原電における状態監視の適用について

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カテゴリ: 第5回
1.緒言
でも実績の多い回転機器の振動診! 設備に対して状態監視(CM; Condition Monitoring) 外線診断の3つの状態監視技術の1 を行い、その結果に基づき保全措置を行う状態基準保らの技術を用い、当社社員自らが 全(CBM ; Condition Based Maintenance)は、1970年代 評価し、機器の状態確認や点検計 設備に対して状態監視(CM; Condition Monitoring) 一行い、その結果に基づき保全措置を行う状態基準保 三(CBM ; Condition Based Maintenance)は、1970 年代 二鉄鋼業や石油・化学業界等に導入され、その後も一原電における状態監視の適用について設備診断技術の適用に当たって、まず始めに他産業でも実績の多い回転機器の振動診断、潤滑油診断、赤 犬態監視(CM; Condition Monitoring) 外線診断の3つの状態監視技術の導入を図った。それ 果に基づき保全措置を行う状態基準保らの技術を用い、当社社員自らがデータを収集、分析 ition Based Maintenance)は、1970 年代 評価し、機器の状態確認や点検計画の立案を行ってい ・化学業界等に導入され、その後も一 る。特に振動診断の管理値については、技術導入当初 入された。[1]・ はメーカー推奨値や公的規格を参照していたが、機器 は、設備の構成部品について各々の使は運転状況や設置環境により固有の特性を持つことか 極め、限界前に分解点検を実施して適 らデータの蓄積・整理を行った上で、機器毎に管理値 適切な時期に講じることで、設備の安を設定し、異常兆候の早期検知に努め、原子力発電所 維持するものであり、結果的に状態基 設備のより確実な安全性・信頼性の維持管理に力を注 保全コストの削減に繋がってくる。 いでいる。 子力発電所の設備に対しては、一定の また、他産業における設備状態監視技術の調査・試 を行う時間基準保全 (TBM; Time Based 験導入や、新しい診断技術の研究開発にも積極的に取 中心とした保全を実施してきた。しかりくみ、間欠運転機器の振動傾向管理、電動弁・空気 視するあまり過剰な保守となり、かえ作動弁等の弁診断、ディーゼル機関診断等、状態監視 や故障を招く場合があった。技術の導入範囲拡大にも努めている。 は原子力発電所においても、設備の安本稿では、当社における原子力発電所設備への状態 保はもとより保全内容の適正化・合理 監視の適用について紹介する。 おり、これに応えるために当社では平 の状態監視を専属で行う設備診断チー 設置し、保全内容の合理化・適正化に 始した。 彰、〒101-0053 東京都千代田区神田 1、日本原子力発電(株) 発電管理室 527, e-mail:akira-hasegawa@japc.co.jp保全措置を適切な時期に講じることで、設備の安を設定し、異常兆候の早期検知に努め、原子力発電所 ・信頼性を維持するものであり、結果的に状態基 設備のより確実な安全性・信頼性の維持管理に力を注 全の導入は保全コストの削減に繋がってくる。 いでいる。 来、国内原子力発電所の設備に対しては、一定の また、他産業における設備状態監視技術の調査・試 全 (CBM ; Condition Based Maintenance)は、1970 年代 に鉄鋼業や石油・化学業界等に導入され、その後も一 般産業に広く導入された。[1] * 状態基準保全は、設備の構成部品について各々の使 用限界時期を見極め、限界前に分解点検を実施して適 切な保全措置を適切な時期に講じることで、設備の安 全性・信頼性を維持するものであり、結果的に状態基 準保全の導入は保全コストの削減に繋がってくる。 * 従来、国内原子力発電所の設備に対しては、一定の 期間で分解点検を行う時間基準保全 (TBM; Time Based Maintenance)を中心とした保全を実施してきた。しか し、信頼性を重視するあまり過剰な保守となり、かえ って機器の劣化や故障を招く場合があった。 * 昨今の情勢では原子力発電所においても、設備の安 全性・信頼性確保はもとより保全内容の適正化・合理化が求められており、これに応えるために当社では平 成 11 年に設備の状態監視を専属で行う設備診断チー ムを各発電所に設置し、保全内容の合理化・適正化に 向けた検討を開始した。設備診断技術の適用に当たって、まず始めに他産業| でも実績の多い回転機器の振動診断、潤滑油診断、赤 外線診断の3つの状態監視技術の導入を図った。それ らの技術を用い、当社社員自らがデータを収集、分析 評価し、機器の状態確認や点検計画の立案を行ってい る。特に振動診断の管理値については、技術導入当初 はメーカー推奨値や公的規格を参照していたが、機器 は運転状況や設置環境により固有の特性を持つことか らデータの蓄積・整理を行った上で、機器毎に管理値 を設定し、異常兆候の早期検知に努め、原子力発電所 設備のより確実な安全性・信頼性の維持管理に力を注 いでいる。 また、他産業における設備状態監視技術の調査・試 験導入や、新しい診断技術の研究開発にも積極的に取 りくみ、間欠運転機器の振動傾向管理、電動弁・空気 作動弁等の弁診断、ディーゼル機関診断等、状態監視 技術の導入範囲拡大にも努めている。 1. 本稿では、当社における原子力発電所設備への状態 監視の適用について紹介する。 - 359 -
2. 状態監視技術導入状況
当社では、平成 10 年度に設備に対する状態監視技術 導入の基本計画立案を行い、平成 11 年度から各発電所 に設備診断チームを設置し、状態監視業務を実施している。状態監視技術の導入状況について、図1に示す。平成10年度(平成11年度 平成12年度 平成13年度・・・平成20年度 |基本計画立案発電管理室「保全適正化検討会」を組織し、定期的に開催設備診断チーム発足敦賀発電所実施計画立案・実施現在5名で活動中(経験反映)第17回定検東海第二発電所準備期間実施計画立案・実施 現在4名で活動中診断技術 導入振動診断 潤滑油分析 赤外線診断 電動弁診断 DGエンジン診断Fig. 1The application process of CM technology3. 状態監視の信頼性状態監視技術の適用に当たっては、以下の3つの要 素が重要となる。 1 状態監視技術の成熟度(診断技術の導入実績 等) 2 適切な活動プロセス (実施手順の的確性、フィードバック等) 3 診断技術者の力量(人材育成プログラム、資格制度等) 各々について、下記に記す。3.1 状態監視技術 (1) 既存の状態監視技術の適用国内外の産業界には、多くの状態監視技術が存在す るが、診断技術の成熟度、実機への適用実績、米国で の状態監視状況調査の結果を考慮し、表1に示す振動 診断、潤滑油診断、赤外線診断の 3 手法から導入を開 始した。 一例として、敦賀発電所2号機の振動診断導入状況を 図2に示す。敦賀発電所2号機には約 700 台の回転機 器があり、構造上測定できないものや高線量区域の機 器を除いて約 400 台に対して状態監視を行ってきた。診断Table 1 CM method 定量項目例 11 評価・分析項目例)変位,速度,「回転体の構造異常 振動 加速度,(アンバランス, ミスアライメント) 周波数」 軸受異常,回転体の摩耗粘度,水分, 潤滑油 | 全酸化, 油の性状,汚染度 診断 | 清浄度、 摩耗粉分析 (フェログ ラフィー) (NAS 等級)発熱部位の確認,温度分布 赤外線・軸受温度 表面温度 診断・変圧器入出力端子の絶縁 碍子温度年度【例】回転機器総数(敷2)約700台 BDMTBM H18 年度20%СВМ15% 25%0.1H14年度0.20.4H15年度)0.20.150.55H16年度20%1899/12/31 3:36:000.55将来(案)Fig.2※ 下段は状態監視活動範囲の割合 Transition of maintenance method for rotatingmachines in Tsuruga Unit 2これにより、状態監視結果に基づき点検を行う状態 基準保全(CBM)へ移行したり、これまでと同様に時 間基準保全を行う場合でもその点検周期の延長や点検 内容の合理化を行い、保全の合理化・適正化を進めて いる。この3つの診断手法に続くものとして、米国におい て既に多くの原子力発電所に適用実績を有するディー ゼル機関の診断技術を導入している。 ディーゼル機関診断は、シリンダや燃料供給システム の各種パラメータを採取し、動作状況を確認するエン ジン特性分析、エンジンに作用する流体に対する化学 サンプリング、電気系統や排気ガスの漏れの有無をサ ーモグラフィ等により検知する温度測定により総合的 に診断するシステムであり、現在は診断・評価及びデ ータの蓄積を行っている。1900/12/25(2) 新しい状態監視技術の開発 - 状態監視業務を行うに当たり培った知見、ノウハウ を基に研究開発した診断技術も状態監視に適用している。1) 間欠運転機器傾向管理 - 原子力発電所の回転機器には不定期に起動・停止す る間欠運転機器が多数あり、これらは起動時間が不明 であることから振動データの蓄積が困難である。そこ で、設備診断に実績のある会社との共同研究を行い、 回転機器の起動を検知して自動で振動を測定し、傾向 管理や精密診断を行うために必要なデータを採取でき る装置を開発した。これにより間欠運転機器について も状態監視が可能となった。 2) 弁診断装置 - 従来の弁類の状態監視では、設備の隔離を行った上 でセンサーの脱着を行う必要があり、運転中の状態監 視を行うことは不可能であった。そこで、電動弁メー カー、空気作動弁メーカーと共同で、運転中に弁の作 動状況等の状態監視を可能にする電動弁診断装置(MOVDAS ; Motor Operated Valve Diagnostic Analysis System)、制御弁診断装置(AVIDAS ; Air Operated Valve Intelligent Diagnostic Analysis System)、電磁弁診断装置(SOVDAS ; Solenoid Valve Diagnostic Analysis System) を研究開発した。電動弁診断装置(MOVDAS)はセン サーの設置のために弁駆動機構の改造をする必要があ るが、制御弁診断装置(AVIDAS)、電磁弁診断装置 (SOVDAS)については、改造は必要なく運転中にセ ンサー設置が可能である。電動弁診断装置(MOVDAS)については各発電所に 計 150 台程度導入して診断及びデータの蓄積を行って いる。制御弁診断装置(AVIDAS)、電磁弁診断装置 (SOVDAS)については、今後の現場での適用を検討 中である。 - また、採取した各種(振動、潤滑油、赤外線、電動 弁等)の状態監視データを一元管理し、合理的かつ効 率的にトレンド管理等ができるシステムを構築し、業 務の効率化を進めている。3.2 活動プロセス状態監視の活動プロセスは、PDCA (Plan Do Check Action) サイクルを行っている。具体的には、(Plan) 国内外産業プラントでの適用事 例・保全計画を参考にした状態監視計画表の作成、(Do) 状態監視を行うための手順書・要領書の作成及 び測定、(Check) メーカー推奨値や点検手入れ前デー タとの比較による状態診断、(Action)診断結果に基づ いた監視強化への移行や分解点検の推奨等を行っている。3.3 診断技術者 - 設備診断チーム員の技能向上と、採取データ、分析 結果の信頼性向上のため、国内外での診断技術トレー ニングに積極的に参加し、表 2 に示す設備診断に関す る資格を取得している。また、平成 13 年度より、当社研修センターにて社員 技術力向上のために振動、潤滑油、赤外線の各種診断 技術の訓練コースを開設している。 ・当社研修センターは、平成 17 年度に ISO機械状態監 視診断技術者(振動) 資格取得のための訓練機関とし て機械学会から認定を受け、ISO 対応の振動訓練コー スを開設し、平成 19 年度までに当社・他電力会社・協 力会社等を含めて約 120 名が受講し ISO機械状態監視 診断技術者(振動)資格を取得している。Table 2 Certification required for CM資格名 認証機関 資格概要 機械保全技能士 |厚生労働大臣 「・振動、油分析、絶縁診断 (設備診断作業) | 都道府県知事 | の診断技術を検定・振動診断専門家の認証Vibration Vibration Analyst・ISOに基づいた資格 Institute・日本機械学会と相互認証・振動測定・解析を行う技 ISO機械状態監視術者の資格と能力の認証 診断技術者(振|日本機械学会・ISO に基づいた資格・Vibration Institute と相互認動)証Machinery Lubricant Analyst・潤滑油分析専門家の認証Machinery Lubricant TechnicianInternational Council for Machinery Lubrication International Council for Machinery Lubrication Academy of Infrared Training Inc. Infraspection Institute・潤滑油管理技術専門家の 認証Certified Infrared Thermographer1・赤外線診断(サーモグラフィ) 専門家の認証361現在、原子力発電設備の検査制度の見直しが検討さ」 れており、状態監視業務を行うには資格や経験が必要 となることが予測され、人材育成には時間を要するこ とから、これが急務の課題となっている。また、先に 述べたように、これまで過剰ともいえる保全を行って きた原子力発電所の設備では不具合事例が少なく、経 験の場が少ないことも懸案の一つとなっている。更に、状態監視技術の柱でもある潤滑油診断や赤外 線診断についても今後、更なる範囲拡大を行っていく」断チームの組織発足当初は、データ・不具合事例・技 4.課題」術に対する信頼の不足より、状態監視への漠然とした * 現在、原子力発電設備の検査制度の見直しが検討さ不安があった。 れており、状態監視業務を行うには資格や経験が必要。 しかし、データの蓄積、不具合の検知等により、徐々 となることが予測され、人材育成には時間を要するこ に状態監視技術への理解が深まってきている。 とから、これが急務の課題となっている。また、先に、今後は、保全 PDCA サイクルの確立により更に状態 述べたように、これまで過剰ともいえる保全を行って基準保全を拡大し、保全の合理化を進めていく予定で きた原子力発電所の設備では不具合事例が少なく、経 ある。 験の場が少ないことも懸案の一つとなっている。更に、状態監視技術の柱でもある潤滑油診断や赤外 線診断についても今後、更なる範囲拡大を行っていく参考文献 必要がある。[1] 豊田利夫、“ 状態監視保全(CBM)の基礎と最新動向の紹介”、第4回保全セミナー、2008.3.28、P.1 5.結言1従来の原子力発電所の保全は、定期的に機器の分解 点検を行う時問基準保全 TBM が主体であり、設備診 必要がある。 断チームの組織発足当初は、データ・不具合事 術に対する信頼の不足より、状態監視への漠然 不安があった。 _ しかし、データの蓄積、不具合の検知等により に状態監視技術への理解が深まってきている。今後は、保全 PDCA サイクルの確立により更 基準保全を拡大し、保全の合理化を進めていく- 362 -“ “?原電における状態監視の適用について“ “長谷川 彰,Akira HASEGAWA,中村 茂雄,Shigeo NAKAMURA,浦上 正雄,Masao URAKAMI
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