等の保全活動の実績調 査を行うとともに、経年変化の事象について調査し、 これまでの保全活動内容が適切であったかどうか評価 検討した。評価対象の設備機器は、安全上重要な設備 機器(重要度分類のクラス 1~3)に加え、美浜の事故 を鑑みて比較的重要度の高い設備機器も対象とした。 まず、これらの設備機器の保全活動(点検実績、補修・ 交換の有無など)の実績を調査した。次に、これらの 設備機器の機能・役割に着目して代表的な経年変化事 象を選定した。そして、それに対して適切に保全活動 及び点検・交換が行われてきたかについて設備機器の 現在の状態を調査した。こうして得られた保全活動の 実績及び設備機器の状況から、経年変化事象の進展の 可能性を客観的かつ簡単に把握できるよう「ポイント 制」を用いて評価した。さらに、今後の保全活動に対 して改善が必要かどうかについて検討した。 3. 評価方法JRR-3 における安全上重要な設備機器に対して、以 下のように調査・検討した。 1過去の保全活動内容と補修・交換の有無昭和 59年から平成2年にかけて、JRR-3 原子炉施設 改造工事に伴いほぼ全ての設備について新設している ため、平成3年以降の保全活動内容を調査した。なお、原子炉建家及び排気筒については継続して使用してい るので、それ以前(昭和 59年から)の保全活動も調査した。2経年変化事象の評価(事象の選択、進展の可能性)評価においては、設備機器の機能・役割に着目し、 ある経年変化事象が進展することにより、設備機器が 本来持っている機能・役割が損なわれる可能性のある 事象を選択する。また、経年変化事象の進展の可能性 を「ポイント制」で評価した。
3現在における設備機器の状態 現在の設備機器の状態を調査した。@保全活動内容の妥当性 * 上記125での調査結果から、経年変化に対する保 全活動の内容が適切であったか評価した。5保全内容の改善の必要性 * 上記1234の評価結果を基に、保全内容に改善の 必要があるか評価した。4.ポイント制の概要* 経年変化事象の進展の可能性を評価する為、経年変 化事象及び保全活動の実績を数値化し、客観的かつ簡 単に把握するという目的のもと、「ポイント制」を考案 した。ポイント制は、Table.1 に示すように、設備機器の寿 命をベースに考案し、寿命に近づけば必ず調査対応を 必要としている。この評価方法では Fig.1 に示すように、 材料、中性子照射場、高(低)温高圧、水質・空調管理、 振動、補修・交換等の6つの調査パラメータ及びこれ までの保全活動の実績から採点し、その合計値によっ て経年変化事象の進展の可能性を評価する。Table.2 に は各経年変化事象に対するポイントの付け方の基準を 示す。これにより、各設備機器を採点する。Table.3 に 経年変化事象の進展の可能性の判断基準を示す。また、ポイント制による評価結果の例を Table.4 に示 す。1ライニング 1. 材料がステンレス、使用環境は炉心から遠く高(低) 温高圧以外にあり、水質管理がされており、振動や外 内部からの応力を伴わないため、これらのすべての事 象についてポイント 0 となる。ただし、交換等につい ては、設置後 10 年以上 20 年未満の時間の経過で、交 換は実施されていない為、ポイント1 となり、合計ポ イントは1である。これを判定基準と比較すると、進 展の可能性は「低」となり、今後の保全活動は現状維 持となる。2原子炉建家材料、水空調、交換等でそれぞれ 1、0.5、2 ポイン トとなり、合計 3.5 ポイント。進展の可能性は「中」 となり、保全計画を検討が必要となる。31次系冷却系主ポンプ材料、振動、交換等でそれぞれ 1、1、0.5 ポイン となり、合計 2.5 ポイント。進展の可能性は「低」」 なり、今後の保全活動は現状維持となる。Table.1 ポイント制の方針 中性子照射、腐食等による脆化は、最適材料であり、最適環境下にあり、 補修等無しの場合でも寿命を40 年と仮定し、40年を超えれば調査検討または交換を要するものとする。疲労破壊、磨耗は材料に関係なく起こりうるものとする。疲労破壊、磨耗は最適環境化にあり、補修無しの場合でも寿命を40年と仮定し、40年を超えれば調査検討または交換を要するものとする。コンクリートの劣化は、最適環境下にあり、補修無しの場合でも 50 年)を経過すれば、調査検討または補修等を必要とするものとする。中性子照射、高(低)温高圧、管理、振動に関する経年変化事象に対するリ スクは、時間とともに増加するものとする。交換すればこれまでの蓄積ポイントは 0 となる。補修等をすればポイントをある基準で減らす。分析事項ポイント材料Table.2 ポイントの付け方分析内容 経年変化事象に腐食を含み、かつ代表材 料がアルミニウム合金・ステンレスの場合 上記以外すべて341中性子照射場使用環境が炉心から遠く中性子の影響受 けない 使用環境が炉心に近く中性子の影響を受 ける場合は設備機器の交換後の経過年数 (N)に応じたポイントとするNS10年0.510