東海再処理施設における回転機器類の保全技術開発Ⅱ-ショックパルス法による設備診断-
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カテゴリ: 第5回
1. 緒言
東海再処理施設の送風機、ポンプなどの回転機器 類は、施設の閉じ込め機能、高放射性廃液貯槽等の 冷却機能に用いられ、重要な役割を果たしている。 これら回転機器類は、駆動源として電動機を使用し、 電動機からの動力を回転軸を介して、プーリー、V ベルト、あるいはカップリング (軸継ぎ手) により、 羽根車が取り付けられた回転軸を回転させ、この羽 根車が回転することにより、空気、水等を搬送する。電動機、羽根車が取り付けられた回転軸には、軸 受がはめ込まれ、この軸受は電動機の型枠、架台に 固定して支持されている。回転軸にはめ込まれた軸 受には、転がり軸受、滑り軸受があり、軸受には潤 滑材としてオイル又はグリースが用いられている。回転機器類を安定に運転するためには、軸受の取 付け状態や運転中の軸受の潤滑状態を管理すること が重要であり、取り付け不良によるアンバランス、 ミスアライメントとともに、運転中の潤滑不良によ る軸受損傷に注意を払う必要がある。本稿では、軸受内部のオイル、グリースの潤滑状 態を油膜の状態として捉えることができるショック パルス法による管理方法を導入したので、その結果 を報告する。
2. 軸受管理の現状と問題点
2.1 東海再処理施設における回転機器の故障の現状 東海再処理施設における回転機器類の故障は、保 全実績データが登録されている TORMASS(設備保 全管理支援システム)から、約 90%が軸受の不具合 によるものであることが分かっている。また、軸受 の不具合の原因は、取り外した軸受の観察の結果、 図-1に示す通り、潤滑不良によるものが約 96%を 占めていることが分かった。回転機器を安定に運転するためには、軸受の潤滑 不良の低減化が不可欠であり、そのためには、軸受 の状態を測定するために従来から使用していた振動 法等の改善が必要である。2.2 従来の軸受の管理 - 東海再処理施設の回転機器の軸受管理は、点検者 が、回転機器の軸受表面にポータブル型の振動計セ ンサーを接触させて振動を測定するほか、接触温度353計による温度測定、聴診器による聴音等を定期的に 行い状態を診断している。 1 点検対象となる回転機器は約260基あり、これ らの振動等の測定には、大きなマンパワーを要する ため、1月~3月毎と測定の間隔が長くなっていた。 このため、測定したデータを傾向的に管理するまで に至っていなかった。このため、不具合の兆候をタイムリーに捉えるこ とができないケースがあり、潤滑不良による軸受不 具合が発生していた。図-2 軸受概略構造転動体発生件数:108件油?一回転方向潤滑不良:96%油膜* 図-1 軸受故障要因軌道面(外輪)この構造と潤滑図-3 軸受軌道面の油膜形成の概要一マの1ついいール2.3 軸受の構造と潤滑 * 図-2に示す通り、軸受は、主に転動体、内輪、 外輪及び保持器から構成されている。転動体は内輪 及び外輪の軌道面上を自転しながら転がっている。 回転軸、羽根車等の回転体は、軌道面と転動体との 接触点又は接触面のみで運転荷重が支えられる構造 となっている。軸受内には、転動体を円滑に動かす ためにオイル、グリースなどの油脂成分の潤滑材が 内包され、この潤滑材が転動体と軌道面との間に薄 い油膜を造ることで、転動体と軌道面が直接、接す ることなく円滑に動作する。また、潤滑により、軸 受内に発生した金属粉や劣化した潤滑材を、軌道面 外に排出する効果がある。従って、軸受の潤滑状態 は、軸受管理の重要な要素である。図-3は、軸受内部の油膜の状態を模式的に示し たものである。軸受内の転動体は、移動速度に伴っ て、転動体は反力として油圧を受けるため、潤滑材 に大きな圧力を与える。この時、圧力を受けた潤滑 材の粘度が上昇することにより、軌道面に十分な油 膜が造られる。グリース)充填潤滑材(オイル、グリース)転動体軌道面(軸)▼ 十輪、外輪~軌道面図-2 軸受概略構造2.4 振動法による軸受管理の問題点 - 東海再処理施設では、振動法による軸受の簡易診 断を基にした軸受管理を行い、振動の上昇等から軸 受に不具合が生じているものと判断し、適時、軸受 の交換を行ってきた。潤滑状態については、振動測 定により加速度値が上昇した場合、潤滑不足と判断 して潤滑材の補給を行ってきている。しかし、不具合を生じた軸受の状態を確認したと ころ、図-4に示す通り、軌道面上にフレーキング、 圧こん、変色等、潤滑不良が不具合の要因と判断さ れるものが多かった。このことから、振動法による軸受の簡易診断では、 軸受の設置状態や回転機器の継続的な運転について 判定することは可能であるが、軸受内の潤滑状態を 適切に把握できないことがわかった。また、振動法による軸受の診断では、軸受部から 発生する振動だけでなく、機器自体の振動を同時に354測定することとなり、機器の振動特性などを考慮し なければならない。さらに、測定センサーの取り扱 い等、測定者の経験や技量により、測定結果にばら つきを生じる。 * 振動法とともに聴診器による聴音による診断を 実施してきているが、これも測定者の経験や技量に 頼ることが多い。このように、軸受における潤滑状態の管理は、経 験や技量によることが多いため、大変難しい技術で あり、定量的に把握して管理していくことは困難で 測定することとなり、機器の振動特性などを考慮し 動法ではこの振動を測定している。こ なければならない。さらに、測定センサーの取り扱法では、軸受の転動体、軌道面の有意 い等、測定者の経験や技量により、測定結果にばら, した場合、転動体、軌道面間の運動エ つきを生じる。け渡しが大きくなることにより振動が * 振動法とともに聴診器による聴音による診断を この結果、測定される振動値も大きく 実施してきているが、これも測定者の経験や技量に 一方、軸受内の転動体と軌道面との 頼ることが多い。縮波が発生することはよく知られてい このように、軸受における潤滑状態の管理は、経 波を測定することは、軸受内の潤滑状 験や技量によることが多いため、大変難しい技術での把握に応用することが可能である。 あり、定量的に把握して管理していくことは困難で ある。鉄球を鉄板の上へ落下させて 衝突させる。潤滑不良による変色3 圧縮波が発生した後、鉄球の 持つ運動エネルギーの授受によ り鉄板が振動する。図-5軸受における圧縮波と振動の発生?不具合を生じた軸受の状態例3.1 軸受で発生する振動と圧縮波 * 図-5に示すように、軸受内では転動体が軌道面 を自転しながら転がる際に、転動体、軌道面間の運 動エネルギーの受け渡しにより振動が常に生じ、振動法ではこの振動を測定している。このため、振動 法では、軸受の転動体、軌道面の有意な損傷が発生 した場合、転動体、軌道面間の運動エネルギーの受 け渡しが大きくなることにより振動が大きくなり、 この結果、測定される振動値も大きくなる。一方、軸受内の転動体と軌道面との衝突により圧 縮波が発生することはよく知られている。この圧縮 波を測定することは、軸受内の潤滑状態や損傷状態 の把握に応用することが可能である。3.2 圧縮波(ショックパルス)と油膜厚さ * 軸受内で発生する圧縮波(ショックパルス)は、 転動体が軌道面上を転がる際に、転動体と軌道面の 表面の微小な表面粗さの衝突によって発生する。こ のため、転動体と軌道面との間に油膜が形成される と、転動体と軌道面間で発生するショックパルスの 大きさが減少する。即ち、油膜厚さの変化によりシ ヨックパルスの強さも変化する。また、転動体、軌 - 355 -道面に損傷が発生した場合、異常に大きなショック パルスが発生する。ショックパルスの大きさとキズ及び油膜の関係 の概要を図-6に示す。軸受軌道面に適切な油膜が 形成されている場合、図-61に示す通り、発生す るショックパルスは小さく、油膜が低下すると、図 -62のように発生するショックパルスが全体的に 大きくなる。さらに、軸受軌道面等にキズが発生し た場合は、図-63のように、異常に大きなショッ クパルスが発生する。このようなショックパルスを測定することで、軸 受状態を把握する方法をショックパルス法という。(1)適正な油膜状態It M mwana2 油膜が低下した状態ショックバルスの大きさショックパルスの大きさ ショックバルスの大きさ(3) 軌道面に損傷のある状態キズ図-6 ショックパルスの大きさとキズ及び油膜の関係33.3 ショックパルス法の潤滑管理への適応 - 表-1に、東海再処理施設の回転機器の軸受診断 に、ショックパルス法を適応した例を示す。これは、 不規則に異音が発生している軸受について、振動法 及びショックパルス法による診断を行った結果であ る。測定の結果、振動法では両振幅が約 85 μmと正 常値である約 45 μm に対して大きいものの、速度及 び加速度値に異常は認められなかった。一方、ショ ックパルス法による診断では、LR(大きなショックパルス)値が異常に高く、軸受に不具合が発生して いるとの診断であった。不規則に異音の発生した軸 受の状態を確認したところ、図-7に示す通り、転 動体にフレーキングが確認された。以上のように、ショックパルス法により、軸受の 状態を容易に確認できることが分かる。測定の結果、 損傷が発生しているか、潤滑不良かはショックパル スの大きさにより診断でき、損傷の発生と判定され た場合には軸受を交換する。正常な油膜が作られて いないと判定された場合は、正常な油膜が造られる まで潤滑材の補給を行う。このような軸受の管理に ショックパルス法を用いることとした。一方で、適切な潤滑状態を維持した軸受は、転動 体、軌道面に疲労、磨耗が発生する。疲労、磨耗に よる軸受の劣化は、異常なショックパルスが発生し ない場合があるため、振動法による簡易診断も合わ せた軸受管理を行うこととした。表-1 異音の発生した軸受の測定結果| 両振幅(mm| 速度(mm/s] | 加速度(m/s““] |水平 | 鉛直水平 | 鉛直 水平 | 鉛直 0.085 0.068 | 2.8 | 2.3 | 1振動法LR*1HR*2CONDショックパルス法1-31|12-265軸受仕樣型式:63137使用回転数:858rpm1 : 大きいショックバルス ※2:小さいショックバルス図-7 異音の発生した軸受の転動体の状態356 8にショックパルス法による軸受診断結果 示す。測定されたショックパルスにより、正 膜が形成されている場合は、a のように「良 領域内に測定値に相当する点が表示され、潤 * 図-8にショックパルス法による軸受診断結果 の例を示す。測定されたショックパルスにより、正 常な油膜が形成されている場合は、a のように「良 好」の領域内に測定値に相当する点が表示され、潤 滑不良の場合はbのように「注意」の領域に表示さ れる。また、図-7のような軸受に大きな損傷が発 生している場合は、cのように「警戒」の領域内に 表示されるため、軸受けに損傷生じているか、油膜 状態の低下かを診断する。 * 図-9には給油が必要と診断された場合の給油 前後のショックパルスの変化を示す。aの期間はシ ョックパルスが大きく、十分な量の潤滑材が軌道面 上にないためにショックパルスが大きな値を示して おり、正常な油膜が維持されていないものと判断し、 図-9のbの期間において給油を行なった結果、シ ョックパルスは低下して、正常な油膜状態となった。 したがって、ショックパルス法により、給油前後の 油膜状態を可視化することを可能にした。 * しかし、ショックパルスを直接測定し、測定間隔 を短くすることは、多くのマンパワーが必要となる。 このため、ショックパルス法を導入した際、センサ ーを予め回転機器の軸受に取り付け、測定データを オンラインで集中的に処理監視できる遠隔監視のシ ステムとした。図-10 にショックパルス法による軸 受の遠隔監視装置のシステム概要を示す。 表示されるため、軸受けに損傷生じているか、油膜 状態の低下かを診断する。 * 図-9には給油が必要と診断された場合の給油 前後のショックパルスの変化を示す。aの期間はシ ヨックパルスが大きく、十分な量の潤滑材が軌道面 上にないためにショックパルスが大きな値を示して おり、正常な油膜が維持されていないものと判断し、 図-9のbの期間において給油を行なった結果、シ ロックパルスは低下して、正常な油膜状態となった。 したがって、ショックパルス法により、給油前後の 油膜状態を可視化することを可能にした。 _ しかし、ショックパルスを直接測定し、測定間隔 を短くすることは、多くのマンパワーが必要となる。 このため、ショックパルス法を導入した際、センサ ーを予め回転機器の軸受に取り付け、測定データを オンラインで集中的に処理監視できる遠隔監視のシ ステムとした。図-10 にショックパルス法による軸 受の遠隔監視装置のシステム概要を示す。時 間 [1図-9 ショックパルス測定による油膜厚さ及びパルスの変化低放射性廃物 処理技開発施設妖放射性濃縮 廃液貯成施設分精製工場|-------第2アスファルト ?化作了戲施設sy ||イーサネット(100Base-T)(ITV監視装置と供用)srm! :ショックパルス測定器特製スティリティ施設図-10 ショックパルス法による遠隔監視装置の概要損傷(LR-HR) E [dB]警戒潤滑不良」注意4. ショックパルス法導入の効果ショックパルス法は、平成 14 年から安全上重要 な施設である分離精製工場の排風機及び再処理施設 内の独立した施設で点検に時間を要する施設に設置 されている 18 台の排風機に導入した。軸受の診断情 報は、換気設備を集中的に管理する再処理ユーティ リティ施設の制御室で管理できるようにした。導入の結果、軸受をはじめとする排風機の状況等 は次の通りである。良好HR値 [dB]LR:大きいショックパルス HR:小さいショックパルス図-8 ショックパルス測定による軸受診断例(1) 導入した排風機については、軸受の潤滑状態の傾向管理ができるようになり、適切な潤滑材の 補給が行えるようになったことから、これまでfu! 1 ]ショックパルスの大きさ(dB)在油膜厚さ。ororororrorotorrorordorrororatorro rare時間 [h]低射性廃物 処理技術開発施設低放射性濃縮 廃液貯蔵施設SPM分割製工場--イ第2アスファルト 周化体貯蔵施設イーサネット(100Base-T)(ITV監視装置と供用)SPM:排風機SPM :ショックパルス測定器再処理に1...ティリティ施設4. ショックパルス法導入の効果ショックパルス法は、平成 14 年から安全上重要 な施設である分離精製工場の排風機及び再処理施設 内の独立した施設で点検に時間を要する施設に設置 されている 18台の排風機に導入した。軸受の診断情 報は、換気設備を集中的に管理する再処理ユーティ リティ施設の制御室で管理できるようにした。導入の結果、軸受をはじめとする排風機の状況等 は次の通りである。 * 導入した排風機については、軸受の潤滑状態の 傾向管理ができるようになり、適切な潤滑材の 補給が行えるようになったことから、これまで - 357 - - 従来、振動、聴音等による測定、診断において 経験、技量が求められてきたが、ショックパル ス法は軸受の転動体、軌道面の損傷の程度や軌 道面の油膜厚さを定量的に表すことが可能とな 測定データの採取と処理を集中監視化するこ で、複数の排風機の診断情報をリアルタイム 得ることができるようになり、排風機の状態軸受の不具合による軸受の交換はなく、軸受の 潤滑の改善に有効な効果をあげている。(2) 従来、振動、聴音等による測定、診断において経験、技量が求められてきたが、ショックパル ス法は軸受の転動体、軌道面の損傷の程度や軌 道面の油膜厚さを定量的に表すことが可能とな った。これにより測定技術の平準化と信頼度を向上 することができた。(3) 測定データの採取と処理を集中監視化するこ とで、複数の排風機の診断情報をリアルタイム に得ることができるようになり、排風機の状態 監視が可能となった。5.結言回転機器を安定に運転させるためには、軸受の潤 滑管理が不可欠である。ショックパルス法を導入す ることで、回転機器の軸受内の油膜厚さを定量的に 把握することができるようになった。この結果、潤 滑材の適切な補給により、良好な潤滑状態の維持が 可能となった。ショックパルス法の導入により、回転機器の軸受 の状態を評価できるようになったが、従来の振動法 と併せて測定を行い、ショックパルス値と振動値の 比較測定を行うことで、設備診断技術の向上が図ら れるものと考える。軸受の潤滑維持のため、軸受に 自動的に潤滑材を補給できる給油装置を設置するこ とで、回転機器の状態監視と保全を合理化できると 考える。5.結言回転機器を安定に運転させるためには、軸受の潤 滑管理が不可欠である。ショックパルス法を導入す ることで、回転機器の軸受内の油膜厚さを定量的に 把握することができるようになった。この結果、潤 滑材の適切な補給により、良好な潤滑状態の維持が 可能となった。ショックパルス法の導入により、回転機器の軸受 の状態を評価できるようになったが、従来の振動法 と併せて測定を行い、ショックパルス値と振動値の 比較測定を行うことで、設備診断技術の向上が図ら れるものと考える。軸受の潤滑維持のため、軸受に 自動的に潤滑材を補給できる給油装置を設置するこ とで、回転機器の状態監視と保全を合理化できると とで、回 考える。 参考文献 [1] 鋤柄光二他, 「東海再処理施設 30年の歩みと今後の展望-保全技術管理支援システムの運用-」 1 日本原子力学会(2006年秋の大会)2006 [2] ジェイテク株式会社“軸受の予防保全”,1999 [2] ジェイテク株式会社“軸受の予防保全”,1999 [3] SPM CONDITION MONITORING OF BEARING1987 - 358 -“ “?東海再処理施設における回転機器類の保全技術開発 IIーショックパルス法による設備診断“ “竹内 謙二,Kenji TAKEUCHI,算用子 裕孝,Hirotaka SANYOSHI,伊波 慎一,Shinichi INAMI
東海再処理施設の送風機、ポンプなどの回転機器 類は、施設の閉じ込め機能、高放射性廃液貯槽等の 冷却機能に用いられ、重要な役割を果たしている。 これら回転機器類は、駆動源として電動機を使用し、 電動機からの動力を回転軸を介して、プーリー、V ベルト、あるいはカップリング (軸継ぎ手) により、 羽根車が取り付けられた回転軸を回転させ、この羽 根車が回転することにより、空気、水等を搬送する。電動機、羽根車が取り付けられた回転軸には、軸 受がはめ込まれ、この軸受は電動機の型枠、架台に 固定して支持されている。回転軸にはめ込まれた軸 受には、転がり軸受、滑り軸受があり、軸受には潤 滑材としてオイル又はグリースが用いられている。回転機器類を安定に運転するためには、軸受の取 付け状態や運転中の軸受の潤滑状態を管理すること が重要であり、取り付け不良によるアンバランス、 ミスアライメントとともに、運転中の潤滑不良によ る軸受損傷に注意を払う必要がある。本稿では、軸受内部のオイル、グリースの潤滑状 態を油膜の状態として捉えることができるショック パルス法による管理方法を導入したので、その結果 を報告する。
2. 軸受管理の現状と問題点
2.1 東海再処理施設における回転機器の故障の現状 東海再処理施設における回転機器類の故障は、保 全実績データが登録されている TORMASS(設備保 全管理支援システム)から、約 90%が軸受の不具合 によるものであることが分かっている。また、軸受 の不具合の原因は、取り外した軸受の観察の結果、 図-1に示す通り、潤滑不良によるものが約 96%を 占めていることが分かった。回転機器を安定に運転するためには、軸受の潤滑 不良の低減化が不可欠であり、そのためには、軸受 の状態を測定するために従来から使用していた振動 法等の改善が必要である。2.2 従来の軸受の管理 - 東海再処理施設の回転機器の軸受管理は、点検者 が、回転機器の軸受表面にポータブル型の振動計セ ンサーを接触させて振動を測定するほか、接触温度353計による温度測定、聴診器による聴音等を定期的に 行い状態を診断している。 1 点検対象となる回転機器は約260基あり、これ らの振動等の測定には、大きなマンパワーを要する ため、1月~3月毎と測定の間隔が長くなっていた。 このため、測定したデータを傾向的に管理するまで に至っていなかった。このため、不具合の兆候をタイムリーに捉えるこ とができないケースがあり、潤滑不良による軸受不 具合が発生していた。図-2 軸受概略構造転動体発生件数:108件油?一回転方向潤滑不良:96%油膜* 図-1 軸受故障要因軌道面(外輪)この構造と潤滑図-3 軸受軌道面の油膜形成の概要一マの1ついいール2.3 軸受の構造と潤滑 * 図-2に示す通り、軸受は、主に転動体、内輪、 外輪及び保持器から構成されている。転動体は内輪 及び外輪の軌道面上を自転しながら転がっている。 回転軸、羽根車等の回転体は、軌道面と転動体との 接触点又は接触面のみで運転荷重が支えられる構造 となっている。軸受内には、転動体を円滑に動かす ためにオイル、グリースなどの油脂成分の潤滑材が 内包され、この潤滑材が転動体と軌道面との間に薄 い油膜を造ることで、転動体と軌道面が直接、接す ることなく円滑に動作する。また、潤滑により、軸 受内に発生した金属粉や劣化した潤滑材を、軌道面 外に排出する効果がある。従って、軸受の潤滑状態 は、軸受管理の重要な要素である。図-3は、軸受内部の油膜の状態を模式的に示し たものである。軸受内の転動体は、移動速度に伴っ て、転動体は反力として油圧を受けるため、潤滑材 に大きな圧力を与える。この時、圧力を受けた潤滑 材の粘度が上昇することにより、軌道面に十分な油 膜が造られる。グリース)充填潤滑材(オイル、グリース)転動体軌道面(軸)▼ 十輪、外輪~軌道面図-2 軸受概略構造2.4 振動法による軸受管理の問題点 - 東海再処理施設では、振動法による軸受の簡易診 断を基にした軸受管理を行い、振動の上昇等から軸 受に不具合が生じているものと判断し、適時、軸受 の交換を行ってきた。潤滑状態については、振動測 定により加速度値が上昇した場合、潤滑不足と判断 して潤滑材の補給を行ってきている。しかし、不具合を生じた軸受の状態を確認したと ころ、図-4に示す通り、軌道面上にフレーキング、 圧こん、変色等、潤滑不良が不具合の要因と判断さ れるものが多かった。このことから、振動法による軸受の簡易診断では、 軸受の設置状態や回転機器の継続的な運転について 判定することは可能であるが、軸受内の潤滑状態を 適切に把握できないことがわかった。また、振動法による軸受の診断では、軸受部から 発生する振動だけでなく、機器自体の振動を同時に354測定することとなり、機器の振動特性などを考慮し なければならない。さらに、測定センサーの取り扱 い等、測定者の経験や技量により、測定結果にばら つきを生じる。 * 振動法とともに聴診器による聴音による診断を 実施してきているが、これも測定者の経験や技量に 頼ることが多い。このように、軸受における潤滑状態の管理は、経 験や技量によることが多いため、大変難しい技術で あり、定量的に把握して管理していくことは困難で 測定することとなり、機器の振動特性などを考慮し 動法ではこの振動を測定している。こ なければならない。さらに、測定センサーの取り扱法では、軸受の転動体、軌道面の有意 い等、測定者の経験や技量により、測定結果にばら, した場合、転動体、軌道面間の運動エ つきを生じる。け渡しが大きくなることにより振動が * 振動法とともに聴診器による聴音による診断を この結果、測定される振動値も大きく 実施してきているが、これも測定者の経験や技量に 一方、軸受内の転動体と軌道面との 頼ることが多い。縮波が発生することはよく知られてい このように、軸受における潤滑状態の管理は、経 波を測定することは、軸受内の潤滑状 験や技量によることが多いため、大変難しい技術での把握に応用することが可能である。 あり、定量的に把握して管理していくことは困難で ある。鉄球を鉄板の上へ落下させて 衝突させる。潤滑不良による変色3 圧縮波が発生した後、鉄球の 持つ運動エネルギーの授受によ り鉄板が振動する。図-5軸受における圧縮波と振動の発生?不具合を生じた軸受の状態例3.1 軸受で発生する振動と圧縮波 * 図-5に示すように、軸受内では転動体が軌道面 を自転しながら転がる際に、転動体、軌道面間の運 動エネルギーの受け渡しにより振動が常に生じ、振動法ではこの振動を測定している。このため、振動 法では、軸受の転動体、軌道面の有意な損傷が発生 した場合、転動体、軌道面間の運動エネルギーの受 け渡しが大きくなることにより振動が大きくなり、 この結果、測定される振動値も大きくなる。一方、軸受内の転動体と軌道面との衝突により圧 縮波が発生することはよく知られている。この圧縮 波を測定することは、軸受内の潤滑状態や損傷状態 の把握に応用することが可能である。3.2 圧縮波(ショックパルス)と油膜厚さ * 軸受内で発生する圧縮波(ショックパルス)は、 転動体が軌道面上を転がる際に、転動体と軌道面の 表面の微小な表面粗さの衝突によって発生する。こ のため、転動体と軌道面との間に油膜が形成される と、転動体と軌道面間で発生するショックパルスの 大きさが減少する。即ち、油膜厚さの変化によりシ ヨックパルスの強さも変化する。また、転動体、軌 - 355 -道面に損傷が発生した場合、異常に大きなショック パルスが発生する。ショックパルスの大きさとキズ及び油膜の関係 の概要を図-6に示す。軸受軌道面に適切な油膜が 形成されている場合、図-61に示す通り、発生す るショックパルスは小さく、油膜が低下すると、図 -62のように発生するショックパルスが全体的に 大きくなる。さらに、軸受軌道面等にキズが発生し た場合は、図-63のように、異常に大きなショッ クパルスが発生する。このようなショックパルスを測定することで、軸 受状態を把握する方法をショックパルス法という。(1)適正な油膜状態It M mwana2 油膜が低下した状態ショックバルスの大きさショックパルスの大きさ ショックバルスの大きさ(3) 軌道面に損傷のある状態キズ図-6 ショックパルスの大きさとキズ及び油膜の関係33.3 ショックパルス法の潤滑管理への適応 - 表-1に、東海再処理施設の回転機器の軸受診断 に、ショックパルス法を適応した例を示す。これは、 不規則に異音が発生している軸受について、振動法 及びショックパルス法による診断を行った結果であ る。測定の結果、振動法では両振幅が約 85 μmと正 常値である約 45 μm に対して大きいものの、速度及 び加速度値に異常は認められなかった。一方、ショ ックパルス法による診断では、LR(大きなショックパルス)値が異常に高く、軸受に不具合が発生して いるとの診断であった。不規則に異音の発生した軸 受の状態を確認したところ、図-7に示す通り、転 動体にフレーキングが確認された。以上のように、ショックパルス法により、軸受の 状態を容易に確認できることが分かる。測定の結果、 損傷が発生しているか、潤滑不良かはショックパル スの大きさにより診断でき、損傷の発生と判定され た場合には軸受を交換する。正常な油膜が作られて いないと判定された場合は、正常な油膜が造られる まで潤滑材の補給を行う。このような軸受の管理に ショックパルス法を用いることとした。一方で、適切な潤滑状態を維持した軸受は、転動 体、軌道面に疲労、磨耗が発生する。疲労、磨耗に よる軸受の劣化は、異常なショックパルスが発生し ない場合があるため、振動法による簡易診断も合わ せた軸受管理を行うこととした。表-1 異音の発生した軸受の測定結果| 両振幅(mm| 速度(mm/s] | 加速度(m/s““] |水平 | 鉛直水平 | 鉛直 水平 | 鉛直 0.085 0.068 | 2.8 | 2.3 | 1振動法LR*1HR*2CONDショックパルス法1-31|12-265軸受仕樣型式:63137使用回転数:858rpm1 : 大きいショックバルス ※2:小さいショックバルス図-7 異音の発生した軸受の転動体の状態356 8にショックパルス法による軸受診断結果 示す。測定されたショックパルスにより、正 膜が形成されている場合は、a のように「良 領域内に測定値に相当する点が表示され、潤 * 図-8にショックパルス法による軸受診断結果 の例を示す。測定されたショックパルスにより、正 常な油膜が形成されている場合は、a のように「良 好」の領域内に測定値に相当する点が表示され、潤 滑不良の場合はbのように「注意」の領域に表示さ れる。また、図-7のような軸受に大きな損傷が発 生している場合は、cのように「警戒」の領域内に 表示されるため、軸受けに損傷生じているか、油膜 状態の低下かを診断する。 * 図-9には給油が必要と診断された場合の給油 前後のショックパルスの変化を示す。aの期間はシ ョックパルスが大きく、十分な量の潤滑材が軌道面 上にないためにショックパルスが大きな値を示して おり、正常な油膜が維持されていないものと判断し、 図-9のbの期間において給油を行なった結果、シ ョックパルスは低下して、正常な油膜状態となった。 したがって、ショックパルス法により、給油前後の 油膜状態を可視化することを可能にした。 * しかし、ショックパルスを直接測定し、測定間隔 を短くすることは、多くのマンパワーが必要となる。 このため、ショックパルス法を導入した際、センサ ーを予め回転機器の軸受に取り付け、測定データを オンラインで集中的に処理監視できる遠隔監視のシ ステムとした。図-10 にショックパルス法による軸 受の遠隔監視装置のシステム概要を示す。 表示されるため、軸受けに損傷生じているか、油膜 状態の低下かを診断する。 * 図-9には給油が必要と診断された場合の給油 前後のショックパルスの変化を示す。aの期間はシ ヨックパルスが大きく、十分な量の潤滑材が軌道面 上にないためにショックパルスが大きな値を示して おり、正常な油膜が維持されていないものと判断し、 図-9のbの期間において給油を行なった結果、シ ロックパルスは低下して、正常な油膜状態となった。 したがって、ショックパルス法により、給油前後の 油膜状態を可視化することを可能にした。 _ しかし、ショックパルスを直接測定し、測定間隔 を短くすることは、多くのマンパワーが必要となる。 このため、ショックパルス法を導入した際、センサ ーを予め回転機器の軸受に取り付け、測定データを オンラインで集中的に処理監視できる遠隔監視のシ ステムとした。図-10 にショックパルス法による軸 受の遠隔監視装置のシステム概要を示す。時 間 [1図-9 ショックパルス測定による油膜厚さ及びパルスの変化低放射性廃物 処理技開発施設妖放射性濃縮 廃液貯成施設分精製工場|-------第2アスファルト ?化作了戲施設sy ||イーサネット(100Base-T)(ITV監視装置と供用)srm! :ショックパルス測定器特製スティリティ施設図-10 ショックパルス法による遠隔監視装置の概要損傷(LR-HR) E [dB]警戒潤滑不良」注意4. ショックパルス法導入の効果ショックパルス法は、平成 14 年から安全上重要 な施設である分離精製工場の排風機及び再処理施設 内の独立した施設で点検に時間を要する施設に設置 されている 18 台の排風機に導入した。軸受の診断情 報は、換気設備を集中的に管理する再処理ユーティ リティ施設の制御室で管理できるようにした。導入の結果、軸受をはじめとする排風機の状況等 は次の通りである。良好HR値 [dB]LR:大きいショックパルス HR:小さいショックパルス図-8 ショックパルス測定による軸受診断例(1) 導入した排風機については、軸受の潤滑状態の傾向管理ができるようになり、適切な潤滑材の 補給が行えるようになったことから、これまでfu! 1 ]ショックパルスの大きさ(dB)在油膜厚さ。ororororrorotorrorordorrororatorro rare時間 [h]低射性廃物 処理技術開発施設低放射性濃縮 廃液貯蔵施設SPM分割製工場--イ第2アスファルト 周化体貯蔵施設イーサネット(100Base-T)(ITV監視装置と供用)SPM:排風機SPM :ショックパルス測定器再処理に1...ティリティ施設4. ショックパルス法導入の効果ショックパルス法は、平成 14 年から安全上重要 な施設である分離精製工場の排風機及び再処理施設 内の独立した施設で点検に時間を要する施設に設置 されている 18台の排風機に導入した。軸受の診断情 報は、換気設備を集中的に管理する再処理ユーティ リティ施設の制御室で管理できるようにした。導入の結果、軸受をはじめとする排風機の状況等 は次の通りである。 * 導入した排風機については、軸受の潤滑状態の 傾向管理ができるようになり、適切な潤滑材の 補給が行えるようになったことから、これまで - 357 - - 従来、振動、聴音等による測定、診断において 経験、技量が求められてきたが、ショックパル ス法は軸受の転動体、軌道面の損傷の程度や軌 道面の油膜厚さを定量的に表すことが可能とな 測定データの採取と処理を集中監視化するこ で、複数の排風機の診断情報をリアルタイム 得ることができるようになり、排風機の状態軸受の不具合による軸受の交換はなく、軸受の 潤滑の改善に有効な効果をあげている。(2) 従来、振動、聴音等による測定、診断において経験、技量が求められてきたが、ショックパル ス法は軸受の転動体、軌道面の損傷の程度や軌 道面の油膜厚さを定量的に表すことが可能とな った。これにより測定技術の平準化と信頼度を向上 することができた。(3) 測定データの採取と処理を集中監視化するこ とで、複数の排風機の診断情報をリアルタイム に得ることができるようになり、排風機の状態 監視が可能となった。5.結言回転機器を安定に運転させるためには、軸受の潤 滑管理が不可欠である。ショックパルス法を導入す ることで、回転機器の軸受内の油膜厚さを定量的に 把握することができるようになった。この結果、潤 滑材の適切な補給により、良好な潤滑状態の維持が 可能となった。ショックパルス法の導入により、回転機器の軸受 の状態を評価できるようになったが、従来の振動法 と併せて測定を行い、ショックパルス値と振動値の 比較測定を行うことで、設備診断技術の向上が図ら れるものと考える。軸受の潤滑維持のため、軸受に 自動的に潤滑材を補給できる給油装置を設置するこ とで、回転機器の状態監視と保全を合理化できると 考える。5.結言回転機器を安定に運転させるためには、軸受の潤 滑管理が不可欠である。ショックパルス法を導入す ることで、回転機器の軸受内の油膜厚さを定量的に 把握することができるようになった。この結果、潤 滑材の適切な補給により、良好な潤滑状態の維持が 可能となった。ショックパルス法の導入により、回転機器の軸受 の状態を評価できるようになったが、従来の振動法 と併せて測定を行い、ショックパルス値と振動値の 比較測定を行うことで、設備診断技術の向上が図ら れるものと考える。軸受の潤滑維持のため、軸受に 自動的に潤滑材を補給できる給油装置を設置するこ とで、回転機器の状態監視と保全を合理化できると とで、回 考える。 参考文献 [1] 鋤柄光二他, 「東海再処理施設 30年の歩みと今後の展望-保全技術管理支援システムの運用-」 1 日本原子力学会(2006年秋の大会)2006 [2] ジェイテク株式会社“軸受の予防保全”,1999 [2] ジェイテク株式会社“軸受の予防保全”,1999 [3] SPM CONDITION MONITORING OF BEARING1987 - 358 -“ “?東海再処理施設における回転機器類の保全技術開発 IIーショックパルス法による設備診断“ “竹内 謙二,Kenji TAKEUCHI,算用子 裕孝,Hirotaka SANYOSHI,伊波 慎一,Shinichi INAMI